「お前は我が家のゴミだ」そう言われて追放された俺、今では「我が家のホコリ」だそうです
十五歳。
この世界に生きる者にとって、その年齢は人生を大きく左右する。成人を迎える年齢だから、というだけではない。十五歳になると神殿に赴き、神から《スキル》を授かるのだ。
剣士。
魔術師。
治癒師。
鍛冶師。
料理人。
商人。
聖騎士。
賢者。
人によって与えられるスキルは様々で、その内容によって将来の道が決まると言っても過言ではない。
そして俺が生まれ育ったグランフォード侯爵家にとって、十五歳の《スキル選定》は、とりわけ重要な意味を持っていた。
なぜならグランフォード家は、代々優れた剣士を輩出してきた名門だったからだ。
初代当主は《剣聖》
二代目も《剣聖》
その後も多くの当主が剣術系のスキルを授かり、王国騎士団の中枢を担ってきた。
我が家の屋敷には、歴代当主が使った剣が飾られている。
廊下には戦場での功績を刻んだ肖像画が並び、客間には王家から贈られた勲章が飾られている。
つまりこの家では、剣こそが価値だった。
強い剣士こそが尊ばれる。
弱い者は、どれだけ努力しても認められない。
そして俺には一つだけ、大きな問題があった。
俺には双子の兄がいる。
名前はレオン。
同じ日に生まれ、同じ両親から生まれた。
顔もよく似ている。
髪の色も、瞳の色も同じ。
幼い頃は、使用人ですら俺たちを見分けられないことがあった。
だが成長するにつれて、俺たちの間には明確な差が生まれた。
そう。剣の才能だ。
レオンは幼い頃から剣を握った。
五歳で木剣を振り回し。
七歳で大人の騎士を相手に模擬戦を行い。
十歳になる頃には、屋敷の剣術指南役すら舌を巻くほどになっていた。
一方俺は。
「アルト、もっと腰を落とせ!」
「はい!」
「遅い!」
「っ!」
木剣を振る。
だが次の瞬間には弾き飛ばされていた。
カンッ!
木剣が地面へ転がる。
「……もう一度お願いします」
「今日は終わりだ」
剣術指南役はため息をついた。
「お前には剣の才能がない」
何度も聞いた言葉だった。
それでも俺は、諦めなかった。
グランフォード家に生まれた以上、俺も剣士にならなければならない。
そう思っていた。
兄に負けたくなかったわけじゃない。
家族に認めてほしかったのだ。
父に、母に、兄や姉に、俺もグランフォード家の人間なのだと。
だから十五歳になる日を、俺はずっと待っていた。
剣術スキルさえ授かれば……もしかしたら俺にも才能があるかもしれない。
今まで剣を上手く扱えなかったのも、魔力が少なかったのも、全部この日のためだったのかもしれない。
そう思っていた。
「アルト」
神殿へ向かう馬車の中で、父が俺の名を呼んだ。
「はい」
「緊張しているのか?」
「……少しだけ」
「そうか」
父は俺を見た。
しかしその視線はすぐ隣へ移った。
「レオンはどうだ?」
「僕も少し緊張しています」
兄が笑う。
「何を言っている」
父も笑った。
「お前なら問題ない」
「ありがとうございます」
「これまでの鍛錬を見れば分かる。お前は我が家の歴代当主にも劣らない才能を持っている」
「…………」
俺は黙って二人の会話を聞いていた。
別に、今更羨ましくなんてない。
そう思おうとした。
けれど。
「今年は、お前がどの剣術系スキルを授かるかが楽しみだ」
父が言う。
「剣聖かもしれませんね」
レオンが冗談めかして笑った。
「そうなれば最高だ」
父も笑う。
「我が家から再び剣聖が誕生する。これほど喜ばしいことはない」
俺は窓の外を見た。
流れていく街並み。
今日は街の至る所に十五歳になる少年少女がいた。
神殿へ向かう者。
家族と歩く者。
友人と笑う者。
みんな期待に胸を膨らませている。
俺も本当なら、その一人だった。
