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英雄演戯 ~演劇部の俺が世界を救う?~  作者: 山桜
第1章 新しい日常
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06 決起

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読んでくださってる皆様、本当にありがとうございます。

第1章も折り返しになりました。今後とも宜しくお願いします。

 翌朝、宿屋の食堂にいつもの様に文化部の生徒達が集まる。

 生徒が集まりきった頃を見計らい、コタロウは意を決して立ち上がる。


(ナナネの姿は見えないな。その方が都合がよいかも)


 それでも、緊張で気持ちが高ぶってくるのを感じる。演劇部の頃、舞台の緞帳が上がる前で味わった感覚と同じだ。


「みんな、話があるんだけどいいかな」

 エマによって朝食が配られている中、声をあげる。


「昨日のナナネの件の後で、考えた事があるんだけど、聞いて欲しい」

 それを聞いて、20人近くいる文化部生徒視線が集まる。


(落ち着け、どもるなよ俺)


 気を締め直して、声をあげる。

「昨日の事だけじゃない、みんなも感じているはずだ。このまま、運動部班の言いなりで働いて過ごしていっていいのかって。実際、今の俺たちと運動部班の雰囲気は最悪だと思う」

 周りは、しんとしたままだ。

「異世界でみんなでまとまって生き抜いて帰る道を探さないといけないのに、運動部班は俺たちを見下した気持ちを持ち出して、俺たちは運動部班とも距離を置いてしまっている。それは一つの組織としてあまりに不衛生だ。それは、俺たちに力がないからなのか」

 そう、原因は文化部班にもある。

 何を今更、どうしようもない事実じゃないかと声があがる。しかし、言い切る。

「けど、俺たちにだって、いや俺たちにしか出来ない事がある。まずは、これを見て欲しい」

 そう言って、タケシに借りたアンテナを取り出す。


 周りから疑心の視線が集まる中、マモルとタケシと一晩中話し合った作戦を話しだす。それは、運動部班からの自立の話であった。





 一通りの話が終わった後、反論があがる。


「そんなことをして、上手くいかなかったらどうするんだ?」

「今まで何とか保っていたバランスは崩れるだろう。運動部班との仲も悪くなるだろうし、今より条件が悪くなる可能性が高い」

「そもそも、それが僕らにもできる確証があるのか?」

「確証はまだ、これしかない。だが、タケシやハカセだけが特別だとも思わない。何人かは手応えみたいなものを感じているはずだ。確証は全員で行っていきたいとおもう」


 見まわすと、下を向いている人も多い。反論は否定的だが、心の中では勝算を感じているはずだ。だけど、勇気がでない。

 ふと、マモルと目が合う。

「ただ、そういう気持ちを持って、俺は1人でも動くつもりだ。それだけは許して欲しい。ナナネ、彼女の為にも、このままじゃ格好つかない」

 3人ではきっと、運動部班を見返す事も出来ずに失敗で終わるだろう。


(その時の事を考えると、まずは俺1人で突き進むべきかな)

 そんな事を考えていると、


「おい、今ナナネちゃんの為、って言ったか。」

 奥の方から声があがる。


(え?途中から何を熱弁していたかわからなくなっていたが、確かにそう言ったかも)


「ナナネさんのいまの状況を救う為に立ち上がるべきだと?」

反対の方からも聞かれる。

「あ、ああ。結果として、そういうことにもつながると思う」

ショウとのギルド上の関係がなくなれば、それはナナネにとっての気持ちの重荷は軽くなるはずだ。

「ナナネさんの仕返しでもあるわけだな」

「いや、そういう私情だけってわけでは、」

 反論は出来ないが、と心の中でつぶやく。


「ちょっと待って、これはコタロー君のナナネさんへのプロポーズなんじゃないかしら?」

 1人の女子が立ち上がる。一瞬何を言ってるのか分からなくなり、何を言えばいいのか考えている間に、その隣の男子が問いかける。

「ほう、臨床心理学部のセツコさん、どういう事なんだ。」

「体育会系班の独裁を打破し、憎きショウを殴り倒した後、彼女の前でこう言うの。ナナネ、これからは俺がお前を守り抜いてやる」

「いや、殴るとか倒すとかそういう展開の話はしていない」

 ちゃんと説明聞いてくれていたのだろうか。不安になる。

「今まで幼なじみとしか認識していなかった彼が、急に男をみせる。知らない異世界で不安だらけだった彼女は、コタロー君を異性として意識しはじめてしまう。自分の為に、全てをステルス覚悟で戦ってくれたなんて」

