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さんしょくし!  作者: 赤井つばさ
一日目
16/33

第十五話 進化する人類、、、いや、ゴリラなんですか?

「あがっ!」

 朱雀しゅざくの目覚めは、全身に走る突然の痛みと共にやってきた。

 てっきり優しく起こしてくれるものだと思っていたが、予想と違った。

 感覚で分かる。俺は、地面に放り投げられたんだ。

 それは、つまり、俺の時間がやってきたっていうことだ。

 すぐに立ち上がり、マイを探す。

「いたっ!」

 マイは、すぐに見つかった。

 後ろの少し離れたところにうつぶせで倒れて、ピクリとも動かない。

 すぐに駆け寄ろうとするが、

 マイに向かってビル剣が振り下ろされようとしていた。


 間に合わない、、、、!


 マイが稼いでくれた時間で体力を少し回復できたおかげで、

 全力疾走が出来ているが、それでも、恐らく間に合わない。

 足に力が入る。

 それならーーー普通に走っても駄目なら、普通に走らなければいい。

 身体から銀色の粒子が溢れてくる。

 その粒子が足に集まり、靴のような形を作り上げる。

 靴のかかと部分から角が生えて、腰の高さまで伸びる。

 表面には、血管のようなラインが走り、脈を打つ。

 身体から溢れる粒子は、朱雀の周りで螺旋を描きながら、足へと集まっていく。


 一か八かの大博打、成功させてやる。

 ―――これは、姉妹の絆を賭けた博打なんだ。


 地面に三つ指をつき、クラウチングポーズの構えをとる。

「壁壊しの疾風!」

 爆発音と共に銀色の粒子をまき散らし、音速を超える速さで、マイに近づく。

 もう、マイの目と鼻の先にビル剣は、迫っている。


 すっかり暗くなったビル街に新たな爆音が響く。






「反転の流星リバーバル・シューティング!!」

 空飛ぶゴリラに向かって、一つの流星が地面から上がっていく。

「ウホオオオオオオオオオオ!!」

 ゴリラは、咆哮を上げ、それだけで周囲に空気の衝撃波が発生する。

 その衝撃波とマイを抱っこした朱雀の纏う銀色の粒子がぶつかる。

「俺の疾風は、空気を超えている!」

 朱雀のスピードは、ぶつかった一瞬だけ遅くなったものの、

 すぐに粒子を噴射させ、スピードを上げて、衝撃波を突破する。


 ゴリラは、ハエを落とす様にビル剣を振る。

「ビルなんていくつ壊したと思ってるんだ!」

 直撃するも朱雀の粒子の壁を破ることが出来ず、剣先が真っ二つに分断される。

 咄嗟にビル盾を構えるが、その意味なく朱雀は、盾を貫通して、ゴリラの顔に向かって直進する。

「その目を頂いたああ!!」

 巨大化する前に全力の壁壊しの疾風をしてもダメージは、なかった。

 でも、視覚さえ奪えば、倒せるまで行かなくても、俺たちを追うことが出来なくなるはずだ。

 朱雀の攻撃は、命中し、右目を奪った後、もう一度粒子を噴出させ、左目に蹴りを加える。

 すぐに傷ついた目を覆うためにゴリラの巨大な手がやってきたため、すぐに地面に向かって、噴出を行う。

「ちゃんと確認できなかったが、手ごたえは、あった!」

 翼が生えたゴリラが悶える姿が珍しくて、注視してしまう。

「でも、今が反撃の時!」


 再び足に粒子を溜める。

「逆転の流星リバース・シューティング!」

 空中で銀の粒子を噴出させ、空中版の「反転の流星」を行う。

 地面についていないため。初速が遅いが、それも最初だけだ。

 悶えるゴリラに一直線に接近する。

 狙いは、心臓だ。

 いくら殻が固くても、振動は、身体の内側に響くはずだ。

 相手は、こちらのことなんて見ていない。

 安心して近づける。

 空中で銀の粒子を何度も噴出させ、スピードを上げていく。

「もらったあ!」

 攻撃は、命中し、「反転の流星」と同じ要領でゴリラを打ち上げる。

 身体が大きくなった分、スピードが上がらないが、少しずつ打ち上げていき、

 朱雀の最高速度を出した時点で、今度は、ゴリラの上に上がり、

 上から下に粒子を噴出する。

 マイを離さないように強く抱きしめる。

 身体を反転させ、ゴリラの心臓に二人分の重みが掛かったキックを叩き込む。

「フィニッシュッ!!」

 重力も手伝い、どんどん加速していく。

「一人なら、威力が弱いが、二人なら、威力は、跳ね上がる!

