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「お前は我が家のゴミだ」そう言われて追放された俺、今では「我が家のホコリ」だそうです

作者: モーヒアス
掲載日:2026/08/23

 十五歳。

 この世界に生きる者にとって、その年齢は人生を大きく左右する。成人を迎える年齢だから、というだけではない。十五歳になると神殿に赴き、神から《スキル》を授かるのだ。


 剣士。

 魔術師。

 治癒師。

 鍛冶師。

 料理人。

 商人。

 聖騎士。

 賢者。


 人によって与えられるスキルは様々で、その内容によって将来の道が決まると言っても過言ではない。

 そして俺が生まれ育ったグランフォード侯爵家にとって、十五歳の《スキル選定》は、とりわけ重要な意味を持っていた。

 なぜならグランフォード家は、代々優れた剣士を輩出してきた名門だったからだ。

 初代当主は《剣聖》

 二代目も《剣聖》

 その後も多くの当主が剣術系のスキルを授かり、王国騎士団の中枢を担ってきた。

 我が家の屋敷には、歴代当主が使った剣が飾られている。

 廊下には戦場での功績を刻んだ肖像画が並び、客間には王家から贈られた勲章が飾られている。

 つまりこの家では、剣こそが価値だった。

 強い剣士こそが尊ばれる。

 弱い者は、どれだけ努力しても認められない。

 そして俺には一つだけ、大きな問題があった。

 俺には双子の兄がいる。

 名前はレオン。

 同じ日に生まれ、同じ両親から生まれた。

 顔もよく似ている。

 髪の色も、瞳の色も同じ。

 幼い頃は、使用人ですら俺たちを見分けられないことがあった。

 だが成長するにつれて、俺たちの間には明確な差が生まれた。

 そう。剣の才能だ。

 レオンは幼い頃から剣を握った。

 五歳で木剣を振り回し。

 七歳で大人の騎士を相手に模擬戦を行い。

 十歳になる頃には、屋敷の剣術指南役すら舌を巻くほどになっていた。

 一方俺は。


「アルト、もっと腰を落とせ!」

「はい!」

「遅い!」

「っ!」


 木剣を振る。

 だが次の瞬間には弾き飛ばされていた。

 カンッ!

