◆修真◆-最初の一歩-
彼女の事を知ったのは次の日。
俺はその日、一目惚れをして、今片思いだと言うことを昼休み学食で親友の谷本 灰に話した。
普通は惚れてすぐに報告とかしないんだろうけど、彼女に早く近づきたくて。
「へぇ〜っ。修もついに恋をするようになったかー。」
灰がおどけてみせる。
「…うっさいなぁ。」
「まぁまぁ照れんなって。…で、誰よ。修チャンのハニーは。」
「ハニー…ってι …あーっとね、」
俺は彼女がいないか探した。
…――売店。
に、忘れもしないあの綺麗な黒い髪。
多分、間違いない。
「灰、灰!あれ。あの売店の黒髪の!ちっちゃい娘。」
俺は灰に目で教える。
「…え?あれって月だよな。」
月…?
「なに。月って。…ってか…知り合い?」
「矢野月子。月っつうのはあだ名だよ。中学の時の。俺元中同じだよ?あいつと。」
「なに!!!!!?」
親友と知り合いだったなんて知らなかった…。
こいつの中学はたしか鈴ヶ丘中学だったかな。
「矢野月子さんって言うんだ…。」
俺は名前を知れた事だけでもうれしかった。
…彼女の口から聞けたならもっとうれしかったけど。
それでもやっぱ嬉しい…。
「んで?!」
「あ?」
「「あ?」
じゃねーし。お前両想いになる気あんのかよ。」
灰に言われて顔に全ての血管が集まった気がする。
多分俺、今真っ赤。
《両想い》になるなんてこと今まで考えてなかった。
ただ《好き》すぎて。
《両想い》っつうと当然付き合う訳で、
《付き合う》っつうとやっぱ…その。
キスもするし、その先だってするだろう。
考えた事なかった。
頭は《好き》っつう意識に支配されていたから。
要は一方的な恋愛感情の押し付け。
灰に言われて初めて意識した。
相手に愛される事。
矢野さんに愛されたらどんなに幸せだろう。
夢みたいすぎて考えられねぇな。
「そ…そりゃ両想い…になりてぇよ…。でもどうすりゃあ…」
「う〜ん、それは難しい質問だよ?修真君。」
灰がそう言うのにも頷ける。
相手は自分の事をまったく知らない。
自分も相手をあまり知らないのに胸が苦しい位に愛くるしい。
出会いはあんなドラマティックで運命的だったのに。
これって究極の片思いだ。
「俺が思うに、まず月の事をもっと知ればいいんじゃないのか?」
「そ…そうか。でもどうやって?」
「手っ取り早く月と知り合いになればいいだろ。」
「…んな無茶な…ι」
「う〜。難しいなぁ。しかもアイツ鈍いからなι」
灰が頬杖をついてみせた。
俺は灰が矢野さんの事を
《月》
とか
《アイツ》
とか
呼んでいるのを羨ましく感じた。
「まぁ取り敢えず俺は知ってるだけお前に教えたるよ。お前俺と親友でラッキーだったなー。」
灰は笑いながら言った。
こいつの笑顔が好きだ。
…いや、同性愛者トカでなくてι
すごい、嬉しそうに笑う。
自分の事じゃなくてもとても喜んでくれる。
そういうのが俺はすごい嬉しい。
だから俺達は仲が良くて、常にツルんでるのかもしれねぇな。
「おう!サンキューな!」
俺もニカッと笑う。