トンネル
登場人物:オサム
トンネルの中を歩いてみたが、ほかに逃げ込んだ人はいないようだった。見つけた出口は瓦礫が覆いかぶさっているのか空けることはできず、途方に暮れるしかなかった。仕方なく、持ってきたリュックからビスケットの缶を取り出して、口に入れた。少なくとももうこのころには爆発音の間隔はまばらになっていて、物音は聞こえなくなり、戦闘が終結したらしいということがわかった。しかし出ることもできず、狭いトンネルの中には照明もない。暗闇の中、そのまま閉じ込められて飢え死ぬのだろうと、孤独と絶望が彼の心をめぐる。そのままコンクリートの狭い地面に眠りについたのだった。
気持ち悪い感触で目が覚めた。気が付くと、服が油にまみれている。どうやら太い地下ケーブルの絶縁油が漏れだしてこっちまで伝ってきたらしい。「最悪だ…」オサムは力なくそうつぶやいた。持ってきた食料はそう多くなく、そこまで長い間生きることはできない。持って3日が限度だった。閉じ込められて二日目、昨日よりも遠くまで歩いて、ようやく開けられそうな出口を見つけ、地上へはい出た。
火の勢いは収まっていたが、あたりはひどいありさまだ。まず目に入ったのは、焼けた足だった。だれの物かはわからない。あたりはすっかり静かになっていた。だれも生きている人間はいないのだから。水がもう少しでなくなりそうだ。だが、建物のほとんどは原型をとどめていないか、ロケット弾を撃ち込まれで焼き尽くされていた。そして、装甲服を着た兵士の死体も見つけた。どうやら国防軍の物のようで、あのロボットと戦って死んだらしい。装甲服には大口径の弾に耐える能力はない。むしろそいった類の弾が命中した際には服のおかげで体の原形はとどめても中身の人間はミンチになってしまうのだ。スイスチーズみたいに穴だらけになった国防軍の装甲車も見つけた。中にはプラスチックの部分が溶けて使えない小銃と、燃えた弾薬箱、レーションの炭と焼けた死体が転がっていた。「飲み食いできそうなものはなそうだな…」この街には死体しかない。水もない。
だが、オサムにとって面白いものを見つけた。ヘリの残骸とロボットだ。どうやら投下する前に撃墜されたらしくヘリとワイヤーがつながったままになっている。ロボの頭のコクピットには兵士の姿はなかった。乗っていたであろう見たこともない制服の男は死体になって倒れていた。オサムは面白そうだったのでそいつのジャケットの中をまさぐってみると、IDカードのようなものを見つけた。さっきのロボはまだ動きそうな外観だが、墜落したところをコクピットをこじ開けられて中の人間は殺されたらしい。こじ開けられたコクピットの中身をまじまじと見ていると、計器の下部に先ほどのカードを入れられそうな穴がある。もしこいつを起動できれば、食料を探したり、安全な場所に逃げることができるだろう。しかしオサムは自動車の免許すら持っていない。だが好奇心から、オサムはコクピットの機械にカードを挿入した。