第25話
アリア視点です。
華奢なナイフは大きな機械に深く突き刺さった。
「な、なんてことを…」
顔を大きく歪めるゼム。それに引き換えダンテは無表情だった。
ひびが入り、塔が崩れる。それと同時にシュウの体が宙を舞い、地面に落ちてきた。
「シュウ!」
「シュウ……!」
体が反応せずに叫ぶしか出来ない私とアオ。その代わり、カイが勢いよく走ってシュウをギリギリ受け止めた。
「シュウ!」
「しっかりしろ、シュウ!」
「あ……まだ動け、ル?」
ぼんやりした表情のシュウ。目の焦点がずれているようで、何処か遠くの方を見つめている。
声もかすれたような機械的なものになりつつあった。確実に、確実に終わりが近付いてる。
「皆……怪我ハ?」
「ないよ、大丈夫」
カイは両腕でシュウの体を支えている。
「あの人、結構可哀想な人ダッタ。僕ハもう恨みなんかないカラ、殺さないであげテ?」 動かない体に鞭を打ち、シュウはダンテを指差す。可哀想な人とは、自分の息子を失ったことだろう。
指差された本人は泣き崩れていた。
「わかった」
早口でカイが答える。カイも気付いてるんだ、シュウの最期を。
「皆ト、一緒にいれテ僕は幸せダッタ」
息で出てるみたいにシュウの声は弱々しかった。
「そ……っ、もう終わりみたいなこと言うなよ!」
アオが泣きながらシュウにつかみかかった。
止めるべきだろうが一番親しかったのはアオだ、怒る権利がある。それに、泣いてて私には止める力が無かった。
「僕のお墓、作って欲しイ。海と空の境目が、一直線ニなってるトコロ……に」
「シュウ!」
「それが、僕のワガママ」
それから、シュウが動くことはなかった。
「シュウ……」
泣きながらシュウの体を揺さぶるアオ。カイもシュウの手を強く握り締めていた。
その隣で私は、いつだかシュウとアオと私の三人で話していたことを思い出した。
多少のワガママは相手にも嬉しい。そんなことをシュウに言った気がする。
「最初のワガママが最期なんて、何考えてんのよ……」
口ではそう怒りつつも、目から溢れる涙はなかなか止まらなかった。