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Delivery children.  作者: 詩音
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第9話

 今回はカイ視点です。



「今日も仕事なの?」

「そうみたいね」

「最近多くねぇか、カイ」

「まぁ新規の客も増えてきたからね」

 いきなりアオに話を振られて俺は着替えてた手を止めた。

 アリアもアオも闇に溶けるような黒服に既に身を包んでいる。

「じゃあ、帰り遅いんだね」

 寂しそうにシュウが言う。そう、例えるなら捨てられた子犬。

 彼はもう俺達の仕事のことを受け止めている。そのため堂々と仕事の話が出来るようになった。

「出来るだけ早く終わらせてくっから待ってろよ」

「そういうアオが一番遅いのよ」

「ああ?」

 いつものようにアオとアリアの口喧嘩が始まる。間に挟まれるシュウはいつも不憫に思えるけど、こっちは見てる方が面白い。

「カ、カイさーん……」

 放っておいても良いのだが、シュウの困りはてた声にいつも小さく笑みを溢し、助けを出してしまう。

「今日は時間が制限されてるからそこまでにしな?」

「制限?」

「モノが町に見回りに来るのが二時間しかないんだ」

「その間に仕事ってわけね」

「そういうこと」

「……あ」

 シュウが窓の外を見て声をあげた。

「どうかした?」

「今日、雨が降るよ」

「雨?」

「こんな晴れてるのに?」

 アオとアリアが不思議そうにシュウを見つめる。

「うん。たぶん三人の仕事中」

 シュウは澄みきった瞳で言う。

 それを見た俺達は念の為雨具を携えて家を出ることにした。




「おかえりなさい」

 仕事から帰るとシュウがソファに座って待っていた。勿論仕事は成功に終わってる。

 そしてシュウの宣言通り、雨は降った。この子は直感が当たるんだろうか。

「まだ寝てなかったの?」

「うん、皆が怪我してないか確かめてから寝ようと思って」

 膝には救急箱が用意されてる。

「馬鹿だな、俺らが怪我するわけねぇじゃん!」

「アオは調子に乗り過ぎだね」

 俺は軽くアオの頭を軽く叩いた。仕事で危なっかしいのはダントツでアオなんだから。

 笑顔が溢れていた中、俺の携帯電話が震えた。画面には常連1、デネさんだ。

「ちょっとごめんね」

 俺はその輪から離れた。

「あぁ、こんな時間にすまないね」

「一番迷惑だったのは日の出前に連絡してきたときですかね」

 電話越しに豪快な笑い声が聞こえる。

 俺にとっては笑い事じゃない。本当にあのときは眠くて仕方なかった。

「用件の方は?」

 沈黙が続く。相手に答える素振りはない。

 いつもと違う様子に警戒心が高まる。

「殺しですか?」

 電話の主は重々しい声で話し出した。

「内密に話したい。君の意見を聞きたいんだ」

 意見を求められたのは初めてだった。

「何かあったんですか?」

「電話だと話せない。君は一番街に来たことがあるかい?」

「週に一度は行ってます」

 依頼人は大半が一番街だ。電話の主のようにこちらへ出向くのは奇特だ。普段は俺が客先に行くようになってる。

「明日、一番街を適当に歩いていてくれ。こちらが車で探す」

「……わかりました」

「電話、誰から?」

 アリアがドアに寄りかかって立っていた。

 この子も妙に勘が鋭い。周りをよく観察出来る優秀なメンバーだ。

「デネさんだよ。明日ちょっと一番街まで出かけてくる」

「一番街行くの? そんならこれ買ってきて」

 寄ってきたアオが広げた雑誌には一番街の有名洋菓子店が載っていた。

 さすが無類の甘党。俺も甘党だけど、俺が見ててあきれるくらいだ。

「これ一箱一万円もするよ?」

 心配そうなシュウ。

 本当に気配りの出来る子だな。

「だーいじょーぶ! 仕事のギャラたんまりだから」

