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Delivery children.  作者: 詩音
11/27

第10話

 今回はシュウの視点です。



 僕は暗い闇の中にいた。アオに初めて会ったあの日と、まったく同じ感覚に陥る。

「誰か、いないの?」

 返事はない。その代わり、頭に色々な映像が流れ込んできた。

「素晴らしい……お前は最高のニンゲンだ!」

「この薬で世の中は変わる。わかるか?」

「優しさなんて感情はこの世に必要ない」

 全て断片的で、声から推測すると話してるのは同一人物だ。

「ニゲテ……、キミハココニイテイイニンゲンジャナイ」

 ただ最後に聞いたのは、泣きたくなるくらい懐かしい声だった。




「シュウ、シュウ」

「ア、オ……?」

 目を覚ました僕を待ってたのはアオだった。不安そうな顔で僕の顔をのぞき込んでて少し驚く。

「大丈夫か?」

「うん……」

 僕は泣いていた。止めようと頭で考えても、体はなかなか言うことを聞かない。視界がずっとぼやけてる。

 何も言わずにアオはタオルを渡してくれた。

「怖い夢でも見たのか?」

「……よく、覚えてないや」

「そっか。じゃあ寝直そうぜ? まだ夜中の二時だ」

 一つ大きな欠伸をしてアオはベッドに潜った。僕は小さくおやすみと呟く。

 本当は、夢の内容を全部覚えてる。でもアオには言えなかった。

 あの人達は僕の何なんだろう。

 もう一度ベッドに寝転んでも、僕は眠れなかった。




「何、その顔」

 朝一でアリアから言われたその言葉は少なからず僕を傷つけたよ。

「眠れなかったんだ」

 食事用の四角テーブルにある椅子に力なく座る。

 だるいし頭が重い。望んだわけじゃないけど、夜更かしなんてするものじゃないな。

「そう。アオは?」

「まだ寝てる」

 僕が下に降りようとしたときにはベッドからずり落ちてた。

 アオは相当寝相が悪い。僕が一緒の部屋になってから、アオが規則正しい格好で寝てたためしが無い。

「私、今日五番街まで行くんだけど何か欲しいものある?」

 僕の向かいの椅子にアリアが座る。

「五番街? アリア一人で?」

「そうよ、何?」

「良いなぁ。一人で遠くまで買い物」

 僕は十六番街から出たことがなかった。だからうらやましい。

「何を買うの?」

「服とか色々。シュウは何か必要なものある?」

「うーん……。やっぱり本かなぁ」

 考えた末に出た答えはそんなものくらいだった。

「どんな本?」

「この国の歴史とか知りたいんだ」

 少なくとも、今の僕には知らないことが多すぎるから。

「わかった。行ってくるね」

「もう?」

 時計を見れば、まだ七時前だった。日がようやく昇ってきたあたりなのに、早くないかな。

「電車の乗り換えが多いから。今出ればちょうど良い時間に着くの」

「へぇー」

「……ねぇ、この服変?」

 普段黒服の多いアリアだけど、今日は紺色のワンピースと白いカーディガンで可愛らしい格好をしてた。

「ううん、似合ってるよ」

「ありがとう」

 ふわりと微笑むアリア。それを見たとき僕の胸はとくん、と音をたてた。

「じゃあ行ってくるね」

「……あ、うん。行ってらっしゃい」

 どこか楽しそうにアリアは出ていった。




「ふぁ……」

 カイさんもアオも二階から降りてこない。

 退屈のあまり僕は欠伸を繰り返す。

「暇だなー」

 掃除も洗濯も済ませてたから、テーブルに顎を乗せて休憩する。

 ふと今日見た夢を思い出した。

「最後の……機械みたいな声だった」

 言葉が話せても人間以外の何かだったと思う。感情の無い声のような音。

 すっきりしない、どこかモヤモヤした感情が僕の中で膨れ上がった。

「……シュウ、はよー」

 僕が唸っていると欠伸をしながらアオが降りてきた。まだ眠そうに目を擦っている。

「あ、おはよ」

 頼りなくふらふらしながら自分の椅子に座るアオ。

「何か飲む?」

「ココア……」

「はいはい」

 僕はキッチンに立ってココアをいれる。砂糖の量だってもう皆のがわかるようになったんだ。

「お待たせ」

「サンキュ」

 ぐいっと勢いよくココアを喉に流し込むアオ。

 その途端咳き込んでむせた。

「何だよ、これ……!」

「極苦ココア。眠気覚ましに最高だって」

 スーパーで安売りしてたから買ってみた。

「にが……っ」

「でも目は覚めたでしょ?」

「先に苦いココアって言えよ……!」

「だって言ったら飲まないでしょ?」

 アオは本当に素直な人だと思った。

 いつもからかわれるから、仕返ししてみたけど予想以上に面白い。

「……カイは?」

「まだ寝てるんしゃないかな」

「ふーん」

 ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべるアオの姿。

 何かたくらんでる。僕が不安に思ったのは言うまでもない。




「二人ともおはよう」

「あ、カイさん。おはようございます」

「おはよーカイ。何か飲む? 特別に俺がいれてやるよ」

「へぇ、アオが?」

「勿論」

 無邪気に笑うアオ。

 僕と同じことやろうとしてる……。

「じゃあココアが良いな」

「了解、シュウ手伝え!」

「え、ちょっ……!」

 返事も聞かずに無理矢理腕を引かれる。

「良いの? そんなことして……」

「大丈夫だって」

 すでに極苦ココアは用意されてる。見た目は普通のと変わらないんだけどな。

「怒られても知らないからね?」

「別にいいよ。俺だけ騙されたなんてつまんねぇもん」

 けろりとそんなことを言ってアオはカイさんの元へ。

 僕は一人ため息をついてからその後を追った。

「はい、アオ様特製ココア!」

「じゃあ早速、いただきます」

 こくんと一口、カイさんはそのココアを飲んだ。

「うっ……!」

「カイさん!」

 うめいた姿を見て慌てて僕はカイさんに近寄る。

「騙されたな! それはただのココアじゃねぇんだ、その飲み物は……」

「極苦ココアだろ?」

 すべてを見透かしたような不敵な笑顔。その様子にアオが固まった。

 正直僕も意外だった。でもさっき気になることがあったそれが、たった今解決した。


「アオ」

 僕が呼ぶとアオの顔は明らかに動揺してた。

 ここで僕の考えを発表してみよう。

「僕、あのココアを三日前に買ったんだ」

「それが何だよ?」

「今日僕は初めてあのココア使った。でももう袋が開いててさ」

「……は?」

 あ、また固まった。

「だからたぶん」

「そう。昨日も一昨日も俺はこれを飲んだんだよ」

 眠気覚ましにね、と続けて最上級の笑みを見せるカイさん。……逆に恐い。

「さて、アオ。向こうでちょっと話でもしようか」

「お、俺これから用事が……」

 冷や汗ダラダラのアオ。

 だからやめなって言ったのに……。

「用事? そうなの?」

「……いえ、何もありません。」

 その数分後にアオの叫び声がしたのは僕と当人達だけしか知らない。







 読んでくださりありがとうございます。


 とうとう10話までいってしまいました…。あまり話は進んでないんですが、頑張って完結させたいと思います。



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