第15話
カイ目線です。前回出てた怪しい男(?)も出てきます。
「貴方が運び屋ですか?」
「依頼人の方ですね」
俺は今一番街にいる。目の前の人間から依頼を受けた、というか今から受けるところだ。
「探してほしい人間がいるんです」
神経質そうにハンカチで汗を拭き、辺りを見回す男。
「……その前にお名前を伺ってよろしいですか?」
「あの、匿名ということではいけませんか」
「申し訳ありませんがそれはちょっと……」
まぁ本当は良いんだけど。今までだって名も知らない人の依頼は引き受けてきた。
それでも人探し依頼は珍しいし、匿名希望なんてみるからに怪しいから。
「……私はゼムと申します。セシリア研究所の研究員です」
「セシリアって、色々な機械の開発を行ってる一番街で結構有名な研究所ですよね?」
テレビでも何度か観たことがある。
「よくご存知ですね。そのとおりです。最近は違う方面でも活動しています」
「へぇ……」
そんな人間が人探しか。
「早速、依頼のことなんですが」
「はい、人探しですよね」
俺がそう言った途端にゼムの目が空をさ迷った。
「人、というか……モノですかね」
「探してほしいモノ?」
「これです」
テーブルに一枚の写真が乗った。
「……この子を?」
それはシュウ以外の誰でもなかった。
思わず俺は唾を飲む。
「子供に見えますがこれは我々が開発した、R404というロボットです」
「……随分よく出来てますね。本物の人間みたいだ」
心の中で俺は怒りに似た感情を覚えた。
シュウをこれ呼ばわりするなって。もしこの場にアオがいたら秒殺だ。それも悪くないけど。
それと同時に、シュウ自身が言っていた仮説が本当になってしまい、少し目眩がした。
「404はセシリアの最高傑作なんです。しかし……ある日逃げ出してしまいました」
「ロボットにそんなことが可能なんですか?」
「お恥ずかしい話ですが、私にはそれほど製造能力がありません。ダンテ様がロボットに感情や考える力、体温や心音を与える方法を編み出したのです」
「ダンテ……」
運び屋の顧客リストにはない名前だ。
「彼は研究所の最高責任者です。数多くの作品を生みだしました」
「素晴らしい方なんですね」
作り笑いを浮かべて対応する。
「勿論。どうでしょう、R404を探していただけませんか?」
俺は笑みを溢した。
そんなの、答えはわかりきってる。
「お断りします」
「……何故です」
明らかにゼムの表情が変わった。期待を裏切られたんだから当然だろう。
「俺は探偵ではないんです」
もう目の前の人間と話すことはない。さっさと帰ってシュウの飯を食べよう。
俺は会計を済ませようと立ち上がる。
「待ってください」
「……これ以上何か?」
「これだけの情報を話してしまったんです。周りに知られたらどうしてくれるんですか」
そっちがぺらぺら話してたくせに。……相当怒ってるな。
ゼムの顔が青白くなり、カタカタと震えている。
「俺は秘密主義ですから。今まで関わった人間に対してもそうしてきました」
「そんな言葉を信じると思うのですか?」
しつこい男だな。こういうタイプとは友達になれない。
俺は自然とため息を吐いた。
「信じる信じないは自由ですよ。ただ言っておきますが、貴方達がコチラ側に無理矢理入ろうとしたら、俺は然るべき対処をさせていただきます」
まだゼムが何か言いたそうな顔をしていたが無視して喫茶店をあとにした。
「もうこんな時間か……」
空はすっかり暗くなって星が瞬いてる。
喫茶店を出たときは昼過ぎ、今は勿論夜だ。この期間、俺が何をしていたかと言うと。
「俺に何か用?」
「うぐっ……!」
ボキッと骨が折れる音が耳に響く。
「個人的に肉弾戦は苦手なんだけど」
うざったいくらいに俺の後ろを付いてくる男三人。
俺男にストーカーされる趣味は無いんだよね、全く。
「くそっ……! いつから気付いてた!」
「喫茶店出てすぐ」
二人目も腹に蹴りをいれた。
凄くわかりやすかったよ。殺気が物凄いんだから。
上手くまいて帰ろうと思ったらゼムみたいにねちっこいから潰すことにした。
「がはっ!」
血と唾液の混ざった液体が男の口から出てきた。
あーあ、肋骨折っちゃった。痛そう。
「あとは、お前か」
「ひっ……」
「生と死どっちが良い?」
「た、助けてくれ……まだ死にたくない!」
汗と涙でぐしゃぐしゃになった顔の男にすがりつかれた。
「わかった。助けてやるよ」
「本当か?」
「ただし、アンタらのリーダーのゼムって人に言っておいて? アンタの組織壊すかもよー、って」
あんまり俺を怒らせないで欲しいなぁ。
「わ、わかった。言っておくから……!」
「じゃあ、さっさと俺の前から消えて?」
慌てて逃げる後ろ姿を眺めてから、俺は家に帰った。
「ただいま」
「おかえり」
「おかえりなさいカイさん」
「遅ぇよ! 夕飯待っててやったんだぞ」
三者三様すぎる出迎え。俺はそれが面白くて少し笑ってしまった。
「何笑ってんだよ、早く飯食おうぜ?」
「はいはい」
今日はシュウ特製のポトフ。いまいち美味しくなかった気がしたのはシュウの努力不足かアイツらに気分を害されたせいか……絶対に後者だ。
「カイさん、美味しくない?」
「え?」
悲しそうな顔でシュウがこちらを見てる。
「いや、腕上げたなぁって。凄く美味しいよ」
「良かった」
シュウのホッとした表情に俺は胸が痛んだ。
早く事実を話すべきかもしれない。でも切り出して良いのかな。
「あのさ、三人とも……」
「やっと話す気になった?」
呆れたような声のアリア。
「え?」
「さっきからずっと暗い顔で考え事してんだから気付くって」
夕飯を食べ終えて満足したアオもアリアに続く。
「カイさん、僕の話なんじゃないの?」
図星だ。尋ねてくるシュウに何も言えなかった。
「僕なら大丈夫だよ。だから、あんまり悩まないで欲しいな」
少し、いやかなり驚いた。俺の思ってるより三人はずっと大人だ。
それは俺としては寂しい気もするけど、素直に嬉しかった。
「話すよ。シュウのことだ」