 さっきとは、違う威力を、味わええええ!」

 ドォオオオンオオオオオン

 銀色の流星と共に地面に落とされ、ゴリラの心臓は、地面と二人分の「逆転の流星」に

 板挟みされ、凹み、瞬後、ゴリラの胸に穴が開いた。

「やったか」

 二人の重さの掛かった技は、心臓に衝撃を与えるどころか、固い身体に穴を空けた。

 やりすぎた感もあるが、これで証明できた。

 姉妹の絆は、ゴリラにも勝てることを。

「おい、マイ大丈夫か?」

 抱っこしていたマイの脇を掴み、高い高いのようにマイを離して、マイの顔を見ると、

 目をグルグルと渦巻き状に回しており、うぅー、あぁー、気持ち悪いぃぃ、と唸っていた。

「マーイ、大丈夫かぁー」

「ムリィー」

「これは、アジトに行く前にどっかで休憩した方が良いかもしれないな」

「シューちゃーん」

「どうした?」

「あつーいよー」

「まぁ、こんだけ動けば、暑くもなるさ」

「そんなレベルの暑さじゃ、ううう暑い、ヤケドするううう」

 グロッキーを超えた疲れは、何といえばいいのだろうか。

 もはや、重力にすら勝てなくなりそうな気怠そうな声を久しぶりに

 マイから聞いた気がする。

「暑いって言うから、暑くなるんだ。

 心頭滅却すれば、火もまた涼しッて言うしね」

 まだマイを歩かせるのは、キツそうだったので、腕を折りたたんで、

 再び赤ちゃんのように抱っこする。

 おんぶに変えようとも思ったが、そのために一度マイに立ってもらう必要があったため、

 止めた。

 顔のすぐ近くにマイの銀色の髪があるため、女の子特有の甘い匂いが鼻の中に入ってくる。

 こんな匂い、俺からしたことないんじゃないかな。

「よし、じゃあ、取り合えず、この元心臓の穴から外に出るか」

 顔を上げ、夜空の上にある月を見る。

 ふと、そこで初めて、周囲に意識を向ける。

「なんだ、暑い原因は、これか」

 周囲を、真っ赤なモノで覆われていた。ここは、心臓。

 心臓を潰せば当然―――

「火に覆われるのも無理は、ないーーーわけがない!」

 何?これ?

 実は、ゴリラは、火属性のモンスターだったの?

