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あやかしまち  作者: 音也
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出会いはいつも突然に

―――その”街”は、ずっと前からそこに存在していた。何百年も、何千年も。


……人間ぼくらが知らなかっただけで。




俺の名前は芦屋 夏芽あしやなつめ。女みたいな名前だが、れっきとした男だ。


都会から少し離れた田舎とも都会とも言えない街に住んでいる、17歳のごく普通の高校生である。



うん、まぁ普通とは言い難いかもしれないが……。



俺には人外のモノが視える。妖怪とか、幽霊とかその類のやつ。昔はそれでイジメられたりもしたが、最近ではそれもない。


幽霊が視える、と俺が言わなくなったからだろうけど。



木曜日、部活に入っていない俺はHRが終わってすぐ、学校を出た。


何が用事があるわけではないが、学校というのは長くいたくない。


スマホを弄りつつ、家を目指してのんびりと道を歩いていると、目の前にふっと影がさした。


なんだ?と思い顔を上げると、……………男がいた。


天狗の面をつけた男性が。


は、なにこれ、コスプレか!?


ご丁寧に黒の羽根までつけている。なんと本格的なコスプレだ。


しかし。と、俺は目線をずらした。



何故スーツ。



なんでスーツ。リーマンか?リーマンなのか?リーマンコスプレイヤーか!?


天狗の面つけて、カラスみたいな羽根生やして、そこまで本格的にやってんのになんで服装スーツなんだよ。おかしいだろ。


さぞかし周りも馬鹿にしてんだろ……と見渡せば。


至っていつも通りだった。


学校帰りの学生は騒ぎながら横をすり抜けていき、仕事終わりのサラリーマンは疲れた顔をして通り過ぎていく。


誰もコイツを、見ない。


逆に道のど真ん中に突っ立ったままの俺が、迷惑そうな目で見られている。


どういうことだ?

こんな派手なやつ、見えねぇはずないだろ。


そう考えて、はたと思いつく。


もしやコイツ、妖怪か?


烏天狗とか、そーゆーやつ?

もしかして、それ?


なんで気づかなかったんだ、と呆然と目の前の天狗を見つめると、天狗が口を開いた。


「助けて欲しい」


……は?


「……芦屋の童子、我らを助けてくれ」


……いや、まぁはい。俺は確かに芦屋だけど。


ここで見えないやつと喋ると俺が変な人間扱いされるため、天狗の横をすり抜けて、手招きをする。


天狗が大人しくついてくるのを見て、また歩き出した。




天狗を連れてきたのは俺の家の近くにある、寂れた公園。


子供もいなければ散歩するおじいさんおばあさんもいない。

つまり、人ひとりいない場所。


錆び付いて茶色に変色したブランコに腰掛けて、天狗に話しかける。


「……で、何。助けろって」


「我らの街が、大変なことになっておるのだ。このままでは街がなくなってしまう」


街ぃ?妖怪の街とかそんなん?


ゲゲゲの〇太郎みたいな、あんな感じのやつか?


幼少期によく観た、あの有名な片目を髪の毛で隠した妖怪少年のアニメを思い浮かべる。


「街って、妖怪の街?なんでなくなりそうなの?」


「………ヤツが、やってくる」


誰だよ。


分かんねぇよ。誰のことだよ。ちゃんと固有名詞を言えよ。


言われたって分かんねぇだろうけどさ。


「………ヤツって、誰?」


「……それは……言えぬ……」


言えねぇのかよ!


気になるだろ!誰だよ!


”ヤツ”が誰だかは分かんねぇままだが、とりあえず分かったことは”ヤツ”のせいで妖怪の街が大変だってこと。


街が無くなりそうってなかなかじゃね?


もしかしてヤツって超強いやつなのか?


それと戦わなきゃいけないかもしれないのか?


この俺が?



ムリだろ。



「……助けたいのは山々なんだけどー…、俺なんも力ねぇし助けらんねぇよ?」


そう告げると、天狗は変わらぬ表情のまま(面つけてるから表情なんて見えないけど)首を横に振った。


そしてゆっくりと指をあげて、俺を指差す。


正確には、俺の胸を。


爪が黒く長い、手の甲の半分を羽で覆われた指で俺の胸元をゆっくりと撫でる。


「……お前なら大丈夫だ、芦屋の童子。お前になら、できるはずだ。先祖の血を、継いでいるだろう?」


……先祖の、血?


なんの話かさっぱり分かんねぇ。


さっきから分かんない事だらけで頭がパンクしそうだ。


それに、芦屋の童子って?


確かに俺は芦屋だが、童子という名前ではない。


誰かと間違えてんじゃないのだろうか。


それだったら間違いを訂正してあげないと。


「なぁ、さっきから芦屋の童子って言ってるけど、俺そんな名前じゃねぇよ?誰かと間違えてるんじゃないか?」


「いいや、間違えてなどおらぬ。主は芦屋の童子であろう」


「いやだから違うって」


「……?主は芦屋夏芽ではないのか?」


人違いされてんのかと思ったら、いきなり俺の名前が出てびっくりする。


なんで名前知ってんだ?


