やりたくないって言えない状況
~夏芽くんによる前回までのあらすじ~
幽霊の類が昔から視える俺は、妖怪たちに頼まれて妖怪の街を救うことに!中国の妖怪、窮奇と戦っちゃうよ☆
「って無理だろ!!」
思わず現実逃避しちゃったじゃねぇか!
いやいや、俺そこら辺にいるよーな高校生だぜ?ちょっとソッチ系のものが視えるだけだぜ?
それがいきなり妖怪退治?無茶ぶりにも程があるぞ!?
ここは1つ、波風立てないようにお断りを入れるしか……!
「あ、あのさー…」
「それでだな、」
見事に被った。今世紀稀に見ない素晴らしい被りようだ。
穏便に事を済ますため、俺は引き攣った笑いを浮かべた。
下手に出てやんねーと、どうなるかわかんねぇ!!
「い、已朔さんからどーぞー…はは…」
「うむ、窮奇との戦いにあたって、小僧の力をあげていきたい。術を使えるようにな」
呼び名が小童から小僧に変化しました。レベルアップですかね。喜ぶべきですか?あ、そんな変化してない?
てゆーか、ちょっと待とう。今ジジイ何つった?
窮奇との戦いにあたってぇ?何、俺の返事も待たずに窮奇を倒すこと決定?はっはー、じーちゃん冗談が過ぎるぜ?
「今日からできるな?小僧」
半分命令ですよお爺様!!!!
貴方の中で既に決定事項になってませんか!!
俺の意思は無視ですか!そうですか!!
「修行には狐と烏がついてくれる。精進するがよい」
はいきました決定ー!!
俺は頷いてないのに決まりましたよ皆さん!!
なんて横暴な!
……なんて心の中では文句を言いつつも口には出さない俺……弱いな……。
已朔じーさんには逆らえん……。
人間諦めが肝心だよな!……ハハ…。
もうやりたくないとか言えねーよ……。
がっくりと項垂れる。
グッバイ、俺の平和……。
てか、狐と烏って誰?
部屋を見渡すと、手を振ってくる珀と頭を下げてくる黒佐。
あの二人のことか。
黒佐はともかく、珀はちゃんとやってくれんのかよ。
疑いの目で見つめつつ、2人に近づく。
「よろしくねー、ナツメクン」
「よろしく頼む」
「……おー、よろしく」
不安は未だあるけども、已朔じーさん直々に頼まれてるみたいだし、期待していいみたいだな。
やりたくはないけど。
全く持ってやりたくはないけど。
大事なことなので2回いいました。
これっぽっちも妖怪退治なんてしたくないけど!!
大事なことなのでもう一回言いましたよ。
これも人助けと思ってやりますけどー。
……ん?あれ、こいつら人間じゃないよな。じゃあ人助けって言わなくない?何て言えばいいんだろう。
妖怪助け?
……違う気がする。
どーでもいいことで俺が頭を悩ませていると、珀と黒佐が立ち上がった。
「じゃあナツメクン、部屋、変えよっか」
あ、この部屋已朔じーさんいるもんな。ここで修行はできねぇよなぁ。
一人でうんうんと頷いていると、珀にはーやーくーと急かされた。こいつは少しくらい待てないのか。
立ち上がると二人は既に歩き出していた。早い。
一応已朔じーさんに頭を下げて、部屋をあとにする。礼儀を欠くとあとでどーなるかわかんねぇもん。
襖を開けて(ご丁寧にも閉められていた)外に出ると、少し先に二人が立って待っていた。
駆け足で近寄り、気になっていたことを聞こうと思い立つ。
「ねぇ」
「んー?どうしたの、ナツメクン」
「聞きたいことあるんだけど」
「あぁ、いいよ、何?」
少しずつやる気が出てきているし、敵の情報を少しでも持っていたい。
情報が何一つないまま戦うのは怖いからね。
「窮奇ってどれくらい強いの?」
「……さぁ」
「どれくらいの大きさ?」
「…………さぁ」
「……いつ来るの?」
「………………さぁ」
ぅおおい!!さぁばっかじゃないか!!
