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さんしょくし!  作者: 赤井つばさ
一日目
3/33

第二話 初めての相手はモブ集団ですか?part 2

 彼女の能力は、「モブ使い」。

 空気の屈折を利用して、モブキャラを作り出し、操る。

 要は、目眩ましの能力だ。現に彼女の姿は、全く見えない。

 能力自体に攻撃能力がない。

 なら、俺のやるべきことは、一つ!





 「全力で逃げる!」


 俺の持っているであろう異能力が何か分からない今、敵に突っ込むのは得策ではない。

 そんなの自殺行為だ。

  ただでさえ、いきなり超能力とか異能力とか言われても、頭が追いついていけず、頭が混乱している。

 どう考えても戦闘を行える状況じゃない。

 圧倒的にこちらが不利だ。

 後ろを振り向き、来た道を全力で走る。



 「逃げるの?」

 「あぁ、お前の相手は、また今度だ。」

 「敵前逃亡なんて、男らしくないわね。」

 「男らしくなくて結構だ。」

 思わず立ち止まりそうになるのを抑える。

 「逃げられると、困るのよねー。少し、痛くするけど我慢してね。」

 


  言い終わると同時に、お腹に鉄球がぶつけられたような衝撃が走り、後ろに勢い良く吹き飛ばされる。

  何回か地面をバウンドして、やっと止まる。

  手が、足が生まれたての小鹿のようにプルプル震えている。




  一瞬のことだった。

  一瞬で相手が絶対に戦ってはいけない相手だと分かった。

  次元が違う。

  違いすぎる。

 



 そして、逃げられないと直感した。

 相手の近づく気配を感じることが出来ず、気がついたら吹き飛ばされていた。

 「モブ使い」とかいかにも弱そうな名前だが、想像以上に強いぞ。

 このままだと、確実にやられる。

  震える腕を使って、なんとか立ち上がり、考える。

 

 この状況を打開する方法をーーーーーーーー



「・・・うん。これしかないな。」

「実力差を分かってくれたかしら。」

「ああ、分かったよ。モブ使いがどれだけ厄介なものかが。

 俺が勝てる確率は、限りなくゼロパーセントに近いだろう。」

「分かってくれて嬉しいわ。それじゃあ、大人しく降服してくれるかしら。」


 「断る!」


 「・・・・・勝率ゼロで降服しないなんて、おバカなの?ドМなの?変態なの?」

 「限りなくゼロに近いが、その僅かな勝率に懸けたいんだ。ここで勝って妹を助けに行く確率に。言っただろう。俺は、妹を守るためなら、この命も惜しくないと。」

 「面白いわね。あなたみたいに諦めの悪い人は、嫌いじゃないわ。」

 


  俺がやることは、一つしかなかったんだ。

  モブ使いが言っていたことを思い出せば、簡単なことだ。




  「俺はーーーーー全力で逃げる!」

  「またなのっ!?」



  別に怖いから逃げるわけじゃない。

  ここにいれば、一方的に見えないモブ使いに攻撃を受け続け、体力を削られる。

  あのパンチかキックをもう何発か食らえば確実に俺は、ダウンしてしまうだろう。

 


  敵の位置が分からなければ、対策のしようがない。

  でも、見えなくても、気配が感じられなくても、相手の位置を特定することが出来る。

  モブ使いは、言っていた。ここには、俺とモブ使いしかいないと。

  つまり、相手は、一人。

  場所を変えて、狭い場所に行けば、それこそ、一人しか通れない隙間に入り込めば、敵の行動範囲は狭まり、こちらの攻撃が確実に当てられる!

  ここに来る途中に人一人通れそうな道といえば、ビルとビルの間の隙間だ。



  身を隠す能力と俺に降服を求めて、攻撃を積極的にしてこないあたり、恐らく偵察兵とかだろう。

  過度な接触をして、素性がばれるリスクを負ってまでは。戦闘をしないだろう。

  倒れずとも、不利になって、一旦逃げてくれるはず!



  

  勝ち目は、そこだ!



  

  交差点から逃げるため、走り出す。

  「同じことの繰り返しよ。あなたは、逃げられない。」

  「逃げてやるさ、逃げるが勝ちって言葉があるだろ。妹の元へ行くさ。」

  「―――そう。でも、その判断は、愚かで、遅すぎるわね。」

  「遅い?」

  「あなた、もう私のモブテリトリーの中にいるの忘れてるの?」

  「モブテリトリー?」

  そういえば、さっき聞いたような聞いてないような。

  「私のテリトリーがモブテリトリーよ!

   ここに来たのが運の尽きだと思って諦めて降服しなさい!」

  



  突然、足元が何かに引っ掛けられて、

  体が浮いたと思うとそのまま重力に引っ張られ、地面に打ち付けられる。



  「ぐはぁ!」


  「あなたに自由は、ないわ!

