第十一話 迫りくるは、二つの大きなキョウイですか? part 3
「しかし、さっきは驚いたよ。まさかーーー」
ガーディは、アメリカ人風のやれやれというリアクションをして言う。
「―――おまえが、去勢していたなんてな。」
「言っとくが、元々生えてないからな!」
「見栄を張っても虚しいだけだぞ、少年。」
「虚しくないし!全然本当にこれっぽちもあったら色々誤解されずに済んだかな、とか
全然思ってないし!自分が何言ってるのか分からないし。」
「私も分からん。」
「ともかく!俺は、好きでこの姿な訳じゃない。」
「すまなかった、お前の事情は、どうでもいい。」
「ガーディ、お前が先に変なこと言ったからだろう!
俺だってお前に聞きたいことがあるんだよっ!」
「分かっている。私も馬鹿じゃない。」
「じゃあ、聞かせてもらおう。」
ガーディは、目を見開き、自慢げに胸をドンッと叩いて、スゥと息を吸い込み、言う。
「私も、去勢をしたことがあるぞ!」
「うん、どうでもいいわ。」
「去勢を体験したもの同士だからこそ遠慮せず告白できたんだ。」
「なぜ、俺が去勢した前提!?いやビックリだけど、お前の能力のことだよ!」
「ああ、あれは、何年前だったか。忘れもしない。あの日のことは。」
「いや、もう去勢の話はいいから。ていうか、もう冒頭から忘れてんじゃん!」
「私は、元々大人しく清楚でイケメンな―――」
「能力の話をしろよおおおお!自慢したいのか!」
「なんだ。せっかく超貴重な私の過去の話をしてあげようと思ったのに。」
「興味ない。さっさと説明しろ。」
「ちぇっ。まぁいいか。」
ガーディは、腕を見せつける。
「種明かしだ。」
言うと同時に変化が起きる。
腕から無数の肌色の針が飛び出す。大きいのも小さいのもあり大きさに統一性がない。
「私の能力は、体を針状に変形させること。そして、」
足元の石ころを蹴り上げ、空中の石に向かって、手をかざす。
――――刹那、石が粉砕する。
「マジかよ、、、」
「その針を飛ばすことも可能だ。」
針を飛ばした手の平から細い一筋の血が流れる。
「近距離と中距離できるのかよ。」
「まぁ、皮膚を変形させて打つから、血が出て、
乱用したくないんだけどね。」
「でも、それでどうしてマイを眠らせることが出来るんだ?」
「さっきも言ったろ。この針は、催眠針だって。」
「催眠属性までついてるのか。」
催眠といったら、RPGでかかったら最後フルボッコにされる罪悪の属性だぞ。
「チートもいい加減にしろよ!」
「チートなんか使ってないさ。そもそもこの能力は、私が決めたものじゃないからな。」
ガーディは、そこで棘棘の腕を斜めに振り、針を飛ばしてくる。
「なっ!」
いきなりのことで反応できず、肩に刺さる。
「というかお前の眠気薬が効かない体質の方がチートだと思うわ。
なに?バランス調整?そもそも朱雀、お前は何者なんだ?
こんだけ時間経って、催眠エキスが全身を回ってるはずなのに、眠らないのなんで?」
「今更かよ。俺は、どこにでもいる普通の女子中学生、、、、になりたかった者だ。」
「はぁ。」
「・・・・・・」
「・・・・え、終わり?」
「他に話すことはない。というか話したくない。」
「マジかい。でも、お嬢様に近づく人間のデータを集めたいからなー。」
「まぁ、いいか。データ不足なら消しちゃえば、問題なし、万事解決、最高じゃん。」
ガーディが再びその場で軽くジャンプし始める。
それを見て、朱雀もクラウチング・スタートの構えを取り、足に銀色の粒子を集める。
「ふんっ!」
ガーディは、着地と同時に朱雀に突撃する。
朱雀は、空中で半転し、足がガーディの方向を向くようにする。
対して、ガーディは、朱雀に突進し、右拳を後ろに引き、迎い打つ。
二つの力がぶつかった瞬間、ガーディの腕から肌色の針が朱雀の顔面に
向けて飛び出し、とっさに朱雀は、首を傾けて、避けようとするも、
頬の上の部分を深く削られてしまう。
空中で、朱雀は、腰を捻り、その捻りを利用して、
拳とぶつかっていない左足に遠心力をつけ、ガーディの鳩尾をを下から
蹴り上げる。
「ウッ!」という呻き声を出し、ガーディは、再びビルの壁に衝突する。
朱雀は、ビルの高いところの壁で怯んでいるガーディに向かって、
再び突進する。
ガーディは、さっきの急所攻撃が効いたのか、
真っ青な顔をして、「ハァ、、、、、ハァ、、、、、、」と苦しそうな呼吸をして、
まともに動けそうでは、ない。
壁に自分の針を刺して、身体が落ちないようにしている。
ここが決め手だ!
