第二十六話 二人の壁を壊すんですか?
「それで、どうして朱雀お兄さんと羽依お姉ちゃんと一緒に行かせたの?」
金髪の少女と銀髪の少女がちゃぶ台に座っている。
金髪の少女の後ろには車イスが置いてある。
「感じたの。ばあちゃんから。あれは友情、、いえ、それ以上の関係を望んでいる顔だった、、」
「いつそんな顔してたの?」
「モニターでフルアーマーの人を無視して、二人が話し合ってたときよ」
「ああ、あのコントのときね、、」
「コント言わないの!相手が相手だったら二人ともリタイアしてたんだよ!」
マイがちゃぶ台をバンっと叩く。その振動でちゃぶ台の脚の一つが折れる。
「私もヒヤッとしたけど、その前の相手の様子で大丈夫だって分かったからね。あの会話の時間は安心してたの」
自分の目を指差して、言う。
「人をよく観察、分析する力は嫌というほど身に付けてるから、絶対の自信あるんだよー」
「それに、、」と言って、ビシッと右腕を突き出す。人差し指だけ上に向けている。
「マイお姉さんはメンタルを壊さないようにしないと。安心していいときは思いきって安心しないと、この先どうなるか分からないよ」
マイが上を見る。
「、、それもそうね」
天井には、小さな穴が一つと、もう一つ、大きな穴が開いていた。
その断面は綺麗に切り取られたたように滑らかだ。
「それで、いつ話すの?、、、マイお姉さんの能力のこと?」
「ゴハン食べ終わってからかなーー」
俺は今、桜鈴とエレベーターで三階に向かっている途中だ。
「・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
チーンと三階に着いた合図が鳴る。
俺は桜鈴に先にどうぞという目線を送るが、二人になってから、視線を合わせてくれない。
しかたがないので、優しく背中を押すと小さな悲鳴をあげ、小走りでエレベーターの外に出る。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」
そのままなぜか気まずい雰囲気のまま給湯室に行き、棚を見つけ、中にあったインスタントゴハンと干しワカメを取り出す。
俺が取り出して、腕いっぱいに食べ物を持って、棚から離れると、桜鈴が棚に近づき、また腕いっぱいに持つ。
その後は、エレベーターに乗り、ビルを移動し、マイたちのいる部屋に戻ってきた。
ちゃぶ台に俺と桜鈴が加わり、計四人が円形に座っている。
「それで?一言も話さず帰ってきたと、、」
「「だって、、なに話せばいいか分からなくて、、」」
マイとスーちゃんが同時に頭を抱える。
「そもそもばあちゃんは、話すことがあったから一緒に行ったんじゃないの?」
「頭真っ白になっちゃって、何も考えられなくなっちゃたの」
人差し指を合わせながら、俯く。
「ばあちゃんが乙女してる、、」
「う、うっさいわね!」
「それで、シューちゃんは、、、うん、聞かなくても分かる」
「話題が分からないんだよ!マイ以外と雑談してこなかったから!」
「ああ、神よ。この二人をどうしましょうか?」
「私もお姉さんたちに協力したいけど、恋愛沙汰はさっぱりです」
と言いながら、スーちゃんは細長い干し昆布を口にくわえる。
ちなみに、ロロジイは部屋のすみの電子レンジで黙々とインスタントのゴハンをチンしている。たぶんコンセントがそこにしかなかったんだろう。
「まずは、みんなで会話するところからかなー。」
「その前に、、」
桜鈴が上半身を動かさず、ちゃぶ台のそばをスライドするようにマイにすり寄っていく。
口に手を当て、こそこそ声で何か話している。
(どうしましょう、マイ、、)
(ん?)
(私まだ納得できてないの、、、、、、、、その、、、あいつが本当に男じゃないってこと、、)
(ああ、そうよね。恋した相手の性別がグレーだと不安だよね。
それなら心配しないで)
(、、、つ! ていうことは、あいつは男でいいのね!
良かったー。私ノーマルだったーーーーーー)
(レズっていうのも最近許容許容されるようになってるから)
(ええ!?本当に女の子なの!?)
(ハハ、一緒にお風呂入ってた私が保証するよ。正真正銘私の姉さんだよー)
(そんなあ、、私は新たな扉を開いてしまったの、、)
(それは違うよ)
(え?)
(元々そういう気、あったよ、ばあちゃんは)
(ウソっ!)
