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Delivery children.  作者: 詩音
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第4話

 今回はシュウの視点です。



「いらっしゃいませ」

 僕が骨董屋に住み込みを初めてから一週間が経った。

 国の現状や街の治安の話も聞いて、少しずつ生活に慣れた頃。

「やぁ、シュウ君」

「デネさん」

 一週間前に顔をあわせた老父、デネさんがやってきた。

「名前を覚えてくれたんだね」

「仕事の常連さんだって聞いたから」

「そうかい。いつもカイ達にはお世話になっているよ。今日も皆は仕事かな?」

 デネさんの問いに僕は頷いた。

「そうか、忙しそうだね」

 確かに三人とも朝から夕方までいない日が多い。それに引き換え、僕は暇だ。三日に一度くらいしか来客はない。

 そのせいか暇なとき、僕は本を読むようになった。少しでも失った記憶を戻したいのと新しい知識を埋めたいから。

 結果、僕は料理が作れるようになった。料理の本は見てて楽しい。まだ簡単なものばかりだけど、味はアオ達に誉めてもらえる。

「今日は何のご用ですか?」

「うん、骨董品を見にきたんだ」

 僕は驚いて固まる。

 今までのお客さんは全てカイさん達運び屋のお客さんだったからだ。骨董品の説明なんて出来ない。

「勝手に見ても良いかな?」

「は、はい」

 デネさんはのんびりと品物を見ている。僕はそれを眺めて時が過ぎるのを待った。

「シュウ君。君のおすすめはどれだい?」

「え……っ」

 もしかして、試されてるのかな。でも僕に芸術のセンスは無い。

 僕はただ単に気に入っている絵を選んだ。

「海と空の境目、か」

 デネさんは少し意外そうな顔をした。よくわからなくて僕は首を傾げる。

「なかなか良い目を持ってるじゃないか」

「はあ……」

「シュウ君には過去の記憶が無いって聞いたんだが?」

「そうです」

 質問が途切れて静かになる。

「どうだろう、私の家に来ないかい?」

「……え?」

「シュウ君は養子という言葉を知ってるかな?」

 デネさんに僕は頭を横に振った。

「血の繋がりがなくても家族になれるんだ。私の家族にならないか?」

「……僕の家族は、アオとアリアとカイさんです」

 それ以外今の僕には考えられない。

「そうか。変なことを言って悪かったね」

 また来るよ、そう言ってデネさんは帰っていった。




「今日は客来た?」

 夕飯を作る僕の後ろでアオが尋ねてきた。今日のメニューはビーフシチューだ。

「ううん、来なかったよ」

 デネさんが来たことを、僕は三人の誰にも言えなかった。

「そっかぁ……、明日なら誰か来るだろ」

「うん」

「アオ、ふらふらしてるなら洗濯物畳むの手伝って」

「げっ! アリアが呼んでる……ちょっと行ってくるな。夕飯、楽しみにしてるから」

「うん」

 アオはいつもと同じように接してくれる。勿論アリアやカイさんも。でも僕は違う、いつも通りに出来ない。

「旨い! さすがシュウだな」

「ありがとう」

 アオはいつもはっきり物事を伝えてくれる。……時々こっちが恥ずかしくなるくらい。

 アリアとカイさんはほとんど無言で食事をする。でも毎回綺麗にご飯を食べてくれる。ちょっと失敗したときも全部食べてくれた。

「ごめん、電話だ」

 カイさんは立ち上がって奥の部屋に行ってしまった。いきなり電話が来るのは、ほぼ毎日のことだ。

「また依頼かしら」

「さぁ」

 つまらなさそうにアリアとアオが言う。僕には黙っていることしか出来なかった。

 僕はずっと此処にいたいと思ってる。でも気になるのは三人の仕事。たまに怪我して帰ってくるのはなんとなく気付いてる。

 アオ達は仕事としか言わない。だから聞くのが怖い。

「シュウ、ちょっと良いかな」

「はい」

 食べ終わった僕はカイさんに連れられて奥の部屋に入った。

「単刀直入に聞くよ。今日デネさんが来たんだろう?」

「何で……」

 わかったんだろう。僕の思考は止まりかけた。

「さっきの電話、デネさんからだったんだ」

 僕の動揺に気付いたんだと思う。そこまで言って僕の目の高さに合わせようとカイさんは屈んだ。

「養子の話、された?」

 どうしようもなくなって、僕は頷いてしまった。

「そっか……」

 カタンと何かが落ちる音がした。カイさんと顔を見合わせて扉を開けると、未開封の飴玉が転がってる。

 普段それを常備している人間を、僕は一人しか知らない。

「アオ!」

 僕は大声で叫んだけど、もうアオはいない。

「アオはどこ?」

 台所で片付けをしていたアリアに尋ねる。

「二階に上がっていったけど……」

 すぐに階段を駆け上がって、僕はアオの部屋を勢いよく開けた。

「アオ」

「……何だよ」

 真っ暗な部屋の中からアオの声が聞こえたけど、いつもより数段低くて冷たい声だった。

 僕は胸が痛くなったけど、誤解を解かなきゃいけない。ゆっくり呼吸してから口を開いた。

「話、聞いた?」

「何の」

 唸るようなアオの声。

「僕とカイさんと話してたこと」

「……何で嘘ついたんだよ」

「え?」

「さっき俺聞いたよな? 客来たか、って。何で本当のこと言わなかったんだよ」

 バサバサと本が崩れ落ちる音がした。物に八つ当たりしてる。

「…たの?」

「あ?」

「言ったらどうなったの、何か変わる?」

 口早に僕は尋ねた。

 僕だって悩んだんだ、それなのにアオばっかり怒るなんて……!

「シュウ?」

 アオの瞳が僕を映す。それは少し動揺して見えた。

「此処にいたいから、だから黙ってたのに!」

「シュウ!」

 頭の中が真っ白になって、泣きそうになって、僕は店を飛び出した。







 読んでくださりありがとうございます。


 次回はアリアの視点で書いていきます。

 ミサばあちゃん(銭湯のおばあちゃん)が出てくるのでその辺も楽しみにしていただけると嬉しいです。

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