「アルト」
レオンが声をかけてきた。
「何?」
「大丈夫だよ」
「……何が?」
「お前もきっと剣術系だ」
兄は笑った。
「僕たちは双子なんだから」
「……うん」
俺も笑った。
「そうだよな」
その言葉だけが。
この日、俺にとって唯一の救いだった。
神殿は、多くの人で溢れていた。
高い天井、巨大な女神像、祭壇の中央には十五歳になる者のスキルを映し出す《神託の水晶》が置かれている。
俺たちグランフォード家が入ると、周囲からざわめきが起きた。
「グランフォード侯爵家だ」
「あの剣術の名門か」
「今年は双子だったはずだ」
「兄のレオンは相当な剣士らしいぞ」
「なら剣術系で間違いないだろう」
聞こえてくる声。
そのほとんどが兄についてだった。
俺は少しだけ苦笑した。
まあ……仕方ない。
俺自身だって、兄の方が優れていると思っている。
だからせめて……俺も恥ずかしくないスキルを授かれたらいい。
そんなことを考えていると。
「次の者」
神官の声が響いた。
何人かの少年少女がスキルを授かっていく。
「《薬師》」
「《槍術》」
「《料理人》」
「《魔術師》」
歓声が上がったり、落胆の声が漏れたりする。
そして。
「グランフォード侯爵家、レオン」
「はい!」
兄が立ち上がった。
父が満足そうに頷く。
祭壇へ向かうレオンを見ながら拳を握った。
兄ならきっと素晴らしいスキルを授かる。
そう思っていた。
レオンが水晶の前に立つ。
そして両手を置いた。
――その瞬間。
神殿内が白い光に包まれた。
「なっ……!」
神官が目を見開く。
水晶の中を黄金色の光が駆け巡り、やがて空中に文字が浮かび上がった。
《剣聖》
「…………」
一瞬、誰も言葉を発しなかった。
次の瞬間。
「おおおおおおおおおおおっ!」
大歓声が上がった。
「剣聖だ!」
「グランフォード家に剣聖が誕生したぞ!」
「さすが侯爵家!」
「最高の才能だ!」
父が立ち上がった。
「レオン!」
これまで見たことがないほど嬉しそうな顔だった。
「よくやった!本当によくやってくれた!」
「ありがとうございます、父上」
兄も嬉しそうに笑う。
父が兄の肩を強く叩く。
「我が家の未来は、お前に託された!」
「はい!」
俺も笑った。
「おめでとう、レオン」
「ありがとう、アルト」
兄がこちらへ歩いてくる。
「次はお前だな」
「うん」
「きっと大丈夫だ」
兄は俺の肩に手を置いた。
「俺たちは双子なんだから」
その言葉に俺は頷いた。
「そうだよな」
俺は祭壇へ向かう。
父。
母。
兄たち。
使用人。
大勢の人々が俺を見ている。
俺は一度だけ振り返った。
そして水晶へ手を置いた。
――光が、灯った。
「…………」
神殿内が静かになる。
俺は目を閉じた。
頼む。
剣術……剣術でなくてもいい。
贅沢は言わない。
せめて……せめて、この家にいてもいいと思ってもらえるようなスキルを。
そう願った。
やがて光が消える。
「…………」
神官が水晶を覗き込んだ。
そして眉を寄せる。
「……これは」
嫌な予感がした。
「どうしました?」
神官は答えない。
何度も水晶を確認する。
「神官様?」
「いや……間違いではない」
「何が出たのですか?」
神官が俺を見る。
そして申し訳なさそうに告げた。
「《玩具使い》です」
「…………」
俺は瞬きをした。
「玩具……使い?」
「はい」
「それは……どんなスキルですか?」
「玩具を召喚し、自由に操作するスキルです」
俺は少し考えた。
「ちなみに……戦闘には?」
「……適性は、極めて低いでしょう」
「…………」
「玩具そのものに戦闘能力があるわけではありません」
神官は言いにくそうに続ける。
「少なくとも、現在確認されている《玩具使い》は、その程度のスキルです」
