第2話 現状把握
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第2話 現状把握
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いまだに信じられないが、私は転生したようだ。ステータスが見えることから、まず間違いなく異世界だろう。
あと、加護とスキルがすごい。本当に人間を止めているレベルだ。
さて、持ち物を確認してみるか。
腰には剣。鞘から引き抜いてみると、白銀が煌めく。意匠はシンプルで、長すぎず短すぎず丁度いい長さだと思われる。
そもそも剣などこれまでに触ったこともないので、何がいいのか分からない。だが、私には武神術がある。感覚的に数十年も使い続けた相棒のような懐かしさを感じる。
「む?」
剣が鏡のように私を映したのだが、明らかに見慣れた私の顔ではなかった。
「しかも若返っているのか?」
瞳の色は金にオレンジが少し混ざっているかな。キリリとした切れ長の目だ。青銀色のショートマッシュの髪は見ただけでサラサラと分かるもので、鼻筋はスーッと通っていて年齢は二十歳くらいか。
「うん、美形だ」
タレントの目●蓮にちょっと似ているかな。
そういえば、誰よりもよい容姿と要望したのだった。神様に失礼な物言いをしたのに、ここまでちゃんと要望を聞いてくれたのだな。
もう悩むことなく、神様に感謝しよう。そして、この人生では嫌なことははっきり嫌と言い、誰かの言葉に一喜一憂するのは止め、そして前世ではできなかった楽しい人生を送るんだ。
さて、背中には背嚢がある。何かの革でできた茶色の背嚢で、あまり大きくはない。中を確認するために、下ろして開けてみたのだが……。
「何これ? 中が真っ暗なんですが?」
まるで深淵だよ。すごく怖い。
恐る恐る手を入れてみると、頭の中にリストが浮かんできた。
「あー、理解した。これはあれだ、アイテムボックスとかストレージとかいう感じのものだな」
そういえば、神眼があったな。それで見てみれば詳しいことが分かるはずだ。
『無限収納の背嚢』
使用者 : 橘一
大きさ、重量、容積に関係なく多くのものを収納できる
盗難防止機能あり、容量無限、時間経過なし、破壊不可、ただし生物は収納できない
『武神剣』
使用者 : 橘一
神の御業によって鍛えられた神剣
使用者の意志に応え、全ての属性を纏うことができる
盗難防止機能あり、破壊不可
背嚢だけじゃなく、剣もすごくいいものだった。
となると、使ってみたくなるのが人の性である。
私は武神剣を両手で持ち、正眼に構えた。構えると分かるが、私は剣の扱いを理解している。まるで剣を数十年も扱ってきたかのように、動きが体に染みついているのだ。
狙うは、直径十センチメートルほどの枝だ。この程度なら気負わずとも斬れるという自信があった。
「はぁぁぁっ!」
振りかぶり、しっかり狙いをつけて振り下ろす。
手応えはまるでなかった。枝も特に落ちることなくそこにあり続けている。
だけど、間違いなく枝を斬ったはずだ。剣先で枝をツンとこつくと、一本の線が入りストンッと枝が落ちた。
「フフフ。神様、感謝します!」
テンションが上がる。こんなワクワクしたことはかつてあっただろうか。いや、ない! 私は、今、モーレツに感動している!
「生活が落ちついたら、神様の像を作って感謝しますね!」
私は武神剣を振りかぶり、大木に向けて振り下ろした。
やはり大木にはなんの変化はない。地面を強めにバンッと踏みつけると、大木に斜めの線が走る。
ツツツッと大木がずり落ちていく。バキバキッゴキッと倒れゆく大木を、私はにやけた顔で見ていた。
「これほどの大木でさえ、まったく手応えがなかった。スキル・武神術のおかげとはいえ、自分の力が怖い!」
役者のよう大げさにポーズをとってみる。こんな森の中では誰も見ていない。そもそも見られていたら、こんなポーズはできない。
「一応、何かに使えるかもしれないから、この木は持っていくか」
無限収納の背嚢の口に大木の端をつけると、スッとなくなった。
「不思議な光景だな」
さて、次は魔法だ。そう、魔法なのだよ、諸君!
