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英雄演戯 ~演劇部の俺が世界を救う?~  作者: 山桜
第2章 南部救出作戦
14/33

13 島の情勢

 久しぶりに会う親友は、初めて通される軍の内部にも関わらず、険しい顔で入ってきた。

「ユウト!セツナは一緒なのか?」

「ああ。今は王城に務めている。変わりなく、元気だ」

「そうか・・・良かった」

 それを聞くとコタロウは、あいかわらずのぼーっと気が抜けていて、締まりがないのない顔つきに戻る。


(純粋で単純なところが彼の魅力だと分かっている人には好感の持てる表情だが、頼りがいのなさそうにも見えてしまうのが欠点だろうな)


 心の中で思ったことがつい、表情にも出てしまったようで、コタロウが睨んでくる。


「何だよ、お前のニヤケ顔は変わらず腹立つな」

「すまない、ようやく会えた事が嬉しくてな」

 案内していた衛兵が退出したのを確認してから、ソファーに移動する。

「言いたい事は色々あるだろうけど、そちらの事情は大体把握しているつもりだ。お二人とも、先の防衛戦はさすがお見事だったよ」

「ふん、やっぱりあんたは知っていたんだな」

 ショウが鼻を鳴らす。

「俺たちの状況を知っていても、今まで高みの見物をしていた訳か」

「そんな訳がないだろう。僕だって自分のやれる事は全てやったつもりだ」

 そう言って、今までの経緯をかいつまんで説明する。


「君たちが仲違いに近い状況になっているのが分かった時は、どうしたものかと考えたが、その後すぐにコタロウが首都の議会にクラン申請を出したのを知ってね」

 コタロウがはっと、口を開く。

「クラン申請がすぐに認可を下りたのもユウトの口添えなのか」

「幅広く顔が効くようになってなっていた頃だから、少しね。審議そのものは僕が何も言わなくても間違いなく通っていただろうけど」

 それでも、申請したその日の内に認可が下りたのは、ユウトの強い推薦があったからだ。結果、魔物の大襲撃に間に合った事になる。


「襲撃の予兆が確認された時でも、君たちが居るなら大丈夫だと信じていたよ。あの段階では隊を動かす程の確証が持てなかったから、本当に助かった。王国の治安を守る立場としても礼を言わせて欲しい」

「魔物の襲撃に気付いて夜逃げするとかは考えなかったのか?俺たちが命をかけてまであの街を守らなければならない理由はないはずだ」

 ショウの発言に、ユウトはわざとらしいくらい驚いた顔をした。

「まさか。ショウだって甲子園出場のヒーローである以上、敵前逃亡なんて恥ずかしい真似を他の生徒の前で出来ないだろう。コタロウも、そんな民衆から非難をあびる様な道を選ぶ度胸は逆にないしな」

 さすがにコタロウに対しては失礼過ぎたので、「それに、人が良すぎるから」とつけ加えた。

「そんなフォローはいらないよ。本心ではその通りだったと思う」

 それにナナネの為に格好をつけたかっただけという事も、ユウトにはお見通しなのだとも思う。


「とにかく、結果君たちはあの街を救った英雄になったんだ。軍司令部としても、正式に報酬を考えているところでもある」

「ふん、そんな事より俺たちには優先すべき話があるだろう」

「その通りだ。島中に散らばっているだろう他の生徒達との合流と、元の世界に変える方法を探す事。

 だけど、前者に関しては、そこまで時間はかからないと思う」

 そう言って、ユウトは机の引き出しから一枚の地図を取りだした。

「島全体の大きさは、測定されていないが、北海道をひとまわり大きくした位の面積だ。ここが首都プロメイア、君たちのいたナルダグの街はここだ」

 島の中心に描かれている城の絵を指差してから、そのまま右上に書かれているポイントを指す。その更に右上には、森のイラストがある。コタロウが最初に着いた森だろう。  

 首都プロメイアを中心に、東のアイルス地方、西のティニス地方、南のローカス地方それぞれの名前が太字に書かれており、それぞれの地方には一つずつ首都より一回り小さな城のイラストがある。


