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さんしょくし!  作者: 赤井つばさ
一日目
5/33

第四話 脱出は計画的ですか? part 2

 椅子、冷蔵庫と順に上って行く。



 腕が縛られているため、落ちたら、受け身が取れずに

そのまま両親と天国で再開することになるな。

 そんなことが頭によぎり、背筋が凍えたが、何とか冷蔵庫の上にきた。


 目の前に換気口がある。

 俺がギリギリ通れるぐらいの大きさがある。

 これで、外に行ける!

  


 換気口の外蓋をガンッガンッ、と蹴る。

 蹴った反動で冷蔵庫から落ちそうになり、何とか腹筋を使い

エビぞり状態から持ちこたえたのは、奇跡だ。



  何度も何度も蹴っていると外蓋のネジが緩み始め、

ガタガタ言うようになり、

しばらくするとガシャーンと大きな音を立てて、

外蓋が手前に倒れる。



  いや、待てよ。

  簡単に外れすぎじゃないか、外蓋。

  


  今更だが、換気口が蹴って開くのは、

外蓋を止めているネジが引っこ抜かれるからだ。

  俺は、蹴ってもネジが引っこ抜かれない方向から蹴っていた。

  外蓋が蹴った方向に飛ばなかったのがその証拠だ。

  


  ネジがもともと少しゆるくて、

蹴った振動で徐々に外れていったのか?



  ドア、窓がしっかり閉じられていたのに、

  換気口だけネジが緩んでいるなんてことあるのか。

  


この密室に連れてきたのは、あのモブ使いだぞ。

  そんな大きな見落としをする奴とは思えない。



  段々この換気口が危ない気がしてきた。

  あ、安全か確かめよう。


  

  一旦、冷蔵庫から降りて、冷蔵庫の中から

水の入ったペットボトルのキャップ部分を

口でくわえる。

  

  

  冷蔵庫の上に戻り、

頭を振り子のように振り、勢いがついたところで

ペットボトルを換気口の中に投げ入れる。

  

  

  ペットボトルは、くるくると回転しながら宙を舞い、

  暗い換気口の中に入っていきーーーーー



  ぜた

  

  

  ペットボトルに数本の切れ込みが入った刹那せつな

水風船が破裂したときのように、ペットボトルの中の水が

ぶしゃぁあああ、と飛び散る。



  飛び散った水をもろに被った俺は、

水の冷たさを肌で感じていた。



・・・・なんちゅう仕掛けだよ。

  もしこの換気口の中に入っていたらと思うと、

破裂していたのは、俺の方だった・・・・・。

  恐怖で、鳥肌立ってきた。



  全身の血が引き、体温が一気に下がり、

冷たく感じていた水も少しぬるく感じる。



  一歩間違えたら、命がない。

  モブ使いの言葉を信じるなら、

死ぬ前に転送されて、治療してくれるらしいが、

今、確実に寿命がすり減っている。



  換気口を諦め、冷蔵庫からゆっくり降りて、

そのまま椅子に座り、深呼吸する。

  落ち着け。落ち着け、俺。



  脱出手段が断たれてしまった。

  最後の光がなくなってしまった。

  窓、ドア、トビラがダメで、換気口もダメ。


  他に外に通じている道があるか?



「・・・・・・・・・」



  考えても思い付かない。

  こうしている間にもモブ使いが

マイに近づいているかもしれないのに。



  何もできないのか。

  ここでリタイアするのか?

