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英雄演戯 ~演劇部の俺が世界を救う?~  作者: 山桜
第2章 南部救出作戦
20/33

19 ヴァール湖での戦い(上)

 門の手前まで戻ると、ケイタとユキの他に2人の女子が寝そべっていた。コタロウもサツキも、顔と名前が一致しなかったが、1人は見たことある顔だ。うちの生徒で間違いなだろう。


 激しく揺さぶると、ケイタとユキの方は目を開いた。2人とも何故自分がここにいるのか分からない様子だ。説明は後にして、意識の覚めない2人を背負って、ハルカ達の待つチェリー号を停めた所へと戻る。



 チェリー号に着いてから、改めて経緯を説明する。

「それで、そのままにして逃げて戻ってきたのか」

 カズタカは不満がある様子だ。

「仕方ないだろ。向こうには貴族や騎士団もついていたし、ケイタ達を人質にとられていた訳なんだから」

「いやー、面目ない」

「元々、私たちは偵察と救出に来たのですから、その任は果たせたでしょう」

 ハルカの方が冷静だ。

 街の門の方を見ると、既にその門は締まっていた。初めから、コタロウ達が来る事を予測していて、あえて開けていたのかと勘ぐってしまう。


「彼女達は、大丈夫でしょうか?」

 ユキが、2人の女子生徒生徒の方を振り向く。街の人達と同じく、呼吸をしている様子もなく、死んでいる様にも見える。

「あいつの話だと、結界の外に行けば魔法が解けて起きるみたいなんだけど」

「俺は、今回足を引っ張っただけだからな、人工呼吸役なら仕方ないが、やらせてもらうぜ」

「とりあえず、早くここから帰りましょう」

 既に夕陽が射し込んでいる。

「そうだな。魔王への対抗策は、軍に判断してもらうしかない」

 ケイタを無視して、ハルカもカズタカも同意を示した。身内の犯行なのだから、コタロウとしても報告しづらいが、そこから先はユウトに任せるしかない。



 今だに目覚めない2人を乗せて、チェリー号に乗り込む。行きより人数が増えたが、10人で帰還する事を想定して造った設計だけあって、その速度は変わってない。

 段々と2対の塔の姿が小さくなっていくと、1人の生徒が、うぅっと呻き声をあげた。

 コタロウも何度か見たことのある顔だ、たしか同学年のはずだ。背が高く、頬に少しそばかすを浮かべた彼女は、ゆっくりと目を開き、少しカールさせた茶髪をなびかせながら起き上がった。

「ここは?」

「目が覚めたみたいだな。ここは、ゴーイングチェリー号。君を助けに来た白鳥さ」

「……はあ」

 目覚めの一発目にケイタが話しかけたのは失敗らしく、彼女の目は早々にかなり警戒の色を浮かべた。


「ごめんなさい。順を追って説明するわね。私たちも桜乃丘高校の生徒で、今まで北の街にいたんだけど、あなた達を助けに来たの」

 サツキが、かいつまんで経緯を説明する。

「あ、えっと、サツキさんですよね?数学オリンピックで金メダルを取った……それに、コタロウ君、ですよね?」

 振り返られるが、コタロウも顔は見たことがあったが、接点があったかは思い出せない。

「あ、ごめんなさい。新聞で一面に載ってるのを見たから」

「新聞部が作ったアレか。ヴァデンにも届いていたんだね」

「ええ、こちらにも魔物が襲撃してきた前日に。あなたの写真を見てからミカさんが血相を変えて飛び出して行ったから、よく覚えてるんの。その後、すぐ魔物の襲撃の知らせが入った時には、既にミカさんは紅の塔を支配していて。私たちは、街の人たちが操られて碧の塔に集められているのを見て、やめる様に抗議したのだけど……」

 奇術部のマサトにより眠らされてしまったらしい。

「話だけ聞くと、そのミカって子はかなりの独裁者だな」

「それまでも、よく貴族階級の屋敷には色々と出入りしていたみたい。それで、私たちの為に住居やお金を手配してくれたりして、すごく面倒をみてくれたの。まさか、あんな事をするなんて信じられない」

 ミカは、最悪に我が儘で自分勝手だが、同じ学校の仲間を見捨てる様な真似はしなかった。

「ミカ先輩は、ヴァデンに古くから伝わる魔法具に初めから目をつけていたようですからね」

 と、もう1人の女子が上半身を起こして付けくわえた。いつの間に目を覚ましていたのだろうか、しっかりと意識はあるようだ。肩まで伸びたストレートな黒髪をなみがせている、繊細な子だ。銀縁のメガネを掛けているが、レンズが入っていないのに気付く。


