早乙女雪奈の恋愛に、オレは関係ない
メリークリスマス!(遅い)。
今年最後の小説がこれだよ! 描くのに何ヶ月かかってんだ!
しかし、自分は謝らない。忙しい12月が悪い。
というわけで、関係ないと言い張るのが取り柄の、優しい男の恋愛話を開幕。楽しんでいただけたら幸いです。
※同作者の『百合な彼女とシスコンの彼が付き合うことになった理由』とダイレクトに繋がっているので、読んでおくとちょっと楽しめますが、別に読んでなくても楽しめます。
早乙女雪奈の恋愛に、オレは関係がない。
『あ、あの、しのぶくん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……いい?』
『んー?』
『しのぶくんから見て……えっと……ご、剛力くんって、どういう人かな?』
『文武両道ゴリラ。与一曰くのオススメ物件。気に入ったんなら狙い目だぜ?』
『べ、別に気に入るとか……そういうのじゃなくて……』
『女が男のことを聞くってのは、しかも本人じゃなくて他人に評価を聞くってのは、そういうのだとオレぁ思うがね。気になったんならプレゼントをオススメする。クッキーとかが抵抗なく受け入れられそうだな。相手は朴念仁だからそこだけ注意しとけ』
『……う、うん』
『んじゃ、オレは空野の代わりに生徒会行ってくるわ』
『しのぶくん。ありがとう』
『お礼を言われるほどのことじゃない。そのうち可愛い女の子でも紹介してくれ』
「与一。お前が今食ってるクッキーは、そういう経緯があって作られたものなんだ」
「マジで!?」
その日、僕こと如月与一が結崎忍から聞いた事実は、衝撃的なものだった。
クラスメイトの剛力武から『早乙女からクッキーをもらったんだが食うか?』と言われてもらったクッキーを見つめて、僕は頬を引きつらせる。
「やべーよ……なんだよあの男。朴念仁過ぎるだろ。ギャルゲの主人公気取りかよ」
「剛力だから仕方ないっちゃ仕方ないのかもな。柔道一筋だし」
仕方なくない。女の子からクッキー貰ったら狂喜乱舞して全部食えよとか思わなくもない。貰ったモノを独り占めするくらいは、高校生男子として普通な気がする。
僕の親友の水無月正人は、もらったマフィンを食べたら長い髪がごっそり入っていたという恐怖体験をしたことがあるけど……それは例外中の例外なので、割愛。
剛力武は文武両道の柔道部所属。見た目はゴツく義と情に厚い男で、少々鈍感だ。
いや……少々じゃないか。これならゴリラ・ゴリラ・ゴリラの方がまだ敏感だろう。
「っていうか、早乙女さんって剛力のこと好きなの?」
「みたいだな。中学の頃からそうだったけど、雪奈は身長高い男が好きなんだよ」
「へぇ……ゲッター3のパイロットとかが好きなんだ」
「なんで三号機に限定したんだよ? 否定はできないけど多分少し違うぞ」
僕と話している男の名前を結崎忍という。ゆいざきしのぶと読む。
身長は百七十七センチ。身長が少し高い細マッチョ。髪の毛は程々にワックスで固めていて私服もお洒落だ。なにやら眼鏡に拘りを持っているらしく、いつも銀縁眼鏡とカラーレンズ仕様のお洒落眼鏡をかけている。
成績は極めて優秀で、運動もそこそこ優秀だが、性格と性根に少々難がある。
僕ほどじゃないかもしれないけど。
「またアレか、女が僕から友達を奪っていくパターンか」
「与一はそーゆー物言いをするから、一部の女子からホモ扱いされるんだよ……」
「誰がホモだ! 僕は友達が少ないだけでホモじゃねぇよ!」
「友達は少なくないだろ。むしろ多いだろ。女友達も多いんだから、もういっそのこと誰かと付き合っちゃえよ。津村とか鮫島とか今フリーだから口説けばぐぶへぇっ!?」
不意に飛んできたブ厚い辞書が結崎の頭を直撃し、黙らせた。
飛んできた辞書は一冊だけだったので、恐らくは津村さんの仕業だろう。ちらりと昼食を食べている津村さんを見ると、口元を引きつらせて怒っていた。
津村朱里。つむらあかりと読む。眼鏡の三つ編み委員長。テンプレートのような彼女ではあるけど、昨今の委員長属性の風潮に逆らって、体の凹凸はむしろ慎ましい。高成績を取るために日々勉強に勤しんでいるけれど、このクラスには牧村ゆかりという天才がいるので、決して一位にはなれない宿命である。
