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Delivery children.  作者: 詩音
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第3話

 今回はアオの視点で話が動いてます。注意して読んでみてください。




「ねぇ、あの子に店任せて平気なの?」

 俺の横でアリアが言う。シュウを信用してないから自然と顔が歪んだ。

 初めて見たとき、こいつは大丈夫だって思ったんだ。これでも俺の直感は当たるんだぜ?

「俺はシュウを信じてるからね」

 カイはのんびりとした口調で言った。

 さすが俺達の保護者、シュウのことよくわかってるじゃねぇか。

「おしゃべりは此処までにしよう。そろそろ目的地だ」

 この瞬間から俺は気配を殺す。勿論アリアとカイもだ。

 目の前には廃墟に近い五階建てのビル。此処に俺達の運ぶモノがあるわけだ。

「見苦しいわよ、いい加減慣れたら?」

 盛大なため息にアリアの文句が出る。

「……こんな仕事に慣れたら人間じゃなくなる」

 俺の気持ちは店に置いてきたシュウに向いた。何も起きてなきゃいいけど。

「アオ、行くよ」

「了解」

 飴が入っていたのとは逆のポケットから鉄の塊を取り出す。弾が入っているか確認をして、カイに合図を見せた。

「レディー……、ゴー!」




「あっけなかったな」

 体中に鉄の錆びた臭いがつく。指先から赤い雫が落ちてく。

 でも俺はそんなもんには慣れた。

「で、モノはどれ?」

 持っていた布で身体拭うアリア。その顔は今十数の人間を殺した奴の顔じゃない。

「うーんと……あぁ、そこに積み重なってる山の一番下の奴だ」

「アオやってよ」

「はぁ? 何で俺が……」

 積み上げたのは他でもないアリアなのに。

「女は体力が無いの」

 さらっと言うな、さらっと。こういうときだけ性別を使うのは理不尽だろ。

 仕方なくそこで言うことを聞く俺も俺だが。

「良いよ、首から上があれば良いから。後は俺がやる。二人はいつもの店に行ってから戻ってくれる?」

「わかった」

 俺とアリアはカイの言うことに従い、ビルから離れた。

 この仕事は運び屋。そうシュウには教えたけど、あんまり楽なもんじゃない。依頼人から要求されたモノを必ず運ばなければいけない。勿論それが人間の死体でも。

 運び屋になってから、俺は黒い服しか着なくなった。返り血をわからなくするためだ。乾いた血液は黒くなる。




「こんちはー」

「まーたあんた達かい。今日も血の臭いさせて」

 俺達が来たのは古ぼけた銭湯。その番台に座っているのはミサばあちゃん。

 年寄りのくせに鼻は良いみたいで、仕事終わりの俺達を見ると必ず顔をしかめる。

「仕事終わりなんだよ」

「人殺しが仕事とは悲しいこったね」

 ミサばあちゃんの言葉に何も返せず、俺とアリアはそれぞれ男湯と女湯で別れた。

 シャワーを浴びて俺は体に付いた血を洗った。周りには人がいないから叫ばれることもない。

 血の臭いを消してから、俺は番台に立つ。

「臭う?」

「いんや。うちの風呂はいつも綺麗にしてるから大丈夫さ」

「嘘言え、風呂の湯変えるの三日に一回って聞いたぜ」

「仕方ないだろ。此処等はそんなに来る人間はいないんだから」

 ミサばあちゃんが言うように俺達の住む街は貧しい人間が多い、というかほぼ貧しい人間だ。

 この国はそれなりに面積があり、二十の街でわかれている。一番街は金持ちや政治家が暮らし、二十番街は犯罪者達が暮らす。

 つまり街の番地の数が多いほどにその街の治安が悪くなる仕組みだ。

 俺の街は十六番街。まぁ悪い方だ。だから多少事件が起きても誰も驚いたりしない。

「お待たせ」

「あぁ」

 アリアと一緒に店まで戻る。一緒って言っても話はほとんどしないし、並んで歩いたりもしない。

 店が見えてきて聞いてみる。

「まだシュウのこと疑ってんのか?」

「甘すぎるのよ、二人とも」

 そう言って店の扉を開けるとシュウがソファで眠っていた。

「アリア、店が綺麗になってる」

 半年前に掃除して以来だったから相当汚かったと思う。それが見違えるほど綺麗になってた。

「シュウが一人で掃除したみたいだな」

 何も言わずにアリアは二階へ上がってく。呼び止めて文句を言ってやろうと思ったらすぐに戻ってきた。

 アリアは二階へ取りに行った毛布をシュウに掛けた。

「ん……」

 身動ぎしてシュウが起きた。

「おはよー、シュウ」

「アオ……? おかえりなさい」

 寝惚け気味にシュウは言った。

「ただいま」

 おかえりなんて久しぶりに言われた気がする。正直照れ臭いから小さく応えた。

「帰ったのはアオだけ?」

「アリアも一緒」

 俺が後ろを指差すとシュウの視線がそっちに動く。複雑そうな顔をしてるアリアの姿に。

「その毛布もアリアが掛けたんだぜ?」

 後ろから殺気がするがそこはあえて気にしないことにしよう。

「ありがとう」

 シュウはまだ眠そうでふにゃふにゃに微笑む。

「……別に」

 そっぽを向いてアリアは答えた。ホント素直じゃねぇな。

「あ、お客さんが来たんだよ」

「客?」

 俺とアリアは顔を見合わせた。

 それを気にする風でもなく、シュウは封筒を差し出した。

「お爺さんが持ってきたんだ。仕事の報酬だって」

「そっか」

 依頼人。その単語が頭によぎる。

 シュウを仕事に関わらせる気はなかったんだけどな……。

「何か言われた?」

 その場を動くことなくアリアがシュウに問い掛ける。

「ううん、特には」

 俺は胸をなで下ろした。

 まだ関わらせたくない。こいつはまだ汚れを知らないから。




「ただいまー」

「カイさん、おかえりなさい」

「ただいま、シュウ。デネさんが来たんだって?」

「……デネさん?」

 シュウは知らないだろうが、俺やアリアはよく知ってる。依頼人の常連で一番街に住む金持ちだ。ちなみに一番やばい仕事を持ち込むヤツ。

「封筒を渡してあるって聞いたけど……」

「あ、これです」

 カイは中から札束を出して数え始めた。

「うん、ちゃんとあるね。シュウ」

「はい?」

「留守番ご苦労様。今から君は本当に俺達の仲間だ」

 ……今から、って言ったか?

「おい、カイ! シュウを信用してなかったのかよ!」

「してたよ? ただ報酬を盗まれたら仲間には出来ないからね」

 確かにそうだけど、納得がいかない。シュウを試したってことじゃねぇか。

 一気に不機嫌になった俺が口を尖らせてるとシュウが寄ってきた。

「僕、皆と仲間になれたんだね」

「……そうだな」

「良かった!」

 笑顔のシュウに拍子抜けして怒りも忘れた。

「これからよろしくね、アオ」

「あぁ」

 こうして、俺に仲間がまた一人増えたんだ。







 すみません、更新がかなり不定期になってます。

 二日に一度のペースになれそうです、未熟ですが楽しみにしていてください。


 次回は再びシュウの視点に戻ります。老父も再登場し、話をかき回していく予定です。



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