俺は水晶を見る。
「……そうですか」
胸の奥がゆっくり冷たくなっていった。
後ろを見ると父が立っている。
さっきまであれほど嬉しそうだった顔からは表情が消えていた。むしろ怒っていた方が良かったかもしれない。
兄たちも、母も、誰も笑っていない。
神殿内から、ひそひそとした声が聞こえてくる。
「玩具使い?」
「グランフォード家から?」
「よりによって……」
「剣聖と同じ日に?」
「本当に双子か?」
俺は唇を噛んだ。
「……実際に、使ってみても?」
神官が頷いた。
「もちろんです」
俺は手を伸ばす。
「《玩具使い》」
ポンッ。
小さな音と共に、俺の足元へ何かが現れた。
それはとても小さな車だった。赤い車体、四つの車輪、簡素な作り。
手のひらに乗る程度の大きさ。
俺はそれを拾い上げた。
「…………」
神殿が静まり返る。
誰かが、小さく笑った。
「……本当に玩具だ」
その声をきっかけに。
笑い声が広がっていった。
「ははは!」
「剣聖の弟が玩具使い!」
「これはひどい!」
「さすがに気の毒だな!」
俺は俯いた。
それでも俺は小さな車を見た。
「……かわいいじゃないか」
誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
少なくともこいつは俺を笑わない。
俺は車を地面へ置いた。
念じる。
すると。
ブーン。
小さな車が走り出した。
神殿の床を。
ただ、それだけ。
「…………」
俺は思わず苦笑した。
確かにこれでは戦えない。
でも。
「それでも」
俺は顔を上げた。
「何かできるかもしれません」
父が俺を見た。
その目にあったのは、明確な失望だった。
「貴様……」
「はい」
「それが……」
父が小さな車を指差す。
「……それが戦場で何の役に立つ?」
「まだ……分かりません」
「分からない?」
「でも、先ほど授かったばかりです」
俺は言った。
「これから分析して――」
「もういい」
父の声が遮った。
「十分だ」
その声は、とても冷たかった。
「父上?」
「アルト」
父が歩いてくる。
「お前は今日から、この家の人間ではない」
「…………」
何を言われたのか理解するまで、少し時間がかかった。
「……え?」
「聞こえなかったか?」
父は淡々と言った。
「お前をグランフォード家から追放する」
「待ってください!」
思わず叫んだ。
「俺はまだ何もしていません!」
「だからだ」
「え?」
「何もできないからだ」
父は俺を見下ろした。
「我が家は剣の家だ」
「…………」
「長兄は《剣術・上級》」
「…………」
「次兄は《剣術・強化》」
「…………」
「姉は《双剣術》」
そして。
父はレオンを見る。
「レオンは《剣聖》だ」
誇らしげだった。
「これで我が家は安泰だ」
そして。
俺を見る。
「だからこそ、お前のような存在が必要ない」
「…………」
「玩具使いなど」
父が吐き捨てる。
「ただのゴミだ」
その言葉が。
胸に突き刺さった。
「……ゴミ」
「ああ」
「俺が……ゴミ?」
「そうだ」
父は迷いなく答えた。
「グランフォード家にとって、お前はゴミだ」
俺は兄を見る。
「レオン……」
兄は何も言えなかった。
ただ、苦しそうな顔で俺を見ていた。
「レオン」
俺は小さく笑った。
「何か言ってよ」
「…………」
「俺、弟だろ?」
「アルト……」
「一緒に剣を練習したじゃないか」
「分かってる」
「じゃあ――」
「……ごめん」
兄が俯いた。
「俺には、何もできない」
俺は。
笑った。
「そっか」
小さな車を拾う。
そして俺は神殿を出た。
誰も追ってこなかった。
門の外、俺は一人だった。持っているのは少しばかりの金。
最低限の衣服。
そして、小さな車。
俺はそれを見つめた。
