照明弾
登場人物
:オサム
オサムは震えていた。絶え間なく続く銃声と、ヘリから落とされる焼夷弾のようなものが、彼の脳裏に焼き付いていた。街の周囲は道路や隙間に片っ端から爆弾や焼夷弾を落とされ、外への逃げ道はふさがれている。彼は電話回線用のトンネルに忍び込んで、そこでじっと息を殺していた。
ここはもとは地球の植民地だったが、ワープ航路が使えなくなってしまったために地球から見捨てられ、最初に移住したごく一部の人間とその子孫がこの惑星で文明生活を維持してきた。もっともそれはもう千年も前の話で、今では地球がどこにあるのかもわからない。
事の始まりは5月16日のことだった。その日、オサムは突然の爆発音で目を覚ました。窓から射すまぶしい光は朝だからではなく、上空に多数の照明弾が上げられているからだった。街のあちこちで火の手が上がり、下に目をやると巨大な人のようなものがヘリコプターに吊るされて大通りに運ばれてきた。ワイヤーが切り離されて動けるようになったら、たちまち人を撃ち始めた。明るく照らされた人影が次々と倒れていく。
(何を持っていけばいい)(ヘルメットと皮手袋をもっていこう)
リュックと手に取ったものを身に着けて、外へ出た。近くの住民も逃げることを考えて、どこか逃げられそうな場所を探していた。次の瞬間、突然さっきのロボットがこっちへジャンプしてきて、何かを発射してきた。目の前が炎に包まれ、辺りには叫び声がこだまする。前にいた集団がまとめて吹き飛ばされ、爆発の破片と熱を浴びてかろうじて生き残っていた数人も撃ち抜かれた。
(まずい。殺される。)
オサムは着地したロボットがまだこちらを向いていないうちに、ビルの隙間へ逃げ込んだ。広場に出て空を見上げると、町の周囲にはさっきのと同じヘリコプターが何機も周回していて、円を描くように街の周囲に焼夷弾を落としていた。広場には爆撃で家を失ったりして逃げてきた人々が集まっていた。そして一機がこちらに向かってきて、こっちへ機関砲とロケットを発射してきた。「ただの人間相手にそこまですることないだろ!いったい何がどうなっているんだ!」オサムは叫んだ。人混みが破片を吸収してオサムは届かなかったが、周辺は原型のなくなった死体ででごった返している。
オサムはこのまま地上をさまよっていては死ぬだけだと考え、必死に逃げ場を探す。マンホールを見つけた。汚水にまみれるのは嫌だが、オサムは入ることを決めた。しかしマンホールを空ける道具がない。そこでオサムはシャッターが破られた建物を見つけた。工具店のようだ。店主はすでにいない。鉄バールを持ってきたオサムは、マンホールを空け中に入った。そこはオサムが予想していたような下水道ではなく、電気ケーブルの束とパイプが続くだけのトンネルだった。しばらく奥に進んでいると、背後で今までで一番大きな爆発音とともにトンネルが崩落し、出口がふさがれてしまった。オサムはついに死を覚悟したのだった。