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Delivery children.  作者: 詩音
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第1話



 真っ暗な闇の中、僕は真直ぐ歩いてる。

「……ウ、シュウ!」

 歩いてきた方から焦ってるような声が聞こえた。子供特有の高い声だ。

「お前だけでも、逃げろ」

 聞き覚えのあるそれに、何故か僕は涙が止まらなかった。




「あ……」

 今のは夢だったらしい。僕は目を覚ました。

 場所は闇の中でも街の中でもなく、部屋の中だった。体に当たる感触でソファに横になっているのがわかる。

 窓を叩く雨音が自然と僕の耳に入ってきて寝返りをうった。


「やっと起きたな」

 僕の目の前に現れた銀髪の少年、アオはじっと僕をじっと見つめる。

「お前倒れたんだ、覚えてるか?」

 記憶喪失だからすぐに忘れると思っているのかもしれない。

「うん、覚えてる」

「そっか」

 安心した顔になって僕もちょっとほっと息を吐く。

 アオは僕にマグカップを差し出した。甘い匂いが鼻をかすめる。

「飲めば? ココアだけど……、って記憶喪失はココアわかるのか?」

 僕は記憶喪失という名前にされたらしい。それだと呼びにくい気がする。

「……シュウ」

「シュウ?」

「夢でそう呼ばれたんだ。誰が呼んだのかわからないけど」

 ただの夢なのに、自分を呼んでる気がしたんだ。途中で変なことを言ったんじゃないかって思って語尾を弱めた。

 少し考えてから、アオはココアを口にした。

「じゃあこれからお前はシュウだな」

 俺はアオで良いから、そう言ってアオは口端を片方上げて笑ってくれた。




「ねぇ、アオ。ここまで僕を運んでくれたの?」

 さっきと外の景色が少し違う。体に乗せられた毛布をどかしながら聞いた。

「あぁ」

「一人で?」

「当たり前だろ」

 僕は驚いた。体格だってそんなに変わらないから運ぶのは簡単なことじゃない。

「もしかして自分が重いとか心配してんの?」

 何とも言えずに黙る。僕は自分の身長も体重もいくつか知らない。

「軽かったよ、それに俺結構鍛えてるし。……お前本当に記憶喪失なの?」

「え?」

「だって普通に話せるから」

「あの……」

 アオの頭にある記憶喪失のイメージを変えようと口を開いたそのとき。

「アオ、まさか記憶喪失は何もわからないとでも思ってるの?」

 突然降ってきた声に僕は心臓が飛び上がりそうになった。

「アリアか。急に話し掛けんなよ、シュウが驚いてんだろ」

「悪かったわね、あんたの勘違いを直すのが先だと思ったのよ」

 そう答えたのは背中まである茶髪の少女だった。肌は陶器のように白く、漆黒の瞳で胡散臭そうに僕を見ていた。

 目はともかく、僕にはその子がとても可愛らしく感じた。

「俺のどこが勘違いしてるっていうんだよ」

「記憶喪失にはね、いろんな症状があるの。言葉も覚えてないから何もできない場合もあるし、その子みたいに普段の生活が出来ても自分のことは一切わからない場合もあるの」

「へぇ」

 僕にはアオが適当に答えているようにしか見えなかった。

「あの、アオの友達?」

 僕は女の子に聞く勇気がなくてアオに尋ねる。

「ただの仕事仲間よ。アオ、この子どうする気?」

「此所に住ませれば?」

「はぁ?」

 明らかに不機嫌そうなアリア。眉間のしわが深い。

「あの、僕もう大丈夫だから、お世話になりました」

 助けてもらった相手に迷惑をかけるわけにはいかないよね、やっぱり。

 僕は頭を下げてから立ち上がって外への扉に向かう。

「馬鹿、雨降ってんだって言ってんだろ!」

 アオの手が僕の腕をつかんだ。怒鳴られてびくりと肩が跳ねる。

「お前も言いすぎだ!」

「あんたが甘いの。この国ではそう簡単に人を信用しちゃ駄目、それくらいわかってるでしょ?」

 冷たく言い放つアリア。

 同い年くらいなのに僕よりも落ち着きがある。……よく見ればアオもそうだ。たまにだけど大人びた目をしてる。

「シュウは記憶喪失だぞ?」

「嘘かもしれない」

「それなら雨のことを知らないはずがない!」

 僕を置き去りにして二人の口喧嘩は激しさを増していく。

 どうしよう、これ止めた方が良いのかな……。

 モタモタしてる僕の頭に何かが触れた。

「はい、ストップ」

 僕の頭に手を置いたのは右目に眼帯をした白髪頭の男の人だった。

 年は二十歳前後で僕が見ても綺麗な顔立ちをしてる。

「カイ……! いつも良いとこで邪魔してくれんじゃん」

 怒りを見せつつ笑ってるアオの表情はかなり恐かった。

「相変わらず気配消すの上手いわね」

 アリアは喧嘩する気をなくしたようで、髪を後ろへはらった。

「あの……」

 僕は恐々カイという男に話しかける。

「あぁ、ごめんね? こんな喧嘩見せちゃって」

 頭にあった手が離れて屈み、僕に目線を合わせてくれる。

「俺はカイ。わかりやすく説明すると……、この二人の保護者かな」

 優しそうに微笑むカイさんを見て僕は少しだけ安心した。

「僕はシュウ、だと……思います」

 はっきりとした自信がなかったので、そう言ってしまった。

「うん、君は今日からシュウだ。たから自信持ってシュウって名乗って良い」

 カイさんの言葉が嬉しくて僕は大きく首を縦に振った。

「素直でよろしい」

 そう言ってカイさんはフッと笑みを見せた。

「アリア、シュウはこれから俺達の仲間ね」

「カイまで……、本気なの?」

「うん。今決めた」

「……付き合ってらんない、勝手にしてよ」

 アリアは盛大にため息を吐いて階段を昇っていってしまった。

 僕がそれをじっと見ているとアオが隣に並ぶ。

「気にすんなよ、アリアはいつもあんなかんじだから」

「……うん」

 そう言われてもやはり好かれてない人間と一緒に住むのは抵抗があった。

 いつか認めてもらえるといいな。

「シュウ。今からこの国のことを話すから、ちゃんと覚えてね?」

 カイさんの言葉に僕は背筋を伸ばした。

「俺上にいるわ」

「アオ、悪いけどお前のレインコート貸してくれない?」

「……取ってくる」

 アオは階段を駆け上がった。

 展開についていけずに僕がカイさんを見上げていると、また頭に手のひらの感触。

「百聞は一見にしかず、ってね」

 そう言ってカイさんは僕に微笑んだ。







読んでくださりありがとうございます。


更新は遅いですが、週一ペースで頑張ろうと思います。よろしくお願いいたします。


なお、プロローグと第1話の内容を少し変えました。勝手なことをして申し訳ありません。

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