「……お前まで捨てられなくてよかったな」
もちろん返事はない。
俺は笑った。
「よし、行こう」
王都から離れる。
当てもなければ仕事もない。
住む場所もない。
それでも俺は歩いた。
父親だった人間にゴミと言われたから。
だったら自分一人で生きていくしかない。
勢いのまま王都を出てしまった。
街道を外れ、森へ入る。
食べられる木の実を探す。
水を探す。
寝る場所を探す。
初めての野宿は想像していたよりずっと厳しかった。
「……腹減った」
木の実を一つ食べる。
「酸っぱい」
もう一つ。
「……こっちは苦い」
俺は空を見上げた。
「剣術家の家に生まれたのに」
笑ってしまう。
「まさか十五歳で野宿することになるとはな」
その夜。
俺は木の根元で眠った。
寒かった。
怖かった。
何度も目が覚めた。
それでも、等しく朝は来る。
「……今日も生きるか」
俺は立ち上がった。
そして小さな車を地面に置く。
「お前も行くぞ」
ブーン。
玩具が走る。
俺はその後ろを歩いた。
三日目。
事件が起きた。
森の奥から巨大な唸り声が聞こえた。
「……?」
俺は振り返る。
木々の向こう。
青い身体を持った魔物がいた。
大きい。俺の三倍はある。
口には鋭い牙。
身体からは水が滴っている。
「……水魔獣」
聞いたことがある。
強力な魔物だ。どうやらこの付近に水場があるらしい。知らず知らずのうちに縄張りに入ってしまったようだ。俺は後ずさった。
魔物がこちらを見る。
「グルルル……」
「……逃げるぞ!」
俺は走った。
魔物も追ってくる。
「速い!」
木々の間を駆け抜ける。
だが足元の根に躓いた。
「うわっ!」
地面へ倒れる。
魔物が迫り、巨大な口が開いた。
「死ぬ……!」
その瞬間。
俺の手が小さな車に触れた。
「……そうだ」
俺はそれを握りしめる。
俺にあるのは。
これだけだ。
剣もない。
魔法もない。
仲間もいない。
なら。
「石の代わりぐらいにはなってくれよ」
俺は立ち上がった。
魔物が飛びかかってくる。
「くらえ!」
小さな車を。
投げた。
魔物の口が開く。
そして……。
ガブッ。
小さな車が。
魔物の口の中へ消えた。
「…………」
一瞬。
何も起きなかった。
「やっぱり駄目――」
その瞬間。
バチィィィィィィィィィッ!!
「ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
魔物の身体から凄まじい電撃が走った。
青白い光が森を照らす。
魔物が痙攣する。
そして。
ドォン!
巨体が地面へ倒れた。
「…………」
俺は呆然と立ち尽くした。
「……え?」
静寂。
森の中に魔物の死体だけが残る。
俺は恐る恐る近づく。
「死んだ……?」
足でつつく。
動かない。
「…………」
俺は。
思わず笑った。
「勝った、のか?」
その瞬間。
頭の中に、聞いたことのない声が響いた。
《魔物の討伐を確認》
《経験値を獲得しました》
《レベルが上昇しました》
《スキルレベルが上昇しました》
「……レベル?」
さらに。
《条件を達成しました》
《新たな玩具が解放されます》
「……新しい玩具?」
俺の目の前に光が集まる。
そして地面に落ちた。
小さな黒い車。
先ほどまでの玩具とは違う。
分厚い装甲。
車体の上に砲塔がある。
「…………」
俺はしゃがみ込んだ。
「これは……」
小さな砲身。
小さな履帯。
小さな装甲。
頭に情報が流れ込んでくる。
「戦車……?」
俺は。
恐る恐る触れた。
すると。
《武装車両を解放しました》
「…………」
俺は笑った。
「……やってみるか」
少し離れた場所にある岩へ向ける。
念じる。
すると。
砲塔が動いた。
「…………」
俺は息を呑む。
そして。
「撃て」
ドォォォォンッ!!