 木剣が地面へ転がる。


「……もう一度お願いします」

「今日は終わりだ」


 剣術指南役はため息をついた。


「お前には剣の才能がない」


 何度も聞いた言葉だった。

 それでも俺は、諦めなかった。

 グランフォード家に生まれた以上、俺も剣士にならなければならない。

 そう思っていた。

 兄に負けたくなかったわけじゃない。

 家族に認めてほしかったのだ。

 父に、母に、兄や姉に、俺もグランフォード家の人間なのだと。

 だから十五歳になる日を、俺はずっと待っていた。

 剣術スキルさえ授かれば……もしかしたら俺にも才能があるかもしれない。

 今まで剣を上手く扱えなかったのも、魔力が少なかったのも、全部この日のためだったのかもしれない。

 そう思っていた。




「アルト」


 神殿へ向かう馬車の中で、父が俺の名を呼んだ。


「はい」

「緊張しているのか?」

「……少しだけ」

「そうか」


 父は俺を見た。

 しかしその視線はすぐ隣へ移った。


「レオンはどうだ?」

「僕も少し緊張しています」


 兄が笑う。


「何を言っている」


 父も笑った。


「お前なら問題ない」

「ありがとうございます」

「これまでの鍛錬を見れば分かる。お前は我が家の歴代当主にも劣らない才能を持っている」

「…………」


 俺は黙って二人の会話を聞いていた。

 別に、今更羨ましくなんてない。

 そう思おうとした。

 けれど。


「今年は、お前がどの剣術系スキルを授かるかが楽しみだ」


 父が言う。


「剣聖かもしれませんね」


 レオンが冗談めかして笑った。


「そうなれば最高だ」


 父も笑う。


「我が家から再び剣聖が誕生する。これほど喜ばしいことはない」


 俺は窓の外を見た。

 流れていく街並み。

 今日は街の至る所に十五歳になる少年少女がいた。

 神殿へ向かう者。

 家族と歩く者。

 友人と笑う者。

 みんな期待に胸を膨らませている。

 俺も本当なら、その一人だった。


「アルト」


 レオンが声をかけてきた。


「何?」

「大丈夫だよ」

「……何が?」

「お前もきっと剣術系だ」


 兄は笑った。


「僕たちは双子なんだから」

「……うん」


 俺も笑った。


「そうだよな」


 その言葉だけが。

 この日、俺にとって唯一の救いだった。



 神殿は、多くの人で溢れていた。

 高い天井、巨大な女神像、祭壇の中央には十五歳になる者のスキルを映し出す《神託の水晶》が置かれている。

 俺たちグランフォード家が入ると、周囲からざわめきが起きた。


「グランフォード侯爵家だ」

「あの剣術の名門か」

「今年は双子だったはずだ」

「兄のレオンは相当な剣士らしいぞ」

「なら剣術系で間違いないだろう」


 聞こえてくる声。

 そのほとんどが兄についてだった。

 俺は少しだけ苦笑した。

 まあ……仕方ない。

 俺自身だって、兄の方が優れていると思っている。

 だからせめて……俺も恥ずかしくないスキルを授かれたらいい。

 そんなことを考えていると。


「次の者」


 神官の声が響いた。

 何人かの少年少女がスキルを授かっていく。


「《薬師》」

「《槍術》」

「《料理人》」

「《魔術師》」


 歓声が上がったり、落胆の声が漏れたりする。

 そして。


「グランフォード侯爵家、レオン」

「はい!」


 兄が立ち上がった。

 父が満足そうに頷く。

 祭壇へ向かうレオンを見ながら拳を握った。

 兄ならきっと素晴らしいスキルを授かる。

 そう思っていた。

 レオンが水晶の前に立つ。

 そして両手を置いた。


 ――その瞬間。


 神殿内が白い光に包まれた。


「なっ……!」


 神官が目を見開く。

 水晶の中を黄金色の光が駆け巡り、やがて空中に文字が浮かび上がった。


《剣聖》


「…………」


 一瞬、誰も言葉を発しなかった。

 次の瞬間。


「おおおおおおおおおおおっ!」


 大歓声が上がった。


「剣聖だ!」

「グランフォード家に剣聖が誕生したぞ!」

「さすが侯爵家!」

「最高の才能だ!」


 父が立ち上がった。


「レオン!」


 これまで見たことがないほど嬉しそうな顔だった。


「よくやった!本当によくやってくれた!」

「ありがとうございます、父上」


 兄も嬉しそうに笑う。

 父が兄の肩を強く叩く。


「我が家の未来は、お前に託された!」

「はい!」


 俺も笑った。


「おめでとう、レオン」

「ありがとう、アルト」


 兄がこちらへ歩いてくる。


「次はお前だな」

「うん」

「きっと大丈夫だ」


 兄は俺の肩に手を置いた。


「俺たちは双子なんだから」


 その言葉に俺は頷いた。


「そうだよな」


 俺は祭壇へ向かう。

 父。

 母。

 兄たち。

 使用人。

 大勢の人々が俺を見ている。

 俺は一度だけ振り返った。

 そして水晶へ手を置いた。

 