名乗った覚えはない。だから、天狗が俺の名前を知る術などないはずなのに。


それともあれか?妖怪はなんでもお見通しってか?


確かに天狗ってなんでも知ってそうだが。


「なんで俺の名前知ってんの?」


「知っているのは当たり前であるぞ。主は我らの世界では有名だからな」


はぁ?有名?何で?


俺妖怪になんかした?悪い子として有名なの?


なんもしてないよな?極力関わんねぇようにしてるし。


頭の中にハテナマークがたくさん浮かぶ。


考えても考えても、俺が妖怪の世界で有名な理由が思い浮かばない。


ギブアップ。


考えすぎて頭痛い。


「やっと霊力を持った子孫が生まれたからな……道満の子孫が」


ポツリと天狗が落とした言葉に、俺はさらに首を傾げる。


道満って誰や。


聞いたことない名前だ。


てか明らかに現代人の名前じゃねぇし。


「道満って誰」


「主の先祖よ。平安時代、清明と争った陰陽師であった。清明には負けたが、力のあるやつだった」


平安時代の陰陽師なー。それが俺となんの関係が?


「字は変わったが、主は確かに道満の子孫である。血が語っている」


じゃあ、俺が昔っから妖怪とかの類が視えてたのはその道満とか言うやつの子孫だから?


俺が陰陽師の子孫?


んなアホな。


陰陽師ってあれだろ?式神使ったり技使ったりして妖怪倒す奴らだろ?


俺式神いねぇよ?技も使えねぇよ?


「頼む、お願いだ。我らの街を助けてくれ」


「……いやー、あのさ、俺が道満?とかいうやつの子孫だとしてもさ、俺にはなんの力もねぇよ?」


「来てくれるだけでも良い」


来るだけていいの?何もしなくてもいいの?


正直妖怪の街って気になってたし、行くだけでいいなら行こうかな……。


迷っていると、天狗が俺の腕を掴んだ。


は!?と驚く暇もないままに、天狗の羽根が羽ばたき始める。


ちょ、ちょっと待て!!


俺行くってまだ言ってない!


行こうかなーって思っただけで!まだ行くとは言ってない!


「ナツメ、捕まっていろ。落ちるぞ」


その言葉に、混乱する頭のまま慌てて天狗の腕を掴む。


天狗が俺の体を抱え直し、ふわりと地面から離れる。


うおお、すげぇ!飛んでる!飛んでる!!


空を飛ぶという行為は初めてなため、すごく興奮する。


天狗に掴まって、下を見下ろす。


車や人は既に小さく、動くものを微かに認識できるだけだった。




妖怪の街はすぐそこだった。


というより、天狗の力で空間をねじ曲げて街に入ったので、すぐそこというかなんというか。


位置的には俺らの街の、空間曲げたその隣ってところか?


なんか気がついたら街着いてたし。


予想通り、とは言わないが、妖怪の街は想像していたものと寸分違わなかった。


そう、かのゲゲ〇の鬼太郎みたいな町並み。


街灯は提灯で、日本家屋(と言っていいのか分からないが)が立ち並んでいる。


石で舗装された道の先には、鬱蒼とした森と神社の赤い鳥居が見えた。


意外と広い街のようだ。


黒佐くろさ、戻ったか」


そう言いつつ天狗に近づいてきたのは、淡い茶色の髪に、紺の着物を着た男だった。


見た目的にはそこら辺にいそう。


いそうなんだけど……頭に獣の耳があって尻に尻尾が生えてるあたり、人間ではないんだろう。

ここにいる時点で人間とは考えにくいけども。


耳と尻尾をガン見してたら、男が気づいたのかこちらを見る。


吊り上がった薄い一重の目。開いているかも定かではないほど。それでもその目は楽しそうに歪んでいた。


「君が芦屋夏芽クンだね、宜しく。ボクは妖狐のはく


「……宜しく」


胡散臭そうな笑顔を浮かべる狐こと珀に、警戒心がぬぐいきれない。


暫く珀を観察していたけれど、特に何か分かるって訳でも無いので早々に観察を止めた。


「ナツメ、こっちへ」


天狗(黒佐というらしい)に手を引っ張られ、ぐいぐいと何処かへと連れていかれる。


どうでもいいが、コイツ、無理矢理人連れてくの好きだな。腕痛いし。力入れすぎだろ。


もしかしたら、俺はまだ逃げられるかもしれない、とでも思われているのだろうか。


ここまで来たら、逃げないというのに。


と言うより、逃げ道分かんねーし。俺空間曲げれねぇもん。元の街帰れねぇって。


その意を込めて、黒佐の背中を見つめる。伝われ。そろそろ右腕の感覚なくなってきた。


伝わったのかは知らないが、黒佐が振り向いた。


おお!?キタコレ!!伝わった!!