ガーディに突進の勢いを乗せた空中回し蹴りを叩き込む。
「、、、ハァ、、、ハァ、、、元でも男同士なら最後は、真剣勝負だと決まっている!」
ガーディも対抗して右ストレートを足武装に打ちこむ。
―――が、力負けし、拳が朱雀に段々と押し負けていく。
「このまま押し切らせてもらうぜ!ガーディ!」
ダンッダンッと一滴の水滴を水面に落とした時に広がる波紋のように
ガーデイの触れている部分を中心にコンクリの壁の円形のヒビが大きくなっていく。
「「うおおおおおおおぉぉぉ!!」」
二人の声が間もなく夜を迎えようとしている静かな街に木霊する。
「お嬢様をお守りするのは、私でなければいけないのだ!」
拳に強い思いが入り、朱雀の武装を押し返す。
「友達というなら、その思いの強さを見せてみろっ!」
ガーディは、押し返していた拳を一気に引き、朱雀の上にジャンプする。
急に対峙していた力がなくなったため、バランスを崩した朱雀の腹に
両手の拳を合わせた鉄槌を落とす。
「あがっ!」
落下速度に重力が加わり、どんどん加速していく。
「このままだと、、、、、死ぬ!」
朱雀は、足に意識を集中し、銀の粒子を集め、地面にぶつかる直前に、
粒子を解き放ち、落下の速度を一気に下げ、コンクリの地面にゴンっとぶつかる。
「~~~~~~~~!!」
速度を下げていたとはいえ、
落下した衝撃に声にならない痛みを全身に感じる。
「良かった、生きてーーーー」
「油断しすぎだ!」
上から、全身から針を出したウニ状態のガーディが朱雀に目掛けて落ちてくる。
「楽しませてくれた褒美に、全身穴だらけにしてリタイアさせてやろう。」
危機が迫っているというのに、落ちた衝撃の痛みで体がゆっくりとしか動かせない。
「クソッ!動け!」
ここでリタイアしたら、残ったマイは、どうなる?スーちゃんは、どうなる?
無防備なんだぞ!今の二人は。
これは、勝負だ。殺るか、殺られるか、デッドオアアライブだ。
なら、この状況で身体の痛みを気にしている場合じゃない。
身体を無理やりにでも動かせ!痛みを無視しろ!
「うごぉけぇぇええええ!」
ガーディの針は、もう、すぐ真上に迫っている。
死のタイムリミットが近い。
再び足の武装に銀の粒子が集っていく。
頼む。間に合ってくれ!
「グッバイ、害虫。」
「解放!」
朱雀の掛け声と同時に、銀の粒子の風が巻き起こり、
もろに暴風に巻き込まれたガーディは、再び空中に浮かび上がっていく。
朱雀は、自分の足で暴風を起こしたため、仰向きのまま地面をズズズと
滑っていく。
朱雀は、後ろでんぐり返しの要領で、体勢を立て直し、
足に思いっきり粒子を溜める。
標的は、空中で身動きができずにいるウニ。
地面に三つ指を立て、クラウチングスタートの姿勢を取る。
終わりだ。終わらせるんだ。この一撃で!
「必殺!壁壊しの疾風!」
バァァァァァァンと十分に力を蓄えて放った粒子は、爆発の如き音を響かせ、
音速を超えるスピードで、標的に突撃する。
「グッバイ!ウニ野郎ォォォォ」
針は、朱雀に纏う暴風で、ボキボキと折れ、
ガーディの胴体に渾身のキックがきれいに入る。
「ガハッ!」
ガーディの身体は、常人の目では負えないスピードで、ビルの壁にぶつかる。
「これが、、、お嬢様の作ったトモ、、、、ダチ、、、の、、力―――」
ガーディは、呻くように擦れた声で、
しかし、驚きの感情の入った声で言う。
朱雀は、先程と同じように地面に着く直前に、風を起こし、
今度は、うまく二本足で着地する。
ビルを見上げると、ガーディの身体が光り、消えかかっていた。
その光は、夜を迎え、暗くなったせいだろう。
とても輝き、眩しく見えた。
「ガーディ!俺は、いや、俺たち姉妹は、スーちゃんを危険な目には、
合わせない。信じてもらえるかは、分からないけど。
俺にとっても、スーちゃんは、初めての友達なんだ。」
普段、変態扱いされるから、こんな俺を友達と言ってくれた存在が、
素直に嬉しかった。
俺は、大切な存在を絶対守り切ると昔、決めたんだ。
この信念の強さは、誰にも負けない。」
両親が突然いなくなり、泣いている妹の姿を見た時、
姉が守らないといけないんだ、と決意したんだ。
「だから、これだけは、断言していい。
スーちゃんと俺たち姉妹は、これから固い友情で結ばれるんだ!」
ガーディは、黙って、その言葉を聞き、ズボンのポケットから、
何かを取り出し、血の付いた指で何かを書き、丸めて、朱雀に向かって投げる。
抜群のコントロールで、正確に朱雀の元に落ちてくる。
ガーディは、それを見て、朱雀に向けて、中指を立て、
弱弱しくしかし、迫力のある睨みをした後、光の粒子となって、
闇の中に光が消えていく。
「ガーディ、、、」
遠くて暗いため、確信はないが、
あいつ、ガーディが消える最後のほんの一瞬、ほんの一瞬だけ、
口元が笑っていた気がする。
朱雀は、手元の玉状のものを解く。
そこにはーーーー
『お嬢様に傷一つ付けさせたら、タダじゃ済まさねぇぞ、朱雀。』
と血で殴り書きされていた。
「これは、守る存在として認められたということ、、、かな。」
街から、太陽が消え、空には、月が出始めていた。