「西の地方都市はここだ。南の地方都市もここの城のある場所に当たる。それぞれかつてあった王国の首都にある。東の地方都市にあたるナルダグだけが、城跡より離れた場所にある。東のアイルス地方の城は、かつての戦争で修復不可能な状態になっているらしい」

 そう言って、街から更に右の、バツ印の描かれた城のイラストを指す。その先にはいくつかの街や村の名前と、森のイラストがある。ナルダグの街は首都プロメイアに近い位置になっている。

 コタロウが以前<サクラノ組合>設立の為に、首都に来た時も1日で往復できた位だ。

「この山は?」

 地図の北側に山の絵が描いてある。

「この山は、メロ山と呼ばれている。活火山らしく、昔からこの辺りには人が住んでいない。ワイヴァーンの巣窟となっているそうだ」

 ユウトはさらりとそう説明した。

「魔物が存在するのだから、今さら驚きはしないが、竜という響きには心が踊るな」

「ここ数十年は特に火山活動が活発で、誰も近寄よる事はないそうだ。長いこと、その存在は確認されていないらしい」


「とりあえずの調査は、残りの地方都市からだね」

 ユウトは頷き、西の都市を指差した。

「既に西の都市では11名の生徒の安否が確認されている。上手い事、全員が運動部の所属でな。今は冒険者ギルドのメンバーとしてそれぞれ雇ってもらっている」

 そう言いながら、運営委員会の名簿を出す。

「首都でも文化部所属の生徒を2人保護している。君たちの街に36人、ここ首都に4人、西の都市に11人、合計51人の所在が判明している状況だ」


「残りは5人。南の地方都市の状況は分からないの?」

 他の生徒がいるとしたら、やはり大きな街から探すべきだろう。

「そこなんだがな・・・今日来てもらった一番の目的もそれなんだ」

 そう言ってから、現状を語りだした。


 南のローカス地方。かつてローカス王国の首都であった地方都市ヴァデンは、一週間ほど前より魔物の襲撃を受けており、音信が取れなくなっている。首都としても、部隊の派遣をとっているのだが、陸路のルート全てにおいて結界を張られており、ヴァデンの領地に入ることすら出来ない。

 帝国軍司令部としても、現在最優先でその対策に追われている状況だ。


「ローカス王国は、かつて島唯一の魔法国家であった。その結界魔法の装置が何らかの理由で発動したらしい」

「魔法国家・・・失われた技術か」

「今となっては、その結界の装置のカラクリすら分かっていないそうだ。それより最悪な事があってな、」

 そう言って、名簿をめくる。確認された生徒にはそれぞれ印がしてある。

「行方不明の5人、全員が文化部及び同好会所属なんだ」


 文化部・同好会所属のサクラノ組合が先の襲撃防衛戦で勝利出来たのは、特許技術を使えるまでの準備期間があり、昨夜のうちから対策を練れたからに他ならない。

 剣道経験者のコタロウですら、特許技術の補正が無ければ、ゴブリン一体相手でも苦戦していただろう。それに、コタロウやユキの様な存在は文化部でも稀な方だ。魔物に襲われたら、運動部でもない限り無事で済むとは思わない。


「結界を突破し、南の地方へ行く方法は、ある事はあるんだが」

 ユウトが珍しく、言葉をつまりながらそう告げた。

「軍を動かす事か」

 ショウには察しがついたらしい。

「そう。それも、私が率いる事ができる小隊規模ではない。少なくても、王都全ての騎士団兵の総動員は必要になるだろう」

 魔法結界といえ、装置を破壊出来れば結界は消滅するはずだ。


 「結界は地方都市ヴァデンから半径おおよそ5km程度の円内で発動している。それらの起動装置は、ヴァデンと、ここの遺跡の2箇所にある。片方が機能を停止すれば、結界は解かれるそうだ」

 そう言って、ユウトはヴァデンと首都プロメイアの丁度真ん中辺りの位置にある遺跡のイラストを示した。遺跡にはアシャネー遺跡と書かれている。

「アシャネー遺跡は昔から魔物の巣窟となっていてな。今までこの遺跡を攻略できたのは、かつての大戦で、初代皇帝ヒロアキ率いる軍隊だけらしい。だがな、南の状勢が分からない以上、いきなり全軍を動かす事は出来ない。軍の総司令でもそこまでの権限はないだろうな」