(まあいいじゃん。愛に性別は関係ないよ。やりたいようにヤっちゃえ!!この妹が許可するよ)
(でも、、)
(恋のトキメキは一瞬だよ。今後二度と来ないかも知れないのにそのキラメキを無視しちゃ駄目だよ!)
(、、、マイ)
(ばあちゃん)
(そうね。マイの言うとおりこの胸の高鳴りをムダにしないように頑張るわ)
(そのいきだよ!頑張って!応援してるから!)
(ありがとう、マイ)
そして、再びスライド移動で元の位置に戻っていく。
、、なに話してたんだ?ただ桜鈴の顔の色が青、赤、と信号機みたく変化していたが、、、
その間にもロロジイがちゃぶ台の上にゴハンを並べていく。文字通り、白米だ。ちなみに昆布は既に中央に山を築いている。
ーーーと、右肩に温かい何かが当たる。
「桜鈴、もう少し向こうにいってーーーー」
隣にくっついた茶髪の少女を見て、言葉を詰まらせる。
というのも、、、真っ赤な顔から蒸気を発しているのだ。
モクモクと。
その顔でこちらを見上げている。なんだか艶っぽい目線をしている。
「こここ、ここじゃ、ダダ、ダメかな?」
しかし、かみかみだった。
「い、いや大丈夫?」
熱があるのかな。体調悪いから寄りかかってるのか。
「よ、よかった」
良かった?過去形ということは現在は良くないということか。
「遠慮せず、寄りかかっていいぞ」
無理はいけない。本当なら寝かせてやりたいが、せめて、ゴハンは食べないと体力がもたないもんな。
「っ!本当に?」
「当然だろ」
病人を無理させたくないし。
「ありがとうね」
「それと、食べたらすぐに寝るんだぞ」
「うん」
「大丈夫、俺がそばにいるから」
ちゃんと看病しないとな。
「そそ、そええっ!?」
桜鈴が俺から距離をとる。
なにかから守るように、自分の体を抱きながらだ。
「おい、離れるな。良いというまで、ちゃんと俺のそばにいろ」
「そんな、、、心の準備が、、ご、ごめんなさい、私がおかしかったわ」
「それを承知で、そばにいて欲しいって言ってるんだ」
「ふぇええ」
「わー、シューちゃんだいたーん」
「ナイスコント!ハハハハハハ!」
「ゴハンの準備が出来ましたよ」
「ありがとう、スー」
「いえ、私の役割ですから。お嬢様」
「じゃあ、食べましょう」
マイの声でみんなが手を合わせる。
ロロジイもスーちゃんの隣に座る。
「「「「「いただきます」」」」」
メニューは干し昆布とレトルトゴハンのみ。
ロロジイがスーちゃんの前にたくさんの昆布を置いている。が、それを無視してマイに進められるままゴハンを食べている。
俺は目の前に置かれたゴハンを口に運ぶ。
自炊のゴハンには劣るが、ゴハンの甘味は健在。噛むほどに甘みが増していく。うん、文句なしにおいしいゴハンだ。
ーーーあ、そうだ。
「そそその、ももももし良かったらなんですけど、あ、あーんなんて、い、いえ、なんでもありませーーー」
「桜鈴、口開けて。食べさせてあげるよ」
「願ってもないことです。是非お願いします!」
「おう。良かった。あ、箸借りていいか?さすがに俺の使った箸は使えないし」
「別に気にしな、、、いえ、間接はまだ早いかしらね。どうぞ私の箸をお使い下さい!」
「そんな頭下げなくても、、、俺がしたいだけなんだから、、」
「!!?」
下げてた顔がマッハで上がる。目は限界まで驚きでかっぴらいている。
「ほら、口開けて」
「は、はいっ!あーーん」
「あーーん?」
ゴハンを口に運ぶ。
桜鈴の唇はピンク色で、口を開けている顔が可愛らしかった。
正直、女の子らしい顔立ちにドキッとしてしまった。
「幸せですぅーー」
恍惚の笑みを浮かべていた。
ほっぺが落ちないいうにか両手で頬を支えていた。
そんなにゴハンを気に入ってくれたのか、良かった。
「ドンドン食べてもらうぞー」
「はいっ!いくらでも食べれます!」
言葉通り、ドンドン食べていく桜鈴。
だんだん顔の異常な赤みが薄まり、ピンク色になった。
「シューちゃんたちから緊張感が消えて良かったー」
「むしろ、なんだかそういうプレイに見えてきたよ、、」