「助けに来ていただいて、ありがとうございます。二年生のサラと言います」

 丁寧に、頭を下げる。

「あ、ごめんなさい。私はミサキって名前、改めてよろしく」

 それを受けて、コタロウ達も自己紹介をする。生徒のリストを取り出して確認をする。コンピュータ研究会のサラに、手芸部のミサキの名前がある。それに奇術部のマサト、帰宅部のユウナの名前も連なる。

「そうなると、行方が分からないのは、あと1人。マリナって子だな」

「マリナって、ゲーム部のマリナか?」

 ケイタに言われてリストを確認すると、確かに3年D組・ゲーム部代表と書かれている。それを読んでから、コタロウも思い出す。

「ああ、彼女か!」

 あまり話した記憶はなかったが、2年生の時にケイタと同じでクラスメイトだったのを思い出す。

「知ってる顔が行方不明、って言うのは重いなぁ」

「そうだね。けど、まだ他の街にいる可能性も高いから、きっと無事でいるよ」

 ユウトも調べあげたのは、各地方の都市だけだと言っていた。不安は多いが、無事を祈るしかない。



 やがてヴァールの街が見えてきた。チェリー号を停泊させていると、遠くで職人達が手を振っているのに気付く。どうやら高台で舟が戻って来るのが見えたらしい。

「オジさん達、いい仕事してくれたわ!ありがとう」

 ハルカが、手をハイタッチすると、職人達は喜びの声をあげた。コタロウは話をする事はなかったが、いい人達なのだと改めて実感する。



 全員でチェリー号を港まで運んで、湖に舟を落とした。往復で石炭はだいぶ消耗してしまったので、取りあえずこちらの街で預かってもらう話になった。

 だいぶ日も暮れてきた。昨晩泊まった宿屋へと戻り、夕食をとることにした。港町だけあって海鮮料理のレパートリーが多く、見た事もない魚料理ばかりだが、どれも美味しく頂いた。疲れていた事もあり、あっという間に食べ終えてしまった。


「じゃあ、騎士団のイワンさんの所に行ってくるよ」

 首都への報告はコタロウが直接出向く事にするが、サラとミサキを救出できた事だけでも伝えなくてはいけないだろう。

 コタロウが立ち上がると、すぐにサラも立ち上がった。

「私も着いていきます。彼にもお礼も言わないといけないと思いますので」

「なら、私も!」とミサキも手を挙げたが、

「軍はあくまでこの件に対して非公式の協力だから、あまり大勢で行くとかえって迷惑になると思う。俺とサラだけで行ってくるよ」

 コタロウにそう言われて、立ち上がろうとしていたユキも挙げかけていた手を下ろした。



 騎士団の詰所は街の外れにある。暗い夜道をサラと2人で会話がないまま歩き続ける。

「えっと、コンピ研って事はパソコンが得意なんだよね?」

 つい、我ながら当たり前のつまらない質問をしてしまう。

「はい。ノートでも持ってきていれば、役にはたてるとは思うのですが」


(パソコンはないのか。まぁ、写真部のカメラと違って、普通、私用のノートパソコンを教室に持ちこんではいないよな)


 だとするとサラの特許技術はどうやったら確認出来るのだろう。彼女にも何かしらの能力がきっとあるはずなんだが、と考え出すと、また会話が途切れてしまう事に気が付く。

「俺たちの住んでいる街はさ、貴族の恩恵とかは無いから、みんなで協力をして助け合ってるんだ。だから、サラにも何かしらの仕事を手伝ってもらう事になるんだ」

 サラはこくりと頷く。

「パソコンって電卓の応用でしょ?それなら、そろばんは使えないかな?」

「そろばん、ですか。小学校の頃に、近所のそろばん塾に通った事ならありますが」

 コンピュータを電子計算機の応用とは、随分と古めかしい考えだが、計算機というジャンルでは無理矢理とはいえ共通項はある。

「良かった!実は俺たちのクランでそろばん使える生徒がいなくてさ、経理の計算できる人が欲しかったんだ」

 コタロウは手を挙げて、嬉しそうに微笑んだ。

「経理……私でお役に立つかは分かりませんが。はい、分かりました」

 彼女のコンピ研での得意分野は、プログラミングであったが、コンピュータが無いこの異世界では、何も出来ない。

 時代錯誤だと思い、嫌々通っていたそろばん塾であったが、サラの集中力、記憶力、処理能力の向上に大きく影響をした。珠をイメージして計算する珠算式暗算により、右脳も鍛えられた。その結果は、彼女のプログラム処理能力の礎となっている。様々なプログラミング言語を理解し、それを最短かつ適正なルートで創造出来る能力は、システムエンジニアを目指すサラにとってかけがえの無い財産だ。

