第二十三話 難なく救出ですか?
「そうだ、、今こそ男になる時じゃないのか、俺、、、、」
「そうだよ!今ならズにいつなるの!手術代は、生活費から出して良いよ!私、働くから!!お金の心配はしないで!しようよっ性転換手術!!」
「、、、、、いや、さすがにそこまでやんないよ。卒業したら服も口調も普通の女子に戻るつもりだからね。一応言っとくけど」
「ふーん、、、、、、、でもシューちゃんは、本当に男になった方が楽でしょ」
「ははは、お願いだ、真顔で言うな、マイよ。、、、、今お姉ちゃんの乙女心に新しい傷ができたぞ、、、」
「それはともかく、二対一、もう多数決でシューちゃんが助けに行くことは決まってるの。ここで逃げるの?」
「まあ、逃げないが、、、」
「でしょ。なら、早く行くべし」
俺は考える。
死を回避しつつ、マイたちを納得させる最善の行動を、、、、
「では行ってきます」
「それでこそ、シューちゃんだよ。行ってらっしゃい」
マイが地面に倒れた状態のまま手を大きく振る。
足武装に粒子を溜め、一気に解き放つ。
取り敢えず、ロロジイの生存が確認出来たら、モブの中に突っ込む。
ーーーー確認出来なかったら、うん、、、即退散しよう。
相手に見つかったらアウトだからな。
走っていると、周囲にポツポツとモブが出現するようになる。
この近くにいる、、、この近くのビルの上から相手の位置を確認できれば、戦況が分かるはず、、、、、
登る高層ビルを決めて、着地点となるビルの上の方を見る。
腰を屈めて、力を溜めるーーーー
「よしーー粒子ほうしゅーーーー」
ーーーーバアアアアアアアン
突然近くのビルの壁から爆発音が響く。
ーーーー瞬間、直感で状況を理解し、すぐに音の出どころに飛び込む。
ただ壁に当たるだけでは、こんなデカい音なんてでない。
出るとしたら、何か、、、馬鹿力で叩きつけられた時だ、、、
馬鹿力、、、思い浮かんだのは、二人、、、一人は騎士、、そしてもう一人はーーー
「間に合え、、、っ」
地面を踏む足に精一杯の力を込めて、強く、強く前に踏み込む。
視界の悪い粉塵の中を進み、目的の場所に辿り着き、、、、全身血だらけで、ぐったりした男を見つける。
「ロロジイ!しっかりしろ!あいつとは戦ったら駄目だ!」
肩を揺らすと目を開き、活力のない虚ろな瞳をこちらに向ける。
ーー大丈夫そうだ、まだ意識がある。
何か言いたげなロロジイの右腕を掴み、一本背負いのように背中に身体を乗っけさせ、
最後に左腕を自分の前に回させて、おんぶする。
「今は、口よりも心臓を動かし続けることに気を配ってくれ!」
再び足に粒子を溜め、ロロジイのぶつかった高層ビルの屋上に向かってジャンプする。
刹那、踏み込んだ場所を中心に地面のコンクリがひび割れ、周囲に暴風が巻き起こる。
暴風が粉塵を吹き飛ばし、一気に視界がクリアになる。
「屋上なら、モブ使いに姿を隠す場所がないはずだ、、」
モブなきところにモブ使いなしだ!
屋上に着けば後は、一刻も早く遠くに逃げるだけだ。
時折、ビルの壁を蹴りながら、垂直に上がっていく。
ビルは、全面ガラス張りで蹴ったところのガラスは、大きなヒビが入っていく。
ーーーよし、もうすぐ屋上に着く、、、っ
「横に飛べっ!」
突然、背中から大声が聞こえて、反射的にビルを蹴り、左に飛ぶ。
ーーーーパリィィン
飛ぶと同時に寸前いた場所のガラスが割れる。
そのまま自分たちを追うように左方向に向かってガラスが割れていく。
急いでビルの壁を、走るように小刻みに蹴って、左に一直線に移動する。
「空には、スナイパーがいるのを忘れてましたああああ!!」
弾切れが起きることなく、後ろを追ってきている。
「いやああああああああ」
死ぬッ、落ちるって!!背中に重いの背負ってるんだから!
そのまま重力に引っ張られ、下の方向に緩やかな弧を描きながら走る。
、、、まずい、このままだと地面のモブの中に突っ込む。
一か八かっ!
体を地面が背になるように回転させ、足に一気に粒子を溜め、ガラスの壁を思いっきり踏み込む。
踏み込んだとき、ガラスからピキと割れる音が鳴り、粒子が放出されたインパクトで粉々に割れる。
ビュービューと風を切る音が聞こえる。
銃弾の追撃もスピードに追い付けていない。
壁の途切れめ、すなわち、屋上が見える。
一旦話した銃弾の連射も追い付いてきており、当たりそう、、、となったところで屋上の縁を踏み込む。
「セぇーーーーーーフ」
屋上はまっ平らな灰色のコンクリートの床のみだった。
ここまで来れば逃げきれる、、
屋上に着地すると同時に再び走る。
高いところから見える景色は、絶景というが、この屋上から見える街の景色は、ビル、ビル、ビル、ビル、ビルばっかしだった。
それ以外に本当に何もない。
商店街もデパートも公園も学校もない、、、ただ灰色のビルだけが敷き詰められているだけの異様な灰色一色の街の景色だった。
ビルの縁に辿り着くと、隣のビルの屋上にジャンプする。
一瞬はるか下に見える地面に、ブルブルッと少し震える。
「守護を」
背中のロロジイが札を取りだし、周囲に防壁を出現させる。
「これでスナイパーの攻撃を完全に守れます。」
「ありがとう」
「お嬢様に元に戻るためです。私と、あなた、ふたりで、、」
「そうだな。ちゃんと掴まってくれよ。スピードあげるからな」
ビルの屋上を次々と渡り、一気に距離を離す。
「ここまでくればモブ使いも来ないだろう、下に降りるぞ」
粒子の放出を徐々に弱めて、ビルの壁と壁の間に入り、交互に壁をキックしながら、地面に降りる。
「ふぅ」
絶対的強敵から逃げる恐怖から一気に解放され、自然と一息でた。
「ここまで来れば、基地まで歩いていけます」
周囲の防壁を消し、背中から降りるロロジイ。
「ありがとうございます。もしあなたが助けに来なかったら危なかったです」
「お礼は、基地にいる二人に言ってくれ。俺だけだったら、あの場所に戻ってなかった」
特に自分から死に行くような場所だったしな。
それこそ、誰かに背中を蹴っとばされない限りは、行く決断をしなかっただろう。
「そうでしたか。では、そうさせてもらいます」
日が傾き、空はオレンジ色に染まっていた。
ここに来て、二回目の夜を迎えようとしていた。
「じゃあ、戻ろう。俺たちの基地に。そしたら、夕食だ」
「人数も増えますし、賑やかになりそうですね」




