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英雄演戯 ~演劇部の俺が世界を救う?~  作者: 山桜
第2章 南部救出作戦
13/33

12 もう1人の戦い

 英雄ヒロアキが200年前に島全土を統一して建設したとされる首都プロメイア。

 島の中心部に位置され、最も人口が多く賑わっている。

 エヴォルヴを構成する東のアイルス地方、西のティニス地方、そして南部のローカス地方、それぞれの貿易の中心地ともなっている。

 広大な敷地を持つ王城を中心に、それを囲むように四方が城下町を形成している。その城の敷地内でも少し離れた所にある石積みの塔の一番上が、帝国軍司令部である。フロアのバルコニーは、王室よりも高い位置にあり、城下町の全てが見渡せる。

 手摺に膝をつきながら、副司令代理であるユウトは親友の来訪を待ち続けながら、思いふけっていた。


 ユウトがこの異世界に着いた場所は、この城の謁見の間であった。落雷の音が鳴り響き、この世界に飛ばされながらも、自我を強く持ち、意識を保っていた。

 目を開けると、毛先の長い赤い絨毯の上にいたのだ。正面の一段高い段には大理石の床があり、その上には立派な椅子が見える。

 目線の先には、その玉座に座る若い女性の姿があった。面長だが柔らかな輪郭を備えた顔に配されているのは、高い額とほっそりした吊り気味の眉、涼やかにきらめくブラウンの瞳、高くすっと通った鼻、小さくもふっくらとした唇である。高級そうな威厳のあるドレスを身にまとったその肌は、搾ればミルクがしたたり落ちそうに思えるほどの乳白色で、肩甲骨に達するあたりまでのばしたストレートロングの金髪ときれいなコントラストをなしている。プロポーションも165cm位の身長に見合った見事なものだった。近づくのに気後れを覚えるような女性である上に、その頭部には王冠を象ったティアラを被っていた。


「なんだ、お前たちは!?」

 その横に控えていた初老の男性が声をあげる。

 横を振り向くと、気を失っているだろう、生徒会書記のセツナの姿がある。左右を見渡すと、銀色に輝く鎧に身を包んだ兵士達が、揃って槍を構えている。

 状況把握には時間がかかりそうだが、ユウトはとりあえず、場に相応しく膝をつき、叩頭する。


「お初にお目にかかります。私、桜乃丘高等学校三年、生徒会長を務めております ユウトと申します」

「サクラノオカなんだって?」

 やはり通じないのか。溜息をつきそうになるのを堪えて、面を上げる。

「おそらく、あなた達とは違う世界から来ました。突然の雷と共に、この世界に飛ばされてたのだと考えます」

 正直に感じた事を話す。ここが異世界だと感じたのは、時代錯誤な相手の格好、欧州人のような相手が日本語を話しているからタイムスリップの類ではないと推測したからである。

 夢であったり、何かのドッキリならそれに越した事はないのだが。

「違う世界だと?まさか、そんな・・・」

 ユウトの思っていた以上に、相手の反応が悪くない。過去に異世界からの来訪者があったのか、それともこの世界ではそれ程あり得ない話ではないのか、思考を巡らせる。


「では、異界の者よ。貴方はニホンという国名を存じているか?」

 ここで始めて、女性が口を開いた。やはり、彼女が女王陛下なのだろう。

「はっ。私は日本の東京という都市におりました所以」

「ふむ。ヒロアキ皇帝と同じじゃのう」


(ヒロアキ?日本人の名前か?)


「ヒロアキ皇帝という方が、同じ日本の出身かの確信はありませんが、同じ言葉、同じ肌の色、髪の色をしていたのなら、その可能性は高いかと思います」

 その言葉に周りの兵士達がざわめきだす。


(ビンゴ、か・・・さて、どうする?)


