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友達の恋愛に、オレは関係ない

生徒会室でイチャつくカップルを冷やかすだけのお仕事。

 そがいなこと、俺が知るか。





『しのぶくん。剛力君ってどういうタイプが好みなのかな?』

『エロくて程良く胸の大きい女。簡単に言えば雌豚だな』

『ちょっと真面目な相談だからよろしくお願いします! ……私ってほら、地味だから、ちょっとイメチェンとかした方がいいかなー……なんて思っちゃったりして?』

『イメチェンなら髪型をいじるくらいでいいんじゃないか? 武は真面目な奴だから化粧とか髪染めたりとか、あんまり得意じゃないかもしれんし』

『あ……そっか。んじゃ、ちょっと髪型だけ、いじってみようかな……』

『化粧もバレないくらいのナチュラルメイクならいいかもな。鮫島とか横峰あたりはそういうの得意だし、なんならおばさんに聞いてもいいんじゃないか?』

『そうだね。聞くのはとりあえず恥ずかしいから……ネットとか雑誌で調べてみる』

『キャラに合わないことやってすぐにやめるってのは良くないから、程々にな』

『……ありがとう、しのぶくん』

『いつものことだしな。気にすんなよ』



「結崎君、そのお洒落眼鏡、全然似合ってないね」

「……え? いきなり誹謗中傷? もうそろそろオレの堪忍袋の緒は限界だぜ?」

「ふっふっふ、五郎ちゃんのラブを失った私は無敵! 独りぼっち最強!」

「なりふり構わなくなった人間は確かに最強ですけども……」

 今日も今日とで、放課後の生徒会室で結崎忍は植草美恵子と話していた。

(本日の会長様は少々ご機嫌斜めのご様子。……知ったこっちゃないけど)

 そんな風に空気を読みつつ、今日は書類をひたすらホチキスでまとめていく単純作業を淡々とこなしていく。

「そもそも、五郎が会長に抱いていたのはラブではなくライクっ痛ってぇっ!?」

「事実をありのまま口にするとはいい度胸だね☆ 一番傷付くって言ってんでしょ?」

「会長、顔が滅茶苦茶怖いです。……なんかあったんですか?」

「なんかあったっていうか、現在進行中っていうかね! 弟と彼女の仲が良過ぎて、お姉ちゃん爆死しそう、みたいな?」

 つまり、八つ当たりである。

 なにか一言だけ言ってやろうと思った忍だったが、生徒会室の隅で仲睦まじく勉強をしている二人を横目で見て『爆発しろ』くらいは思ったので、あえて口を閉ざした。

(というか、同じ部屋に本人たちがいるのに『お姉ちゃん爆死しそう』とか普通に言えるその神経が信じられねぇな)

