第二十九話 騎士との最後の戦いですか?
モブ使いの声と同時に騎士に異変が起きる。
異変といっても俺は騎士の姿が見えないため、外見の変化まではわ分からない。
しかし、モブの中から騎士の白いオーラが飛び出して見え、
そこに赤いオーラが混じる。
騎士は咆哮とも呻き声とも思える叫び声をあげていた。
きっとあれも食べ物の色なんだろうけど、想像できん。なんだ?ピンとこない。
、、いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。
目の前の騎士に集中しないと、消されるぞ!
オーラは、周囲に暴風を巻き起こし、服がパタパタとはためく。
このオーラの圧、今まで出会ってきた奴とは比べ物にならない。
全身がピリピリする、、、久しぶりに感じるタイプの恐怖だ。
でも、特訓してきたんだ。
強いのは、分かっていた。だから、負けないように倒れるほど限界まで特訓してきたんだ。
自信があふれて、負ける気がしなかった。
むしろ、特訓の成果を試したくて、武者震いをおこしていた。
この場を楽しんでいる自分がいるんだ。
「見えずとも、感じるぞ。儂に向けられている強い視線を」
「俺も感じるぜ。あんたの姿を」
ハッキリとは見えないが、脳裏にハッキリとお互いの姿が思う浮かんでいた。
「「さあ、バトル再開だ」」
二人は、好敵手を見つけて、楽しそうに笑っていた。
オーラの出ている場所に躊躇せず、突っ込む。
とりあえず突っ込む、これが俺の唯一の戦闘スタイルだ。
モブの中に入り、視界がなくなる。
一ミリ先も見えない中、騎士のいるだろう場所に渾身の蹴りを入れる。
騎士はそれを盾で受けとめ、ランスで殴り返してくる。
研ぎ澄まされた感覚で風切り音を頼りにランスをかわす。
そして、恐らく隙間ができたであろう脇に蹴りをもう一発入れる。
だが、固い感触に遮られる。
これだけ近距離なら、相手の動きが頭の中で思い浮かぶ。
この緊迫した戦況の中、俺は楽しいと思っていた。
人と接することを止めてから、こんなにマイ以外の人に本気の感情をぶつけることがなかった。
だから嬉しいんだろうか。感情を交わらせることが、、
とにかく蹴りを入れ、反撃をかわすことを繰り返す。
一発一発が交わる度に、ガンっ!という大きな音が響く。
足が痺れる、振動が骨に響く、筋肉が悲鳴をあげている。
けれど、、、それが気にならないほど、楽しんでいた。
届かないと思っていた強敵と本気で戦えているという状況に興奮していた。
と、突然蹴りが空を切る。
騎士が下がったようだ。
「騎士の誇りは、全てを貫く!見せよう。ワシの突撃を!」
騎士の纏うオーラがさらに大きくなり、輝き始める。
「行くぞっ!灰色の騎士!!受けとめてみろ!!」
巨大な赤と白のオーラが迫ってくる。
ここまで大きいとモブの中にいても場所が分かる。
地面に三つ指をつき、足に粒子を溜める。
「なら、俺も突撃する!壁壊しの疾風!」
銀色の粒子がさらに輝き、体を覆う。
二人の叫び声が重なり、地面が裂け、鼓膜が張り裂けそうなほどの爆発音が街に響く。
「をおおおおおおおおおお」
「ヌオオオオオオオオオオ」
ランスと足武装が衝突した瞬間、二人は拮抗する。
が、騎士のランスが徐々に朱雀の突撃を下げていく。
直後、騎士のオーラがそこで一気に強くなり、朱雀を斜め上に跳ね返す。
そのまま騎士を勢いを失わず、ビルに突撃する。
大きな砂ぼこりが舞い上がり、ぶつかったビルが崩れ落ちていく。
瓦礫の中から騎士が出てくる。
「今度は俺の番だ!」
吹き飛ばされたときに、空中で体勢を整え、くるくると回転して、騎士に向かって落ちる。
「銀盤落とし!」
銀の円盤が騎士に上から激突する。
騎士は盾を構え、受けとめる格好をする。
「「うおーーーーー」」
二人の絶叫が重なり、二人を中心に爆風が起きる。
遠心力と落下エネルギーが加わった踵落としが騎士の盾にヒビを作る。
やがて、ヒビは大きくなり、盾が砕け、騎士のフルフェイスに足が当たる。
地面に頭が叩きつけられ、頭装が割れ、中から白髪のおっさんの顔が現れる。
「、、、良い敵であった」
鎧が光りだし、光の粒となって騎士が消える。
やっとここまで来た、、、
昇っていった光の粒を見ながら、そう思う。
拳を握りしめ、最後の敵と向き合う。
ーーー残りは、王、ただ一人
「やられたものだ」
モブ使いは、騎士の消えた場所を見ながら言う。
「騎士の消失は痛く、悲しいが、その分、私が頑張らないといけない」
涙声で言うが、その瞳から涙は出ていない。
無表情だった。
しかし、涙を拭く動作をして俺を見る。
「騎士を倒したお前は私が倒す」
赤と白が混ざったオーラがモブ使いから出てくる。
、、、赤と白、、、食べ物、、、、肉体派、、、
そこで、一つの食材が頭にも思い浮かぶ。
分かった、肉だ!!
俺の銀色は、銀米、スーちゃんの緑はコンブ、赤は肉なんだ!!
「モブよ、来い!!」
周囲のモブがモブ使いの周りにぞろぞろと集まっていく。
「もう俺にモブの目眩ましは、効かないぞ」
「王の能力がモブを出すだけのはずがないだろう。よく見ておけ」
口調の変わった戦闘モードのモブ使いのオーラがモブに伝染していき、モブが赤色になる。
サラリーマン、OL、おじさん、おばさん、、、例外なく、赤色になったモブはーーーーーー筋肉がモリモリなっていく。
さらに、金属バットやメリケンサックをつけているチンピラのモブが出現する。
「私の王としての能力は、周囲の生き物をムキムキにすること」
両手を広げて、堂々と言い放つ。
「モブだって生きてるのよ」
先程までバラバラに動いていたモブたちがゆっくり俺に迫ってくる。
「誰にも注目されない、見られない、、、いや、見られてるとしても人間として扱ってもらえない。そんな人間がモブとなるの」
「ちょっと待て。このモブたちが生きてる?
実体のないこのモブたちが?意味が分からない」
「思想的な話よ。そして、あなたも所詮王の前ではモブの一人よ。消えなさい」
その時、前に気をとられていて、背後に迫る気配に気付かなかった。
朱雀の背後から金属バットが振り下ろされる。
鈍い音と共に、バサッと倒れる。
後ろをむくと、桜鈴が頭から血を流し倒れていた。
その体が光り始め、顔だけ上げて、俺を見る。
「、、、私を助けてくれた。女であっても、かっこよくて、、私はそんなあなたを、、好き、に、、なッ、、、、」
全てを言い終わる前に桜鈴は、光の粒となって消えてしまった。
「おおおおおおおおおりいいいいいいいいいいん!!」
なにやってんだ、俺。
俺には、倒す理由があるだろう。
自分の意思を貫かないでどうする。
モブでもいい。
ただ貫くところは貫かなればならばいだろ。
「帰っておいしいご飯を食べる。そのために努力する。
それが唯一の幸せだ」
赤の王を睨み付ける。
「よく言いました」
その時、横からロロジイが声が聞こえた。