轟音が森を震わせた。
目の前の岩が。
一瞬で粉々になった。
「…………」
俺は。
しばらく何も言えなかった。
やがて口元がゆっくりと上がった。
「……父上」
誰もいない森の中で。
俺は呟いた。
「これでも……」
小さな戦車を見る。
「俺はゴミですか?」
答える者はいない。
ただ、小さな戦車だけが静かに砲身を動かしていた。
そして俺はまだ知らなかった。
これが俺の人生を大きく変える。
ほんの始まりに過ぎないことを。
俺の《玩具使い》というスキルが。
実はかつて世界を支配した、失われた機械文明の力であることを。
そして、俺がこれから手にする玩具が戦車だけではないことを。
空を飛ぶ機械も。
遠くから敵を撃ち抜く機械も。
無数の兵士を従える機械も。
そしてやがて一国の軍隊すら凌駕するほどの兵器群を、俺が一人で操ることになることも。
この時の俺はまだ、何も知らなかった。
あれから。
俺の人生は、大きく変わった。
二番目に手に入れた玩具は、小さな戦車だった。
手のひらに乗る程度の大きさしかない。
けれど、その小さな身体から放たれる砲撃は凄まじかった。
岩を砕き。
木をへし折り。
魔物の身体を吹き飛ばす。
「……すごい」
俺は戦車を眺めながら呟いた。
こんなものがあれば。
俺でも魔物と戦える。
それどころか。
もしかすると。
「……剣聖より強いんじゃないか?」
そんな考えが頭をよぎった。
すぐに首を振る。
「いやいや」
俺は苦笑した。
「そんなわけないだろ」
この国では剣士が強い、とされている。
特に我が家のような名門剣術家なら、剣を極めれば魔物の群れすら一人で斬り伏せる者もいる。
俺の玩具がどれだけ強くても、所詮は玩具だ。
そう思っていた。
――この時までは。
森で暮らし始めてから俺は毎日、魔物を狩るようになった。
最初は怖かった。
当然だ。
俺は剣をまともに扱えない。
魔法も使えない。
頼れる仲間もいない。
だから戦車に頼るしかなかった。
「よし」
茂みの向こうに魔物を見つける。
俺は戦車を地面に置いた。
「行け」
戦車が走る。
魔物がこちらへ気づく。
「グルルル……!」
魔物が戦車へ飛びかかる。
「撃て!」
ドォン!
魔物が吹き飛ぶ。
「……すごい」
最初はそれだけだった。
しかし魔物を倒すたび。
《経験値を獲得しました》
《レベルが上昇しました》
《スキルレベルが上昇しました》
頭の中に声が響く。
そして。
《新しい玩具が解放されます》
新しい玩具が増えた。
最初は戦車。
次は装甲車。
その次は砲台。
そして小さな兵士の人形。
「……兵士?」
手のひらに乗る。
金属でできた小さな人形だった。
俺は指でつつく。
すると。
カチッ。
小さな人形が動いた。
「……え?」
もう一度。
念じる。
小さな兵士が立ち上がった。
そして。
俺の前で敬礼した。
「…………」
俺は固まった。
「……お前、動くのか?」
当然返事はない。
だが命令すると兵士は動いた。
歩く。
走る。
伏せる。
銃を構える。
「……」
俺はしばらく黙っていた。
「玩具って……こういうものなのか?」
俺の知っている玩具とは違う。
少なくとも命令に従って動く金属兵士なんて、俺は見たことがなかった。
試しに。
「右の木を撃て」
兵士が銃を構える。
ババババババッ!
木が削れていく。
「…………」
俺はもう何も言わなかった。
ただ……笑った。
「これは……最高だ!」
それから俺は、森を自分の訓練場にした。
魔物を探す。
戦う。
倒す。
レベルが上がる。
新しい玩具が増える。
その繰り返しだった。
ある時は空を飛ぶ小さな機械を手に入れた。
「飛行機?」
俺が操作すると、それは空へ舞い上がった。
遥か上空から森を見渡せる。
「すごい……」
これまで木々に遮られて見えなかった場所まですべて見える。
魔物の位置も。
川の場所も。
森の外にある街道まで。
「偵察に使えるな。これだけで戦況が一目で分かる」
俺はそう呟いた。
さらに。
《新しい玩具が解放されます》
小さな飛行機が増えた。
今度は翼の下に何かがついている。
「……爆弾?」
試しに魔物の群れへ向ける。
空を飛ばす。
そして。
「落とせ」
小さな爆弾が落ちる。
ドォォォン!
