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剥製たちの鼓動

カイの言葉が途切れた瞬間、スタジオには耳を刺すような静寂が返ってきた。しかし、それは以前の「清潔な死」のような静寂ではなかった。爆発を目前に控えた火薬庫のような、ひりつく熱を帯びた沈黙だった。

カイはレンズを射抜いたまま、頬を伝う一筋の熱を拭おうともしなかった。

「……以上です。これが、私自身の言葉です」

その直後、スタジオの重厚な防音扉が、物理的な衝撃を伴って内側から吹き飛んだ。なだれ込んできたのは、黒いバイザーで顔を隠したギルドの特殊執行官たちだ。彼らの手には、精神を強制的に沈静化させる高電圧の拘束具が鈍い光を放っていた。

《”対象を確保しろ! 回線を物理的に遮断せよ!》

レオンの怒声スピーカー越しに響き渡る。それは、かつて施設で共に未来を語り合った「親友」の声ではなく、街の秩序を脅かすバグを排除しようとする「システム」そのものの叫びだった。

「カイ先輩,,,,,,」

 カイは一切の抵抗をしなかった。数人の執行官に取り押さえられ、冷たい床に顔を押し付けられながらも、その瞳は最後までレンズの向こう側――自分自身の声を取り戻そうとしている市民たち――を見つめ続けていた

 カイの体が高電圧の閃光に包まれ、視界が急速に闇へと沈んでいく。意識が途切れる寸前、彼の耳には、スタジオのメインモニターが発する異常なアラート音が届いていた。

それは、街全体を管理する「幸福指数スコア」の暴落を知らせる音。

そして、それと反比例するように急上昇する、正体不明の熱源反応。

一人の老人が、自分のデバイスを地面に置いた。

続いて、一人の少女が、母親の服を引っ張り、自分の声で「お腹が空いた」と言った。

不協和音が、街中に広がり始める。

 裕福な層、貧困層に関係ない、一人ひとりの声

 人々が足を止め、自分の胸に手を当てていた。ある者は震える声でかつての友の名を呼び、ある者は理由も分からず涙を流し、ある者は握りしめた拳の中に宿る「熱」に驚愕していた。

それは、完璧な調和よりも遥かに残酷で、そしてどうしようもなく美しい、人間たちの合唱だった。

カイが放った一筋の「体温」は、巨大な氷山のようなこの街の理に、もはや修復不可能な亀裂を刻み込んだのだ。

 カイは広場の片隅で、涙を流しながら微笑むミナを見つけた。

彼はもう、代弁者の言葉など必要なかった。ただ、彼女の名前を、自分の声で呼びたかった。


「ミナ!」


その一言が、新しい世界の、最初の一行になった。


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