「惚れてまうやろー」

 この女のカウンセリングは受けても仕方だろうな、そう判断する。

「好きな女の子の為に、そこまでしようなんて」

「前から、怪しいと思ってたんだけど、やっぱりそういう仲なのか」

「待てよ、じゃあ1番おいしい思いをするのはこいつだけじゃないか?」

「あら、私も水泳部のヨシノリ君から言い寄られるようになったんだけど。私の為に身体をはってくれる人はいないのかしら?」

「いやー、こういう恋話って、青春を感じていいよね」

 話が間違った方向に進んでいる気がする。

 あーだこーだと、意見が交じり合う中、今まで黙っていたエマが立ち上がった。


「待って、じゃあ多数決を取りましょう。この話は全員でやらないと意味がない事だから、賛成の人が少なかったから、コタロー君も諦めて欲しいの」

 1人でも、と言ったが、中途半端な結果が一番後が怖い。頷くしかない。

「賛成の人は挙手して」

 と言って、そのまますぐに真っ直ぐ挙手をした。


「私は、彼女の親友として、ショウ君のことは許せない。けど、怒っているだけじゃ何も解決しないから、」

 そう言って、コタロウに笑顔を向ける。

「私の力じゃ役にたつか分からないけど、精一杯の事はさせて」

「そんな事はないよ。エマさんの力は、おそらく、最も即効性があるはずだ」

 それは心からの本音だ。

「まあ、私の発明品が既に表に出された以上、協力せざるを得ませんか」

 そう言って、科学部のハカセも手を挙げる。ハカセにもさっき直前に話を通してあったが、一番の功績者はハカセとタケシだ。

 その2人を見て次第に、

「文化祭も潰れちゃったから、これが祭りって事で」

「正直、採取ばっか流石に飽きてたんだよね 」

「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて何とやら、ってやつで」

 と、適当な理由付けをそれぞれ自分に言い聞かせるかのように、ぱらぱらと手が挙がりだした。


 マモルとタケシ、それにユキは最初から挙げてくれていた。

 まだ踏ん切りがつかなかった生徒もいたと考えられるが、この雰囲気のなかでは挙手せざるを得なかったのかも知れない。気付くと、全員の手が挙がっていた。


「満場一致、ってことでいいよね。コタロー君宜しくね」

「ありがとう、みんな」

 深く頭を下げる。


「じゃあ、まずはチームの名前を決めないとな」

「文化部の集まりなんだから、文化部連合とかでいいんじゃないか」

「それは、短絡的過ぎて無いなー」

「コタロー&ラバーエンジェルズとかは?」

「それだけはガチでやめてくれ」

 朝早くから、文化部班の生徒達はこの世界に来て1番の盛り上がりをみせていた。






 あれから二週間が経った。

 その夜。天文部のサトルに呼ばれて、コタロウは街の南門の脇に建つ物見台に向かって歩いていた。


 サクラノ組合、文化祭のタイトルからそう名付けたクラン成立に向け、あの日から短い間だったが、空いている時間は全て費やして試行錯誤を繰り返し、ようやくここ迄これた。

 実用的な結果が出せたのはメンバーの半分くらいだが、当初の見込みよりいい出来だ。早期にクリアが望めそうな議案を優先して、元々何ヶ月もかかりそうなプランのメンバーは協力してきたおかげでもあるが。


 物見台の梯子を登り切ると、双眼鏡で夜空を覗いているサトルの姿があった。足音に気付くと、そのままレンズの先をコタロウに向ける。


「よう、隊長。月夜の散歩もたまにはいいもんだろう」

「よせよ、本来ならお前だって候補にあがってたんだろう」

 サトルも連絡役として、今まで文化部班を引っ張ってきた実績がある。

「クランの盟主なんて、恥ずかしい役はごめんだね。運動部班との連絡役なんて面倒な役目も今日で終わりだと思うと、今夜の星空も一段と輝いて見えるよ」

 けたけたと笑いながら、またレンズを夜空に向ける。

 この世界から見上げる星空は、地球から見上げる星空と変わらない。夜になれば月の明かりが街灯のない町中を照らす。この世界がもしかしたら、地球のどこかなのかも知れないという疑問も浮かんでくる。


「まあ、でもやっぱりさ、言い出しっぺのお前さんが引き受けるべきだったんだ」

 クラン申請の際に誰が代表者として盟主の登録をするが議論があったが、立候補が誰もいなかったので、それも多数決で決める事になった。

「分かってるよ。で、緊急の用件って何なんだ?」

 少し間があいてから、サトルはようやく双眼鏡から目を離した。


「明日か明後日、この街に魔物が襲って来るだろう。それもかなりの数が予測される」

 はっきりとそう言い切った。


「そんな……」

 街の周りに魔物が沸くのは、珍しくない。

 其れゆえ、この街には騎士団が派遣され、多くの傭兵ギルドを抱えている。定期的に狩り続けて、大衆化を防ぐ為だ。通常、魔物が沸く速度はおおよそ決まっていて、それは魔物が増えはじめたここ最近でも、変わってないと聞いた。


「俺は、この世界に来てから、毎晩ここに来て天体観測をしていたんだが。星の流れが今夜はかなり荒れている。ほら、あそこに視えるあの赤い星が、魔物の出現に関与しているんだ」

