第23話
カイ視点です。
「あまり低レベルなことをしないでもらえませんか?」
「……よく俺達の居場所がわかりますね」
正直なところ、面倒なときにゼムに会ってしまった。
「直感は鋭いんです」
穏やかな笑みにも俺には苛立つ薬でしかなく、どうやってこの場を切り抜けるか考えていた。
「それにしても、驚きました。貴方達が逃げ出すなんて」
「あきらめが悪いんです。うちの仲間、返してもらえますか?」
「悪いがシュウは此処で暮らすことになった」
俺の言葉のすぐ後、ゼムとは反対側のところにダンテが立っていた。
「……何?」
アオが聞き返す。久々に見た彼の殺意のこもった瞳。
「君達の仲間である彼は、此処に住むんだ」
それに臆することなく、ダンテは答える。
「もう部屋は用意してある」
「そんなの知るかよ!」
「シュウを返して!」
アオとアリアが叫んだ。
「子供はうるさくて敵わんな。カイ君と言ったね?」
「……何でしょうか」
「そこの二人に言い聞かせてくれないか? シュウをあきらめるように。慰謝料ならしっかり払わせてもらう」
ダンテが指を軽く弾き鳴らし、アタッシュケースを抱えた男が走って来た。
男が素早く中を開くと、そこにはいくつもの札束が詰まっていた。
「……これでシュウをあきらめろと?」
「そうだ」
後ろではアオが今にも飛びかかりそうで、それをアリアが腕をつかんで止めている。
前を見れば優越感に浸る大人達。
「申し訳ないですが、これくらいの金額ならこちらでも簡単に用意出来るんですよ」
思わずフッと笑っていた。アオやアリアだけが報酬の使い道に困ってたわけじゃない。俺だって生活費くらいにしか使わずに、今まで貯金してきたんだ。
「この倍以上の金額を払えば、シュウを返していただけるんですか?」
「……それは、出来ない」
「ダンテ様……!」
彼の決断にゼムや周りの人間は驚きの声を上げた。
「もっとお金があればR404以上の完成品が出来るんですよ?」
「シュウを物扱いすんな!」
再びアオが怒鳴る。
「うちの子、あんまり怒らせないでもらえます? キレると俺でも簡単に止められないんで」
それを押さえつつ横目でゼムを睨みつける。彼は戦闘向きではないらしく、ヒッと息を飲んで小さくなった。
「余程シュウの顔に思い入れがあるようですね。あれだけ同じ顔を作るなんて、俺から見たら狂気の沙汰ですよ」
「あの子は……私の子供だ」
ダンテの言葉にアオは動きを止めた。無論、俺やアリアもその事実に固まっている。
「事故で死んだ息子と、もう一度人生をやり直したい」
重々しい言葉。それは本心だとわかるのには充分だった。
「だからシュウは渡さないし、君達を此処から逃がすわけにもいかない。勿論、酸性雨の計画を崩すことも……!」
ダンテの目にぐっ、と力が入る。
「……殺れ」
大人達が小型銃を構えた。
「緊急事態発生、緊急事態発生!」
警告音とともに、機械の声が鳴り響く。
「何事だ!」
ダンテが大声で叫ぶ。
「メイン装置室に何者かが侵入したようです!」
「何……?」
「まさか、シュウ?」
アリアが呟いた。
「行こう」
俺はアオとアリアの腕をつかんで走り出した。