第6章:『魔導発表会と爆発する理論式と微笑む影』
【1】魔導発表会、はじまる
年に一度の魔導発表会――それはセレスティア魔導学院の生徒たちが、それぞれの研究成果を発表し合う場。
優勝者には王都主催の魔導コンペ出場権が与えられる、名誉ある大会である。
だが、今年最大の問題児、それは――
「皆さま、ごきげんよう♡
本日は“爆発しない魔導式”を、爆発で証明してみせますわ♡」
「爆発しないって言ってるのに証明方法が爆発なの!?」
ツッコミ役・アリアは、既に半ばあきらめ顔。
「レオン、私たち、今のうちに遺書とか書いておく?」
「僕は昨日書いたよ。毎週のルーティンだし……」
ヴァイオレット様はというと、王家の魔導書の写本らしき装置を自作し、その上にポット型の魔導炉を載せていた。
「こちら、“マジカルメモリーティーポット”ですわ♡
魔導記憶を紅茶の香りに変換して、人の心に優しく届けますの♡」
「どういう発想経路でそうなったの!?」
【2】発表中、飛ぶ。
発表会当日。
「それでは、グランチェスター嬢、どうぞ」
「では失礼して──ぽちっとな♡」
\どごぉぉぉん!!!!/
爆音と共に魔導装置が爆発──いや、浮かび上がった。
空中にホログラムのような魔法陣が展開され、そこに記憶の映像が投影される。
その内容は……千年前の王宮での魔導会議。
王族たちが、“影の組織”と呼ばれる謎の存在に恐怖し、“記憶を封じた魔導書”の話をしている。
「これ……ラクリモーサ・コードの成立過程?」
「うわ、なんか思ってたより有能なことしてる……!」とアリアがぽつり。
「今、全校生徒の前で歴史を暴いてるんだけど……!」
一方、観客席の片隅では――
「やっぱり……この子、本当に“鍵”なのね」
赤いリボンをつけたリリィが、静かに呟いた。
【3】リリィと記憶の影
その夜、学院の屋上で。
「こんばんは、グランチェスターさん」
「まぁ、スパイさん。また紅茶をお召しになりに?」
「ちがう、ちがうからね! これは警戒しに来ただけ! お茶目当てじゃない!」
「遠慮なさらず♡ 爆発するかもしれませんけど♡」
「……やっぱりやめとく」
リリィは、少し真剣な表情になって尋ねた。
「ねえ、あなたは“記憶の魔導書”をどうしたいの?」
「ティータイムをもっと素敵に演出するために使いますわ♡」
「それ、最終的に国が燃える可能性あるよね!?」
リリィはふと視線を遠くに向ける。
「私はね……記憶を、取り戻したいの」
「記憶、ですの?」
「私の家族……影の組織に取り込まれてから、皆“何か”を忘れてしまった。笑わなくなって、名前も……表情すら」
「……」
「でも、あなたの魔導式は、人の心に届いた。今日、私の……消えたはずの記憶が、一瞬だけ蘇ったの。父が、笑ってた姿」
ヴァイオレットは、ぽつりと紅茶をカップに注ぐ。
「お紅茶、覚えていてくださったのですね。優しい記憶ですわ」
「……なにその返し。ちょっと泣きそうなんだけど」
「では、“人を幸せにする魔導書”を作りません? わたくしたちで」
「幸せに……? この、最強兵器級のお茶会マスターと?」
「はい♡ まずは、甘さ三倍の爆発マフィンから始めましょう♡」
「ねえ、なんでそこでまた爆発!? 幸せってなんだっけ!?」
【4】そして、新たな一手
翌日。
学院では、魔導発表会の結果発表が行われていた。
「準優勝、グランチェスター嬢! “記憶投影型紅茶装置”により、王家史研究に貢献した功績が認められました!」
「優勝じゃないんだ……」
「『校舎に小規模な焦げが発生』が減点対象でしたわ♡」
アリアがぼそっと呟いた。
「それ……ティータイムにしては優秀な結果じゃない?」
「もうその基準が怖いよ……」
だがその裏では、影の組織“クレパスの影”が、着々と次の行動を始めていた。
一人の老人が、リリィに命じる。
「記憶の書架を開く鍵は揃いつつある。次は、“王家の真なる魔導書”そのものを探すのだ」
「ヴァイオレットに気を許しすぎるな。彼女は……世界を変えてしまう可能性がある」
リリィは、空を見上げながら微笑む。
「だからこそ……見届けたいんです。あの子が、どこまで“予測不能”に進むのか」