知りたい情報何一つ入ってこなかったぞ!!
俺があまりにもすごい表情をしていたせいか、珀が取り繕うように喋り出す。
「いやあのね?ボクらも教えてあげたいのは山々なんだけどさ?ボクらにも分かってないんだよ。生きてる年数によって大きさも強さも変わるし、いつ来るかなんて、ヤツの気まぐれによって変わる。もしかしたら明日来るかもしれないし、場合によっては来年来るかもしれない。情報なんてボクらが欲しいくらいだよ 」
……ふーん。まぁ相手は中国にいるしな。探ろうにも探れないよなぁ。
仕方ねーよな。
あと珀、何でそんなに焦りながら説明してくるんだ。
俺そんな酷い顔してたのか?
どんな顔してたんだろう。凄いブサイクだったのか!?それだったら言ってほしかった!
でも言おうにも言えないよな。
『貴方の今の顔、とてもブサイクですよ』
言った瞬間友情も信頼も全て崩れ去るよ!
好感度0どころかむしろマイナスになるよ!
アウトだよアウト!
「……おーい、ナツメクーン?」
「……………はっ」
また思考回路どっかに吹っ飛ばしてたわ!!
そろそろ直した方がいいぞ、このくせ。
謝ろうと珀を見ると、どこか引いたような表情を浮かべていた。
なんで!?
俺なんかしたの!?もしかして変な顔してた!?引くほどキモかった!?
それならごめん!全力で謝るよ!
必要とあらば土下座もするよ!!
俺が口を開こうとした瞬間、珀が俺から目を逸らし、歩き始めた。
「じゃあナツメクン、こっちだよ」
待って!ちょっと待って!そのよそよそしい感じ何!?さっきまでうざいくらいフレンドリーだったじゃん!!
さっきまでうざいとか殴りたいとか言っててごめん!その態度傷つくからさ!謝るから!!
一人であわあわと焦っていると、黒佐がぽん、と俺の肩を叩いた。
何かと振り返ると、無言のままこくりと頷かれた。
…………黒佐のその反応もとても傷つきます……。
結局珀のよそよそしい態度も直せないまま、道場のような広い空間にたどり着いた。
柔道場みたいな感じ。畳張りで、天井が高くてただ広いだけの部屋。
その真ん中まで歩いて、珀はそこに腰をおろした。
珀の座る目の前に俺が座り、俺と珀の丁度真ん中あたりに黒佐が胡座をかいて座った。
例の胡散臭い笑顔を浮かべ、話し始める。
「ナツメクンには式神なんていないよね?」
「……いないけど」
いるわけねーだろ。
俺はさっきまでごくふつーーーの高校生だったんだぞ?何で一般人が式神なんて持ってんだよ。おかしいわ。
「ボクらがナツメクンの式神になっても構わないんだけど、ボクらは長に仕える妖怪だからね。あまり一緒に過ごすことができないんだ。あ、長っていうのはさっき会った已朔様のことだよ。守ってあげたいんだけど、ボクらの最優先は長。長の命令が一番優先すべきものだから。それで、ナツメクンを守ってくれる存在、つまり式神を持って貰おうと思って。いいかな?」
話は大体分かった。
今のところ、俺は全く力がない非力な一般人の状態だから、俺を守る存在が欲しいってわけだな。
それが式神、と。
そもそも式神ってなんだ?
漫画とかでよくあるのは、あの、白い紙を人型にしたやつだけど、当然違うよな。
「聞いた話だと、今十二神将の主がいないらしいんだ。ナツメクンの霊力の高さだったら、きっと彼らも式神になってくれるよ」
じゅうにしんしょう?
