第二十五話 基地にただいまですか?
「「「ただいまー」」」
「お帰りなさいませ、スーお嬢さま。そのままお帰りを、朱雀様」
「なんで俺だけ!?」
基地のあるビルに帰って来て、俺たちは今エントランスにいる。
エントランスといっても、質素な作りで、受付台と会社のパンフレットが置かれてそうな立て掛けがあるだけだ。
ちなみに『お帰りなさいませ』と言ったロロジイも一緒に帰って来ている。
別に先にビルの中にいたのではない。執事として出迎えるセリフが自然と出てきたのだろうか。
「ごっはんー♪ごっはんー♪」
エレベーターを呼ぶボタンを押すときに『あっ』と後ろから声をかけられる。
「いつもの部屋じゃなくて、下の会議室に集合して欲しいから、一個下の階をお願い」
マイが手を合わせてお願いのポーズで言う。
可愛いなあ、我が妹は、、、
「人数も増えたし、広い部屋の方が良いと思うの」
「分かった」
会議室のある階を押し、到着するのを待つ。
エレベーターは、特別狭い訳じゃないが、段ボールが結構スペースをとっていた。そのまま横にしたままだと入らなかったので、桜鈴の頭のある方をマイに頼んで持ちあげてもらい、斜めにしてエレベーターに入っている。
、、、、、、あれ?頭のある方向こっちで合ってるよな、、、
チーンとベルの音が鳴り、エレベーターから降りる。
会議室に到着するとロロジイがドアを開けてくれた。
俺とマイは、段ボールを斜めにして、中に入った。
「あれ、机移動したんだ」
中に入ると最初に目に入ったのは、ちゃぶ台だ。
元々上の階にあったものだが、いつの間に移動したんだろう、、、って基地を出る前か。
でも、足がガムテープでガチガチに補強されてるのは何でだろう。
「ばあちゃんは、部屋の隅っこに寝かせようか」
「ああ」
段ボールを部屋の隅に置き、蓋のガムテープを剥がす。
布団のお札に回復能力がどれほどあるか分からないが、
とりあえず、寝顔を見て血色が良好か判断しないとな。
蓋の割れ目に手を入れ、ゆっくりと開ける。
そして、露になる茶色い長髪に、ふくよかな胸、茶色いフリフリしたドレス、そして瞼は閉じたまま。
分かってはいたが、こうしてまた桜鈴の生の姿を見ると安心する。
肝心の顔色の血色は良く、これならいつ起きてもおかしくないな。
「だいじょうぶそうだな」
「うんっ、良かったー」
明るいと良い睡眠がとれないっていうし、蓋を再び閉じるーー
ーーーー直後、カァッと瞼が開き、閉じようとした手を掴まれる。
血走った瞳は、俺をがっつり見ている。
「ヒイ!」
ホラーものである。心臓止まったぞ。
確かにいつ起きてもおかしくないと思ったが、直後に起きるとは予想しなかった。
桜鈴は、ゾンビのようにふらふらと布団から起き上がり、
出口を見つけると物凄い速さでダッシュし始める。
加速した俺にも匹敵する速さだ。
まさかパニックで外に出ようとしてるんじゃーーー
起きる前は、騎士に襲われている場面だったしありえる。
しかしーー
急いで腕を掴む。
「外は危ないぞ!中にいた方が安全だ!大丈夫!俺が桜鈴の安全を保証するから!落ち着いてくれ!」
掴んでからも、手を振りほどこうと激しく暴れる。
少しの間のあと、真っ赤になった顔で振り返り、俺を殺意のこもった鋭い瞳で睨みつけてきた。
そして、切迫した震える金切り声を叫ぶ。
「、、、、、、、、と、トイレ行かせてくださいましィイイ!!」
「ごめんなさい」
すぐにマイが駆けつけ、二人でトイレに走っていった。
「・・・・・・・・。」
背中の裾をクイッ、クイッと引っ張られる。
「、、、ドント マインド だよ。朱雀お兄さん」
車イスに乗ったスーちゃんの優しい瞳がとても痛かった。
「それにしても、桜鈴ってあんな口調だったけ?」
「家が厳しいと家の中や社交場だと丁寧語、それ以外だと普通のタメ口っていう風に口調を変えることがあるから、、、それが出たんだと思う」
「、、なるほど」
「私も昔は荒い口調だったから。マトモな口調にするのにちょっと苦労したり、、、」
「昔って、スーちゃん、まだ若いじゃないか」
「濃い年月を送ってきたから、数年前も遠い昔に思えちゃうの」
「そんなもんなのか?」
「そんなもんだよ」
スーちゃんと暫く話しているとガチャリとゆっくりドアが開く。
少し開いた隙間から茶色い瞳が覗く。頬はまだ赤い。
「、、、、さっきのは、忘れてよ、、」
桜鈴は、ボソボソとした声で呟く。
「勿論さ!」
極めて明るい声で言ったが、
正直、あんな本気の殺意の目で睨まれたら、頭から離れない。
「絶対よ、、絶対、、」
そのままゆっくりとドアが開いていく。
「もおー、だから大丈夫って言ってるじゃん!シューちゃんがそんな記憶力持ってないって!鳥頭なんだから」
、、、、おーい。桜鈴を慰めてくれるのは嬉しいけど、目の前で姉さん、がっつり傷付いてますよォー。