 ――光が、灯った。


「…………」


 神殿内が静かになる。

 俺は目を閉じた。

 頼む。

 剣術……剣術でなくてもいい。

 贅沢は言わない。

 せめて……せめて、この家にいてもいいと思ってもらえるようなスキルを。

 そう願った。

 やがて光が消える。


「…………」


 神官が水晶を覗き込んだ。

 そして眉を寄せる。


「……これは」


 嫌な予感がした。


「どうしました?」


 神官は答えない。

 何度も水晶を確認する。


「神官様?」

「いや……間違いではない」

「何が出たのですか?」


 神官が俺を見る。

 そして申し訳なさそうに告げた。


「《玩具使い》です」

「…………」


 俺は瞬きをした。


「玩具……使い?」

「はい」

「それは……どんなスキルですか?」

「玩具を召喚し、自由に操作するスキルです」


 俺は少し考えた。


「ちなみに……戦闘には?」

「……適性は、極めて低いでしょう」

「…………」

「玩具そのものに戦闘能力があるわけではありません」


 神官は言いにくそうに続ける。


「少なくとも、現在確認されている《玩具使い》は、その程度のスキルです」


 俺は水晶を見る。


「……そうですか」


 胸の奥がゆっくり冷たくなっていった。

 後ろを見ると父が立っている。

 さっきまであれほど嬉しそうだった顔からは表情が消えていた。むしろ怒っていた方が良かったかもしれない。

 兄たちも、母も、誰も笑っていない。

 神殿内から、ひそひそとした声が聞こえてくる。


「玩具使い?」

「グランフォード家から?」

「よりによって……」

「剣聖と同じ日に?」

「本当に双子か?」


 俺は唇を噛んだ。


「……実際に、使ってみても?」


 神官が頷いた。


「もちろんです」


 俺は手を伸ばす。


「《玩具使い》」


 ポンッ。

 小さな音と共に、俺の足元へ何かが現れた。

 それはとても小さな車だった。赤い車体、四つの車輪、簡素な作り。

 手のひらに乗る程度の大きさ。

 俺はそれを拾い上げた。


「…………」


 神殿が静まり返る。

 誰かが、小さく笑った。


「……本当に玩具だ」


 その声をきっかけに。

 笑い声が広がっていった。


「ははは!」

「剣聖の弟が玩具使い!」

「これはひどい!」

「さすがに気の毒だな!」


 俺は俯いた。

 それでも俺は小さな車を見た。


「……かわいいじゃないか」


 誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。

 少なくともこいつは俺を笑わない。

 俺は車を地面へ置いた。

 念じる。

 すると。

 ブーン。

 小さな車が走り出した。

 神殿の床を。

 ただ、それだけ。


「…………」


 俺は思わず苦笑した。

 確かにこれでは戦えない。

 でも。


「それでも」


 俺は顔を上げた。


「何かできるかもしれません」


 父が俺を見た。

 その目にあったのは、明確な失望だった。


「貴様……」

「はい」

「それが……」


 父が小さな車を指差す。


「……それが戦場で何の役に立つ?」

「まだ……分かりません」

「分からない?」

「でも、先ほど授かったばかりです」


 俺は言った。


「これから分析して――」

「もういい」


 父の声が遮った。


「十分だ」


 その声は、とても冷たかった。


「父上?」

「アルト」


 父が歩いてくる。


「お前は今日から、この家の人間ではない」

「…………」


 何を言われたのか理解するまで、少し時間がかかった。


「……え?」

「聞こえなかったか?」


 父は淡々と言った。


「お前をグランフォード家から追放する」

「待ってください!」


 思わず叫んだ。


「俺はまだ何もしていません!」

「だからだ」

「え?」

「何もできないからだ」


 父は俺を見下ろした。


「我が家は剣の家だ」

「…………」

「長兄は《剣術・上級》」

「…………」

「次兄は《剣術・強化》」

「…………」

「姉は《双剣術》」


 そして。

 父はレオンを見る。


「レオンは《剣聖》だ」


 誇らしげだった。


「これで我が家は安泰だ」


 そして。

 俺を見る。


「だからこそ、お前のような存在が必要ない」

「…………」

「玩具使いなど」


 父が吐き捨てる。


「ただのゴミだ」


 その言葉が。

 胸に突き刺さった。


「……ゴミ」

「ああ」

「俺が……ゴミ?」

「そうだ」


 父は迷いなく答えた。


「グランフォード家にとって、お前はゴミだ」


 俺は兄を見る。


「レオン……」


 兄は何も言えなかった。

 ただ、苦しそうな顔で俺を見ていた。


「レオン」


 俺は小さく笑った。