と、内心喜びつつ黒佐に言う。


「俺もう逃げねーし、もうちょい腕の力緩めてくんね?痛いんだけど」


「……そうか、すまない」


「やー、いーよいーよ、今度から気をつけな」


空いた左手を気にすんな、というように顔の前で振りつつ、腕の力が緩むのを待つ。


が、緩むことなく黒佐は再び歩き出す。


緩めねぇのかよ!!


お前今謝ったやん!!緩めねぇのかよ!!おい!!緩めるだろ、そこは!!


何が面白いのか知らんが、ブフッ、と吹き出した珀を睨みつける。


ごめんごめんーと謝れるが、こいつ絶対悪いと思ってねぇわ。


その証拠にまだニヤニヤしてやがるし。


コイツイラつくわ!!


力を緩めてもらうのを諦め、既に感覚のない右腕にエールを送る。


頑張れ、死ぬな!俺の右腕!!




連れて来られたのはデカい屋敷だった。こんなんこっちにもあるんだな。


昔ながらのお金持ちが住んでそうな、和風の家。


昔ながらのお金持ちってなんだろうな。意味分かんねぇわ。混乱してんのかな。


黒佐に引っ張られるがまま、屋敷に足を踏み入れる。


庭もでけぇ。


引き戸の玄関を抜けて、庭に面した廊下を歩く。


あ、獅子おどしある。家にあるの初めて見た。あんなんなのか。実物はなかなか見ないからな、ちょっとテンションあがる。


廊下長い。凄く長い。いつ部屋に着くんだ。


さっき『今でしょ!』っていう某学習塾の先生の言葉が浮かんだが、もう飽きたわ。その言葉。


「ナツメ、ここだ」


お、どうやら目的地に到着したようだ。長かったなぁ。


障子を開けて中を覗き、また閉める。


なんかいっぱいいたんだけど。妖怪が。イッパイ。どーゆー状況。


もう一回開けて、中を覗く。


部屋にいる全員が、好奇の目で俺を見る。普通に怖い。


「ナツメクン、早く入りなよ」


開けた状態で固まっていると、珀に背中を押されて部屋の中に倒れ込む。


ちょ、待てよ!心の準備ってものがあるだろ!!


珀を睨みつけるものの、あの胡散臭い笑顔に躱される。


畜生、いつか見てろ!


相手には届かない恨みを心の中で唱え、叶いそうもないと溜息を吐いた。


気を取り直して部屋を見渡すと、何故かさっきよりも妖怪の数が減っていた。


その数、五人。


……いやあの、減りすぎじゃね?


さっきまで2、30人はいたろ!減りすぎじゃねーか!?俺的にはこっちの方が落ち着くけど!!


小童こわっぱ、こっちに来て座れ」


「え、あ、ハイ」


上座に座るおっさん怖いわ。何あのオーラと威圧感。ヤメテ。


つるっぱげの頭に切れ長の目(睨んでるみたい)、白の着物に黒の羽織。背は小さそう。オーラと威圧感なくしたらただのおじーちゃんみたいな感じ。珀と違って、耳や尻尾があるわけでもないし。


なんの妖怪かは分かんないけど、この街の長とかそんなんかな。


「我が名は已朔いさく。見ての通りぬらりひょんの妖怪である。この街を治める長でもある」


見ての通りって言われても、俺、見たときただのおじーちゃんだと思ったし。分かんないし。


自己紹介されたからした方がいいよな。それが礼儀ってもんだよな。


「えっと、俺は芦屋夏芽です。しがない高校生してます」


「小童」


名乗ったのに小童呼ばわりか。このジジイ。ふざけんなよ。


でも文句なんか言ったらその目だけで射殺されそうなんで、黙っておく。まだ死にたくないしね!


「なんすか」


「窮奇……という妖怪を知っておるか」


きゅうき?


聞いたことない。そもそも俺、そんな妖怪詳しくない。


首を横に振ると、答えが分かっていたのか、已朔じーさんは俺の目を見たまま口を開いた。


そんな見られると怖いっす。


「窮奇は、中国の妖怪だ」


中国ぅ?なら尚更知らねぇわ。


てか昨今の中国を思い浮かべると、いやんなっちゃうね。


それはさておき。


已朔じーさんの話をまとめると、こうだ。



窮奇は中国神話にも登場する、四凶(?)の一つとされる怪物で、ハリネズミの毛が生えた牛だとか、翼のあるトラだとか、外見には諸説あるらしい。

共通しているのは人を食うことと、犬のような鳴き声をあげること。

人喰いの翼が生えたトラの方が有力らしい。

窮奇は広莫風(?)を起こすため、風神の一種とも見られてるとか。日本の妖怪である鎌鼬かまいたちを窮奇と同一視されることがあるのも、窮奇が風神と見られていたから、だって。



……人食うってやばくね?


中国怖いわ。妖怪さえも怖いわ。おっそろしーな。


で、その窮奇サンが如何なさった?


窮奇の話を聞いても、出会うことはないだろー、と楽観的に考えていた俺は、已朔じーさんの次の言葉を聞いて気絶しそうになった……。



「夏芽、我らの街のために、窮奇と戦って欲しい」



………こんな時だけ名前呼ぶんじゃねーよ!!










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