第3話 第一異世界モンスター
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第3話 第一異世界モンスター
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「さて、どっちへ向かえばいいんだろうか?」
こういう時に便利なスキルは……あった、神眼の内包スキルの千里眼だ!
「おおお! 絶景かな、絶景かな!」
森の木々をすり抜け、その先の先まで見通せた。千里眼で三百六十度くまなく見ていくと、いくつかの町を発見した。
「さて、どの町にいくか」
町で暮らすのか、ひっそり暮らすのか、まだ決めていない。とりあえず、この世界の情報を集めるためにも町へ向かうのは決定だ。
どうせ向かうなら活気のある町のほうがいいよな。ということで、南に進むことにした。近場だと西の町なのだが、活気が一番ありそうなのが南の町なのだ。
その南にはあまり離れてない場所に二つの町がある。共に活気があり、どちらにいっても同じようなものだと思われる。
「ま、そこら辺は足が向くままってことで」
どっちでもいい。こんな気ままな旅なんてしたことがない。そもそも高二で引きこもってからは、旅などしたことがないんだよな。
「おっと……」
何かが近づいてくる。そんな気がした。武神術の内包スキル・気配察知の効果だと思われる。
気配は次第に大きくなっていき、地響きが聞こえてきた。さらに、木々を薙ぎ倒す破壊音まで聞こえた。
「な、何が起きているんだ?」
木が倒れるのが見えた。そして、それが現れた。
考えたらここは異世界で、スキルとか魔法がある世界なんだよな。当然、これもいるわけで……。
赤黒い体毛、体高五メートルはある巨体、血走った目、全身から溢れ出す殺気、私はゴクリッと生唾を飲んだ。
『グラップラー・グリズリー』
災害級モンスター
圧倒的なパワーと防御力で他者を圧倒するクマ型モンスター
スキルは物理耐性Lv7、魔法耐性Lv9、剛腕Lv8、身体強化Lv8、咆哮Lv8、突進Lv9、狂暴化Lv7を持っている
第一異世界モンスターとの遭遇であった。
「GURAAAAAAAAAA!」
鼓膜を激しく震わせる咆哮は、私の体を貫き硬直させようとする。だが、私の体はそれをレジストした。状態異常耐性を持っているからだろう。
普通はヒグマに出遭っただけでも怖くてちびりそうになる。こんな化け物クマなら尚更だ。それなのに、私の本能が戦えと言っているように感じる。
無意識に武神剣を掴んでいた。さらに武神剣を鞘から抜くと、勇気が溢れ出てくるようだ。私は冷静にグラップラー・グリズリーを見据えることができた。
「さあ、殺り合おうか」
私はいつから戦闘狂になったのだろうか? そんなスキルはなかったと思うのだが?
まさかとは思うが、これまで抑圧されてきた心が状態異常耐性によって解放されたのか? 考えすぎか。
グラップラー・グリズリーは凶悪な牙を剥き出しにし、後ろ足立ちになった。
「で、デカいな……」
体高は五メートルほどでそれだけでも二階建ての家くらいあるのに、後ろ足立ちになったら軽く十メートルはある。
「ビルかよ……」
左前足で邪魔な大木を押し折り、一歩前に出てくる。グラップラー・グリズリーの殺気を受けた私は、全身の毛が静電気を纏ったような不思議な感覚を覚えた。
だが、動きに支障はない。むしろ早く戦いたいと体が渇望しているようだ。
「お互いに戦いがしたいようだな」
「GURA」
私の言葉に反応するようにひと鳴きすると、グラップラー・グリズリーは一気に間合いを詰めてきた。
速い!? あんな巨体なのに、まるで小動物のような瞬発力だ。
間合いが一瞬でゼロになり、グラップラー・グリズリーの極太の腕が振り下ろされる。その先には研ぎ澄まされたような鋭い爪があり、私を切り裂こうと迫ってくる。
私は大きく後方に跳び退いた。すると、今まで私がいた地面がゴボッと抉られた。グラップラー・グリズリーの爪がほんの少しだけ地面を撫でたように見えたが、クレーターのような穴が開いたのだ。それほどの破壊エネルギーを持った一撃だった。
「面白い」
そんな言葉が無意識に出てきた。
やはり私は戦闘狂になってしまったようだ。
「GURAAAAAAAAAA」
グラップラー・グリズリーのラッシュ。縦横無尽に伸びてくる太い両腕。一発でも当たれば致命傷になりかねない破壊力を持った攻撃だ。
「はははっ! いいぞ、もっとだ!」
グラップラー・グリズリーの攻撃は全て見切っている。
「次は私の番だ!」
足腰のバネを活かした跳躍は、音速を超えた。空気の壁を越えた際の衝撃波によって、地面がめくれ上がる。
何かを意識したわけではないが、体が勝手に動いて武神剣を振った。
グラップラー・グリズリーの横を通り抜け、地面に着地。滑るように数メートル進んで止まった。
「またつまらぬものを斬ってしまった」
モンスターを斬ったのは初めてだけどね。
私の背中越しに、グラップラー・グリズリーの首がずり落ちるのを感じた。そして、その巨体が轟音を立てて倒れた。
「クマ肉は美味しいのだろうか?」
せっかく異世界にきたのだ、珍しい食材で美味しい料理が食べてみたいじゃないか。
神眼で見てみると、グラップラー・グリズリーの肉はとても美味しいが、中でもお腹の肉が特に美味しいとあった。これは期待できる!
「でも、解体はどうしたらいいのだろうか?」
残念ながら私にそんな技術や知識はない。
「町にいったら、解体してもらえるはずだ」
希望的観測だが、なんとかなるだろう。
グラップラー・グリズリーを無限収納の背嚢に収納し、再び南へむけて進んだ。
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