「何か言ってよ」

「…………」

「俺、弟だろ?」

「アルト……」

「一緒に剣を練習したじゃないか」

「分かってる」

「じゃあ――」

「……ごめん」


 兄が俯いた。


「俺には、何もできない」


 俺は。

 笑った。


「そっか」


 小さな車を拾う。

 そして俺は神殿を出た。

 誰も追ってこなかった。



 門の外、俺は一人だった。持っているのは少しばかりの金。

 最低限の衣服。

 そして、小さな車。

 俺はそれを見つめた。


「……お前まで捨てられなくてよかったな」


 もちろん返事はない。

 俺は笑った。


「よし、行こう」


 王都から離れる。

 当てもなければ仕事もない。

 住む場所もない。

 それでも俺は歩いた。

 父親だった人間にゴミと言われたから。

 だったら自分一人で生きていくしかない。

 勢いのまま王都を出てしまった。

 街道を外れ、森へ入る。

 食べられる木の実を探す。

 水を探す。

 寝る場所を探す。

 初めての野宿は想像していたよりずっと厳しかった。


「……腹減った」


 木の実を一つ食べる。


「酸っぱい」


 もう一つ。


「……こっちは苦い」


 俺は空を見上げた。


「剣術家の家に生まれたのに」


 笑ってしまう。


「まさか十五歳で野宿することになるとはな」


 その夜。

 俺は木の根元で眠った。

 寒かった。

 怖かった。

 何度も目が覚めた。

 それでも、等しく朝は来る。


「……今日も生きるか」


 俺は立ち上がった。

 そして小さな車を地面に置く。


「お前も行くぞ」


 ブーン。

 玩具が走る。

 俺はその後ろを歩いた。

 



 三日目。

 事件が起きた。

 森の奥から巨大な唸り声が聞こえた。


「……?」


 俺は振り返る。

 木々の向こう。

 青い身体を持った魔物がいた。

 大きい。俺の三倍はある。

 口には鋭い牙。

 身体からは水が滴っている。


「……水魔獣」


 聞いたことがある。

 強力な魔物だ。どうやらこの付近に水場があるらしい。知らず知らずのうちに縄張りに入ってしまったようだ。俺は後ずさった。


 魔物がこちらを見る。


「グルルル……」

「……逃げるぞ!」


 俺は走った。

 魔物も追ってくる。


「速い!」


 木々の間を駆け抜ける。

 だが足元の根に躓いた。


「うわっ!」


 地面へ倒れる。

 魔物が迫り、巨大な口が開いた。


「死ぬ……!」


 その瞬間。

 俺の手が小さな車に触れた。


「……そうだ」


 俺はそれを握りしめる。

 俺にあるのは。

 これだけだ。

 剣もない。

 魔法もない。

 仲間もいない。

 なら。


「石の代わりぐらいにはなってくれよ」


 俺は立ち上がった。

 魔物が飛びかかってくる。


「くらえ!」


 小さな車を。

 投げた。

 魔物の口が開く。

 そして……。

 ガブッ。

 小さな車が。

 魔物の口の中へ消えた。


「…………」


 一瞬。

 何も起きなかった。


「やっぱり駄目――」


 その瞬間。


 バチィィィィィィィィィッ!!


「ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 魔物の身体から凄まじい電撃が走った。

 青白い光が森を照らす。

 魔物が痙攣する。

 そして。

 ドォン!

 巨体が地面へ倒れた。


「…………」


 俺は呆然と立ち尽くした。


「……え?」


 静寂。

 森の中に魔物の死体だけが残る。

 俺は恐る恐る近づく。


「死んだ……?」


 足でつつく。

 動かない。


「…………」


 俺は。

 思わず笑った。


「勝った、のか?」


 その瞬間。

 頭の中に、聞いたことのない声が響いた。


《魔物の討伐を確認》

《経験値を獲得しました》

《レベルが上昇しました》

《スキルレベルが上昇しました》


「……レベル?」


 さらに。


《条件を達成しました》

《新たな玩具が解放されます》


「……新しい玩具?」


 俺の目の前に光が集まる。

 そして地面に落ちた。

 小さな黒い車。

 先ほどまでの玩具とは違う。

 分厚い装甲。

 車体の上に砲塔がある。


「…………」


 俺はしゃがみ込んだ。


「これは……」


 小さな砲身。

 小さな履帯。

 小さな装甲。

 頭に情報が流れ込んでくる。


「戦車……?」


 俺は。

 恐る恐る触れた。

 すると。


《武装車両を解放しました》


「…………」


 俺は笑った。


「……やってみるか」


 少し離れた場所にある岩へ向ける。

 念じる。

 すると。

 砲塔が動いた。


「…………」


 俺は息を呑む。

 そして。


「撃て」


 ドォォォォンッ!!

