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Delivery children.  作者: 詩音
13/27

第12話

 シュウ視点です。



 どうして、こうなっちゃったんだろう……。

「シュウ、おいシュウってば!」

 ドア越しでくぐもったアオの声が聞こえた。でも今の僕には誰かと顔を会わせる勇気が無いんだ。

 自分がどんどんわからなくなってく。堪えきれずに僕はまた涙が溢れてきた。




「ねぇ、夕飯何が良い?」

 いつも通り夕飯の買い物へ行く。カイさんはアリアに呼ばれて出かけたので必然的に僕とアオが留守番。

「ケーキ」

「わかった」

「えっ、ホント?」

「アオの大好きなピーマンたっぷりの野菜炒め作るね?」

「げっ……!」

 アオは喜びから絶望へと表情を変えた。

 アオはピーマンが大っ嫌いらしい。

「ケーキなんて冗談だから! あ、ハンバーグ食いたい!」

 あまりに必死なアオに僕は自然と微笑んだ。

「はいはい、ハンバーグね」

「……馬鹿にしただろ」

 ムスッとした顔でアオが睨んでくる。

「馬鹿になんてしてないよ。行ってくるね」

「おー」




「お肉は確か向こうだったな」

 もう買い物や料理にも慣れた。気付けばもうあの三人に出会ってから一ヶ月を過ぎてる。

「あとは……うん、大丈夫」

 手早く会計を済ませてスーパーから出る。

 空は厚い雲に覆われて、今にも泣き出しそうだった。早く帰らないと。

 僕は買い物袋を両腕に抱えて走り出す。

 周りの人はすでに傘をさし始めてる。それが余計に僕を焦らせた。

「わ……っ!!」

 むしろ焦り過ぎた。

 家まであと少しのところで僕は足を絡ませて転んでしまった。袋から玉葱が溢れ落ちる。

「いたた……」

 服の泥を払い落として転んだ部分を見た。 ……え?

 声にならない驚きが僕を包む。

「何、これ」

 傷からは鈍く光る銀色のものが見えた。

 血が出てない。それに人間の体内は銀色になったりしないはずだ。本で読んだことがある。

「何で……?」

 僕の頭はぐしゃぐしゃにおかしくなりそうだった。

 そんな中で、一つの仮説が浮かんでくる。

「僕は、ニンゲンじゃない……?」

 雨が降り始めた。

 周りにはもう誰もいない。小雨達は容赦なく僕の体を打つ。

「痛くない」

 雨に当たってるのに。痛みも苦しみも、何も感じない。

「生き物には、毒なんじゃなかったの?」

 悲しいことに仮説は強まる一方だ。

 僕は家に駆け込んだ。待ちくたびれて眠る姿を一度見てから、アオとの共同部屋に閉じ籠った。




「一体何があったんだよ……」

 そこで今に戻る。

 アオの悲痛な声にも、今の僕は耳を貸せない。

「シュウ? カイだけど……開けてくれないかな」

「ねぇ、どうしたの?」

 アリアの声もする。二人とも帰ってきたんだな、なんて動かない頭で考える。

「返答なしか。それなら強行突破だ」

 無言の僕に痺れを切らしたカイさんは指をボキッと鳴らした。

 一瞬の静まりの後、爆音が家中に響いた。

「……っ!」

 僕のいる部屋に備え付けのドアが倒れ込んできた。

 砂埃が舞う中、呑気な笑い声が聞こえる。

「あはは、やりすぎたかな」

「修理費はカイの貯金から取るわよ」

 ドアを吹っ飛ばしておいて、平然と話すアリアとカイさん。

「シュウ、大丈夫か?」

 アオは僕に駆け寄ってきた。

「あ、えっと……」

「濡れてんじゃねぇか!」

 話そうとする僕を無視したその声にアリアとカイさんの会話が止まった。

「濡れてるって……」

「皮膚は? どうなってるの?」

 普段冷静なアリアが髪を乱して僕に寄ってくる。

「……僕は、おかしい?」

 もう誰の顔も見れなかった。

 見たくなかった。

 きっと、不思議そうな顔で僕の方を見てるはずだから。

「さっき転んだら、血が出てこなかったんだ。しかも皮膚の下は、銀色になってる。さっきだって雨に濡れたのに何の異変も無いんだ」

 動揺をすべて吐き出そうとしたら、僕はそうまくしたてた。

 それに驚きを見せるアオ。アリアとカイさんは困惑気味に顔を見合わせる。

 それらが僕の心を崩した。

「シュウ!」

 僕はまた家を飛び出した。アオやアリアの呼び止める声を背中にしながら。

 雨が僕をあざ笑っているような気がして何度目かの涙が流れた。

 僕は泣いてばかりだ。





 読んでくださりありがとうございます。


 ちょっと暗い話ですね…というかシュウ君は情緒不安定ですね。そのうち大人へと成長してほしい今日この頃です。





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