「じゃあ、やり方を教えるから、その通りにやってみようか」
え、待って。十二神将の説明をお願いしますよ。
俺の式神になるのになんも分かんないんだけど。
やるのはいいから、情報。
「この陣の中に立ってくれるかな」
そういって珀が指さしたのは、丸い陣。よくある魔法陣みたいなのを想像してもらったら分かり易いかもしれない。
陣の真ん中に立ち、珀から教えてもらった呪文(?)を唱える。
その呪文はとても恥ずかしいので割愛。顔から火を噴くかってぐらいに恥ずかしかった。もう言いたくない。絶対言わない。何されたって言わない。
呪文を唱え終わったあと、陣が光り始めた。
珀曰く、式神が来る前兆だという。
何が来るのかドキドキワクワクだ。
数分の煌めきの後、出てきたのは十二人の人間。
人間っていっていいのか?
見たことのない衣服をまとい、俺らとは違う輝きを持つ瞳と髪の色合い。
あとなんか全員でかい。すげぇでかい。
「我らを呼んだのは主かのぅ」
おじいさんがいた。
白いふっさふさのあごひげを持つおじいさんが。
杖ついて、やっぱりよく分からない白い衣服を着ている。
「……呼んだのは、確かに俺だけど」
「は?こんなガキが?」
「おいおい青龍、そんなこと言うなよ!可哀想だろ」
「小さいの気にしてるかもしれないでしょ」
「勾陣、貴方も大概失礼だわ」
「黙れてめぇら」
黙って聞いてりゃ失礼な奴らだな!
悪かったな!!小さいガキで!
これでも176cmはあるわ!
お前らがでかいんだよ!!
「ふぉっふぉ、これは失礼したな」
「ほんとだよ」
常識あんのこのおじいさんだけか?
しゃべってないやつもいるけど。
とりあえず青龍とかいう青髪やつと、あの赤髪と勾陣っていうボブカットの女は俺の敵だ。
小さいって言いやがって。ふざけんな。
「主の名は何じゃ?」
「……芦屋夏芽」
「夏芽な、良い名じゃ」
「そりゃどーも」
「儂は天空と申す。十二神将を総べておる」
あ、こいつらが十二神将?
十二人いるから?
「来てくれたってことはさ、俺の式神になってくれるってこと? 」
「そうなるのぅ」
じゃあ成功ってことでいいのか。
やったねー!
「ナツメクン、成功おめでとう!」
「珀、ありがとう」
なんか疲れたな。
特に何がしたわけじゃないんだけど。
体がだるくて、今すぐにでも寝たい気分。
それを珀に言うと、式神を呼ぶときに大幅に霊力を使ったからと言われた。
十二神将は神の末端にいるらしく、彼らを召喚するのは難しいらしい。
だいたいの人は霊力が足りなかったり、使い切ってしまって倒れてしまうんだとか。
だから倒れもせず、体のだるさだけで済んでる俺は結構凄いと褒められた。
自分では分からないけれど、結構霊力があるのかな。
「今日は疲れただろうからもう終わろうか。明日またやろう。術とか知っておいた方がいいからね。明日、今日と同じ時間帯に黒佐に迎えに行ってもらうから」
その言葉に有り難く頷いて、家に帰ることにする。
十二神将はいつの間にか帰っていた。自分達の住む空間があるらしく、そこで俺を見ているんだとさ。挨拶くらいして帰れよ。
黒佐に送ってもらう途中、うとうとして黒佐の腕から落ちかけたのは二人だけの秘密だ。
珀が知ったら爆笑されるに違いない。
家に帰ってからは記憶がない。
制服姿のままベッドに転がっていたから、きっと帰ってすぐベッドにダイブしたんだろう。
朝目が覚めて、皺だらけの制服にため息が出てきた。
これからもこんなに疲れるのであれば、やっぱり妖怪退治なんてやりたくない。
でも、式神を召喚してしまった今、もうやりたくないなんて言えなくなった。
今日の放課後に思いを馳せて、大きなため息がでたのは言うまでもない――。