 轟音が森を震わせた。

 目の前の岩が。

 一瞬で粉々になった。


「…………」


 俺は。

 しばらく何も言えなかった。

 やがて口元がゆっくりと上がった。


「……父上」


 誰もいない森の中で。

 俺は呟いた。


「これでも……」


 小さな戦車を見る。


「俺はゴミですか?」


 答える者はいない。

 ただ、小さな戦車だけが静かに砲身を動かしていた。

 そして俺はまだ知らなかった。

 これが俺の人生を大きく変える。

 ほんの始まりに過ぎないことを。

 俺の《玩具使い》というスキルが。

 実はかつて世界を支配した、失われた機械文明の力であることを。

 そして、俺がこれから手にする玩具が戦車だけではないことを。

 空を飛ぶ機械も。

 遠くから敵を撃ち抜く機械も。

 無数の兵士を従える機械も。

 そしてやがて一国の軍隊すら凌駕するほどの兵器群を、俺が一人で操ることになることも。

 この時の俺はまだ、何も知らなかった。




 あれから。

 俺の人生は、大きく変わった。

 二番目に手に入れた玩具は、小さな戦車だった。

 手のひらに乗る程度の大きさしかない。

 けれど、その小さな身体から放たれる砲撃は凄まじかった。

 岩を砕き。

 木をへし折り。

 魔物の身体を吹き飛ばす。


「……すごい」


 俺は戦車を眺めながら呟いた。

 こんなものがあれば。

 俺でも魔物と戦える。

 それどころか。

 もしかすると。


「……剣聖より強いんじゃないか?」


 そんな考えが頭をよぎった。

 すぐに首を振る。


「いやいや」


 俺は苦笑した。


「そんなわけないだろ」


 この国では剣士が強い、とされている。

 特に我が家のような名門剣術家なら、剣を極めれば魔物の群れすら一人で斬り伏せる者もいる。

 俺の玩具がどれだけ強くても、所詮は玩具だ。

 そう思っていた。


 ――この時までは。

 


 森で暮らし始めてから俺は毎日、魔物を狩るようになった。

 最初は怖かった。

 当然だ。

 俺は剣をまともに扱えない。

 魔法も使えない。

 頼れる仲間もいない。

 だから戦車に頼るしかなかった。


「よし」


 茂みの向こうに魔物を見つける。

 俺は戦車を地面に置いた。


「行け」


 戦車が走る。

 魔物がこちらへ気づく。


「グルルル……!」


 魔物が戦車へ飛びかかる。


「撃て!」


 ドォン!


 魔物が吹き飛ぶ。


「……すごい」


 最初はそれだけだった。

 しかし魔物を倒すたび。


《経験値を獲得しました》

《レベルが上昇しました》

《スキルレベルが上昇しました》


 頭の中に声が響く。

 そして。


《新しい玩具が解放されます》


 新しい玩具が増えた。

 最初は戦車。

 次は装甲車。

 その次は砲台。

 そして小さな兵士の人形。


「……兵士?」


 手のひらに乗る。

 金属でできた小さな人形だった。

 俺は指でつつく。

 すると。

 カチッ。

 小さな人形が動いた。


「……え?」


 もう一度。

 念じる。

 小さな兵士が立ち上がった。

 そして。

 俺の前で敬礼した。


「…………」


 俺は固まった。


「……お前、動くのか?」


 当然返事はない。

 だが命令すると兵士は動いた。

 歩く。

 走る。

 伏せる。

 銃を構える。


「……」


 俺はしばらく黙っていた。


「玩具って……こういうものなのか?」


 俺の知っている玩具とは違う。

 少なくとも命令に従って動く金属兵士なんて、俺は見たことがなかった。

 試しに。


「右の木を撃て」


 兵士が銃を構える。


 ババババババッ!


 木が削れていく。


「…………」


 俺はもう何も言わなかった。

 ただ……笑った。


「これは……最高だ!」


 


 それから俺は、森を自分の訓練場にした。

 魔物を探す。

 戦う。

 倒す。

 レベルが上がる。

 新しい玩具が増える。

 その繰り返しだった。

 ある時は空を飛ぶ小さな機械を手に入れた。


「飛行機?」


 俺が操作すると、それは空へ舞い上がった。

 遥か上空から森を見渡せる。


「すごい……」


 これまで木々に遮られて見えなかった場所まですべて見える。

 魔物の位置も。

 川の場所も。

 森の外にある街道まで。


「偵察に使えるな。これだけで戦況が一目で分かる」


 俺はそう呟いた。

 さらに。


《新しい玩具が解放されます》


 小さな飛行機が増えた。

 今度は翼の下に何かがついている。


「……爆弾?」


 試しに魔物の群れへ向ける。

 空を飛ばす。

 そして。


「落とせ」


 小さな爆弾が落ちる。


 ドォォォン!