 サトルに言われ、空を見上げるがコタロウにはどれがそれなのか、さっぱり分からなかった。

「数えきれない出来ないほどのその星が、この街の周りを渦の様に周りに集まって来ている」

 雲一つない満天の星空だが、いつもと変わらない様にしか視えない。しかし、サトルの目には視えるのだろう。

「こんな事態はこっちに来てから初めてだが、悪い予感しかしない。これは勘だが、 少なくても、魔物がこの街の周りに大量に現れる可能性は高いと思う」

 天体観測による惑星や星の流れから物事を占い、予知をする占星術という学問は、現代の科学からは否定されている。しかし、ここは異世界だ。彼の言う予言は真実味がある。

 おそらく、この予知こそが、 天文部部長であり、小さい頃から星を観察し続けてきたサトルがこの世界で目覚めた能力なのだろう。


「分かった、最悪の事態に今から備えよう」

「せっかくの明日のお披露目だって言うのに、本当に災難だな」

 いや、ここは間に合って良かったと考えるべきだろう。クランの地位を本日付けで確立できたおかげで、騎士団もサクラノ組合の警告を聞いてくれるはずだ。





 

 翌日。コタロウとマモルは街内一番の商業ギルドである〈キノサト商会〉のギルド会館を背にしていた。

「後は、運動部班との決着だけですね」

 マモルが、両腕に木箱と書類を抱えながら話しかけてくる。

 既に朝一番で騎士団には、今日か、明日に大量の魔物が襲撃してくる可能性が高いという話を伝えてきた。周囲への監視の強化をするとの事だったが、最悪に備えて一刻も早く、話し合いを済ませないとならない。

「今日の話し合いでは、あなたがサクラノ組合の代表なんですから、お願いしますよ。多少の憎まれ役は買うつもりですけど、まあ、やばい雰囲気を感じたら真っ先に逃げますが」


 商会での取引は、マモルのおかげで現時点では充分な結果が出せた。ここからはコタロウの頑張りにかかっている。

 元々3年生同士の話し合いに、2年生のマモルを当てにしちゃまずいしな、とため息をつきながらコタロウ達は<チェリーブロッサム>のアジトへと歩いていった。


 アジトには、シュウとバスケ部のカズヒコ、それにケイタが居た。

「おう、コタロウ。何だ、かっこつかない所を見られちまったな」

 ケイタは狩りの途中で肩に傷を負ったのか、包帯を巻いてもらっているところだった。

 しかし、突然現れた文化部班の来訪に、シュウが怪訝な顔をする。


「なんだ、またお金の催促にきたのか」

クラン設立の資金工面で何度か追加給付金の申請を出していた件だろう。何だかんだ理由をつけられて断れた話だった。

「いや。それはもう必要なくなったからいいんだ。今日は大事な話があってきたんだ」

「そうか、じゃあ座ったらどうだ」

ぐずった表情のまま、席を勧められる。

「ああ、そうさせてもらうよ」

 ここのソファーに座るのは、この街に来た日以来だ。

 息を呑み、すぐに本題に入る。


「最近さ、正直な話、僕たち文化部班と運動部班の関係が上手くいってないと思うんだ」

「・・・まあ、それは感じるかもな」

ショウは少し余所見をしながら答えた。

「理由は何だろう。みんながみんな、学校でも交流があったわけでもなかったのもあるだろうし、お互い好きな所、嫌いな所はあったと思う。得意な事も違うし、それが明確化されたこの世界の今の状況では、俺たちは運動部班のみんなにとって役に立ってないと思われても仕方ないのかな、って思う」

「役に立ってないとは言わないがな。ただ、実績の違いがはっきりとしまう以上、俺たちは優越感を、お前たちは劣等感を感じてしまうのは、自然な流れだろうな」

「そうなんだよ。誰だって悪気がある訳じゃない。だけど、すれ違ってしまう。これは俺たちの力不足が招いた結果でもあると思うんだ。だから、」

 まっすぐショウを見つめる。

「俺たち文化部班のメンバーは、今日付けで独立する事にした。だから、もう君たちの下ではなく、自分達だけで仕事をさせてもらいたい」

突然の申し立てに、ショウだけでなく、三人とも唖然とする。


「何を馬鹿な事を言っているんだ。お前達だけで何が出来る?今の採取や発掘量だけでは生計を成り立たせるだけでも厳しいぞ」

 街付近での採取ポイントはあらかた取り尽くしてしまい、調べた話によると再び採取できる様になるには一ヶ月近く待つ必要があるらしい。

「それもあるからこそ、足手まといにならないように、クランを設立したんだ」

 クラン、という言葉にショウだけが大きく反応する。他の2人には何のことか分からないらしく、伝わっていない様子だ。

「商業系クラン〈サクラノ組合〉。島全体でも数多くない、王室から認定を頂いた、正式なクランの認定証だ」

鞄から、用意していた羊皮紙をテーブルの上に広げる。


「ショウ君は知ってるだろうけど、クランは規模又は戦果、有益性がある集団からの申請に対して、帝国議会からの承認を経て、成立が出来る。結果、この認定クランへの信頼は厚く、先ほど〈キノサト商会〉との間における今後三ヶ月の取引も済ませてきた」

認定証がない集団がギルドであり、それは非公式の団体となる。

 羊皮紙に書かれている文章を読み上げる。


「現時点での生産性は乏しいが、我が国において多くの特許技術(スキル)を所持している。その将来性を認め、<サクラノ組合>をクランとして承認する」


 特許技術、それこそがコタロウ達文化部班の唯一の武器だった。

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