「うわっ!……なんなんだよ……これ」
魔物が消し飛んだ。
「……」
俺は空を見上げた。
「これ、本当に玩具か?」
もちろん答えはない。
しかし俺の中では、少しずつ何かが変わり始めていた。
俺はもう、自分のスキルを恥ずかしいとは思わなくなっていた。
あっという間に半年が過ぎた。
俺はついに森を出ることにした。
理由は簡単だった。
食料が尽きかけていたからだ。
それにそろそろ人のいる場所へ戻りたかった。
俺は自分の召喚した玩具を眺める。
小型戦車。
装甲車。
機械兵。
飛行機。
そして。
最近解放された、小さな機械。
俺はそれを飛ばす。
小さな羽根を回しながら空へ上がっていく。
「……便利だな」
上空から周囲を見渡す。
街道を発見した。
俺は街道へ向かった。
街道を歩いていると商人らしき集団がいた。
荷馬車。
護衛の冒険者。
そして十数人ほどの商人。
俺が近づくと。
「おい、坊主」
護衛の男が声をかけてきた。
「一人か?」
「はい」
「この辺りは危険だぞ」
「分かっています」
男が俺を見る。
「武器は?」
「ありません」
「……丸腰?」
「はい」
「何しにこんなところを?」
「街へ行きたいんです」
男は呆れたように笑った。
「まあいい。うちの隊列についてくるなら構わない」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
久しぶりに人と話した。
それだけで少し嬉しかった。
だが街道を進んでいた時。
空から俺の飛行機が戻ってきた。
「……?」
飛行機から送られてくる情報。
魔物。
多数。
進行方向。
「……魔物の群れが来ます」
「何?」
護衛の男が振り返る。
「どれくらいだ?」
「三十……いや、五十以上」
「五十だと?」
男が顔を青くする。
「全員、戦闘準備!」
冒険者たちが武器を構える。
魔物が現れた。
「来たぞ!」
俺は一歩前へ出る。
「俺に任せてもらえますか?」
「坊主、お前は武器を持ってないだろ!」
「大丈夫です」
俺は。
小さな戦車を召喚した。
ポンッ。
地面に現れる。
「……何だ、それ」
「玩具です」
「は?」
「でも」
俺は戦車を魔物へ向けた。
「戦えます」
ドォン!
魔物が吹き飛ぶ。
冒険者たちが固まった。
ドォン!
ドォン!
ドォン!
魔物が次々と倒れていく。
「…………」
護衛の男が呟く。
「玩具……?」
「はい」
「それが?」
「はい」
「……嘘だろ」
俺は笑った。
「俺も最初はそう思いました」
街へ到着すると、俺は冒険者ギルドへ向かった。
そこで初めて聞いた。
「《玩具使い》?」
受付嬢が目を丸くする。
「珍しいスキルですね」
「そうですか?」
「はい。ほとんど聞いたことがありません」
「……役に立たないって言われてました」
「そんなことありませんよ」
受付嬢は笑った。
「少なくとも、あなたの玩具は魔物を倒せるんでしょう?」
「はい」
「だったら立派な戦闘スキルです」
「…………」
俺は…不覚にもその言葉を聞いて少しだけ涙が滲んでしまった。
「どうされましたか!?」
「いえ、少し目にゴミが入ったようです」
初めてだった。
自分のスキルを否定されなかったのは。
「冒険者になってみませんか?」
「俺でも……なれますか?」
「はい、もちろんなれますよ!登録なさいますか?」
俺は頷いた。
「ええ、喜んで」
冒険者になってから、俺は急速に成長した。
魔物を倒す。
依頼を受ける。
レベルを上げる。
そして、新しい玩具を手に入れる。
やがて俺は街で有名になった。
「玩具使いのアルトだ」
「あの小さな戦車を使う奴か?」
