第8話
長らくお待たせして申し訳ありませんでした。更新再開致します。
ちなみに主人公の視点です。
「飲みな」
「……ありがとう」
アオの顔も見ずに逃げ出してしまった。僕を迎え入れてくれたミサおばあちゃんが手紙もカイさんに渡してくれたらしい。
「あんたも人を殺したのかい?」
ホットミルクを作ったミサおばあちゃんは僕の隣に座る。
「血の臭いがする」
「違うよ、僕は誰も……!」
また泣きそうになって顔を伏せた。
あのときのアオは、いつものアオじゃなかった。
「じゃあ、あいつらの仕業かい」
「……おばあちゃん、知ってたの?」
「あんたより付き合いは長いからね」
所々抜け落ちた歯を見せてミサおばあちゃんは笑う。
「……人殺しは犯罪だ」
「まぁ、その意見は正しいさ。此処が一番街ならね」
「え?」
「此処は十六番街だ。治安の悪さは聞いてるだろ?」
僕は頷いた。カイさんに何度も教えられたのだから。
「此処は人を殺さなきゃ自分が殺されるような街だ」
「そんなの……」
「現に、助けられたんじゃないか」
確かに、僕は命拾いした。でも他人を殺してまで僕は生きていて良いのだろうか。
「……まぁ、それが嫌ならこの街からいなくなった方が賢明だがね。此処でよく考えな。いたければずっといても構わないさ」
「うん」
何時間経ったんだろう。
膝を抱えて、背を丸めて僕はずっと考えてた。
「シュウ」
名前を呼ばれて上を向けば、いつも通り微笑むカイさんの姿があった。
「手紙読んだよ。見たんだってね、アオが撃ったところ」
勝手に心臓が激しく動く。数時間前の映像が頭に浮かんできて、それを振り払うように僕は首を大きく振った。
「アオがね、本当は来たかったみたいなんだけど、今熱が出てて」
「熱?」
「心配いらないよ、アリアが看病してるから」
僕のせいかもしれない。僕は傷付いたし、アオを傷付けた。
無意識に、僕は聞きたいことを口にしてた。
「カイさんは、この街が好き?」
「うん、好きだよ」
「誰かを殺さなきゃいけない街でも?」
「うん」
目を伏せたままカイさんは答えた。
「自分らしくいられるんだ。此処なら」
「自分らしく?」
「シュウはこの街で人が死んでもニュースにならないことに気付いてた?」
首を横に振る。
「一番街の人間は誰もがニュースになる」
そう言われるとそうだった気がする。死んだと報道されるのは丸々太った人間ばかりだった。
「そんなぬるま湯みたいな中で暮らすなんて、生きてる実感がないと思うんだ」
真直ぐ先を見据えてカイさんは言う。
「此処なら人間らしく生きられる。例え罪を作ったとしてもね」
僕は返す言葉が見つからなくて、ずっと話を聞いてた。
「人は生まれたときから何らかの罪を背負う運命にあるんだ。それが重いと感じるか軽いと感じるか…そこは自分にしかわからないわけ」
「うん」
「アオもアリアも、進んで罪を重ねることはしないよ」
僕は自分の考えが間違っていた気がする。
カイさんもアリアもアオも、テレビで偉そうに語る一番街の人よりずっと人間らしいと思った。
「カイさん、帰ろ?」
僕の居場所はやっぱりあそこしかない。
「わかった。その前にミサばあと少し話してくるからちょっと待っててね」
「うん」
僕とカイさんは横に並んで歩いた。
両手には数本のコーヒー牛乳。ミサおばあちゃんが持ってけってくれたんだ。
「シュウはミサばあに気に入られてるね」
「そうなの?」
「俺初めてお土産もらった」
「ふーん」
些細なことかもしれないけど、ホントは嬉しくてしょうがなかった。
店に戻ると水の入った洗面器を持つアリアに迎えられた。
「様子はどう?」
「だいぶ熱下がったみたい。シュウ、これ持ってって」
なかば強引に洗面器を渡される。
「わかった」
中の水を溢さないよう慎重に階上に向かい、アオを起こさないよう静かにドアを開ける。
顔を見ると額に汗がうっすら滲んでるのがわかった。額に濡れタオルを乗せる。冷たかったのか、眉間にシワを寄せて目を開けた。
「シュウ……?」
「風邪、大丈夫?」
「ごめんな」
「え?」
僕の問いを無視してアオは謝罪の言葉を述べた。
「俺、人殺しだ。ずっと黙っててシュウを騙してた」
アオは僕に顔を見せようとしない。両腕で顔を隠してる。
「ううん。全部ひっくるめてアオなんだから。僕はそんなアオと友達で嬉しい」
これは勿論本心。アオに拾ってもらって良かったと今でも思ってる。
「でも、もう嘘つかないで」
「……わかった」
「あと、アリアとカイさんも」
ドアの向こう側を見つめて言う。部屋の主は少し驚いた顔をした。複雑そうなアリアと苦笑いしたカイさんが現れる。
「よくわかったね」
「なんとなくね」
「お粥作ったから持って来たの」
アリアは鍋のまま持ってきたみたい。中を覗けばそれはかなりの量が入ってる。
「こんなに食べるの?」
「無茶言うなよ……」
まだ体がだるいのか僕の問いに答えてアオはベッドに沈んだ。
「作りすぎたんだ」
「だから夕飯は皆お粥ね?」
その後、アオの部屋でお粥を食べた。やっぱり楽しい。
こんな生活がずっと続くと思ってた。
でもそれは、僕の勝手な思いだったのかもしれない。
更新再開です。これからもこの小説をよろしくお願いします。
あと、次回はカイの視点です。




