前編
チュンチュン。
窓から見える桜の新緑が綺麗に見えるよく晴れた日の朝。
ベッドから起きると太陽が眩しくて、目をつぶり背伸びをする。爽やかな朝だが昨日飲みすぎたせいでまだ眠い。
今日は土曜日だから、二度寝をしようかと思ったとき、
「おはよう。葉子さん。」
と私に声がかかった。
ん?私の部屋から桜の木なんて見えたっけ?
あれっ?私、一人暮らしのはずなんだけど、誰の声?
恐る恐る視線を窓から移すと、私の六畳一間しかない部屋とは大違いの広い部屋、そして声がした方へゆっくりと顔を向けると、とびきり笑顔の美男子が…。
朝から、太陽ばりに眩しい笑顔を見せるこの人はうちの会社で女子から旦那さんにしたいランキングトップ3のうちの一人、営業課の湯浅 啓介さんである。
容姿端麗で仕事もでき、誰にでも優しい湯浅さん。
2年前まで私も営業課にいたので、話したことは何度かあったけど絡みはそんなになかったはず!
いや、だって避けてたもん。
女子からの人気が凄くて、少し話すだけで他の女子から睨み付けられるのよー。
特に私の同期でかつ同じ営業課だった 朝香 奈都とか、本気で湯浅さん狙ってるらしくて、ちょー恐かった。
なので、必要最小限で仕事以外では全然話さなかった。
しかも、必要最小限の仕事ですら奈都に頼んで私興味ありませんアピールしてたょ!
誰に?って、そりゃあ、周りの女子に!特に奈都にね!
それに、こいつ(湯浅さん)は絶対腹黒よ!
一見、誰にでも優しく見えるけど、プライドだけが高く全く使えない上司もおだてながら、媚びることに忙しく仕事しない女子とかも誉めながら、気がつけばこいつの手のひらで転がされてることに皆なんで気づかないの?
私は、見た瞬間背筋がぞぞっーとしたょ!
怖い。
極めつけは、普段、全然関わりがないのに私が仕事失敗して、てんぱってる時に限っていつも遭遇するのよ。
そして、周りにばれないように、ふって鼻で笑いやがったの!
そのあと、フォローしてくれたから優しい人なんだろうけど…。
でも、てんぱってる心の中を見透かされているようで私は嫌いだ。あの鼻笑い。
だから、必要以上にこいつを避けてたのに。
もぅ、違う部署に異動になったし会うこともなくなったと安心してたのに!
なのになぜ、こいつがここにいる?
いや、何故私がここにいる?
というか、ここはどこー???
**********
私の名前は、杉 葉子。
そこそこ大きい商社の一般事務に就職してはや5年と少し。
どこにでもいる普通の平凡OLである。
しかし、この5年間は目まぐるしく過ぎ去ってしまった。
その理由は、配属された部署が何故かことごとく一年で異動になってしまったからである。
おかげで彼氏なし(泣)。
慣れない仕事しながらプライベートを充実させられるほど器用じゃないのよ私。
いや、大学時代から付き合ってた同い年の彼氏がいたんだけど…。
毎年新しいことを覚えながら、通常業務をこなしてくたくたになって帰宅したらもぅ家に着いたとたんパタンキュー。来てたメールは後で返せばいいやと放置して忘れる。
電話を貰っても気づかず爆睡。
最初は「お互い仕事大変だよねー」って笑って許してくれた彼氏も社会人2年目の時に「葉子は俺より仕事が大事なんだな!」と、あっさり振られましたー(T△T)
えっ、普通逆じゃね?いや、これは私が悪いのか…?
しかし、気持ちがもぅ私にないのなら仕方がない、えーい次だ次!と思って仲のいい同期に合コンを頼もうと思ったけど、仕事終わりは疲れ果ていて、プライベートを充実させるのは来年からにしようと、誓い続け…、気づいた時にはもう5年が経ってた。
社内で全く出会いがなかったわけじゃない、ただ、いいなぁ。と思った人は既に思い人ありで…Σ( ̄□ ̄;)
ふん。悔しいから、私の気持ち微塵も気づかせずに仲人してあげたわょ!