クラス順位総合二位、全国模試で二十位前後をキープという凄まじい女の子なんだけどね。
結崎の頭を踏みつけて、津村さんは目を見開いた。
「結崎くん。私を引き合いに出さないでもらえるかしらっ!? 大体、私は口説かれた程度でコロッと男の子に傾倒するような軽い女じゃないわ!」
「あの、津村さん。さすがに頭を踏みつけるのは下手すると死ぬからやめた方がいいと思う。スカートの中も、もりもり見えてると思うし」
「スカートの中はスパッツだから恥ずかしくないわよ!」
いや、恥ずかしいと思う。
津村さん、美人なのに性格キツいのと勉強マニアなのと勘が鋭いのが重なって、クラス内じゃ評価はイマイチなんだよなぁ。
可愛いのに、もったいない。
「如月くん。なにか失礼なことを考えてないかしら?」
「津村さん、可愛いのに、もったいないよね」
「ふぇいっ!?」
口説かれた程度で男子に傾倒しない! と、断言していた女子の、あまりにもチョロ過ぎる過剰反応だった。
僕は肩をすくめつつ、テキトーに言葉を続ける。
「まぁ、結崎も軽々しく『口説いて』って言ったんじゃなくて、僕のことを慮っての言葉だと思いねェ。溝口と横峰とか、面倒臭くてアホな連中の名前は出してないでしょ?」
「うるせー、如月ィ! アンタに言われたくないわよ!」
「面倒かつアホで悪かったわね! 陰険! 根暗! ホモ!」
「ごめんね! でも、否定しないあたり多少は自覚あるだろお前ら!」
『うるせー!』
遠くからの飛んできた罵詈雑言にツッコミを入れ、消しゴムやらメモ帳やらは甘んじて受けて、口元を引きつらせる。
そんな僕を見ながら、津村さんに踏まれている結崎は息を吐いた。
「与一。毎度思うけど無自覚に女を口説くのはやめた方がいいと思うぞ。マジで」
「口説いてねーよ。むしろ女子からは嫌われてる。古賀ちゃんの彼女とか、植草の彼女とかからは蛇蝎のごとく嫌われてるからな」
「それは、彼氏への悪影響を心配してるんだよ」
「………………」
否定できない。確かに僕は悪影響を撒き散らしているかもしれない。
津村さんの足をどかして、結崎は立ち上がる。なんとなく憂鬱そうだった。
「なぁ、与一よ」
「なんだよ、結崎」
「幼馴染が朴念仁に惚れてオレに度々相談を持ちかけてくるんだがどうすりゃいい?」
「……分からないな。正人や結崎と違って、僕に幼馴染はいないから」
「津村はどうすりゃいいと思う?」
「私も分からないけど、真面目に答えてあげればいいんじゃない? 結崎君は根が真面目だから小賢しいことは考えずに、思ったことそのまま言えばいいと思うわ」
「根が真面目ってのはちょっとアレだけど……そんなもんか……んじゃ、空野に生徒会の手伝い頼まれてるから、ちょっくら行ってくる」
「おう」
ひらひらと手を振って結崎を見送る。
なんとなく憂鬱そうに見えるのは、僕と似たり寄ったりの『取り残されたような気分』を味わっているからだろうか。
結崎が早乙女さんに惚れてるとかだと、面倒なことになりそうだけど。
……いや、ないか。
あったとしても、それは結崎の問題で僕が首を突っ込んでいいことじゃないだろう。
「植草の彼女や空野の代わりとはいえ、生徒会で雑用とは結崎も大変だなぁ」
「そー……え? 植草君、彼女いるのっ!?」
「津村さん。植草に巨乳の彼女ができたって話題は一ヶ月前に鎮火してるよ」
「わ、悪かったわね! ゴシップには疎いのよ!」
「んじゃ、たまには昼飯でも食いつつゴシップで盛り上がろうか? 勉強でもなんでも適度な刺激ってのは大切だしね」
「わ、私は別に、ゴシップとかそんなに興味ないし?」
「まぁまぁ、僕が昼飯ついでに話したいだけだから。いつもは鮫島か男子連中の誰かが聞いてくれるんだけど、今日はたまたま誰もいないんだよねェ」
「……ん、それじゃあ、今日だけ特別に聞いてあげるわ」
「ありがとう」
津村さんの恩情に感謝しつつ、食べかけの弁当箱を抱えて津村さんの正面に座る。
こうして毎日のように寂しさを埋めながら、僕の昼休みは過ぎて行くのだった。
早乙女雪奈。剛力武。
この二人が織り成す恋愛模様に、僕は関係がない。
関係がないから、なにも言えない。
だから……結崎忍も、なにもしない。
これは、そういう物語である。
洒落の利いた前書き後書き記述機能とかあったら、馬鹿受けすると思う。
というわけで、次回に続く!