これは訂正しないと。
「馬鹿にするな。鳥よりも頭が良い自信はある。ましてや、猿、ゴリラ、チンパンジーよりも頭が良いぞ!」
「「、、、、、、。」」
二人がこちらを見る。
ーーーーどこか哀れみの瞳で。
「そうね、悪かったわ、マイ。頭の良さの比較対象が人間じゃないところで察したわ」
「、、、さ、さっきはオーバーに言ったけど、成績は普通なんだよ!下でも上でもない中!」
「じゃあ、さっきのこと、わ、忘れる可能性が低いってことじゃない、、、」
「、、、あっ!えとね、その、、」
「そうだ!俺は鳥頭だった!もう五秒前のことも覚えてないんだぁー!鳥頭のことも忘れるぐらい鳥頭なんだよ」
「そこまでバカじゃないよ!」
そりゃ、頭脳が学内トップクラスのマイに比べれば、バカの部類に入って当然なんだよなー、、
マイが声を張り上げると、桜鈴がクスクスと笑い始めた。
「フフ、冗談よ。からかっただけだから」
「でもさっき、やばいやばいって慌ててたじゃーーー」
「な、何のこと?記憶に無いわね!鳥頭が移ったのかしら?」
「ええー、そうだったかなー」
「そうよ、絶対そう」
「んー?」
マイは納得のいかないらしく、顔を少し傾けていた。
「と、とにかく、夜ご飯、食べるんでしょ」
顔を赤くして、桜鈴が無理やり話題をそらす。
「ああ、そうだ。ゴハンはどこから持ってくるんだ?」
「それなら、心ご無用でございます」
「ぉおっ!?びっくりした。気配消してるから存在忘れてた」
ずっと部屋の隅にいたロロジイが会話に入る。
執事というか忍者じゃないのか。
「食料のある場所はいくつか把握しているので、取りに行ってまいります」
いつの間に、、、
「だったら、俺も一緒に行くよ、危ないし」
「ありがとうございます。では、すぐに向かいましょうか」
「ちょっと待った!」
部屋に声が響く。
声の出どころに目を向けると、そこには、人差し指を執事に向けた桜鈴がいた。
「なにか?」
「それ、私とこいつで行くわ」
人差し指を執事から俺の方に向ける。
え?俺?
「二人っきりで話たいことあるし」
「いやいや、怪我人を外に出すわけには、、、」
「ボロボロなのはこの執事っぽい男も私も変わらないでしょ」
「でも、いざ戦いとなった時に能力的にロロジイの方が安全だろ」
「大丈夫よ。私、耳は人一倍良いから。誰かが近づいてきたら、すぐに逃げられるわ」
「スナイパーがいるぞ」
「それも私の耳でなんとか、、、」
「なるかっ!?」
思わず声を荒げてしまう。
そもそも胸に一発喰らったばっかだろ。
「まぁまぁ、察してあげなよ。シューちゃん。こんな可愛い女の子と一緒に歩いたことないでしょ」
「あるぞ」
「え?嘘、、」
なんだその、突然目の前に宇宙人が現れて、『僕はきみの父親なんだ』って申告されたような顔は。
「マイと一緒に歩いてるだろ」
「まあ、お上手。ドキっとしちゃった」
なんで親戚のおばさんが子供を褒めるようにいうんだ?
あんまり感情込められてないぞ!?
「乙女じゃないから乙女心がなくて当然だね、、うん」
自分に言い聞かせるようにうなずくマイ。
「一年待ってくれ、一年後にはきっと完璧な乙女になっているさ」
「いえ、そのままでも、そのままがいいと思いますわ」
桜鈴、、そのフォロー嬉しいぞ。いや誉められると照れるもんだな。
「でへへへ」
「シューちゃんの笑い方がすでにおっさん化!?」
「こほん、早く取りに行ってもらって頂けませんか?」
ロロジイが咳払いで会話を強制終了する。
「ほらほら、執事さんも言ってるし行ってらっしゃい!」
マイが俺と桜鈴の背中を押して、部屋のドアの外に追い出す。
「分かった、分かったから押すな」
「ちょちょ」
「ではごゆっくりー」
妙ににこやかな笑顔でドアを閉められる。
しかしすぐにドアが開く。
「では、私が場所を教えます」
出てきたのは、マイではなく執事だった。
胸に手を当て、軽くお辞儀される。
「といっても、俺はここの土地勘あんまりないぞ」
「私もこの辺りは、、」
「ご安心を、分かりやすい場所にございますから」
顔をあげるロロジイ。
「道順は、シンプル。このビルを出て、真っ直ぐ進んだところにあるビルの三階にある給湯室の棚です」
「そのビルって、、」
「ええ、ご察しのとおり、目の前のビルでございます」
「近っ!」
まさか近くに食料があったとは、、
「逆です。食料を見つけたからここに基地を作ったんです」
俺の考えを読み取ってるのか?
「まあ、早めにお願いします。スーお嬢様がお腹空かせているので」
「はいよ。行ってくるよ」
「行ってきますわ」
俺たちは隣のビルへ向かう。
ーー心なしか、横の桜鈴との距離が近い気がする、、というか柔らかいものが当たってますよ。桜鈴さん、、