ああ、私まるで乙女ゲームのサポートキャラみたいじゃん。ちっ、リア充爆発しろ!
私の経歴は入社一年目でまず経理課、2年目で総合受付、3年目に営業課、4年目に秘書課、そして今いる庶務課である。
この春、また異動になるのでは?と最近までびくびくしていたが、庶務課で新入社員及び定期異動者の歓迎会を行った昨日、もぅ今年は異動がないとようやく安心できたのだ。
この5年間よく頑張った自分!常に新しいことを覚え続けなきゃいけなかった仕事中心生活ともおさらば、今年からはプライベートを充実させてやるんだから!
今年こそ、彼氏作ってやる!
その嬉しさあまり、ついついテンションがあがってしまい、いつもなら参加しない二次会、三次会にも出て、ついには断れない後輩や優しい先輩を連れだしオールのカラオケと繰り出したが、そこで途中でつぶれたみたい。
カラオケに誘ったのは女子だけだったし、同じ庶務の花園 穂香ちゃんが介抱してくれてた記憶が朧気にあるんだけど…。
穂香ちゃんは2年後輩なんだけど、入社後すぐに庶務に配属されたから、私より庶務歴が長い。だから、最初は穂香ちゃんに仕事色々教わりました。
年下とは思えないくらいしっかりした子で、どっちが後輩かわからないくらいだった。
それでも、私のことを先輩として慕ってくれる凄くいい子なの。
しかも、性格がいいだけしゃなくて社内なら誰でも知ってる美人さん。ついつい守ってあげたくなるような
物語のヒロインみたいな子。
**********
「…うこさん。葉子さん?ぼーっとしてる大丈夫?」
はっ!物思いにふけってる場合じゃなかった!
ほんとどうして、こいつがここにいる!?
「ってか、名前呼び!?」
思わず私が叫ぶと、こいつはさらに笑いながら
「えっ、この状況で聞くのそれなの?」
この状況って、どんな状況なの?
いや、夜明け前くらいまでは記憶あるから、こいつとどうこうなったとかは、万が一もないはずなんだけど…。
まさか記憶のないこの3時間くらいで!?
いやいや、体に残ってるのは寝不足と飲み過ぎのだるさだけ!
やっちゃったときの形跡はないから大丈夫なはず!
「ふっ、なんか頭の中色々忙しいみたいだけど、大丈夫?」
はい、でたー!
お得意の鼻笑い!!
ほんと嫌なやつ!
「とりあえず、葉子さんは寝てただけだから大丈夫だよ。
妹にね。出掛けたいけど、葉子さんが心配だから来てって頼まれてさっき来たばかりだから」
「えっ?妹って、まさか穂香ちゃん?確かに似てなくもないけど(主に美形なとこが)、名字が違いませんか?」
「両親が離婚してね。それぞれ別についていくことになったんだょ。」
あっ、そうなんだ。
でも、知りたくなかった。そんなヘビーな事情。
「ふっ、知りたくなかったって顔してるね。」
「うっ…、そ、それで穂香ちゃんは?」
またでたょ。鼻笑い。
私は、これ以上てんぱってる心を見透かされたくなくて、別の話題をふってみた。
「デートだってょ。佐藤 太陽と」
つきん。と心が痛む。
太陽くんは私が営業課にいたときに、好きになりかけてた人。
年は私より二つ下で、まだちょっと顔に幼さが残ってる。でも、笑う笑顔が名前の通り太陽みたいで、その明るさに何度か救われた。
社会人3年目だけど、営業課は1年目の私と新入社員の太陽君。私が仕事で失敗したりすると
「葉子さんでも、失敗するんですね!同じ一年生同士頑張りましょ!」
って励ましてくれた。
誰かみたいに鼻で笑ったりしないでくれた。
太陽君は人懐っこい性格で仲良くなった人は名前で呼んでた。社会人としてはどうかと思うけど、本当に仲のいい一部の人だけだったし、それになにより太陽君なら私は許す!
