第7章:『ようこそ王都、爆発と紅茶のプレゼンテーション』
【1】王都へ参りますわ♡
「さぁ、いざ参りましょう! 王都プレゼン遠征ですわ♡」
「テンション高いなぁ!? 修学旅行か何かと勘違いしてない!?」
アリアのツッコミを受けつつ、学院から馬車で出発する三人。
目的は――王都での魔導技術交流会。各学院代表が魔導研究を発表し、王族に謁見する名誉の場である。
レオンは旅支度を終えた荷物を見て呟いた。
「ヴァイオレット様の荷物、ティーカップだけでスーツケース4個あるけど大丈夫……?」
「もちろんですわ♡ 使用予定はたったの89パターンですの」
「多いよ!! 何と何をどうしたらそんな種類のティーカップ必要になるの!?」
ヴァイオレットはにっこり笑いながらスケッチブックを広げる。
「ほら、これが“瞬間発泡式おもてなし紅茶型魔導炉”ですわ♡」
「名前に“おもてなし”ってついてるのに、最後“魔導炉”って物騒な単語つけるな!!」
【2】王都でのお披露目会(と災害)
王都到着後、三人は由緒ある魔導ホール「セレフィウム宮」に通される。
宮廷魔導官や王族たちが見守る中、他学院の生徒たちは着実に発表を進めていた。
そして――
「続いては、セレスティア魔導学院代表、ヴァイオレット・グランチェスター嬢」
「い、いよいよですわ……アリア! 紅茶を!」
「よし来た! って違う違う、緊張ほぐすためじゃなくて何で手元のボタン押す気になってるの!?」
ヴァイオレットが壇上に立ち、優雅に一礼した瞬間、観客席の王子が小声で呟く。
「……あれが“爆発令嬢”か。警戒しろ」
「わたくしの研究は、紅茶と記憶の融合ですわ♡」
「名付けて、“記憶味覚再生式紅茶型記録装置”!」
「長い!! 商品名にしたら絶対売れないやつ!!」
レオンがステージ袖で魔力安定装置のスイッチを確認しているが、なぜか装置が小刻みに震えていた。
「これ……震えてる……ティーポットって、魔力安定装置として機能するの?」
「信じるんだ、レオン。もはやこの状況、信仰の域よ」
ヴァイオレットがボタンを押すと、ティーポットが光り、蒸気とともに香りが会場に広がる。
一斉に観客がうっとりとした表情を浮かべる。
「懐かしい……これは、母の手作りジャムの香り……」
「幼いころの記憶が……この紅茶から……?」
「おお、まさかここまでの効果があるとは……!」
アリア(なんか、すごく成功してる……!?)
レオン「やばい、ヴァイオレット様が有能に見えてきた……! 僕たち、これ本当にプレゼンしに来たのか……?」
\どごぉぉぉん!!!!/
なお、最後の蒸気弁から火花が飛び、宮殿の壁の一部が黒く焦げた模様。
【3】王子とヴァイオレット
プレゼン後、控室に現れたのは、金髪で涼やかな目元の第三王子・ルキウス殿下。
「君が、ヴァイオレット・グランチェスターか」
「はい♡ 紅茶と爆発と情熱の女ですわ♡」
「……一言で不安要素が多すぎる」
ルキウス殿下はしばらく沈黙してから、微笑んだ。
「だが、君の装置は確かに人の記憶に触れた。記録魔導技術として、王家にとっても重要な可能性を秘めている」
「つまり、爆発しても合格ですのね♡」
「いや、爆発は減点だ。そこは譲らない」
アリアとレオンが思わず安堵して崩れ落ちる。
「……常識人がいた……!」
【4】再会と暗躍
その夜。
王都の路地裏にて、リリィが黒衣の男と接触していた。
「“真なる魔導書”の鍵は、王宮地下にある。だが、それは王家の血を引く者でなければ開けられない」
「じゃあ――王子を利用する気?」
「もしくは、彼女だ。“あの娘”なら……扉を開けることができるかもしれない」
「ヴァイオレット……?」
リリィはふっと微笑んだ。
「ほんと、次から次へと予測不能で困るわね。彼女が“鍵”になるのか、“爆弾”になるのか」