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Delivery children.  作者: 詩音
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第18話

 シュウ視点です。



「今日デネさんに会ってはっきりしたんだ」

 強めな口調でカイさんは言い出した。

「何が?」

「セシリアの奴ら、この世界中の雨を作ってるんだ」

「カイ……、意味がわかんねぇんだけど」

「正確に言えば、雨の元となる液体を作ったってところかな」

「……それに何の得があるの?」

 思わせぶりなカイさんの言葉にアリアも気になるようだ。

「今セシリアはこの世界の雨に対応できる物質を開発してる。つまりそれを世界中に売り出して大儲けってわけ」

 凄く壮大な話だ。世界全部が関わってる研究所で僕が作られたと思うと圧倒された。

「で、対応できる物質の塊がシュウだと思う」

「……僕?」

「そっか、雨に濡れても何もねぇもんな……」

「ま、説明はそんなもんかな」

「それがカイがセシリアを潰したい理由?」

「いや? 個人的な恨みがほとんど」

「個人的な恨みって?」

 つい気になって僕が尋ねる。

「仕事を断ったのに関わってきたっていう約束違反と、シュウを物扱いしたこと」

 カイさんの目に光が宿った。

 半分は僕のために怒ってくれてるんだ。

「俺達を敵に回したな」

「馬鹿な奴らね」

 アオとアリアもカイさんに同調する。

「シュウ」

 カイさんは僕に視線を向けた。

「お前の生みの親を傷つけることになるんだけど……シュウはどうしたい?」

「どういうこと?」

「俺達と一緒に来るかってこと」

「シュウの生まれた場所を壊すのは気が進まないけどね」

 三人は僕が行かなくても行動に移すと言ってるんだ。

「僕も一緒に行く」

 どんなことが起こるかわからないから、何があっても皆は僕が守る。

「じゃあまずは、自由行動だね」

「自由行動?」

 意外な言葉に僕は思わず聞き返した。

「まだ何もわかってない状況で戦地に行くのは無謀でしょ。デネさんに研究所の設計図とか調達してもらってる最中だから動きようがないわけさ」

「私買い物してくる。シュウの好きそうな本買ってくるからね」

 笑顔を見せてアリアは出ていった。

「じゃあ俺は奥の部屋に篭るから。」

 カイさんもその場を去った。

 残された僕とアオはお互い顔を見合わせる。

「じゃあシュウに良いもん見せてやるよ」

「良いもの?」




「アオー」

「ん?」

「どこに行くの?」

「もうちょっとだから待ってて」

 良いものは初めて僕が入った部屋にあるらしい。

 その部屋は埃被った物置で、壺やお皿が積み重なってた。

「これ」

「うわぁ……!」

 目の前にはお菓子の山。しかも半分以上が飴玉だった。

「今まで食えなかったヤツ」

「これ、食べれるの?」

 常温保存に多少の不安がある。

「当たり前だろ!」

 まぁアオは気にしなさそうだけど。

 僕とアオは互いの背中を寄せあってお菓子を食べ始めた。

「シュウ暖かいな」

「アオもね」

 こんな風にのんびり過ごせる日はまた来るかな、なんて暗いことを考えてしまう。

「ねぇ、カイさんとアリアの昔ってどうだったの?」

 それを僕は一度も聞いたことがなかった。

「カイは……自分の親を殺した人間を復讐で殺したことがあるらしい。親が死んだショックで白髪になったんだと」

「……そう」

「ふらふらしてたらデネさんに運び屋を誘われたらしい」

 つまりここを作ったのはデネさんだったんだ。

「アリアは親に捨てられて十六番街を歩いてたところをカイが拾ってきた」

 皆にはそれぞれ辛い過去があった。僕だけが悲しい思いをしてるわけじゃない。

「まぁ、ろくな親に当たらなかったってことかな」

「僕の親も、酷い人だよ」

 それがこれから潰しに行く相手。

「俺らの親はカイ。それで良いじゃん?」

「うん」

 運び屋のメンバーが僕の家族だ。

 お菓子の甘い香りに包まれ、僕は思った。




「ただいま」

 アリアが荷物を抱えて帰ってきた。

「おかえりなさい」

「はい、これ」

「あ……」

 渡された紙袋は数冊の本が入っているのが容易にわかった。

「開けてみて」

 目をキラキラ輝かせるアリア。

「自分の選択に自信あるみたいだな」

 棒つきの飴を口に入れながらアオが言った。

「当然でしょ」

「いつからそんなに自信家になったんだよ?」

「自信じゃないわ。シュウが喜ぶ確信があるの」

「綺麗……」

 その本は風景画がたくさん入った画集だった。

「良いでしょ。私も見つけたとき感激したもの。同じ画家が描いたらしいの」

「結構綺麗だな」

 アオも覗き込んでポツリと呟いた。

「あら? アオにも芸術がわかるようになったのね」

「何?」

 睨みあう二人。

 僕は構うことなく、本に魅入っていた。




「あっ」

 最後の一ページに僕の視線は釘付けになった。青い海と空の境目だ。

「あの絵だったんだよね」

 横でアリアが言う。

「ありがとうアリア、僕宝物にする」

 幸せな高揚感が僕を包み込んでいた。

「お待たせ。始めようか、作戦会議」

 笑顔のカイさんが出てくるまでは。







 読んでくださり、ありがとうございます。


 生き物に悪影響を与える雨は研究所で意図的に作られた…というイメージを持っていただければ嬉しいです。


 また明後日お目にかかりたいと思います。それでは。


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