 いつからゴリラを剝ぎ取ると火炎袋が手に入るようになったんだ。

 慌てるな、こういう時は、落ち着くんだ、俺。

 耳を澄ますと、火の中から、バチバチと何かが弾ける音がする。

「あれは、電気のショートか?」

 赤い中に、時より、小さなフラッシュが起こる。

 ますます分からない。

 進化したゴリラは、血をも電気に変えたのか。

 火の光によって、夜でもよく見える地面に目を移すと、

 何かの機械の破片のような銀色のものが落ちていた。

 拾い上げると、表面が少しヌルヌルしていた。

 機械、、、、ヌルヌル、、、、、火、、、

「そうか!恐らく、これは、オイルとかガソリンとかだな」

 そこで、ギュッとマイの腕の抱きしめる力が強くなり、

「アツイ、、、、ソトニ、、、、ハヤクゥ、、、、」

 呪いを掛けられている気分になる恐ろしく低い声を耳元で囁かれる。

「は、はい!りょ、了解!」

 急いで、足に粒子を溜め、一気に外へと飛び上がる。

「飛びすぎたっ」

 急いだせいで、力の微調整が出来ず、思わずさっきと同じように全力で、力を使ってしまい、ゴリラの全身が見えるほど高く飛び上がってしまった。

 心臓から発生した火は、全身へと燃え広がっていっており、

 火の海の中で、白い翼の生えた巨大ゴリラ(モヒカン頭)が仰向けに寝っ転がっている奇妙な光景がそこにあった。

 一瞬の浮遊感を感じた後、ゴリラの足のある方向の地面へと落ちていき、着地の寸前で粒子を放出させ、

 ゆっくりと地面に着地する。


 ―――つもりが、今度は、威力が弱すぎて、着地時にバランスを崩して、

 地面をゴロゴロと転がってしまう。


「「うぅ、痛い」」

 勢いがなくなった後、二人のセリフが被る。

「なぁ、マイ」

 マイの目をを見て言うが、距離が近く、近くに光を放っているモノがあるせいもあって、整ったまつ毛も一つ一つが鮮明に見える。

「やったな」

「ウン、、、ヤッタ、、、ネ」

 マイが僅かに、でも凄くうれしそうに笑う。

「やったな」

「、、、ヤッタネ」

「やったな!」

「、、、ヤッタネ!!」

「心臓に穴が開いて、全身炎に包まれている奴が

 生きている訳がない!!」

「、、ウン!」

「これで終わったんだよな、、、」

「、、、ウン?」

「俺さ、この戦いが終わったらマイに伝えたいことがーーー」

「シューちゃん、、ゾン、、って、、、てる?」

「うん?なんだ?」

 ―――その時、地面が揺れた気がした。

 マイの顔の光が少し揺らめく。

 今度は、息を吸って、はっきりと言う。





「、、、、生存フラグってシッテル?」



 直後、はっきりと感じられるほどの地面の揺れを感じる。

「まさか」

「・・・・」

 ガガガガと壊れた機械のように小刻みに震えながら、ある方向を二人で見る。

「違う、そんなわけが、ははは、まさかあるわけ、嘘だこれは、現実じゃない、妄想が見えてるだけだ、疲れてるんだ、俺たちは、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、!!!」

 それは、大きく赤く、勇ましく立っていた。

 思考回路とか理性とかが暴走して、口から泡を吹かないのが奇跡なレベルだ。

 だから、二人で叫んだ。大きな声で叫んだ。





「「インチキ能力もいいいいいいいいいいいいいいかげんにしろおおおおおおおおおお!!!」」



 ヴホオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!



 天使は、死なない。どこかでそんな話を聞いたことがある。

 いや、もしかしたら、違うモノだったかもしれない。

 でも、目の前の光景を見た瞬間、その言葉が頭に思い浮かんだ。

 死すら超越する存在、それが天使だとするならば、その天使の翼を生やしたあのゴリラも

 死を超越している、もしくは、超越した進化を遂げたというのか。


「うお」

 咆哮の衝撃波で、台風並みの突風が吹く。

 マイの頭を下げ、地面に張り付くようにして、その突風に吹き飛ばされないように、

 凌ぐ。


 真っ赤な炎に包まれたゴリラがこちらに向かって歩いてくる。

「逃げるぞ」

 マイの手を掴み、立ち上がって、ゴリラから逃げようとするが、

 足に激痛が走り、すぐ転んでしまう。

「シューちゃん!?」

「くそ、さっき、着地に失敗した時に、足首を捻ってたみたいだ。

 マイだけでも逃げろ」

「私も身体がもう言うこと聞かなくて、動けない、、、、」

「そんな、、、、」

 地面を通じて伝わってくる振動がやけに大きく感じる。

 確実な死の恐怖が近づいてくる音。

 逃げないと逃げないと逃げないと。

 足に粒子を集め始める。

 強引だが、ここでヤられるよりマシだ。

 地面を転がりながらでも、逃げるんだ。

 朱雀は、地面に横たわったまま粒子を放出する。

「ぶっ飛ぶz―――――!」




 しかし、朱雀が粒子を噴出する前に、ゴリラの燃えた右拳が

 二人の上に叩き落とされ、セリフは、轟音に共に遮られた。







「全く世話が焼けますね。お嬢様が夕食を待ちかねておりますよ。

 ―――――わたくしを迎えに出すほどにね。」

 半円上の緑色の防御膜が二人を覆い、二人の前には、左目にチェーンの付いた丸い片眼鏡をした一人の長身の男が立っていた。



「初めまして。お二方。

 私は、ロロ=マキシュ=アルカードという者です。

 端的に言えば、執事でございます」

「執事?」

 朱雀は、その言葉に疑問を持つ。

 だって、どう見たって、、、

「祈祷師の間違えじゃないのか?」

 服装が祈祷師のそれの姿の執事なんて俺は、聞いたことないぞ。


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