 今では、そろばんをさわる事もなくなったが、それを必要としてくれるのなら喜んで応えたい。



 騎士団の詰所に着くと、何やら揉めているような声が外まで聞こえてきた。周囲に誰もいない事を確認して、中に入るとイワンの他に4人の騎士団の兵士が地図を広げて打ち合わせをしていた。

「やあ、コタロウ君。仲間は無事に助けられたのかい?」

「はい、ありがとうございました」

 サラと2人で頭を下げる。

「良かった。ヴァデンの様子については、私は聞かない方がいいのだろうな」

「はい。少なくても今すぐこちらから、何か対応出来る状況ではないと思います」

 そこまで話したところで、騎士団の1人が声をあげた。

「君が、ユウト副司令の仲間で、ナルダクの街を救ったって男か?」

「え、ええ。〈サクラノ組合〉のコタロウと言います」

「丁度良かった、君たちにも協力してもらいたい」

「ちょっと待て!彼らは別任務の最中だし、この街には関係のないだろう」

「そうは言ってもな、イワン。緊急時には、クラン・ギルドは軍の要請に協力する義務もある」

「お前は、若手でも有望株として注目されているのかも知れないが、こちら辺境の防衛組としては、何か問題が起きてはまずいのだよ」

 他の騎士団員も立ち上がり、言い争いが始まりそうだ。

「話を聞かせてもらえないでしょうか?」

 報告だけして早く帰りたかったが、そうもいかないだろう。イワンは、深く溜息をつき現状の説明を始めた。


 本日未明、ヴァールの街に沿って存在するヴァール湖の中に浮かぶ小島に、水棲半魚人と呼ばれる魔物・サファギンの集団が渡っていくのが確認された。その数は、目視で確認される限り100体近くいるそうだ。

サファギンが街に襲ってくる事は今までないらしいが、このままでは漁船を出す事も出来ない。

「朝にでも討伐隊を送るように漁業組合からも要請が入った。我々騎士団5人だけでは、数に囲まれてしまうだろう」

 漁船が湖に出せない日が続く事は、ヴァールにとって死活問題なのだろう。首都からの応援を待つ日数すら惜しいし、その間に数に任せてサファギンが街に襲ってこないとも限らない。


「分かりました。明日の朝、俺たちも一緒に行かせて頂きます」

「いいのか?かなりの危険を伴う事になると思うぞ?」

 イワンの念押しに頷く。

 ヴァデンの街を襲った魔物集団は、結界の前にそれぞれ散って行ったらしい。しかし、元々水棲生物であるサファギン達は、まとまって近場で水が豊富にあるヴァール湖に集まったという可能性もある。

 もしそうならば、リカの取った行為に起因する事になる。

 そして、その責任はコタロウ達が取るべきだ。

「分かった。すまないが、明日は朝早くの出発になるだろう。迎えに行くから支度をしておいてくれ」



 騎士団の詰所から離れると、サラが申し訳なさそうにコタロウに話しかける。

「すみません。私たちがリカ先輩を止められたのならば、この街に迷惑をかけなかったのでしょう」

「今さら、それを話しても仕方ないさ。そっちだって仕方なくそうしたのかも知れないしね」

 余計な戦闘を回避させる為、と言った割にはリカの詰めが甘い。あるいは、これ位は見越していて、必要な犠牲と考えていたのだろうか。

 コタロウは星空を見上げるが、やはり変わった様子は分からなかった。





 サラとミサキには留守を任せて、支度を整え、騎士団と共に早朝の港へと向かう。騎士団は自前の警備艇を用意していたが、二手に分かれた方が良いと提案し、コタロウ達はチェリー号に乗り込んだ。石炭はかなりなくなってしまったが、往復くらいなら足りるようだ。


 サファギンが棲まう小島は港からも目視出来る位置にある。二隻の舟はすぐに小島の近くへとたどり着いた。

 水中を泳いでいたサファギンが舟に近づいてくるが、石炭を焚いてスピードを上げて、それらをおびき寄せる。小島の周りを半周してから、岸辺につける。騎士団の舟はそのまま迂回し、小島の反対側へと向かって行った。大きさは、東京ドームくらいありそうな小島だ。真ん中には林があるが、その中にもサファギンはいるだろう。


 チェリー号から降りると、すぐに追いかけてきていたサファギン達が、水辺から数体現れる。


(青白い河童みたいだな)

 見た目はゴブリンに少し似ていて、人の形をしている。指の間には水かきのようなものが付いている。手には、フォークのような三つ又槍を持っている。


「ケイタ君はチェリー号とハルカの護衛をお願い!」


 イワン曰く、地上で戦う分にはリザードマンと変わらない戦力らしいが、油断はならない。

 コタロウにとっても複数相手の魔物との戦闘は、ナルダクの街の襲撃の時しか経験がないのだ。 

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