第13話
この小説を開いてくださりありがとうございます。今回はアリアの視点です。
シュウが家を飛び出した。アオと喧嘩して以来だ、なんて頭の片隅で思う。
「アオ待って」
カイが今にも飛び出しそうなアオの腕をつかんだ。
「止めんなよカイ!」
「じゃあ聞くけど、行って何て言うの?」
「そりゃあ……」
アオは口をつぐんだ。
確かに、追って言うべきことが私にもよくわからない。アオも同じ気持ちなんだろう。
「今から今日あったことを全部アオに話す。手短に言うからちゃんと聞いてくれよ?」
「……わかった」
「アリアは先に探してくれる?」
「え、でも」
見つけたあとに言うべきことがわからないのに。私はそう表情で語っていた。
「大丈夫だよ。いつものようにシュウと向き合えば良い」
カイが私を気遣ってくれた。
「わかった」
その思いを踏みにじるわけにもいかず、傘をさしてシュウを探しに走った。
スーパーにはいなかった。とりあえず私は前にシュウが家出したときに見つけた銭湯に向かう。
「ミサばあちゃん」
「なんだい、また仕事帰りかい?」
「違うよ。ねぇ、シュウ見てない?」
「見てないねぇ」
「そう……」
これで宛てがなくなってしまった。
「何だい、また喧嘩したのかい?」
「そんなとこ」
「早く仲直りしなさいよ」
「……うん」
お礼を述べてから私はまた捜索を開始した。
「シュウの行きそうな場所か」
まったくわからない。盛大にため息をつくと、背後にふと視線を感じた。
私が後ろを振り向くと電柱付近で何かが慌ただしく動いた。
「……シュウ?」
呼び掛けた瞬間、シュウは私のいる方とは逆方向に逃げ出した。反射的に私は彼を追いかける。
どちらのものともとれる荒い息遣いが雨の中聞こえる。それなりに長い間走っていたらしい。
シュウは傘をさしてなくて、服はびしょ濡れだった。
雨に濡れても平気なのは本当なんだと走りながら実感する。傘をさしたままだと走りづらいとも思った。
「あ……っ!」
勢いよくシュウが転んだ。チャンスと言わんばかりに私の足は加速した。
「大丈夫?」
「平気」
逃げるのをあきらめたのか、廃墟の方に歩き出した。私もそれについていく。
「いつから後ろにいたの?」
「……銭湯出たところから」
すねたような口調でシュウが答える。
「どうして?」
「アリア一人じゃ何かあったとか困るかと思った」
私に背中を向けて、膝を抱えて丸くなった。心配してくれたことに口元がゆるむ。
「何で探してくれてたの?」
「何でって……」
「僕人間じゃないよ?」
少しだけ冷たい、拒絶を表す声。
それを聞いた瞬間、何かが崩れる音がした。
「人間だろうが人間じゃなかろうが関係ないでしょ!」
戸惑うシュウをよそに、私の口は止まらず走り続ける。
人前で、というか生まれてからこんなに怒鳴ったのは初めてかもしれない。
「……私達仲間じゃないの?」
生まれた家で懐かしい人に会ったせいなのか、昔に置いてきた私の感情はフタを出来そうにない。
珍しく泣きそうになった。
「仲間で、いてくれるの?」
シュウの丸い目は少し濡れていた。
「当たり前でしょ。それに、シュウが人間じゃないって話はまだ確かなことじゃない」
「?」
首を傾げる彼に近寄って膝を地面につける。
「アリア?」
シュウの左胸に手を当てる。
「ちゃんと心臓が鳴ってるし」
左胸から左手へ私の手を移動させる。
「こんなにあったかいんだから」
私は軽く笑みを浮かべた。
「帰ろう、シュウ」
立ち上がってシュウへ手をさしのべた。
「……うん」
私の手をとって二人手を繋いだまま並んで家に帰る。
「いつも僕を迎えにくるのはアリアだね」
「偶然にもね」
「仲間って言ってもらえて嬉しかった」
唐突な感想に私は頷くしかなかった。
「だから、もう逃げないことにするよ」
「……そう」
シュウにとっての大きな決意。否定する必要がないから相槌を打った。
「今度もしアリアが逃げたら僕が迎えに行くね」
「楽しみにしてる」
手を繋ぐと少しだけ違う体温が伝わってきて、それがなんだか凄く嬉しい。
だからシュウに気付かれない程度に手を強く握り締めたんだ。