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プレイヤー召喚:異世界救世ゲーム

作者: blood code
掲載日:2026/06/22

私たちの世界は魔王軍の攻撃により、滅亡の危機に瀕していた。


「レーザービーム砲」を使う勇者や「ミサイルハリケーン」の剣聖でさえ、魔王の果てしない侵攻を前に完全に絶望していた。


「失敗だ、我々は失敗した……魔王に勝てるはずがない!この世界はもう終わりだ!」


そんな弱音を吐き捨て、大陸最後の希望と謳われた二人の英雄は、振り返ることもなく王宮を去っていった。


大広間に残されたのは、私だけだった。


英雄たちは諦めてしまったかもしれない……だが、私は決して諦めない。


平凡に生きてきた人々が、訳もわからず魔王軍に屠られていくのを、私は受け入れられない。

美しい笑顔の少女たちが、涙に顔を蝕まれていくのを、私は受け入れられない。


だから私は魔法を使う——「召喚魔法」と呼ばれる禁忌の術を。それは大陸にただ一つ、記録だけが残され、かつて誰も発動させたことのない究極魔法だ。


召喚魔法を使うと決めたその日、私は師匠に会いに行った。

永世の魔女、ソフィア。

彼女はこの大陸で最も若い魔導賢者であり、わずか十四年で、何も知らぬ見習いから大陸屈指の実力者へと成り上がった人物で、今は私に力を貸してくれる唯一の協力者でもある。

ついでに言うと、私が見習いから魔導賢者になるまでにかかったのは七年だ。

ただ、今の大陸には私に叙勲してくれる王がもういないので、最年少魔導賢者の称号は相変わらず師匠のものだけれど。


師匠は何も言わなかった。ただ、用意していた魔導具をすべて私に手渡しただけだった。けれどその瞳は、心の奥底にある恐怖を、ありありと晒していた。


怖がるのも当然だ。なにせ発動した後に何が起こるかすら定かではない、禁忌の魔法なのだから。


とはいえ、永世の魔女である師匠がそんな表情を見せるなんて、少し可愛らしく思えてしまう。


「大丈夫、私がみんなを救うから。大丈夫だよ」

師匠を安心させるようにそう言い残し、私は事前に描いておいた魔法陣の中へと足を踏み入れ、立ち尽くしたまま呪文を唱えた。

魔力が体から根こそぎ吸い取られる一瞬、私の意識は底なしの闇へと沈んでいった。


──────


暇だ。


あまりにも暇を持て余した鉄治は、VRヘッドセットに向かってあくびを漏らした。

今は二〇X六年の夏。技術は発展し、VRヘッドセットすら街角のコンビニで気軽に買える時代だ。

鉄治はこの時代のゲームならさぞ面白いだろうと期待していたのだが、実際に触れてみれば、市場に出回っているのは流行の模倣作ばかり。

たまに独創的な作品が現れても、流行から外れすぎていて儲からず、サービス終了か開発中止に追い込まれていく。


かつて鉄治が夢中になっていた超能力格闘ゲーム『ムーン・バトル』でさえ、二週間前にあっさりとサービスを終了した。


今の鉄治は、まさにゲーム干ばつの季節にいた。


何か遊べるものはないか。


彼はだるそうにヘッドセットを頭にかぶり、VRゲームストアの画面へと潜った。世界中の作品が人気順に並び、一ページに表示される数は数百にも及ぶ。表紙はどれも派手に飾られているが、いざ中身を開いてみると——またしても鉄治は失望した。異世界冒険ものもSFシューティングも、どれもテンプレート通りの物語と操作感ばかりで、見ているだけでうんざりする。


ちょっと待て。


見落としそうになったページの片隅に、名前すらないゲームがあった。

表紙を占めているのは、泣きじゃくる一人の少女と、その背後で燃え盛る廃墟だけ。


おや、これはインディーゲームか?


