馬鹿。
ミュージカルを見たことは一度もありません。
牧場で一日乗馬体験をしていたあたしは
乗っている馬の鼻先にハチが飛んできたことで馬が驚き
あたしは落馬
気がついたら異世界にて
あたしは馬になっておりました
……。
……。
……。
馬かよぉぉぉおおおオオオオオッッ!!!
何で馬?!
あたし何か悪いことした?!
そもそも生きてることが罪?!
じゃあ生まれてきてごめんなさいだこのやろう!
「まっててね~ローズちゃん、今あなたの冠を作っているのよ~」
「ブヒン(いらないし)!」
ブヒンブヒン鼻息荒く、荒れ馬の如く行ったり来たりするあたしの傍で
この国のお姫様が野原に座り込み、ぽやや~ん、とした雰囲気で花冠を作っている
お姫様を護衛する騎士は、ちょっと離れたところで待機
荒れ馬っぽいあたしが神経質そうにうろうろしても気にしない
大層気性の荒そうなあたしが生まれてこの方、人や他の動物を襲ったことは一度も無いからだ
先月、大人の馬になったあたしは
何度か王家ゆかりの名馬とつがいにされそうになったが
母馬譲りの気性の荒さを発揮して、取り合えず事なきを得ている
みんなの反応的には、あの馬の子だもん、仕方ないよね~、みたいな
母馬、いや、お母様(そう呼ばないとキリンの首攻撃みたいなので叩かれる、でもお母様に言い寄って凄まじい蹴りを喰らっていた雄馬の悲惨さに比べたらかわいいモンだった)は大層気位の高い馬で
暇さえあれば馬丁に頭突きをかまし、ブラッシングを要求していた
お陰でお母様はいつもつやつやしてた
レディを意識していたのか走ることはあまりなかったけど
気に入らない相手を追い回すその姿は魔獣かと思わせる壮絶さだった
あたしはそんなお母様に、頭突きの仕方、効果的な蹴りの角度、気に入らない相手を追い回すコツなどを教わった……
いや、もっと他に教えることあるよね?
そんなお母様は、現在、第三子を産み教育中らしい
よくあの鬼のように気位の高いお母様が雄を容認したなぁ、と思っていたが
あたしはその現場に出くわしている……
なんと、お母様は外国から珍しい布を持って一年に一度やってくる行商人の馬車馬と宜しくやっていたのである
お前のお父様よ、と紹介された時の
牛柄のその馬を見たときの衝撃といったらなかった……
馬車馬なだけあって、そこらの馬より確かに体格がよく逞しかったのだが
なぜ牛柄なのか
正直、馬として生まれたことを理解した時よりもへこんだ
しかも、落ち込みから復活して、ふ、と両親を振り返ると
第二子の仕込み中だったのである
オイィィィイイイイイイイッッ!!!
妊娠が分かったのでお母様から親離れさせられた今、
生まれたのが弟か妹かは分からないが、元気そうだということは馬丁の愚痴で知っている
しかし毎度何処で仕込んでくるんだろう、と馬丁たちは首を傾げていた
お母様はレディらしくお忍びが大好きなのだ
仔馬だったあたしの腹の下に首を突っ込んで引っ掛けたまま絶妙なバランスで高い柵を飛び越えた時には一瞬意識が飛んだ……
そんな超お転婆なお母様に今、問いたい
「あらぁローズちゃん、あなたのお婿さんがいらっしゃったみたいよ~?」
「ブヒン(なぬう)?!」
お姫様ののんびりとした声に、あたしは振り返りもせずに猛ダッシュをした…が、
「ふふふ、僕の愛しのお姫様、恥ずかしがりやさんっ」
「ぎゃぁぁぁあああああああ!!!」
誇張でなく死に物狂いで走っているのに
いつの間にか隣を余裕の表情で並走しているコイツ!!
左右に広がる凶器かってくらい立派な角!
体格は馬のあたしと比べても遜色ないくらいっていうかデカいんですけどぉぉおおおっ!
アンタ、鹿でしょぉぉぉおおおオオオオオ!!!
お母様っ、こんな時はどうすればいいですか?!
頭突きも蹴りも逃走も通じないのですが!
異種族っていうか鹿から追い回されているあたしは一体どうすればいいですか?!
「生まれてくる仔が馬鹿とか絶対にイヤァァアアアアア!!!」
「鹿馬かもしれないよ」
「やかましい!」
「ふふふ、大丈夫大丈夫
愛に種族差なんて、存在しないのと同じだよ」
愛は・種族を・超える・イェア!!
とか言ってるんですけどっ
すっごい怖いんですけどぉぉぉおおおおお!!!
「超えさせてたまるかぁぁあああああ!!」
盗んだバイクで走り出したいくらいだけれども
バイク程度では何の足しにもならない気がする
誰かっ誰か装甲車を!!!
いや、馬が装甲車とか、あってもどうにもならんけれども!!!
こうして朝日も夕日もない草原を、その日あたしは力尽きるまで走り続けた
その後のことは
そのあとの…ことは……
言いたく…
……ない
ところで、掛け声みたいな使われ方してるけど"イェア!"ってどういう意味なんですかね
検索したんだけれどもニ●動の放送主がヒットしたくらいで分からなかった…
意味的には"よっしゃあ!!"とか"イェイッ!"みたいなもんかなーと思うのですが
そこんとこどうですか、こんな解釈でいいんですかね