 ここまで素直に話してきたが、それが吉と出るのか分からない。分からない以上、下手に嘘をつかないほうが良いだろうが。


「ユウト殿はセイトカイチョウに務めていると言ったの。それはどういう役職なのか?」


(初めて聞く異世界の単語なのに、はっきりと覚えていたか。彼女はそれなりに頭は良さそうだ)


「私は学校という教育機関に通う学生、生徒でありまして。私はそこの生徒達1650人から選ばれました生徒会という組合の代表、言わば生徒全員の話し合いのリーダーを務めております。」

 日本語が通じても、どこまでの単語が分かるのか分からない。しかし、何となくだが、相手には伝わったようだ。

「そこの少女もそうか?」

 まだ気絶しているセツナを指す。

「彼女も、同じ生徒会の仲間です。ここに飛ばされる直前まで一緒におりましたので」

 他の部代表の生徒達はどうなったのだろう。あの光は、少なくても教室一部屋は丸々覆いこんでいたはずだ。


「陛下、この様な言葉を丸ごと信じてはなりませんぞ」

 初老の男が声をあげる。それは当然だと、ユウトも同感する。

「分かっておるわ。そうだの・・・ユウト殿は武芸の心得はあるか?」

「武芸、ですか」

 聞き直すのは失礼にあたるかとも思ったが、不意をつかれた質問に驚く。

「そうだ。かつてのヒロアキ皇帝は、島随一の武術の使い手であったという。同じ日本から来たというのなら、それなりに心得があるのかと思ってな」

 少し考えてから、回答する。

「刀、いえ剣ならば、多少は」

「そうか!ではガデル団長に相手をお願いしよう」

 そう言って、傍に立つ初老の男性を指す。


「名乗りがまだであったな。私は、ここ帝国の8代目皇帝、アメリアと申す。見世物としては不服だろうが、ここにいるガデルと剣を合わせてもらいたい」

 ガデルと呼ばれた男性を改めて観察し、答える。

「いえ、失礼ならば、ガデル団長は相当な剣の使い手とお見受けしますが、御高齢の事を考えますと、違う方の方が宜しいのかと思います」

「何だと?若造風情が!はっ、さてはやはりその腕には自信がないから、儂以外の者とやりたいというわけか。だがな、ここにいる兵士は皆若くても、優秀な騎士団員と親衛隊の兵士ばかりだぞ?」

「怖じ気ついたわけではありません」

 そう言って、左右の兵士達を見渡す。成る程、どの兵士にもそれなりの鍛練を積んできたのが分かる程の威圧感を感じる。その中でも、

「彼をご指名させて頂きたいのですが」

「なに、アルフだと!?」

 ガデル団長が大声で返す。

 アルフと呼ばれた彼だけが圧倒的なオーラを感じさせる兵士達の中でも、研ぎ澄まされた気を放っていた。


「アルフ隊長なら、問題はあるまい。間違っても刃がユウト殿の体に深く刺さる程にはならないだろうしな」

 やはり扱うのは真剣か。

 兵士の一人に剣と兜を借りて装備する。アルフは一言も発する事のなく、すでに構えをとっていた。周りの兵士達が距離感を取る。

 剣を構えるが、やはり刀でないと、今ひとつ握りがしっくりこない。

「帝国王室親衛隊隊長アルフ、若いながらも名実共に、帝国一の剣の使い手とも言えよう。私はユウト殿の腕前を見せてもらえば良かったのだがな。一瞬で終わるような結果では判断が出来ぬかも知れんぞ?」


「よし、はじめっ!」

 ガデル団長が合図を掛けると同時に、ユウトから一気に駆け寄る。

 そのまま、面を入れようと剣を真っ直ぐに打ち込む。不意をつかれたアルフは、それを剣で受け止めるだけで精一杯だ。

 ユウトはそのまま、中段、下段と、ランダムに斬りこんでいく。立て続けの斬撃にアルフは防戦一方にならざるを得ない。

 反撃にまわろうにも、初めて見る剣道の剣さばきに、思考がワンテンポ遅れてしまう。剣道は心理戦であると考えるユウトの狙いはまさにそこであった。

 見にまわるよりも、あえて攻める。ユウトが異世界から来たというのなら、相手の手の内ややり方が分からない以上、いきなり攻めてくる事はないだろうと相手が読んでいたのに対して裏をついたのだ。