女子で名前呼びしてくれてたのは私だけだったから、もしかして脈ありかもっ!とか思ってた時もあったけど、ある日突然
「葉子さん。庶務の花園さんって知ってますか?昨日、俺初めて契約とれてそしたら、お祝いだって、啓介さんが仕事帰りに飲み連れて行ってくれたんです。
その居酒屋でたまたま会ったんですよ!啓介さんと知り合いだったみたいだから、一緒に飲むことになったんですけど、すっごく可愛くて!また、話してみたいんですけどどうしたらいいですか?」
って相談されたのよ。
太陽君の指導担当がこいつだったから、太陽君が契約とれたお祝いしてあげるのは、自然の流れだったかもしれないけど、このタイミングは悪意を感じる。
当時、穂香ちゃんとは知り合いじやなかったけど、既に美人さんとして社内で有名だった。
太陽君、イケメンだもんね。名前もどっかのヒーローみたいだし、ヒーローには私みたいな凡人よりヒロインがお似合いだよね。
とか、自己嫌悪におちいってたら
「よーこさーん!聞いてますかー?もしかして体調でも悪いんですか?」
太陽君に心配されちゃって動揺を隠すために
「いきなりデートに誘うのは警戒されちゃうかもしれないから、他の人とかも誘ってみたら?湯浅さんが知り合いなら湯浅さんも誘ってバーベキューでもしたら?」
って、思いっきりアドバイスしちゃったのよ!
ただでさえ、不利なのに敵に塩を送ってどうする!私!?
「おー!なんか面白そうな話してるね。いーよ、可愛い後輩の為に一肌脱ぐよ。花園さんには俺が話しておくよ!」
「あっ、啓介さん!でも、啓介さんは花園さんのことは何とも思ってないんですか?この前も仲良さげでしたけど俺狙ってもいいんですか?」
「おー、大丈夫だょ!確かに可愛いとは思うけど俺のタイプではないから!ただ、ライバルは多いと思うから頑張れよ!ほら、他のメンバーも探してこい!」
太陽君は、ありがとうございます!といい他の人にも声をかけに行ってしまった。
「ふっ、杉さんも来るよね?」
鼻笑いー!むかつくー!
その後、バーベキューで太陽君と穂香ちゃん良い雰囲気になってたし、しかもデートの約束できましたー!とわざわざ報告してくれた太陽君に
「良かったね!頑張って!」
と応援するはめに。しかも、デートの場所の相談までされてしまい、その時たまたま持ってた毎月買ってる女性雑誌に連れて行って貰いたいデートスポット特集がやっていたので、それをあげた。
そしたら、上手くいって晴れてお付き合いすることになったらしい…。
ちっ!
**********
「葉子さん。葉子さん。また百面相?そんな顔も可愛いけど、少しは俺のことも見てほしいな。」
えっ、それってどういう意味!?
「葉子さんのこと経理にいる頃から可愛いなぁってみてて、営業に来たとき凄く嬉しかったのに、俺のことめっちゃ避けてたよね。
しかも、佐藤の事好きみたいだったからさ、穂香使って邪魔しちゃった。
まぁ、もともと穂香も佐藤のこと狙ってたみたいで、紹介してくれって頼まれてたんだよね。」
やっぱり、あのタイミングはわざとだったのね。
ほんと人を手のひらで転がすよね。
ってか、私の気持ちほぼ見透かされてるし!
「ねぇ。葉子さん。俺はいつも頑張り屋さんな葉子さんが好きなんだけど、葉子さんは?俺のことどう思ってる?」
「人のこと手のひらで転がすような腹黒さんはきらいです。」
「だって、葉子さんが好きなんだ振り向いて貰うための努力は必要でしょ?
それに色々策略したけど、なかなか上手くいかなくて穂香にヘタレって言われっぱなしだったしね。
庄司さんの時は特にね。」
えっ、そっちも気づかれてたのー!?