  この街に来て、何度も自分に問いてきた言葉だが、

YESという返答の選択肢は俺の頭の中にない。

  だから、何とか別の選択肢を探してきたが、今回は、ヤバい。



  選択肢が頭に残っていない。

  何か忘れてないか、何かここから抜け出すヒントになるモノを。

  頭をフル回転させる。

  考えろ。考えろ。考えるんだ。

  何か、何か、何かないか。

  ここから外に出る方法を・・・・・・・



 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぶはぁ」



 「くそぉおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ、

思い付かねぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

  


  ちょっと前まで普通・・・男装している以外普通の

ただの中学生だった人間に密室から脱出する方法なんて思い付かない。



  そういうのは、見た目は子供、頭脳は大人な方の担当だ。

  俺は、普通の人間だ。

  俺は、普通の人間だ。

  見た瞬間、答えが頭に浮かんだり、

コンピューター何百台分の頭脳だったり、

そんな特殊能力なんて持っていない。



  一般人は、密室トリックなんて解けない。

  トリックならまだ答えがあるが、

今、この密室は事件が起きたわけじゃない。



  ただ人を閉じ込めるための部屋だ。

  抜け道を用意する必要がない。



  椅子から立ち上がり、まっすぐ歩き、

コンクリートの壁の前に立つ。

  頭を後ろに大きく引いて、壁に思いっきり頭突きする。

 「くっそぉおおおおおおおおおぉぉぉぉ。」



  中学生になり、入学式で校長に男子だと間違われてから、

壁や床に頭突きをすることが多くなったせいか、

頭が頑丈になった。

  頭突きの痛みにも慣れた。

  むしろ、クセになってきている。



  そのため、コンクリに全力で頭突きしても、

大丈夫な頭になった。



  その頭を使って、中学生活で一番の頭突きを行った。



  たった一枚、たった一枚の壁があるせいで、妹のもとに駆け付けられない。

  今すぐ走ってマイのところに行きたい。

  行って、俺がきたからには安心だ、とかクサい言葉を言って笑いあいたい。

  マイの銀色の頭を撫でてやりたい。

  抱きしめてやりたい。



  いや、抱きしめたい。



  この壁が、無機物が、セメントの固まったものがなければ、

  それが叶うのに。

  どうして壁がここにあるんだ!

  なんで壁なんてものを人類は、発明してしまったんだ!

  いらないだろ!壁なんて!

  世界がまっ平らじゃないのは、どうして!

  雨が降るから?

  火山が噴火するから?

  隕石が落ちてくるから?

  地球以外の星や惑星が消えて、

  山も水も建物も何もかも全て無くなってしまえば、世界は、平らになる!



  絶対そうだ!

  俺と妹を会えなくさせているのは、ビッグバンによりこの世に壁の材料となる物質を生成させてしまったドラゴンが悪い!



  壁がっ!壁さえなければっ!



 「かべっ!KABE!壁がっ!憎い!!!」



  憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!

  全身から自分でも制御できないほどの感情が溢れて、暴れている。



 「カベがぁぁあああああああああああああぁぁぁああああああああああぁぁぁ!!」



  声を出さないと体が張り裂けて爆発しそうだった。

  理性が飛んでいることにも気がつかないぐらい発狂する。

  


  全身から銀色のオーラが大量に溢れ出す。

  周囲に暴風とも呼べる風を巻き起こし、

部屋の中の机やソファなどが宙に舞い、壁に激突し、粉砕していく。




 「マイィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィ!」



  行きたい!行きたい!マイのところに!

  


  脚が銀色に輝き出し、かかとから銀色の角が生え、

腰の高さまで伸びる。


  脚の輝きが収まると脚全体に

銀色の機械がまとわれており、側面を血管のように銀色の脈が

光を放ちながら流れている。



  暴走している銀色のエネルギーを足に集めて、



 「滅べえええええええええええええええええ!!

 壁共おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」



 ―――壁に全ての感情をぶつけるように全力で蹴とばす。



 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン



  銀色の巨大な爆発が起こり、強烈な爆発音が鳴り響く。

  壁には、ぽっかりと大きな穴が開いていた。

  その穴から外の光が部屋の中に射し込む。

  部屋の中は、爆風で全てのものが吹き飛び、粉塵が舞い、

原型を保っている家具は、なかった。



  粉々に砕けたコンクリートの壁の穴をくぐり、

  部屋から外に出る。



 「今すぐ、迎えにいくからな!マイ!」



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