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Delivery children.  作者: 詩音
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第7話

 今回アオ視点です。

 あとがきにお知らせがあります。




 仕事の途中だった。内容は盗まれた麻薬を取り返すこと。簡単に言えば、ヤクザの仲間割れだ。

「めんどくせぇ」

「横で文句言わないでくれる?」

 アリアの不機嫌そうな声が聞こえる。俺が睨みつけるとカイが間に入った。

「そこまで、もう敵地の前だ」

 それは随分古びた倉庫だった。

「相手は三人だけだから、ノルマは一人ずつ」

 仕事ではたまにノルマが与えられる。正直俺は何人でも良いんだけど、カイは殺しながら数えられるくらい冷静沈着になってほしいらしい。

「良い?」

 扉の前に立つ。

「うん」

「あぁ」

 俺達は扉を蹴破って中に入った。

「うわ……」

「最悪」

「うーん、困ったなぁ」

 上から俺、アリア、カイの順だ。

 状況は最悪だった。目的の麻薬は袋が開いて床にばらまかれ、その周りには男三人が横たわっている。

 よだれまみれの顔に吐き気がした

「……全部使ったのか?」

「そうみたいね」

「麻薬の過剰摂取はマズイな」

 カイの言葉とともに男達が立ち上がる。

「ようやく来たな、運び屋……」

 中毒症状のせいか、見事にろれつが回ってない。

「あんたら俺達のこと知ってんの?」

「龍白組を、覚えているか」

「龍白?」

「この前仕事で潰した組よ」

 アリアの言葉に記憶を巡らせ思い出す。

 それほど印象的じゃないってことはたいして面白くなかったわけだ。

「俺達はその生き残りだ」

 にやにやと気持ち悪い笑顔を浮かべる男達。

「生き残り……。単にその場にいなくて生き延びただけじゃなくて?」

「ち、違う」

 アリアの質問に複雑そうな顔になった。

 図星かよ……。

「俺達は潰れた組を直そうと一度だけ考えた。だが俺達の居場所はあそこしかない」

 自分らで居場所作る気はねぇのか。つまんねぇヤツら。

「それなら華々しく散ろう。先にお前らをブッ殺して……!」

 そう言った瞬間、一人が俺に殴りかかってきた。他の二人もカイ達に襲いかかる。

 でもどいつも麻薬の快楽からか動きが鈍い。

「おっと……」

 楽に避けて銃を放つ。確かに右腕に命中、したはずだった。

「痛くねぇ、全然痛くねぇよ……」

 ぽたぽたというよりだらだらと血が流れてる。それにも関わらず、撃たれた男は目をギラつかせて平然としてた。

 気味が悪くて俺は少なからず動揺した。近付いてくる男に距離をあけるばかりだ。

「しっかりしろ!」

 怒鳴り声が俺の耳に刺さる。体はびくりと波打った。声は普段滅多に感情を乱さないカイのものだ。

「やっぱガキだな」

「はっ、そのガキに撃たれたのはどこのどいつだよ……!」

 男を黙らせようとして殴りかかる。

「くそっ!」

 男が逃げ出した。カイとアリアを見るとまだ戦ってる。

 カイはこちらを一瞬見て、

「行け」と言ったように見えた。頷いて俺は外に出る。

「来たな」

「何だ、外でやりたかったのか?」

 意外なことに、そいつは俺を待ってた。くつくつと軽く笑みを見せてから男はまた走り出す。

 俺はすぐに追い掛けた。




 どれくらい走ったんだろ。気のせいだと思っていたことが現実になろうとしてる。

「おい、どこまで行く気だよ!」

「ひゃははは!」

 いかれて答えない男に舌打ちして足を速める。

「あの野郎……」

 俺の予感は現実になった。男が逃げ込んだのは俺達の家。それなりにリサーチ済みだったらしい。

 注意深く扉を開けて銃を構える。

「人ん家上がり込んで何考えてんだよ!」

 俺の声に相手は答えなかった。銃を持ち直して、俺は二階から順に調べることにした。




「いない……」

 二階は誰もいなかった。緊張を少しだけ緩めた途端、一階から物音がした。

 何か大事なことを忘れてないか?

 俺の頭に浮かんだのはシュウの顔。慌てて階段を駆け降りた。一階に行けば話し声まで聞こえてくる。

 逸る気持ちを押さえ込んで、奥の部屋に向かった。




 シュウは男と向かい合ってた。相手の目がもう正気じゃないのはシュウにもわかったと思う。

 上手く死角に入った俺は、男に見えないように引き金に手をかける。そこで頭に誰かの声がした。

 シュウに自分が人殺しだとバレても良いのか?

「……っ」

 答えは否だ、初めて出来た同性の親友をなくす勇気はない。

「それならお前も同罪だ!」

 男がシュウに襲いかかる。

 無意識の内に俺は勢いよく引き金を引いた。心臓ど真ん中めがけて。

 命中した男は恨めしそうにこちらを睨んでいたが、やがて動かなくなった。

 撃った部分から紅い液体が流れ出る。

「……大丈夫、か」

 柄にもなく声が震えた。シュウの肩が跳ねる。

「ねぇ、どうして……?」

 背を向けたまま俺に問い掛けてくる。でも俺は何も言えなかった。

 力のなくなった手から銃が滑り落ちる。

「答えてよ、アオ……」

 シュウのすすり泣く声を聞いだけで、俺の頭は真っ白になった。




 気が付けば俺は自室のベッドに寝てた。

 妙な虚無感が身体中を渦巻く。

 ドアの開く音に俺は体を起こした。少しめまいがする。

「起きたの?」

 アリアが濡れたタオルを持ってきた。

「気付いてなかったでしょ。熱があったのよ」

「シュウは」

 声がかすれた。

「……これ」

 アリアが差し出した手紙はシュウの字で書いてあった。

「しばらくミサばあちゃんのところにいるって」

「……俺のせいだ」

 視界がにじんで両腕で顔を隠す。

「目の前で殺さなかったら、シュウは俺が人殺しなんて知らずにすんだのに」

 きっと傷付けた。嘘吐かれて怒った俺が犯罪を隠してたんだから。

 複雑そうな顔で俺を見てるアリアを振り切るように俺はベッドから出てドアに向かう。

「ちょっと、何してるの!」

「決まってんだろ、シュウのとこに……っ」

「馬鹿言わないで! 熱があるって言ってるでしょ?」

 珍しく怒鳴るアリアが俺を押し止めるが、それを振り払ってベッドから離れる。

 その瞬間、膝から崩れ落ちた。

「アオ!」

 急に咳き込んで頭がボーッとしてきた。

「カイ、アオが!」

 遠のく意識の中で、アリアがカイを呼ぶ声だけが聞こえた。





 いつも読んでくださりありがとうございます。


 お知らせなんですが、しばらく実生活の方が忙しくなってしまうので、次回の話が二月頃になってしまいます。


 勝手な理由で申し訳ありません。


 これからもどうぞよろしくお願いいたします。


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