「うわっ!……なんなんだよ……これ」


 魔物が消し飛んだ。


「……」


 俺は空を見上げた。


「これ、本当に玩具か?」


 もちろん答えはない。

 しかし俺の中では、少しずつ何かが変わり始めていた。

 俺はもう、自分のスキルを恥ずかしいとは思わなくなっていた。




 あっという間に半年が過ぎた。

 俺はついに森を出ることにした。

 理由は簡単だった。

 食料が尽きかけていたからだ。

 それにそろそろ人のいる場所へ戻りたかった。

 俺は自分の召喚した玩具を眺める。

 小型戦車。

 装甲車。

 機械兵。

 飛行機。

 そして。

 最近解放された、小さな機械。

 俺はそれを飛ばす。

 小さな羽根を回しながら空へ上がっていく。


「……便利だな」


 上空から周囲を見渡す。

 街道を発見した。

 俺は街道へ向かった。



 

 街道を歩いていると商人らしき集団がいた。

 荷馬車。

 護衛の冒険者。

 そして十数人ほどの商人。

 俺が近づくと。


「おい、坊主」


 護衛の男が声をかけてきた。


「一人か?」

「はい」

「この辺りは危険だぞ」

「分かっています」


 男が俺を見る。


「武器は?」

「ありません」

「……丸腰?」

「はい」

「何しにこんなところを?」

「街へ行きたいんです」


 男は呆れたように笑った。


「まあいい。うちの隊列についてくるなら構わない」

「ありがとうございます」


 俺は頭を下げた。

 久しぶりに人と話した。

 それだけで少し嬉しかった。

 だが街道を進んでいた時。

 空から俺の飛行機が戻ってきた。


「……?」


 飛行機から送られてくる情報。

 魔物。

 多数。

 進行方向。


「……魔物の群れが来ます」

「何?」


 護衛の男が振り返る。


「どれくらいだ?」

「三十……いや、五十以上」

「五十だと?」


 男が顔を青くする。


「全員、戦闘準備!」


 冒険者たちが武器を構える。

 魔物が現れた。


「来たぞ!」


 俺は一歩前へ出る。


「俺に任せてもらえますか?」

「坊主、お前は武器を持ってないだろ!」

「大丈夫です」


 俺は。

 小さな戦車を召喚した。

 ポンッ。

 地面に現れる。


「……何だ、それ」

「玩具です」

「は?」

「でも」


 俺は戦車を魔物へ向けた。


「戦えます」


 ドォン!


 魔物が吹き飛ぶ。

 冒険者たちが固まった。


 ドォン!

 ドォン!

 ドォン!


 魔物が次々と倒れていく。


「…………」


 護衛の男が呟く。


「玩具……?」

「はい」

「それが?」

「はい」

「……嘘だろ」


 俺は笑った。


「俺も最初はそう思いました」




 街へ到着すると、俺は冒険者ギルドへ向かった。

 そこで初めて聞いた。


「《玩具使い》?」


 受付嬢が目を丸くする。


「珍しいスキルですね」

「そうですか?」

「はい。ほとんど聞いたことがありません」

「……役に立たないって言われてました」

「そんなことありませんよ」


 受付嬢は笑った。


「少なくとも、あなたの玩具は魔物を倒せるんでしょう?」

「はい」

「だったら立派な戦闘スキルです」

「…………」


 俺は…不覚にもその言葉を聞いて少しだけ涙が滲んでしまった。


「どうされましたか!?」

「いえ、少し目にゴミが入ったようです」


 初めてだった。

 自分のスキルを否定されなかったのは。


「冒険者になってみませんか?」

「俺でも……なれますか?」

「はい、もちろんなれますよ!登録なさいますか?」


 俺は頷いた。


「ええ、喜んで」


 


