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Delivery children.  作者: 詩音
12/27

第11話

 お出掛けしているアリアの視点です。




 十六番街から十番街までの電車が約二時間。それに五番街までは一時間くらい電車に揺れる必要がある。

 交通費は勿論、生活費は自腹。カイによって仕事の報酬はきちんと三等分されるから。

 それに対して私とアオはあまり賛成していない。大金を手にしても、使い道が無い。

 アオは細々とお菓子を買って報酬を無理に使ってる。

 私は服を買うためだけに此処まで来るわけがない。

 五番街に行くのにはお金を減らすことと、もう一つだけ理由があった。

「相変わらず大きな家ね」

 私の正面には十六番街にある家の五つ分はある豪邸がそびえたってる。ただ豪邸と言っても、金持ちがそれなりにいる此処五番街では普通の家でしかない。

「家族三人と使いの人達だけでどれだけ広い家を使うのかしら」

 見上げる私の視線は険しく、もの寂しかったと思う。

 此処は私が生まれた家だから。




 それなりに裕福な家で育った。初めの何年かは幸福なもので、それだけが私を支配してた。

 でもそれは新たな命が我が家にやってきたことで終わりを告げた。

「可愛いわぁ」

「見て、頭の良さそうな顔ねぇ」

 もてはやされた妹。

 私の嫉妬は日に日に大きくなった。

 それにいち早く気付いたのは、母でも父でもない。

「アリアお嬢様?」

 急に現実に引き戻された。懐かしい声に、私は小さく息を飲んだ。

「やはりお嬢様」

「……ルカ」

 嬉しそうに顔をほころばせて近寄ってきた老婆。

 それが私の変化を一番に感じとった私の教育係、ルカだった。

「懐かしゅうございます……」

「うん、ホントに」

 あんまり変わってなくて良かった、と軽く息を漏らす。

「それで……今日はどのようなご用件で?」

「別に。ただ見にきただけ」

 本当はポストにお金でも差し込んでおこうかと思ったけど、ルカに会えたからやめた。

「あの、アリア様。此処に戻るのなら私の方から……」

「いらない」

 先の言葉は聞く必要がない。帰りたいから此処に来たんじゃないから。

「で、ですが!」

「私にも大切なものが出来たの。この家とは正反対の形だけど」

 私は家を見上げる。

「それに、捨てた娘の顔なんか見たくないでしょ」

 口端を片方つり上げ、嘲笑した。




 幼い私の変化をルカは両親に相談した。相談された当人達は驚いたらしい。

 気付かなかったとは、幸せな脳味噌だと今は思う。

 昔は大切な一人娘だった、でも今は違う。代わりがいる。そう考えた両親は私を十六番街に捨てた。

 そのときの私には悲しみも怒りもまったく出て来ず、ただただむなしかった。

「お変わりになられましたね」

「五年経ったからね」

「ルカは祈っております。アリアお嬢様に幸せがあり続けるよう」

「……ありがとう」

 照れ臭くてルカに背を向けてお礼を言い、すぐにその場を走り去った。

 捨てられた原因がルカでも、感謝はしてる。私がこの家で一番安心出来たのは、ルカの隣だったから。




「あ、本屋」

 思いきり走ったせいで体がほてる。

 当初の目的を思い出して、適当に気に入った服を数着買ってから私は五番街で一番大きな書店に入った。

「これで良いか」

 少し厚めの本を買った。これなら読みごたえがありそうなので、シュウも喜ぶだろう。

 また三時間かけて帰ろうと、駅に向かったそのとき。

「君、ちょっと良いかな」

 私は知らない男に声をかけられた。

 黒っぽいスーツに真っ黒なサングラスをかけた見るからに怪しい男。

「何ですか?」

 カバンに忍ばせた銃に触れる。

 此処で撃ったら人目につくかしら。

「そんなに警戒しないで。今ちょっと人を探してるんだ」

 人探しだからって胡散臭いことに変わりないでしょう。

「君と同じくらいの歳でね、こんな顔なんだけど……」

 ひらりと写真を見せられた瞬間、私の心臓がと跳ね上がる。

 真っ黒な髪に澄んだ瞳。いつもと表情が違うけれど確実にそれは、シュウだった。

「知ってるのか?」

 急かすように男が尋ねてくる。いつの間にかサングラスははずれていた。

 たいして顔は良くない。

「似た友達がいるけど、その子女の子なの」

 勿論嘘。何としてもごまかす必要があったから。

「そうか……呼び止めてすまなかった」

 男は再びサングラスをかけてどこかへ行ってしまった。

 脈打つ心臓を必死に押さえ込み、カイに電話をかける。

「カイ、今時間ある?」

「……どうかした?」

 普段冷静な私の声はそれをかけらも感じさせないくらい焦っていた。

「後で話すから……今から二時間後に、十番街で会える?」

「わかった」




 私とカイは十番街の喫茶店にいた。

「シュウを、探してる人がいたの」

「本当に?」

 カイは目を丸くした。心なしかショックを受けているように見える。

「写真見せられた。無表情だったから違和感あったけど、あれはシュウよ」

「……その探してる人に言った? うちにいるって」

 私は首を横に振る。

「見るからに怪しそうなだったから。それに五番街で探すならニュースとか張り紙とか対処があっても良いはずなのに……」

「それがなかったわけだ」

 私の言葉を引き取ってカイは手に顎を置く。

「シュウはどこかの組織の一員、今はそう考えるべきかな」

 何とも言えずに、私は妙に苦いカフェオレを口に運んだ。

「カイ、このことシュウには?」

「言うべきじゃないな。アオにも言わない方が良い」

「馬鹿がつくくらい正直だからね。……砂糖入れすぎじゃない?」

 普通のティーカップに砂糖四杯。さすがに甘すぎる。

「考え事してるときは別なんだよ」

 スプーンでぐるぐるかき混ぜ、平然とした顔でコーヒーを飲み込む。

 ……見てて吐きそう。

「さて、これから忙しくなるな」

 飲み干したカップを置いて指を組む。

「仕事プラスシュウの調査と警護」

「警護って……何をするの?」

「簡単に言えば発見防止かな。十六番街の人や依頼人にシュウの存在を口止めするとか」

「それで大丈夫だと思うの?」

「何もやらないよりはマシでしょ」

 私が飲み終えたのを見てから、カイは立ち上がって会計に向かった。

 割り勘にしようと提案したがカイはかたくなに拒否した。

「アリア、年上の男に恥かかせる気?」

 確かに端から見れば男は格好悪く見える。

 喫茶店を出た後は互いに終始無言だった。

 カイは仕事の依頼人達へ電話をかけまくっており、私はただそれを見つめるしかない。

「アリア、デネさんに電話してくれる? 俺は他にかけなきゃいけないから」

「わかった」

 携帯を開いた途端、電話がかかってきた。

「誰から?」

「アオ」

 何かお土産でも欲しいのかと思いながら電話に出る。

「もしもし」

「シュウが、シュウが変なんだ……」

 明らかにその声は震えてる。

「シュウが変……?」

 名前を聞いて私とカイは過敏に反応した。

 さっきまで話してたばかりだから、こっちも心が揺れる。

「何があったの?」

「夕飯の買い物から帰ってきたらすぐに部屋に閉じ籠ったんだ。呼んでも出てこなくて……今までそんなことなかったから」

「すぐに帰るからアオはシュウの様子を見てて」

 強引に私の携帯を取り上げてカイはアオにそう言った。

「急ごう」

 私達は急いで家に向かった。








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