  私の攻撃し放題、あなたは、何も出来ない!モブテリトリーの中では、全てが無力になるの!」




  「モブ使い、お前のその自信がこの攻撃なら、俺の勝ちだね!こんな攻撃で心が折られるほど柔な精神は、持っていなーーーーーー」

  立ち上がり、顔を上げると、周りの景色が、灰色一色だった。

  



  「灰色?」

  「違うわ!この色は、モブ色よ!あなたは、今モブの中にいるのよ!

   超巨大モブ集団の中にね!

   モブの中でこれからあなたは降服するのよ、あなた、今モブの中に埋もれてどんな気持ち?」

  


 「ふざけやがって!なんだよ!超巨大モブって!そんなモブ存在感ありすぎて、モブがモブしてないじゃないか!」

 「あら、いつ巨人族のモブが必要になるのか分からないわよ。」

 「少なくともこの世界にはいらないよ!」

 「そうかしらね、さて、あなた、逃げる方向分かるかしら?」

 「当然だ!今、走った方向をそのまま直進すればいいだけのこと!」




 「あら、倒れたときに体がどっち向きに倒れたかわかるのかしら?」

 「え?」

 「走って壁に激突するのがオチよ。

  この状況下でも細い路地に入るなんて言えるかしら。」

  細い路地に入るこちらの作戦が読まれていたのか。

 「ふん、なめてもらっては、困るぞ。

 たかが五感の一つを失っただけだ。」




 強がってみたもののモブ使いの言う通りだ。

 さっきまでは、周囲に大量のモブがいたが、上を見ればビルが見えて走る方向を知ることができた。

 しかし、今は、上を見ても全方位灰色、いやモブ色一色だった。

 それでも、どこかに向かって走ればいずれ交差点から抜け出せるだろう。

 


 最初っから賭けのような勝負なんだ。

 走らないと逃げ出せない。妹を探しに行けない。

 立ち止まることなんて選択肢は、ない。




「目を閉じて、集中すれば、お前の動きなんて読めるさ!」

「へぇ、やってみなさい。出来るならね!

 集中するんだ。周りには、あいつ一人だけ。

 足音を聞き取れば、どこから来るか、どれだけ離れているのか分かる!




 ―ー―――ここだ!



 後ろに回し蹴りをする。

 瞬間、脚に強い感触――――衝撃が走る。

 ―――――――スネの部分に金属の衝撃が当たった感触が。

    「ィイタタタァァアアアアアアアア!!!」




 痛みのあまり脚を抱えようと腰を曲げると、

 「残念、下よ。」

 「なんグッポラペッパー!!」

 さらに下から顎に凄い衝撃がくる。




 「馬鹿な!こんな展開あっていいはずがない!」

 「あら、諦めかしら?」

  モブ使いの顔は、見えないがニヤリと笑っている顔が頭に浮かぶ。



  「ここは、見えない敵の動きが手に取るようにわかって、一発逆転のはずだ!!!

  フラグクラッシュもいい加減にしてくれよ!」

  「あなた・・・何に向かって言っているの?」

  「この不条理な現実にだよ!テンプレのフラグ回収がされないって、おかしいよ!」

  「頭の打ち所が悪かったのかしら?

   壊れてしまったわ。」

   どこからか相手の呆れ声が聞こえてくる。

     



 「でも、嘆くのは自由だけど、あなたが不利な状況は、変わらないわ。

  降参して、あなたが私たちに降服して、赤色の王に絶対の忠誠を誓えば、少しあなたの妹への対応を考えていいわよ。」

 「対応?」

 「ええ、もし忠誠を誓うなら、理性が保てなくなるまで、一方的にあなたの妹を殴り続けるわ。」




 「もし、誓ったら?」

 「それは、それは、もう優しく、優しく、あの世への手向けをしてあげるわよ。

  嬉しいでしょ。」

 「嬉しくねえわ!どっちも結果は、同じじゃんさ!

  まだ、逃げるの諦めてないし!」




 「もう散々手は、尽くしたでしょ。

  人生諦めも大事よ。」

 「諦めたら、妹の人生にトラウマが残ることをされるような状況じゃなければ、たぶん賛成してたよ。」



 でも、モブ使いの言う通り、この状況はとてもまずい。

 敵のいる方向だけが分かっても、相手にしゃがまれたりして、攻撃が避けられて、

反撃を食らってしまう。モブ使いにこちらの身体の動きが全部把握されているとしたら、避けることが朝飯前だろう。




 でもーーーー何もしなければ状況が悪化するだけだ!

 当てずっぽうでも、相手のいる方向に攻撃し続けるしかない!

 相手の音を聞くんだ!

 こい!





「あらら、せっかく選択肢をあげたのに、無下にしてしまうのですね。

 いいでしょう、なら、私はあなたをいたぶるだけです!」


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