 植草五郎。顔はそこそこ可愛い系。わりと虚弱。成績は最近向上しつつある。天然。

 坪倉五十鈴。巨乳にツインテール。生徒会書記。五郎の彼女。百合。

 人生というクソゲーのどこをどういじったらこの二人が付き合うことになるのか忍にはよく分からなかったが、そんなもんだとも、思う。

 二人の間でしか分からないなにかがあった。そういうことなのだろう。

 美恵子の言葉を聞いて、五郎に勉強を教えていた五十鈴は不満そうに唇を尖らせた。

「お姉さま、人聞きの悪いことを言わないでください。私はお姉さまが散々やらかしてきたことの尻拭いをしているのですから、むしろ感謝して欲しいくらいです」

「うん、感謝はしてます……でも、妬ましいのは事実なのよ?」

「ワァー、ゴローすっげェ、モッテモテじゃん? ウラヤマシィー」

「結崎君。如月と全く同じ棒読みで同じセリフを言うのはやめてくれる?」

 眉を八の字にしている五郎は、大きく溜息を吐いて参考書を睨んでいた。

 どうやら、五郎の学習環境はそれなりにスパルタらしい。

 忍は資料をホチキスで止めながら、口元を緩めた。

「どうやら、ウチのクラスで男女が付き合うと成績が上がるらしいな。俊介も相沢のおかげで露骨に成績上がってたし、古賀や神谷もそうだよな?」

「ぼくの場合は元が悪過ぎたんだけどね。五十鈴さんと付き合いだして、一人部屋ができてから、ちょっと集中できるようになったから」

 付き合い出して一人部屋ができるという言葉に思う所がないでもなかったが、プライベートな部分なので、忍はあえてスルーした。

 が、空気の読めない生徒会長は神妙な顔で五郎の言葉を拾う。

「五郎ちゃんはその一人部屋でこの巨乳を独り占めですよ。全く、けしからんね! 結崎君もそう思うでしょ?」

「けしからんのは会長の発想だよ。彼氏彼女がいちゃつくのは普通だから」

「でも、結崎君。ああも露骨に大きいのって気にならない? 揉んでみたいなぁとか、男心に思ったりしない?」

「するかも分からんが人様のものを前にそーゆーことを平然と口にできるかぁ! 頼むから、ちょっとは空気や人間関係読んで発言してくれ!」

「けっ、紳士ぶりやがって! いくら取り繕おうとも、結崎君が男の子であるかぎり巨乳という魔性からは逃げられないんだからね! 五郎ちゃんと同じように!」

「五郎みたいな天然が巨乳ごときにやられるかァ! あと、オレはBカップからCカップくらいが好みだからな!」

「つまり、狙われてるのは私ってことっ!?」

「遺憾の意を表する」

「そ、それは、日本人として最大級の拒絶だよっ!? 私のなにがどういけないのかなっ!?」

「いいのか? 言葉にしちゃっていいのか? 絶対に凹むけどいいのかっ!?」

「……ふ、五郎ちゃんのラブを失った私は最強! 言ってみるといいさ!」

「会長は面倒くさい」

「………………」

 凹んだ。

 あれだけ前置きし、警告したのに、美恵子は露骨に凹んだ。

 頭を抱え、机に突っ伏し、肩を震わせていた。もしかしたら少しだけ泣いているのかもしれない。

 忍が呆れ顔で椅子に座り直すと、不意に視線を感じた。

「あの……結崎君?」

「なに? 坪倉さん」

「お姉さまと一年ほど付き合ってきた経験を踏まえて忠告しますと……ここはある程度フォローを入れないと、延々と根に持たれて恨まれますよ?」

「そういう所を含めて面倒くさい」

「この男……フォローする気が全くないっ!?」

 あるわけがない。年長者に対する敬意など、忍は持ち合わせていなかった。

 自分に優しい人間には優しくが、忍の人生目標である。

「そもそも、凹むってことは自覚があるってことですよね? 会長の場合、自覚がない誹謗中傷は凹むより先に怒るでしょ」

「思春期の女の子の暴走をナメんなよ、結崎! 家庭科室の包丁が切れなさ過ぎてマイ包丁を持ち込んだ私の女子力を見せてくれる!」

「ひぃっ!? お、お姉さまさすがに刃物はまずいです! 五郎君、この男を止めないと最悪殺人事件とかに発展しますよっ!?」

「勉強してるんだけどなぁ……」

 自分の彼女に方を揺さぶられて、ようやく生徒会長の弟は重い腰を上げた。

 息を吐き、忍を見て、肩をすくめる。

「結崎君」

「ん?」

「姉さんのこと、どう思う?」

「どうって……面倒だなぁとは常々思ってるよ」

「どの辺が面倒? なるべく詳しく説明して欲しいんだけど」

「人の顔色見過ぎなところかな? 会長は『あえて空気を読まない』ってことを結構する人だけどさ、それは結局『空気が読めてる』ってことでもある。……でも、毎度毎度人のことばっかり見続けるのは疲れるだろ? 人の気配や空気に聡いのはいいけどさ、そんな生き方は与一みたいな規格外でも長く続けられるもんじゃない。人前でもーちょい肩の力を抜くことを覚えないと、いつか潰れるんじゃないかと冷や冷やする。……そういう風に会長をこっそり心配しているオレ自身が一番面倒だな。つまり、一言で言えば面倒だ」

