第5話 ミノタウロスの巨斧
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第5話 ミノタウロスの巨斧
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三日目も過ぎると、モンスターとの遭遇が面倒臭くなってきた。この森は多くのモンスターがいるようで、よく遭遇するのだ。
いい加減ウザくなり、そこで思い出した。神様が私に持たせてくれたハイドマントがあったよ。
ハイドマントは気配を遮断してくれる。実際に使用後はモンスターに気づかれることがなくなった。便利なマントをありがとうございます。
さらに三日、森歩き六日目。もう少しで森を抜けられると、足にも力が入る。が、そこに悲鳴が聞こえてきた。
「………」
悲鳴はいいのだが、こういう時は女の子の「きゃー」でしょ。なんで野太い男の声で「ぎゃー」なんだよ?
「これ、いかないといけないヤツか?」
全然テンション上がらないんだけど。
そんなことを考えながら歩いていると、現場近くに到着してしまった。
「ん?」
男もいるんだが、なんと女性もいるのである。しかも女性が三人!
そして大きな赤いゴリラと盾を持ったゴリラが戦っている!? なんだよ、この光景は? 仲間割れか?
「はっ!? まさか、あのゴリラは三倍の速度が出せるのか!?」
この世界の人では分からないボケをかましてみる。うん、虚しいな。
赤いゴリラは、盾を持ったゴリラ(人間)より少し大きいくらいの二百五十センチメートルくらいか。クマやドラゴンに比べると、まったく迫力がない。
そんな赤いゴリラに苦戦しているだけでなく、男の一人は怪我をしていて剣を杖のようにして辛うじて立っていた。おそらく先ほどの悲鳴はこの男のものなのだろう。
「援護はいる?」
私は後方に陣取っていた女性の後ろから声をかけた。肉々しいよいお尻をしている。私は肉づきがいい女性が好みだ。
年齢は特にないが、さすがに若い子はね。できれば、二十以上四十代前半くらいまでがいいかな。
おっと、今は私の好みの話ではなかったよね。
「えっ!?」
振り返った女性は、正に私のド・ストライク! 三十代の前半で、豊満な胸をお持ちでした。
私は顔より胸と尻のほうを重視しているけど、そのご尊顔も私好みのマダムって感じですね! その垂れ目がいい!
「あ、ども。援護いるかなと思いまして」
「は、はい。お願いします!」
彼女はかなり焦っているようで、私をガン見しながらそう答えた。
「それじゃあ、援護するね」
私は武神剣を抜き、地面を蹴った。
一気にゴリラとの間合いを詰める。体勢を低くした私がいきなり足元に現れたことで、ゴリラが面喰って目を大きく見開いた。
「動きが止まっているぞ」
「UHO」
我に返って太い腕で殴りかかってきた。地面が抉れクレーターができる。
「遅い」
私はすでにそこにはいない。
ゴリラは私の姿を探して首を左右に激しく振る。私は真後ろにいて、飛び上がり武神剣を振った後だ。
ゴリラの首がぐるりと百八十度回転する。私の姿をその目で捉えたが、その目から光が失われていった。
「UHO……」
ゴリラの首がずり落ちて地面に転がる。
「な、何が……って、誰だ?」
盾持ちの男が、困惑している。
この盾男、ゴリラみたいな見た目だから、どっちがモンスターか分からなかったよ。間違えなくてよかった。
「うそ……Sランクのガガド・コングがこんなに簡単に……」
大剣を持った女性は荒い息遣いだ。おかげで豊満な胸が激しく上下している。
さきほどの肉々しい女性と違って腹筋が割れている。鍛え上げられた女性だが、悪くない。むしろ好みの女性だ。
「あ、あの……助けてくださり、ありがとうございました」
三人目の女性は、魔法使いっぽい魔女衣装だ。うーん、童顔で私のストライクゾーンからは外れているかな。私はロリに興味はないのだ。
「えーっと、あの人、大丈夫かな?」
怪我をしている人を指差す。さっきまで剣を杖にしていたが、倒れてしまった。気を失っているようだ。
「「「「ゲール!」」」」
彼のことを思い出したのか、皆が怪我人のところに集まった。忘れられるのって、悲しいよね。
「今治療するわ。癒しの女神シャイネン様のお力をお借りします。ハイヒール」
私が最初に声をかけた、ド・タイプの女性が魔法で男を癒した。白い衣装は神官服に見えないこともない。
昔観たAVで、シスターが凌辱される光景が浮かんできたけど、私は首を振ってその映像を消した。今は怪我人がいるんだ、不謹慎な考えは少しだけ我慢しよう。そう、少しだけ。
それにしても癒しの女神なんているんだね。私に加護を授けてくださった神の中にはいなかったな。癒しとは縁がないものと諦めよう。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。大丈夫です。本当に助かりました!」
うん、何度見てもいい体つきだ。
「わたくしはヒルダといいます。本当にありがとうございました」
「俺はドラゴだ。助かった、感謝するぞ」
「あたいはルイーザ。あんたのおかげで助かったよ」
「ありがとうございます。うちはチッチといいます」
ゴリラのような盾持ちオッサンがドラゴ(三十三歳)、大剣使いの巨乳戦士がルイーザ(三十二歳)、ロリっ娘魔法使いがチッチ(十三歳)、そして肉感神官がヒルダ(三十三歳)。うん、覚えた。
「うぅぅ……」
「ゲール! 気がついた?」
かなり血を流したようで、ゲールというオッサンの顔面は蒼白だ。
「大丈夫か、ゲール?」
「少し頭がくらくらする。すまんな、しくじった」
「こんなところでガガド・コングに遭遇するなんて、普通じゃありえない。運が悪かったということだが、その人が助けてくれたのが不幸中の幸いだ」
ルイーザさんが私に視線を向けると、ゲールも向けてきた。
「あんたが助けてくれたのか? 感謝する」
「たまたま通りがかっただけだから、気にしなくていい」
「俺は『ミノタウロスの巨斧』のリーダーをしているゲールだ。あんたの名前を教えてくれるか」
「ミノタウロスの巨斧?」
「俺たちのパーティー名だ。これでもAランクパーティーなんだぜ」
Aランクと言われても、判断基準がよく分からないんだよな。まあ、それは後から聞けばいいか。
「私はハジメといいます」
この世界で家名(苗字)を名乗るのは一般的ではないようだ。神眼で見たが、五人とも家名があるのに、名乗らなかった。だから、私も名前だけでいいだろう。
ちなみにゲールは剣を持っているが、基本的には弓を使うようだ。年齢は三十五歳と、この五人の中では最も上になる。
「あのガガド・コングはハジメさんが倒したものです。どうぞお持ちください。その上で、お礼をしたいと思います。ですが、今は持ち合わせがあまりありませんので、町に帰ってからしっかりとお礼をしたいと思います。できれば、ライバスへ同行してもらえすか?」
ヒルダさんのお誘いとあらばどこまでも! と言いそうになったが、グッと堪えた。
それに思ったのだが、私はこの五人と普通に会話しているんだよな。
前世ではあれほど人が怖いと感じ、三十を過ぎてやっと一人で出歩けるようになったが、それでも人と喋るのは苦手だった。それなのに、今は怖さや嫌悪感を感じない。これは状態異常耐性のおかげなのだろう。
「丁度町へいきたいと思っていたので、むしろ同道させてもらえると助かります」
他人とコミュニケーションがちゃんととれるって、素晴らしいことなんだな。
なんだか目頭が熱くなった。
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