アラサー女子の12月
悲しい位、今、この季節が憎たらしい。
街は華やかな電飾で彩られ、嫌味な位いたるとこでカップルに出くわしてしまう。
TVを点ければ楽しくなれるのだが、ひと度家をでれば、クリスマスの押し売りに独り身アラサー女子にかは寂しい現実が待っていた。
いつからか、麻子にとっての12月は、テンションの下がる季節と化した。
麻子の日課といえば、仕事場である小さなカフェで、狂ったようにコーヒーを入れる事と
、スピリチュアルグッズを買いあさる位だっ
た。
元カレと別れて以来、5年位経つだろうか。
浮いた話しひとつ無いのが、ここ最近もっぱ
らの悩みだった。
今日も麻子は、朝日からコーヒーを入れる事
に精を出す。
茶髪のセミロングは、男ウケを狙うためだ。
メイクも濃過ぎることなく、エキゾチックな
麻子の顔に良く映えている。
取り分け美人ではないが、何となく麻子の顔
には愛嬌があった
「いらっしゃいませ」
新人の彩が蚊の鳴く様な声で挨拶をしている
のが、遠く聞こえる。
しばらくすると、中堅の洋子が一喝する声が
聞こえてくる。
「彩ちゃん、もっと大きな声を出さなくっち
ゃ駄目でしょう?」
このやり取りは、ここ最近の日課になりつつ
あった。
小さなカフェではあるが、従業員はみな生き
生きしており、店としても、それなりに繁盛していた。
若くして店を起こしたのは、店長兼、シェフ
であり、パティシエでもある有能な男だった。
そして、この男が作るクリスマスケーキがべらぼうに売れるのだ。
なにしろ、味はもちろん、値段が千円ポッキリなのがウケたのだ。
ロールケーキをベースにした、切り株をイメ
ージして作られた可愛らしいケーキだった。
麻子がコーヒーを入れていると、何処かともなく声が聞こえてきた。
「麻子ちゃん、急で悪いんだけど、明日から僕、ちょっとした旅行に行ってくるから。
その間、店をよろしくね」
男はニッコリと微笑んでいる。
「店長、えっ?!わたしは、コーヒーを入れる事しか出来ませんよ」
驚く麻子を無視するように、男はニッコリとまたしても微笑んでいる。
「その辺はちゃんと考えてるよ〜。心配ないよ。僕の知り合いに代打を頼んであるから」
不安そうな麻子をポンポン叩きながら、男は去り際にこう付け足した。
「イケメンだけど、惚れちゃ駄目だよ?」
男の去り際にはなった台詞が妙に引っかかり、麻子はコーヒーを一杯駄目にした。