第1話 転生
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第1話 転生
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不思議な夢を見ていた。
「感動した!」
自分のことを神と名乗った怪しい男が、私を誉めそやすのだ。
「痛みに耐えてよく頑張った!」
別に耐えたくて耐えたわけではないのだ。
「君はなんて素晴らしいんだ!」
私が素晴らしい? 頭が腐っているんじゃないか?
「二十億円もの私財を親のない子のために寄付をするなんて、本当によい行いだ!」
大腸癌が見つかり、手術と退院、そして肺や胃への転移を繰り返した。そのおかげで、一カ月前から病院のベッドの上で寝たきりになった。
親孝行なんてできなかった。むしろ親不孝だった。それが心残りだった。
私はデイトレードの才があったようで、それなりの財産を築いた。
既に亡くなっている両親から受け継いだ家や資産、そして私がデイトレードで得た資産をすべて処分して現金化し、遺言書と共に弁護士に託した。
私が死んだら、二十億円はすべて親のない子供たちのために寄付されることになっている。
寄付なんて柄でもない、と思わないわけではないが、生前ボランティアをしていた母のことを思い出して、できなかった親孝行のつもりで寄付を決意した。
生涯でただ一度の善行かもしれない。それがこの自称神には素晴らしい行いに見えたのだろう。
「そんな君には、私の世界に転生をさせてあげよう!」
伸ばした黒い髪に草冠を載せ、白い布を纏っていたその男は私を転生させると言った。これは決定事項だと言うのだ。
神という存在は古今東西我が儘なものだと決まっているし、どうせ夢なんだからと私は横柄な態度で自称神に要望を伝えた。
「一人で生きていける圧倒的な力と、精神力がほしい。健康で病気に罹らず、怪我をしにくく、怪我をしても治りが早い体がほしい。誰よりもよい容姿がほしい。犬を飼ってみたかったので、動物から好かれる体質にしてほしい。不便な生活は嫌だから、私が生きた世界のものを手に入れられるようにしてほしい」
自分でも呆れるほどの我が儘な要望だ。自称神も飽きれて転生を撤回するかもしれないな。それでいい。転生したところで、幸せになれるわけじゃないのだから。
癌の治療は本当に苦痛だった。だからもう楽になりたい。
「その程度のこと、お安いご用だ。では、転生させるぞ」
自称神は余裕の表情で答えた。
木の杖を掲げた自称神から光が発せられ、私は真っ白な世界に包まれた。
そして、それが夢でないと実感したのは、異世界に転生した直後のことだった。
ふわりとした感覚があり、意識が覚醒していく。ゆっくりと目を開けると、森の中であった。
「本当に転生したのか?」
半信半疑だった。
まさかな、と思いつつ跳ねてみた。
「お、おおお」
体が軽く、まるで私の体ではないようだ。
日頃の不摂生と運動不足によって、四十歳になった時の体重は百二十キロあった。その体重も十二年もの長い闘病生活によっていくらか減った。
長い闘病生活で体も精神もボロボロになり、ここ数年は寝たり起きたりを繰り返した。それなのに、体が思うように動くぞ。
「夢じゃない……のか?」
両手で頬を叩く。パチンッと渇いた音がし、痛みが脳天を突く。
「もう少し手加減すればよかった……」
自分でやったのだが、かなり痛かった。どうやら現実のようだ。
神などという怪しげなことを言うから、つい色々要求してしまったじゃないか。
昔、異世界に転生する小説を色々読んだ。転生ものにつきもののステータスがあるのではないかと思うのは、当然のことだろう。
―――ステータス・オープン!
【氏 名】 橘一
【状 態】 健康
【加 護】 創生神MAX 武神MAX 魔導の女神MAX 美の女神MAX 魔物神MAX 商神MAX
【スキル】 神眼MAX 知力向上MAX 状態異常耐性MAX 不老不死MAX 武神術MAX 魔導王MAX 契約MAX ネット通販MAX
【スキル説明】
・神眼MAX : 神の力の片鱗 情報を扱うスキル (内包スキル : 鑑定MAX 偽装看破MAX 嘘看破MAX 鑑定阻害MAX 千里眼MAX マッピングMAX マップ表示MAX 呪眼MAX)
・知力向上MAX : 知力に関するスキル (内包スキル : 想像力向上MAX 絶対記憶MAX 演算MAX 思考加速MAX 並列思考MAX 言語理解MAX)
・状態異常耐性MAX : ありとあらゆる状態異常に耐性を得る (内包スキル : 毒耐性MAX 精神汚染耐性MAX 苦痛耐性MAX 呪い耐性MAX 弱体耐性MAX 病魔耐性MAX)
・不老不死MAX : 老いることがなく、死という概念から解放される (内包スキル : 健康MAX 超再生MAX 不老MAX 不死MAX)
・武神術MAX : ありとあらゆる武術をまさに神のごとく使用する (内包スキル : 全武器適性MAX 気配察知MAX 覇気MAX 気功MAX 身体強化MAX)
・魔導王MAX : 現存する全ての魔法を含め、使用者がイメージした魔法を行使可能 (内包スキル : 魔力上昇MAX 魔力回復MAX 無詠唱MAX 魔法耐性MAX)
・契約MAX : 対象を契約によって縛る (内包スキル : 強制契約MAX 隷属契約MAX 眷属MAX 眷属強化MAX 以心伝心MAX)
・ネット通販MAX : 現代のネット通販が利用可能
おいおい、これはいいのか?
たしかに要望したけど、これ人間辞めてないか? 不老不死は要望してないんだが……? いや、健康は要望したが……。
しかも私が会った神様は一人、いや一柱というべきか? とにかく一柱にしか会っていないのに、なんでこんなに多くの神の加護があるのかな?
二十億円は大金とはいえ、死ぬ間際に寄付しただけでこんなにも優遇されるものなのか?
あと、神様に生意気言ってごめんなさい。
あの時は本気で転生したいと思っていなかったんです。本当に失礼しました。
でも、転生して何をしろというのですか?
私を転生させて神様にどんな得があるのですか?
感謝すればいいのか、悪態をつけばいいのか、よく分からないモヤモヤした気持ちですよ。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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