「ん……了解。よーく分かった」

 苦笑を浮かべながら、五郎は姉の方を見る。

 美恵子は包丁を大人しく鞄にしまって、五郎から目を逸らし、忍の方を恨みがましく見ていた。

 その顔は、拗ねた子供のようでもある。

「結崎君」

「なんですか?」

「五郎ちゃんの愛を失った私は最強と言ったな……あれは嘘だ!」

「知ってます。……ごめんなさい。言い過ぎました。お詫びになんか奢ります」

「な、なんでいきなり低姿勢? 別に根に持ったり恨んだりはしないよ?」

「いや、その……凹んでる女の子に言うことじゃなかったなと、反省を……」

「じゃあ、焼き肉奢ってよ、焼き肉」

「高いです却下」

「えー? 反省してるんならそれくらいの誠意は見せてくれてもいいんじゃない?」

「せめてラーメンくらいにしておきましょうよ。焼き肉とか、オレだって普通に食いたいけど財布がピンチだから我慢してるんですから」

「そこを工夫してなんとかするのが、男の甲斐性ってもんじゃない?」

「工夫は面倒くさいって言うのがもう面倒くさいので、会長も考えてくださいよ。ちなみにオレが思い付いたのは生肉買って家で焼き肉なんですが、なんか親密度高そうな感じがして恥ずかしいので……」

「じゃあ、それで。今週は焼き肉パーティだぜィ! ヒャッホー!」

「人の話聞けよ! 恥ずかしいって言ったよなァ!?」

「結崎君、姉さん、ぼくらそろそろ帰るから、戸締りだけよろしくね」

「見るがいい、結崎君。アレがリア充の処世術よ。厄介な要件を君に押し付けて彼女とラブラブ下校タイムに移行しようとしている、姉離れの完了した弟の姿だ」

「爆・ぜ・ろ! 爆・ぜ・ろ! 五郎に限らず彼女持ちは全員爆発しろォ!」

「二人とも、実はすごく仲良いんじゃない?」

『ふざけたことを言うな!』

 息ぴったりである。仲良しと思われても仕方ない程度には、テンション高めのコミュニケーションだと、なんとなく五郎は思う。

 爆ぜろコールを背中に受けつつ、五十鈴と連れ立って生徒会室を出る。

 時間は午後の五時半。帰りにどこかに寄って五十鈴と話す時間くらいは取れそうだと目算を立てて、歩き出した。

「お姉さまと結崎君、ずいぶんと仲良さそうでしたけど……あれ、近々お付き合いしちゃうんじゃないですかね?」

「んー……どうかなぁ?」

「おや? シスコンとしては姉に寄りつく男は看過できませんか?」

「空野君が結崎君を連れて来た時に『これ以上生徒会に男は要りません! 可愛い女の子を連れてきなさいよ!』って、きっぱり言い放った百合の言葉とは思えないよね……」

「百合としては正常な反応です。……で、結崎君とお姉さまの件ですが」

「姉さんも結崎君も警戒心が強そうな気がするんだよね。そういうのって、恋愛的に見ると、どうなのかな?」

「んー……結崎君はよく分かりませんが、お姉さまは胸襟を開いているような気がしますけどねぇ。シスコンの弟にしか分からない違和感でもありましたか?」

「特にないけど……姉さんだからなぁ。なに考えてんだか……」

「……あー」

「まぁ、姉さんと付き合えそうな男ってあんまり想像つかないけど……それを言ったら姉さんが誰かに恋い焦がれるみたいな所も想像つかないし、結崎君が恋に悩むなんて絵も想像つかない。ぼくが想像力に欠けてるのは事実なんだけどさ」