 ……育て方を間違えた気がする。

 横を見ればアリアも顔をしかめていた。

「そっか。カイさん、気をつけてね」

 アオの言葉に何故か納得したシュウの笑顔に俺は頷いて頭をぐしゃぐしゃと撫でた。




「それにしても、簡単に俺が見つかるのか?」

 言われた通り一番街を散策する。この街で白髪頭は目立ってしまうので、黒い帽子を耳まで深く被ってる。

 適当にふらふらしてると黒い高級車が横についた。

「ずいぶん奥まで来たじゃないか」

 顔を出したのは常連のデネさん。紳士っぽいわりに殺しの仕事が多い客だ。

「わかりづらかったですか?」

「いや、君らしい」

 質問の答えになってないだろ。

 ひとまず俺は一台何千万だかの車に乗り込んだ。

「車の中で話して構わないかな」

「話すことがあるのはそちらでしょう。俺にそれを決める権利はありませんよ。むしろ、最初からそのつもりだったんじゃないですか?」

 俺の言葉にデネさんの眉がピクリと動く。

 そんなわかりやすい態度を見せられても、俺はいっこうに冷静だった。

「どうしてそう思うんだい?」

「こちらにも新聞は届きますから。俺らの仕事の成果で良い生活ができているのは度々拝見してます」

「確かに、君達運び屋には感謝している」

 話の途中で疲れきった声が入った。構わず俺は話す。

「そんな政治家と若い男が一緒に喫茶店に入ったとしたら確実にマスコミの餌だ」

「そのとおりだ。早速だが、本題に入ろう」

 緊張から、生唾を飲み込んだ。

 この話を聞くためにここまで来たのだ。




「君はこの世界の雨をどう思う」

「雨、ですか」

 意外すぎる話に少々拍子抜けした。

「そう、人間に悪影響を与えるこの雨に対して」

「過去の人間達の失敗でしょう?」

 幼い頃からそう言われていた。無暗に資源を使い捨てた罰が下ったのだと。

「私もそう思っていた。しかし、最近ある噂を耳にしたんだ」

「……噂?」

「この雨は誰かが意図的に降らせてるらしい」

「まさか、何の利益があると言うんです」

 唐突すぎる話に夏でもないのに汗が出てきた。

「それは私にもわからない。ただ言えるのは、この国にそんな人間がいるかもしれないということさ」

「この国に?」

「統計的に見ても、この国のものが一番毒性が強い。始めに、この雨が発見されたのもここだ」

 俺は何も言えなかった。それほどまでに、彼の話は強烈なものだった。

「君はそんなおとぎ話を信じるかね?」

 デネさんは不敵に笑ってみせる。

「以前、一度だけ考えました。もし誰かが作っていたのなら……と。しかし発見されたのは今から70年近く前のことです。現在も最初の雨を降らせた人間が生きているとは思えません」

「その点は我々も考えた。そして研究は組織で行われているというのがこちらの結論だ」

「それなら多少は納得できます。けれど、そんな重要な話を俺に言って良いんですか?」

「まずは一般人の意見が聞きたかった。私の裏を知る人間は運び屋くらいだからね」

 手を膝の上で組んでこちらを見る。

「こちらから話しておいてすまないが、そろそろ仕事に戻らなければならないんだ。そこで頼みなんだが……」

「この件は内密に、でしょう?」

 いつものことだ。

「ああ、頼む」

「わかってます」

 車から降りてカイに頼まれた洋菓子を買って家まで帰る。




「……疲れた」

 誰にともなく言う。辺りはすっかり暗くなっていた。

 頭の中では今日の話が必死に整理されていく。

「早く帰ろう」

 大事な仲間が俺を待ってる。

 自然と俺の足が早足になっていたのは闇に浮かんでいた月しか知らない。








 読んでくださりありがとうございます。


 次回はシュウ視点です。

 少しだけ彼の中で変化のあるお話…になってると思いますので、楽しみにしててください。





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