こういう目立たないのに実写写真を表紙に使っているあたり、小規模な個人作品にまず間違いない。


ただ最近のインディー界隈では安価なAIイラストが流行っているが、この表紙からはAI生成の痕跡がまったく見られなかった。

鉄治は興味を惹かれた。ほとんどのインディーゲームは資金や技術の不足から粗削りなものの、技術が稚拙でもアイデアは隠せない。もしやアイデア一本勝負の怪作だったらどうしようか。


彼はその名無しのゲームを開いた。


まずは課金体系を確認——え、無料?


それならなおさら試す価値がある。


ゲーム画面は驚くほど簡素で、プロモーション映像もスタッフ名も、BGMさえもなかった。表紙の下には、大きな「Game Start」の文字があるだけ。


これはどういうゲームなんだ? VR版の人生シミュレーションか? 災害サバイバルか? 頼むからインディーを装った変なアダルトゲームでありませんように。


鉄治は深く息を吸い込み、「Game Start」を押した。


おなじみの浮遊感が訪れる。脳の神経がコンピューターに乗っ取られる前兆だ。

数秒後、鉄治の意識はゲームの中に現れた——


そして、鉄治は衝撃を受けた。


おおおおおおっ! このゲーム、リアルすぎるだろ!


普通のVRゲームなら、視覚と聴覚をプレイヤーに与える程度だ。大手メーカーの作品でも、たまに触覚フィードバックが少し付くくらい。

なのに今、風に乗って届く土の匂い、首筋にじりじりと差す日差し、足元の瓦礫を踏んだ時の不快な振動——そういった感覚が、全部ある!

この規模の感覚シミュレーションは、インディーゲームのレべルじゃ絶対にありえない。


こいつは掘り出し物だ。


興奮した鉄治は、あたりを見回した。

だが、ここはゲームでよくある初心者の村ではないようだ。ただの荒れ地だ。


ゲームメニューを開いて指示を確認しようとしたが、ボタンも何も表示されない。

え、チュートリアルすらないのか? これ、どうやって進めればいいんだ?


この奇妙な状況に、鉄治はある有名なアニメのストーリーを思い出した。VRゲームを遊んでいたプレイヤーたちがゲームの中に閉じ込められ、命を賭けてゲームのモンスターと戦わされる、という話だ。


何考えてんだ。

鉄治は少しおかしくなった。そんな話はVRヘッドセットが登場した頃からずっと言われていることだ。そもそもVRゲームに人間を閉じ込める能力があるかどうかはさておき、高校生である鉄治は親にゲームを制限されていて、一日のプレイ時間は最長でも一時間。時間が来ればヘッドセットは自動で電源が切れる。危険なんて起こりようがない。


だったら、この世界に何があるのか、見に行ってやろう。


鉄治はゲーム内の探索を始めた。


そう遠くへ行かないうちに、前方に人影を見つけた。

「お、ここは市場か」

人のいる市場に出られたことが鉄治には嬉しかったが、妙なことに、市場の人々が話す言葉は、鉄治にはまったく理解できなかった。

鉄治が話す言葉も彼らには通じず、何を尋ねても、皆ただ手を振るばかり。


このゲーム……日本語ボイスが実装されてないのか? それに、このNPCたちが話しているのはどこの言語だ?


困惑していると、背後から聞き覚えのある声がした。


「あの、あなたが勇者様ですか?」


今度は聞き取れた。これは日本語だ!

振り返ると、そこには美しい女性が立っていた。尖った帽子に杖を持っている。魔法使いか何かだろうか?