魔法といえば、最初はファイアだろ。だが、ここは森の中だ。生木は簡単に燃えないと何かで読んだと思うが、それでも火を使うのはちょっと厭われる。
だったら風ならいいでしょ!
「荒れ狂え! ダウンバースト!」
バキッゴキッバキッゴキッバキッゴキッバキッゴキッバキッゴキッバキッゴキッズババババーンッ。
荒れ狂う下降気流が森の木々を容赦なく薙ぎ払っていく。ある木は根本からへし折れ、ある木は綺麗な断面を残して斬り飛ばされた。
魔法が止まると上空に巻き上げられた木々が地面に落ちていく。
半径百メートルほどの範囲が、ミステリーサークルのようになってしまった。森林破壊してごめんなさい。
まさに天災のような魔法だったが、まだ魔力は底をついていない。それどころかあと百回でも撃てそうな気がするくらい元気だ。
「魔法、ヤベー。これ、人間には使えないぞ」
人間相手に使ったら、肉片になって原型を留めないだろう。
「神様、すごい魔法をありがとう!」
片膝をつき、両手を合わせて神様に感謝する。
そういえば、ご尊名をお聞きしていなかった。私のバカ。バカバカバカー。
せっかくなので、木々は全部回収した。ちょっと時間かかりそうだったので、魔法で補助した。
「アポート」
念力のような魔法で、離れたところにあるものを手を使わず取り寄せることができる。
あとは無限収納の背嚢の口をちょっと開けるだけで、勝手に収納されていく。とても簡単なお仕事です。
「本当のホワイト案件ですよ!」
今度は無限収納の背嚢に収納されているアイテムを確認する。
まずは革袋。これはなんの変哲もない革袋だが、ずっしりとしていてジャラジャラと音がする。中には予想通りお金が入っていた。神眼でお金を鑑定してみる。
『銭貨』
アルディア皇国の貨幣
最も貨幣価値が低い硬貨
鉄九十パーセント 亜鉛三パーセント 錫二パーセント オリハルコン五パーセント
『小銅貨』
アルディア皇国の貨幣
銭貨十枚分の価値がある硬貨
銅八十五パーセント 亜鉛八パーセント 錫二パーセント オリハルコン五パーセント
『大銅貨』
アルディア皇国の貨幣
銭貨百枚分の価値がある硬貨
銅八十五パーセント 亜鉛八パーセント 錫二パーセント オリハルコン五パーセント
『小銀貨』
アルディア皇国の貨幣
銭貨千枚分の価値がある硬貨
銀七十三パーセント 亜鉛十パーセント ニッケル十パーセント オリハルコン七パーセント
『大銀貨』
アルディア皇国の貨幣
銭貨一万枚分の価値がある硬貨
銀七十三パーセント 亜鉛十パーセント ニッケル十パーセント オリハルコン七パーセント
『小金貨』
アルディア皇国の貨幣
銭貨十万枚分の価値がある硬貨
金五十パーセント ニッケル二十パーセント ミスリル二十パーセント オリハルコン十パーセント
『大金貨』
アルディア皇国の貨幣
銭貨百万枚分の価値がある硬貨
金五十パーセント ニッケル二十パーセント ミスリル二十パーセント オリハルコン十パーセント
それぞれの硬貨が十枚ずつあった。価値はイマイチ分からないが、結構な金額だと思う。人里へいってもしばらくは過ごせる感じじゃないだろうか。
しかし、ミスリルとかオリハルコンという物質があるんだな。やっぱ異世界ってことか。
他にタオルや着替え、野営道具などが入っていた。服は今着ているものと変わりないもので白いシャツ、紺色のベスト、ジーパン、紺色のジャケットだ。あと、灰色のマントも入っていたけど、このマントは快適温度と気配遮断の効果があった。名を『ハイドマント』というらしい。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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