「違うぞ。今はもっとすごいぞ」
「何だ?」
「空を飛ぶ玩具を何十体も操るらしい」
「嘘だろ?」
「本当だ」
噂は広がっていった。
俺は知らないうちに有名な冒険者になっていた。
しかし俺には一つだけ、気になっていることがあった。
玩具の種類が明らかに普通ではない。
戦車。
戦闘機。
爆撃機。
無人飛行機。
機械兵。
砲台。
どれも俺の知識では作れないものばかりだ。
「このスキルって……」
俺は冒険者ギルドの資料室で調べた。
古い文献。
魔法史。
神話。
スキル大全。
何日も調べた。
そして一冊の古い本に。
気になる記述を見つけた。
《神代文明》
魔法文明より遥か昔。
世界には、機械によって栄えた文明があった。
その文明では。
鉄の兵士。
空を飛ぶ船。
巨大な戦車。
遠く離れた敵を攻撃する兵器。
それらを自在に操る存在がいたという。
その名は。
《機械君主》
「…………」
俺は息を呑んだ。
「機械……君主?」
さらに読み進める。
神代文明が滅びた理由。
それは一人の機械君主が、世界中の兵器を支配し、国家という概念すら覆したからだという。
そして最後の一文。
《機械君主の力は、神によって封印された》
「…………」
俺は自分のスキルを見る。
《玩具使い》
「まさか……」
その瞬間、頭の中に声が響いた。
《スキルレベルが一定値に到達しました》
《新しい玩具が解放されます》
目の前に巨大な光が現れる。
俺はその光の中に浮かぶ姿を見て、言葉を失った。
それはこれまでの玩具とは比べ物にならない。
巨大な鉄の塊。
分厚い装甲。
巨大な砲身。
そしてその隣には。
無数の機械兵。
空には戦闘機。
さらに見たこともない巨大な兵器が。
次々と姿を現していく。
《新スキル解放条件達成》
《上位権限を解放します》
《称号――機械君主を獲得しました》
「…………」
俺はしばらく何も言えなかった。
「……玩具使いって」
思わず笑ってしまう。
「とんでもないスキルだったんだな」
その頃……王都では。
大きな戦争の準備が始まっていた。
突如、魔王軍が王国へ侵攻を開始したのだ。
各地から軍隊が集められる。
そしてもちろん、グランフォード侯爵家も王国軍の一員として戦場へ向かうことになった。
「レオン」
父が息子を見る。
「この戦争で勝利を掴む」
「はい」
剣聖となったレオンは以前よりさらに強くなっていた。
その姿に父は誇らしげに笑う。
「お前こそ。グランフォード家の誇りだ」
その言葉をレオンは黙って聞いていた。
しかし心の奥では、ずっと一人の弟を思い出していた。
――アルト。
あの日、自分は何もできなかった。
父に逆らえなかった。
弟を守れなかった。
そして……
今でも……後悔している。
その頃、遠く離れた街では。
俺も戦場へ向かう準備をしていた。
目の前には。
無数の機械兵。
戦車。
装甲車。
砲台。
戦闘機。
そして新たに解放された。
数え切れない兵器。
「……行くか」
俺は一人。
機械兵たちの前に立つ。
誰かに命令されるためではない。
誰かのためでもない。
自分自身の意思で、俺は歩き出す。
かつて……俺をゴミと呼んだ家族がいる国へ。
そして、俺を必要ないと言った父がいる戦場へ。
俺は初めて、自分のスキルを誇りに思った。
俺は知らない。
この戦争の先で。
俺が再び家族と出会うことを。
そして……かつて俺を「ゴミ」と呼んだ父が、俺の率いる軍勢を前にして、別の言葉を口にすることになることを。
――「誇り」と。
だがそれは、もう少し先の話だ。
感想、レビュー、☆、励みになります(小躍りします)