「勇者? ゲームのプレイヤーって意味か?」


鉄治の問い返しに、女性はようやく安堵した表情を浮かべた。


「やはり……どうやらあなた様が勇者で間違いないようですね。失礼しました、私はソフィア。勇者の皆様をご案内する役目を担っております」


案内NPC登場か。

不安が消えた鉄治は、このNPCに興味を持った。

「さっきの人たちは何語を話してるんだ? このゲームには日本語の翻訳機能とかないのか?」


ソフィアは少し戸惑い、それから優しく説明した。

「ああ、これは我々の大陸共通語です。申し訳ありません、現時点では勇者様に皆と会話していただくことができません。次にいらっしゃって世界を救っていただければ、修正されるかと」


大陸共通語???

まさか開発者たちは、このゲームのためだけに一から言語を作り上げたっていうのか? そんなの、ぶっ飛びすぎだろ!


「ついでに聞くけど、このゲーム、タイトルは何ていうんだ? どうして名前がないんだ? ゲームの遊び方は? 俺は何をすればいいんだ?」

鉄治はソフィアに矢継ぎ早に尋ねた。


ソフィアは気まずそうにうつむいた。「ああ、それなのですが……ゲームのほうは、まだ内部テストの段階でして、すべて勇者の皆様のご意見をもとに決まります。ゲームの名前すらも、勇者の皆様のフィードバックで決めたいと」


「つまり、名前すら決まってないのに、ゲームをリリースしたってことか?」


「……はい」


そのバツが悪そうな様子に、鉄治は思わず笑ってしまった。

こいつは新鮮だ。


ソフィアは勇気を振り絞るように、まっすぐ鉄治を見た。

「恐れ入りますが、勇者様。この大陸を救っていただけませんか?」


お、クエストが受けられる!

鉄治は嬉しくなった。どうやらようやくゲームが遊べるらしい。

「もちろんいいよ。俺は何をすればいいんだ?」

「この大陸を救い、魔王軍を打ち倒してください!」

なるほど、王道の異世界冒険ものってわけだ。


「わかった。じゃあ、初期武器とバックパック、それからポーションとかをくれ」

「も、申し訳ありません……武器などは、まだ……ご用意ができていなくて」

ソフィアは声を潜め、その声には後悔の念が滲んでいた。


え、無いの? そんなゲーム、あるか?


「うわあああああああああ!」

相手の言葉がわからなくとも、この悲鳴が何を意味するかは、鉄治にも痛いほど伝わった。


振り返ると、緑色の、人型の何かが市場に現れていた。


間違いない。ゲームでありがちな、ゴブリンだ。


ゴブリンの身長は大人の腰ほどしかないが、大手を振って市場に侵入していた。

物売りの露店はそいつに木の棍棒で粉々に叩き壊され、人々は悲鳴を上げて四方八方へと逃げ散っている。


「勇者様、急なことですが、どうかまずはあのゴブリンを倒してください!」

「はあ? でも俺、何も持ってないんだけど!」


鉄治がそれ以上文句を言う間もなく、ゴブリンはすでに彼を見つけていた。

耳障りな奇声を発し、棍棒を振り回して突っ込んでくる。

鉄治はとっさに両腕で頭を庇った。次の瞬間、左腕に強烈な痛みが走る。


「痛ったあああああ!!!」


思わず叫び声が漏れた。このゲーム、痛覚まで再現してるのか!? しかも、ちょっとした痛さじゃない。本当に殴られたような、あの苦痛だ。


まだ終わりじゃない。倒れていない鉄治を見て、ゴブリンは棍棒を手に、何度も何度も鉄治を打ち据えてくる。

一発、二発……

何度も殴打を受けながら、鉄治の頭の中に残った考えはただ一つ。

逃げろ!