 最終的にはそこに行き着くしかないのだろうが、それでも軍としては、下手に手を出す事を怖れているのだ。魔物の襲撃が盛んになっている今、首都の防衛をおろそかにするわけにもいかない。


「つまり、結界網を突破して、一度偵察隊を送る必要がある、って事か」

「陸路は全て結界が張られている」

 ユウトは地図のヴァデンの周りの陸部を指で弧を描いた。 

「しかし海路は別だ。ヴァデンの装置とアシャネー遺跡の装置を結んでいる魔力は、反対側の海側には機能していない」

 南の都市ヴァデンは、島の最南端に位置しており、海岸に接している。

 元々、海流の影響で海には船を出せない島の情勢では、海路からの侵略は気にする問題ではなかったのだろう。

「少数精鋭で結界を迂回し、ヴァデンに侵入する。その後、情報収集をしながら、行方不明の6人の安否を確認したい」

 ユウトはそう言い切った。

「もし、誰かに捕まっているような状況だったら?」

「厳しいようであった場合、救出にこだわり事はない。無事に帰還出来れば、ヴァデンの状況次第で軍を動かせるだろう」

 話を聞くだけならば、それ程難しい問題ではないような気がする。

「無論、リスクはある。 どんな状況なのか全く分からないわけだからな」

「それでも手があるのなら、やらないと」

「少数精鋭と言った通り、隠密行動になる。ギルドから2人、クランから3人、こちらから1人、の6人組でどうだろう」

 人数なら一番多いのがサクラノ組合だ。


「分かった。ギルドからは、ケイタとカズタカを出そう」

 カズタカは空手部の主将だった生徒だ。魔物との戦闘になった場合、最も頼りになる生徒の1人だろう。

「組合からは、ユキとサツキに行ってもらう様にお願いするよ。あと1人は、」

 ユキのすばしっこさは隠密行動には最適だろう。状況が分からない以上、サツキの魔術式の出番があるかもしない。女子ばかりだとバランスが悪いかから、後は山岳部の彼にしようかと考えていると、

「後は、コタロウ。お前にも行ってもらいたい」

「は?こういう時は代表者やリーダーは待機するもんじゃないのか?」

 思わず素が出てしまう。


「軍に報告するのに、証言が必要だと話しただろう。盟主の証言なら、うえも納得いくさ」

 それならショウ君でもいいじゃないかと言いかけて、止める。ギルドとクランでは国からの立場が違う。確実を求めるなら、クランの代表者が証言をするべきだ。

「分かったよ。それなら、うちは俺をふくめた3人で」

「それにな、お前には行くべき理由があると思うぞ」

 そう言って、生徒リストを手渡す。ユウトの含み笑いをした表情を気にしながら、コタロウはそれを受け取った。行方不明者5人の名前が記されているが、すぐにユウトが言わんとしていた事に気付く。


「な、何で、彼女の名前が!?」

 出席者全員のリストは配られていたものを持っていた為、誰がこの世界にいるのかは確認はしていた。その中に、彼女の名前は間違いなく無かったはずだ。

「あの日、打ち合わせの直前で、入れ替わりになってね。既に配布分のコピーは終わっていたから、コタロウ達の持っている名簿は彼女だけ違うんだ」

 1人生徒が違っても、数が同じではっきりしているならそれ程の問題ではない。

 しかし、彼女だけは別だ。

 彼女がここに居る、それだけでコタロウの頭の中で、緊急信号が鳴り響く。

「これで、お前が助けに行く理由が分かっただろう」

 ユウトもそれを分かっているはずだが、あえてからかっているのか。


(助けに行く理由にはならない。

 助ける順番をつけないとするなら、ナナネとセツナが最優先で、ユキやエマ、サツキにマモル達、ユウトやケイタ君達の順番だ。ショウ君と彼女だって、どっちかなら間違いなくショウ君を助ける)

 

 それでも、彼女を助ける事が出来るとするならば、この中では自分しかいないだろう。

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