「でも、私が男の子と恋愛してるってのも想像つきませんでしたよ?」

 そう言って、五十鈴はひょいっと何の気なしに、五郎の手を握る。

 一瞬で五郎の頬が赤く染まる。

「っ……いや、だから……せめて、一言……」

「一ヶ月経つのにまだ慣れませんか?」

「彼女いない歴=年齢の男にいきなり彼女ができたら、大体こんなもんだと思う」

「おや? しかしそれなりにお酒が入った時は、意外と積極的な……」

「やめて。アレはぼくであってぼくじゃない。それ以前にアルコール度数を徐々に増やしたりするのはやめてよ。気づかないぼくもぼくだけどさ」

「……ちゅーしていいですか?」

「最近要求が大胆になってきてないっ!? っていうか、ここ校内だからね!」

「百合としては遺憾なのですが、五郎君が可愛いのが悪いのです。全く男らしくなく頼りがいがなく、ヘタレてて積極性皆無というのが可憐な乙女のようで実に良い!」

「力説しないでくれるかな!?」

「とは言っても、五郎君から男らしさを感じろというのは無茶ってものですし……」

「ああ、はいはい。男らしくなくて悪ぅございましたね」

「男らしくなくても好きですけどね?」

「ありがとう。お礼に、今度の週末にデートに行こう。プレゼントはなにがいい?」

「はィ? プレゼント?」

「誕生日でしょ?」

「……あ……そういえばそうでしたね! すっかり忘れてましたよ! でも、そういうプレゼントって、言わない方が喜ばれると思いますよ?」

「指輪とか花束でも?」

「いえ、それは重過ぎるんで普通に引きます」

「お揃いのマグカップ」

「カップルだからってそこまで共有しなくてもいいんじゃないですかね?」

「映画のチケット」

「当日券なら色々と割引が付く日もありますし」

「ぬいぐるみとか」

「興味ありません」

「欲しい物とかある?」

「今は特に。強いて挙げるなら使いやすい画像編集ソフトですかね」

「ほれ見ろォ! 地雷は多いし色々と物言いが付くじゃないか! ウインドウショッピングでもしながら決めた方が明らかに有意義だよね!」

「五郎君に一回だけ命令できる権利とかでもいいんですよ?」

「……一応聞いておくけど、なにを命令するつもり?」

「私にちゅーをしなさい♪」

「………………」

 ちゅーをした。

 坪倉五十鈴は大人しくなった。



 そんな現場を目撃することもある。

「っ……あの、五郎君……せめて、その……もうちょっと、軽い感じのが……」

「ごめんなさい。歯止めが利きませんでした」

 手を繋ぎ、足早に校舎を歩く二人の一部始終を目撃するようなこともあったりする。

 そんな二人を微笑ましそうに見つめて、結崎忍は息を吐く。

(爆発しろとは言ったものの……ああまで幸せそうだと『お幸せに』としか言えなくなるってもんだな)

 二人がどんな経緯で、どんな風にくっついたのかは知らないし、忍には関係ない。

 それでも、その関係が少しでも長く……なるべくなら末長く続くことを願っている。

「ぬぁー……めんどくせー……生徒会は色恋沙汰で崩壊してしまったよ」

「組織じゃよくあることですよ」

「そうだ、私も彼氏を作ろう。そうしようそうしよう」

「ごめんなさい。友達に噂とかされると嫌だし……」

「結崎君とは言ってねー! 絶対にお断りだよ! 良い男紹介しろォ!」

「……いや、ごめんなさい。会長と付き合えそうな男にマジで心当たりがありません」

「謝らないで! 茶化して! 男の子の紹介はもっと軽い感じでお願いします!」

「じゃ、おつかれっしたー。また明日来ますから、それまでに資料まとめといてね」

「軽い口調で帰るなー! 私が帰るまで絶対に帰さない! 死なば諸共だァ!」

「あ、水無月とかオススメです。んじゃ、オレはこれで」

「水無月君みたいな地雷原を素足で歩くのはごめんだよ! 仮に付き合えたとしても、いつどこでどんな女に刺されるか分かったもんじゃないからね!」

 忍の襟首を掴みながら、美恵子は叫んだ。

 どうやら、美恵子の作業が終わるまで帰してもらえないようだった。



 植草五郎と坪倉五十鈴の恋愛に、自分は関係ない。

 しかし……それはそれとして、彼らが校舎内でちゅーしたことを、生徒会長に隠しておく程度の親切心はある。

 先輩と友達を慮る程度の心配りは、しているつもりだった。

次回は買い物とか行きます。

大型デパートで買い物って、なんかわくわくするよね。

……物産展とか行きたいなぁ(切実)。

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