隙を見て、鉄治は背を向けて走り出した。

ゴブリンは後ろから執拗に追いかけてくる。

鉄治は必死にゴブリンの攻撃を避けながら逃げまどう。


「なんなんだよこのクソゲー、体験がただの殴られ役かよ!」


慌てふためきながら、逃げ道を探す鉄治だったが、そこで小さな少女を見つけてしまった。


年の頃は七、八歳。顔中が土埃にまみれていて、あの表紙で泣いていた少女にとてもよく似ている。

彼女はその場にうずくまったまま、逃げる力すら残っておらず、ただ小さな両手で頭を抱えているだけだった。


鉄治は、喧嘩は得意じゃない。

それでも、この瞬間だけは——退きたくなかった。


あのゴブリンだって、そこまで特別強いわけじゃない。棍棒にさえ当たらなければ、恐怖さえ克服できれば……


鉄治は急ブレーキをかけて足を止め、振り返ると同時に、その勢いのまま後ろにいたゴブリンに蹴りを叩き込んだ。

不意を突かれたゴブリンは吹き飛ばされ、棍棒は手から離れ、地面を数回転がっていく。


「も、もう怖がらなくていいからな。大丈夫だ」

その言葉が少女に通じているかはわからない。けれど、それは重要じゃなかった。

鉄治は息を切らし、全身を震わせながらも、武術の構えを取って立ち塞がった。

戦いの恐怖は本物だ。それでも、「確かに正しいことをした」というその感覚が、彼をどうしてもその場から動かせなかった。


「勇者様! 見つけました、この魔法の巻物です!」


ソフィアが鉄治に巻物を投げ渡した。


「遅い! でもこれ、どうやって使うんだ?」


「敵に向けて、ファイアボールと叫べば発動します!」


言い終わるが早いか、ゴブリンはすでに棍棒を拾い上げ、雄叫びをあげて鉄治に飛びかかってきていた。


迷っている時間はない。鉄治は巻物を広げ、あの歪んだ緑色の顔に向けた——巻物に描かれた魔法陣が輝き始める。


「ファイアボール!」


灼熱の火球が巻物から勢いよく放たれ、狙い違わず着弾した。

業火がゴブリンを包み込み、断末魔の叫びとともに、その怪物は黒煙を上げる炭と化した。


やった、勝ったんだ!

鉄治はその場にへたり込んだ。ゴブリンとの戦いで、体力は一滴残らず使い果たされていた。


あたりはしばしの静寂に包まれ、やがて人々が現れた。彼らは協力してゴブリンに荒らされた品々を片付け始め、すすり泣く者もいた。幸いにも、死者は出なかったようだ。


「感謝いたします、勇者様。我々はついに、ついに魔王軍に立ち向かう希望を得ました!」

興奮するソフィアとは対照的に、鉄治の痛みはまだ消えていなかった。

彼は手を振って言った。

「あの……悪い、今日はもう疲れたからログアウトする。それと、運営に一言、伝えてくれないか——」


彼は顔を上げ、真剣な表情でソフィアを見た。


「このゲーム、絶対に修正が必要だ。難易度が高すぎるし、報酬も何もないんじゃ、誰も続けられないぞ」


そう言い終えると、鉄治の体は星屑のような光の粒子となって、消え去った。


「彼は、帰られました」


鉄治が消えた方角を見つめながら、ソフィアは悲しげな表情を浮かべた。


「召喚は成功しました。ですが……あなたにはもう、見えませんね……」


ソフィアは視線を落とし、自分の影を見つめた。

沈みゆく夕日の中にあったのは、自分一人だけの影。いつもそこにあったはずの、もう一つの影は消えていた。


「あなたの願いは、私が継ぎます。必ず」


一方、現実世界。


鉄治はVRヘッドセットを外し、天井を見上げたまま長いことぼんやりしていた。


ゴブリンに殴られた痛みも、追われた恐怖も、まだ体のあちこちにこびりついている。

数多くのゲームを遊んできたが、これほど不快な体験を味わったのは初めてだった。


それでも、あの少女の姿を思い出し、自分が確かに一つの命を救ったことを考えると——


彼はヘッドセットをそっと枕元に置いた。


明日も、あのゲームを続けてみよう。



最後までお読みいただいた皆様、誠にありがとうございました。

未熟な私ではございますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

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