 冒険者になってから、俺は急速に成長した。

 魔物を倒す。

 依頼を受ける。

 レベルを上げる。

 そして、新しい玩具を手に入れる。

 やがて俺は街で有名になった。


「玩具使いのアルトだ」

「あの小さな戦車を使う奴か?」

「違うぞ。今はもっとすごいぞ」

「何だ?」

「空を飛ぶ玩具を何十体も操るらしい」

「嘘だろ?」

「本当だ」


 噂は広がっていった。

 俺は知らないうちに有名な冒険者になっていた。

 しかし俺には一つだけ、気になっていることがあった。

 玩具の種類が明らかに普通ではない。


 戦車。

 戦闘機。

 爆撃機。

 無人飛行機。

 機械兵。

 砲台。


 どれも俺の知識では作れないものばかりだ。


「このスキルって……」


 俺は冒険者ギルドの資料室で調べた。

 古い文献。

 魔法史。

 神話。

 スキル大全。

 何日も調べた。

 そして一冊の古い本に。

 気になる記述を見つけた。


《神代文明》


 魔法文明より遥か昔。

 世界には、機械によって栄えた文明があった。

 その文明では。

 鉄の兵士。

 空を飛ぶ船。

 巨大な戦車。

 遠く離れた敵を攻撃する兵器。

 それらを自在に操る存在がいたという。

 その名は。


 《機械君主》


「…………」


 俺は息を呑んだ。


「機械……君主?」


 さらに読み進める。

 神代文明が滅びた理由。

 それは一人の機械君主が、世界中の兵器を支配し、国家という概念すら覆したからだという。

 そして最後の一文。


《機械君主の力は、神によって封印された》


「…………」


 俺は自分のスキルを見る。


《玩具使い》


「まさか……」


 その瞬間、頭の中に声が響いた。


《スキルレベルが一定値に到達しました》

《新しい玩具が解放されます》


 目の前に巨大な光が現れる。

 俺はその光の中に浮かぶ姿を見て、言葉を失った。

 それはこれまでの玩具とは比べ物にならない。

 巨大な鉄の塊。

 分厚い装甲。

 巨大な砲身。

 そしてその隣には。

 無数の機械兵。

 空には戦闘機。

 さらに見たこともない巨大な兵器が。

 次々と姿を現していく。


《新スキル解放条件達成》

《上位権限を解放します》

《称号――機械君主を獲得しました》


「…………」


 俺はしばらく何も言えなかった。


「……玩具使いって」


 思わず笑ってしまう。


「とんでもないスキルだったんだな」




 その頃……王都では。

 大きな戦争の準備が始まっていた。

 突如、魔王軍が王国へ侵攻を開始したのだ。

 各地から軍隊が集められる。

 そしてもちろん、グランフォード侯爵家も王国軍の一員として戦場へ向かうことになった。


「レオン」


 父が息子を見る。


「この戦争で勝利を掴む」

「はい」


 剣聖となったレオンは以前よりさらに強くなっていた。

 その姿に父は誇らしげに笑う。


「お前こそ。グランフォード家の誇りだ」


 その言葉をレオンは黙って聞いていた。

 しかし心の奥では、ずっと一人の弟を思い出していた。


 ――アルト。


 あの日、自分は何もできなかった。

 父に逆らえなかった。

 弟を守れなかった。

 そして……

 今でも……後悔している。

 その頃、遠く離れた街では。

 俺も戦場へ向かう準備をしていた。

 目の前には。

 無数の機械兵。

 戦車。

 装甲車。

 砲台。

 戦闘機。

 そして新たに解放された。

 数え切れない兵器。


「……行くか」


 俺は一人。

 機械兵たちの前に立つ。

 誰かに命令されるためではない。

 誰かのためでもない。

 自分自身の意思で、俺は歩き出す。

 かつて……俺をゴミと呼んだ家族がいる国へ。

 そして、俺を必要ないと言った父がいる戦場へ。


 俺は初めて、自分のスキルを誇りに思った。

 俺は知らない。

 この戦争の先で。

 俺が再び家族と出会うことを。

 そして……かつて俺を「ゴミ」と呼んだ父が、俺の率いる軍勢を前にして、別の言葉を口にすることになることを。


 ――「誇り」と。


 だがそれは、もう少し先の話だ。

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