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ダイエットで倒れる人

作者: 遊ぶ人
掲載日:2026/11/07

ダイエットで倒れる人

 ダイエットで倒れる人


 障子から差し込む薄紅色の黄昏時が、畳の上に長い影を落としていた


 ハルトは机の前で、開いたままのアンドロイド端末を前に、昨日の疲れを胸の奥に溜めてしまったままトホホと静かに俯いていた


 数日前から始めた「体重を一気に落とす」ための無理な大減量。炭水化物を一切拒否し、水分だけで過ごす過酷な断食。度重なる不条理な空腹感や、体重計の数値に一喜一憂する不遜な日々のルーティンを何度も頭の中で繰り返すたび、ハルトの呼吸は「無酸素運動」のように浅くなっていった


 外部からの食欲という精神攻撃を遮断し、体重を極力減らすための彼なりの防壁は、今や限界を迎えていた


 栄養を絶たれた脳は蟻地獄のような暗闇の霧に包まれ、一人で足掻き、生きた心地のしない強い目眩と不安に押しつぶされそうになっていたのだ


 静かに目を閉じていたその時、衣服の擦れる優しい衣擦れの音が響く


「ハルトくん、どうしたの? なんだか少し疲れちゃったような顔をしているわ」


 ソラが、湯気のふんわりと立ち上る温かいジャスミン茶の入ったコップをそっと机に置きながら、包み込むような声で話しかけてくれた


 彼女はハルトの少し冷たくなっていた手を、自身の両手で大切に、ぎゅっと包み込んだ


「あなたは毎日、自分でも驚くほどに見事にがんばっているもの。だからね、もうお部屋の中ではその防陣を解いて、焦らずに息を吸っていいのよ。ほら、まずはゆっくりと深呼吸をして、この温かいお茶の香りを胸いっぱいに吸い込んでみて。はい、すー、はあ」


 ハルトはソラの優しい眼差しに見守られながら、深く、深く深呼吸を繰り返した


「すう……はあ……すう……はあ……」


 酸素が全身を巡り、お薬を飲んだときのように、胸を支配していた暗い疲れの霧は一気にすうっと引いていった


「……ソラちゃん、ありがとう。声をかけてくれて、本当に嬉しかった。でも、この無理なダイエットの反動、僕のちいさな力ではどうにもならない身体の悲鳴なんだなぁ……」


 ハルトが弱音を漏らすと、ソラは目を大きく見開いて、手際よく素晴らしい健康の防衛マニュアルを語り始めた


「諦めちゃだめよ、ハルトくん。そんな時こそ、私たちの身体を公正な立場で守ってくれる『まほうの栄養素』に頼るのよ。エネルギーになる『糖質(炭水化物)』――生きるためのホットラインを繋ぐの」

「糖質……?」とハルトは眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げ、ゼロシュガーの空き缶を見つめた


「そうよ」とソラはひまわりのように微笑んだ


「お薬をきちんと飲んでいても、食べるものを食べなきゃ倒れてしまうわ。だからね、まずはご飯やスープをお道具としてピカピカに用意して、背筋をしゃんと伸ばして真っ直ぐに栄養を摂るの。あなたはあなたのままで、何一つ間違っていないんだから」


 ソラの力強いセリフを胸に聴いた瞬間、ハルトの胸の奥には、まるで春のお日様が昇ったように、ぽかぽかと最高のぬくもりが満ち溢れてきた。彼は俯いていた体を起こし、背筋をしゃんと真っ直ぐに伸ばした


 その顔には、まばゆい朝陽のような最高の元気と笑顔が、実に見事に取り戻されていた


 そのハルトの頼もしい復活っぷりを見た瞬間、庭の生垣の向こうから、様子を覗いていた旧友の健二たちの「ハルトが無理な減量を相手に、全問パーフェクトな大逆転だな! わっはっはっ!」という豪快で大きな笑い声が夜風と共に響き渡り、お家の中は一気に笑い声の絶えないハッピーエンドのぬくもりで満たされた


「みんな、笑わないでおクレよ! でも……本当に、健康の灯火が見えて、何を見ても楽しくなってきたよ!」


 夜になり、すべての丁寧な食事の準備を終えて電気毛布でひだまりのように温められた寝具にもぐり込む頃、窓の外には驚くほど大きくて綺麗な満月がぽっかりと浮かび上がり、日常生活の楽しさを取り戻したハルトたちの未来を、いつまでもぽかぽかと温かく、優しく照らし続けるのであった


 乙

ダイエットで倒れる人

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