 アルフとしても、次第に相手の動きが分かってきたつもりだが、一太刀毎にユウトの速度が上がってくる。

 一度体制を立て直す必要があると、距離を取るべく後ろへ跳躍する。着地と同時、それを狙っていたユウトの突きが真っ直ぐに伸びる。

 気がつくと、アルフの喉仏の数ミリ先に剣の先がピタリと寸止めされていた。額に汗が流れているのが分かる。

 今自分が置かれている状況もそうだが、それ以上に相手の表情が読めなかったからだ。勝利をしてもなお冷たい目をしながら、まっすぐ自分を見つめたままだ。しかし、殺意は全く感じられない。


「そこ迄!」


 制止の声ではっと気付いたように、突きつけていた剣を返し、鞘に納める。

 突きは面に勝る表芸として、師範から徹底して磨き続けていたユウトであったが、身体の軽さと、今までに感じた事のなかった研ぎ澄まされた集中力に、驚きを感じていた。

 

「ご満足頂けましたでしょうか?」

 玉座に振り向くと、アメリアは、うむ、と言って腕を組んだ。

「わかった。ヒロアキ皇帝の再来なのかも知れないな。ユウト殿には、軍司令部に着いてもらいたいのだが、どうだ?」

「軍、ですか」

 あれだけの武術を披露しておいてだが、穏やかではない話だ。周りの兵士達が、またもざわめきだす。

「そうだ。軍と言っても、我が国は戦争をしているわけではない。しかしながら、魔物の襲撃に対抗する為に島全土の騎士団を統率する機関として、軍司令部を設けておる」

魔物という言葉に思わず頭を押さえる。

「ユウト殿も、元の世界に変える方法を捜す事になるだろうが、ここは島の中心にて首都である。情報を集める為には、一度王室に仕えるのも良いと思うのが、どうかな?」


(分かってはいたけど、王国一と呼ばれる剣士に一騎打ちで勝利した異世界の人間を、そのまま野放しで放置させる訳がないか)


「了解致しました、アメリア殿下。しかしながら、ここに気絶しております彼女には武芸の心得はございません。彼女は軍属にはさせたくはないのですが、」

「では、彼女は王室付きのメイドとして雇うとしよう」

 言葉を遮られて、先に言い切られてしまう。

 悪く言えば、アメリアの庭で飼われた上に、セツナという人質の首輪をつけられた形だ。

 今はこれ以上、どうしようもない。身の安全が確保されれば何とでもなるだろう。





 かくして、王国軍司令部付けになったユウトであったが、すぐにその頭角を表す事になる。


 単体での戦闘力を買われたのだが、本当のポテンシャルは、その指揮能力にあった。

 小隊を率いての辺境への遠征で戦果を挙げると、首都襲撃に備えた防衛設備の建設提案、首都周辺にある未開拓迷宮への探索体制の整備、若手騎士団員への育成について軍の幹部に真っ向から持論をぶつけていった。

 もちろん、アメリア女帝の推薦とは言え、新参の余所者に対して上層部はいい顔はしなかった。しかし、彼の実力とカリスマ性は若い騎士団員を中心に多くの支持者を得た。それだけではなく、司令部副司令からもその先見性、有望性を高く買われ、短期間の間でユウトは軍内におけるその地位を確立させていった。

 極め付けになったのが、先の襲撃事件である。天文部のサトルと時を同じくして、星空の異変から魔物の襲撃を察したユウトは、襲撃後に備え、魔物の残党狩り部隊を組み、街の周囲の町村へ配備をした。自身も戦場に出向き、前線から残党による被害を食い止めたのだった。


 その戦果を理由に、元々高齢の為に引退を考えていた司令部副司令は、自分は療養として退き、ユウトを副司令代理の地位に推薦した。

 異例の昇進には、さすがに議会の反発も強かったが、その頃にはユウトの名は、首都の民衆に広まっており、中にはヒロアキ皇帝の生まれ変わりと賞されるものまであった。初代皇帝の大業は、地域によって違いはあれど、首都圏では英雄とされている。

 そして、アメリア女帝の采配の元、わずか一ヶ月半ばかりで、ユウトは帝国軍司令部・副司令代理に就任する事になったのだ。


 ドアをノックする音が聞こえ、我にかえる。


「失礼します。両名が到着致しました」

「そうですか。通して下さい」

 ほどなくして、待ちわびていたよく知る顔が入ってくる。

 久しぶりの再会だが、ここで笑顔になる訳にはいかない。

「お待ちしておりました。コタロウ殿、ショウ殿」

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