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Delivery children.  作者: 詩音
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第5話

 今回はアリアの視点です。どうぞお楽しみください。



「シュウ、どこ行く……」

 私の言葉は届かなかったようだ。二階から降りてきたシュウは一直線に外へ向かっていった。

 大声でアオと喧嘩する声を聞いたけど、それすら珍しいと思う。協調性を大切にする、それが一週間シュウと過ごして私が感じた人間性だったから。

「アリア! シュウは?」

「出ていったけど……。喧嘩したの?」

 アオから大体の話を聞いて、カイのいる部屋に足を向けた。




「俺は仲間の話を立ち聞きして良いなんて言った覚えないよ」

 冷ややかな態度のカイにうつ向いて黙っているアオ。カイに攻められるときのアオはいつもこうなる。

「とにかくシュウを探そう。予報では雨が降るらしいから」

 私達はバラバラに分かれてシュウを探すことにした。

「俺はあっちを探す。アオは向こう、アリアはこっちを頼む。一時間後には必ず此処に帰ってくること」

「わかった」

 アオは何も言わずに走り出した。それほどシュウが心配なんだろう。

 私も走った。でもシュウの姿はなかなか見えなくて、気持ちばかりが焦る。

 最悪なことに雨まで降り出して更に私を苛つかせた。

「どこ行ったのよ……」

 傘越しに空を見上げる。雨が少しずつ強くなっていた。

 ふと冷静になると、一週間しか一緒にいなかった人間をここまで心配するのは私にとって初めてのことかもしれない。

 それほどに、シュウは真っ直ぐで優しかった。




 いつの間にか銭湯の前まで来ていたらしい。もうすぐタイムリミットだ。

 私は最後の希望を託すことにした。

「ミサばあちゃん」

「あん?」

 ボーッとしていたのか間延びした返事。

「黒い髪の男の子見なかった?」

「……ん」

 ミサばあちゃんは渋い顔で男湯の方を指差した。

「前でうずくまってるのを見付けたんだ」

 その言葉を聞いて多少驚きつつも私の足は脱衣所に向かった。

「今は寝てる」

「うん」

 確かにシュウはいた。ソファに横たわって眠ってる。近付いて顔を見ると、頬と睫が濡れていた。

「アオが心配してるよ」

 寝ているシュウへ独り言のように呟く。

 あいつにとって、大切な仲間なのよ。私にも、カイにだってそう。

「皆と一緒にいたかったんだ」

「うん、わかってる」

 起きてたらしい。そんな気もしたけど、シュウにはわかってもらいたかった。自分が必要とされてること。

「何でアオはあんなに怒ったのかな……」

「アオは馬鹿みたいに単純だから、嘘つかれたのが嫌だったんじゃない? それに」

「それに?」

「突然シュウがいなくなるんじゃないかって心配してるのよ」

「そんなこと……」

「今も必死に探してる」

 時計を見れば一時間過ぎていた。アオもカイも店に戻ってるはずだ。

「ほら、帰るわよ」

 私はシュウの手を引く。

「うん……」

 ミサばあちゃんにお礼を言い、私とシュウは近くまで帰ってきた。

 店の前に立つと、シュウの足が急に止まる。

「シュウ?」

「アリア、迎えに来てくれてありがとう」

 シュウが私に微笑む。

「別に」

 お礼の言葉なんか滅多に聞かないから、答え方なんてわからない。

 意地っ張りな返事にも満足そうなシュウを見て、私は尋ねる。

「何でそんな嬉しそうなの?」

「だってアリアの別には、どういたしまして、ってことでしょ?」

 そう言ってはにかむシュウに私は頬が熱くなった。

 本当に少しだけ。

「シュウ!」

「わぁっ!」

 店に入ってシュウを見た途端、勢いよくアオはシュウに抱きついた。私とカイは眺めるだけ。私はともかく、カイが二人の輪に入ったら確実に変だ。

「く、苦しいアオ……」

「あ、悪い」

 慌ててシュウからアオは離れた。シュウはケホケホと咳き込んでいる。

「あの、さっきは怒鳴ってごめんね?」

「何言ってんだよ、俺が先に怒ったんだから」

「ま、二人の喧嘩に巻き込まれた俺達にも謝罪は必要だと思うよ?」

「あ……」

「ご、ごめんなさい」

 カイの一言で二人は頭を下げた。

 その日、私達四人の絆はもっと強くなった気がした。……絆なんて、簡単に言える言葉じゃないけど。




 そして同じ日、ある場所。

「まだ見つからないのか」

 男は唸るような声で背にいる部下に尋ねていた。椅子の肘掛けでとんとんと指を叩く。

「はっ、目下捜索中です。しかし、この国は広いですから……」

 冷や汗を流しながら部下は言った。

「探せないというのか?」

「め、滅相もございませ……!」

 部下の口から、その言葉の続きを聞くことは出来なかった。自らの血で服が朱色に染まり、息の音はもうない。

「トマ、新しい服を。あの男の血で汚れてしまった」

 酷く不快そうに拳銃を使った男は言う。

「ハイ、カシコマリマシタ」

 隠れるように物陰にいた少年トマは機械的な声で答えた後、カタカタと体を鳴らして奥の部屋に消えていった。

「トマももうすぐ故障だな……、そろそろ新たなモノを作らねば」

 テーブルに置かれたワインを一気に飲み干し、男はニヤリと笑みを浮かべた。

「早くお前に会いたいよ」

 意味深げな言葉を呟いて。








 

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