第5章:『遺跡とサンドイッチと秘密の鍵』
【1】
セレスティア魔導学院では珍しい、校外調査遠征の日。
目的地は、学院の南東に位置する小さな古代遺跡。
かつて王家の魔導書の写本が埋められたとされる場所だ。
「というわけで、調査チームはこの三名。ヴァイオレット・グランチェスター嬢、アリア・フェンリル嬢、そしてレオン・アルフォード君」
担当教官の発表に、周囲の生徒たちがざわつく。
「えっ、あの三人って……」
「毎週何か爆発してない……?」
「遺跡、無事で帰ってくるといいな……」
アリアはげっそりとした表情で囁く。
「ねえレオン、私たち……選ばれたというより、“処理班”にされてない?」
「……現実から目をそらして生きていきたい」
その横では、主役たるヴァイオレットが笑顔で叫んでいた。
「遠足ですわ! サンドイッチと魔導爆弾、準備万端ですの♪」
「混ぜないで!? 食べ物と爆発物は混ぜちゃダメ!!!」
【2】
一行は学院を発ち、魔導馬車で約一時間。
草原の先に、石造りの小さな遺跡が姿を現した。
「うーん、なんか可愛くない遺跡ですわね。もっと薔薇とか、柱にレースとか欲しいですわ」
「乙女趣味で遺跡を評価しないで!? これは千年前の王朝時代の祭壇跡よ!」
「じゃあリフォームしませんこと? 爆破とかしてみてはいかがかしら♪」
「古代史研究者が泣くわよ……!」
とはいえ、遺跡内部に進んでいくと、徐々に空気が変わっていった。
壁面に刻まれた文様。微かに感じる魔力の波動。
「ここ、ただの遺跡じゃないわ……」アリアが呟く。
ヴァイオレットはスカートのポケットから、お手製の“魔導コンパス”(※爆発機能付き)を取り出した。
「ほら見てくださいまし、コンパスの針が――あら、また爆発しましたわ」
「知ってたよもう!」
【3】
遺跡の最深部、三人は石の祭壇にたどり着く。
そこには魔導式で封じられた石碑があり、中央には“アルカナ・オリジン”の象徴紋が浮かび上がっていた。
「これは……先日、ヴァイオレット様が偶然出した“記憶の映像”と一致してる……!」
レオンが石碑を調べると、そこにはある一節が刻まれていた。
【記憶の鍵を持つ者よ、影を見よ。王家の“真なる魔導書”は、二つの書を通して顕現する】
アリアが解読を進める。
「二つの書……アルカナ・オリジンと、ラクリモーサ・コード。それらが揃ったとき、本当の魔導書が現れるってこと?」
「まさに王家の秘匿ですわね!」とヴァイオレットが言いながら、石碑の上に腰かけてサンドイッチを取り出した。
「お茶もいかが? 本日は“遺跡探検紅茶ブレンド”ですわ♡」
「どんなフレーバーなのそれ!? 土と魔力の香り!? 地味に美味しそうなのが悔しいわね!」
しかしその時──
遺跡の天井が微かに揺れた。
次の瞬間、祭壇の裏から現れたのは――
「……あなたたち、本当に鍵を見つけてしまったのね」
冷たい声と共に現れた少女。黒髪に赤いリボン。
リリィ=ロストレイン。
アリアが警戒しながら構える。
「あなた……何者?」
「スパイよ。影の組織“クレパスの影”の、ね」
ヴァイオレットはサンドイッチをくわえたまま首を傾げた。
「スパイさん、サンドイッチ食べます?」
「……なんでこの状況で敵にお茶とサンドイッチを勧めるの!?」
「だってティータイムですもの♡」
リリィは一瞬、言葉を失いかけたが──すぐに目を細めて笑った。
「やっぱり……面白いわね、あなた。狂ってるのか天才なのか、いえ、両方ね」
そして、手にした杖を構える。
「記憶の書を渡してもらうわ。これから、世界は書き換えられる」
【4】
「待って、戦う気!? ちょ、ヴァイオレット様!?」
「大丈夫ですわ! わたくし、今日は“護身用ミサイル型ティースプーン”を持参してますの♡」
「名称からして護身の概念どこいったの!?」
遺跡の魔導陣が起動し、床がきらめく。
戦いの幕が開こうとした、その瞬間――
ゴゴゴ……ッ!
激しい地響き。遺跡が崩れ始める。
リリィの顔色が変わる。
「なに!? 魔導反応が暴走して――!」
「きゃっ!? 紅茶がこぼれますわっ!」
「そこ心配するところじゃないー!!」
結局、三人とリリィは一時的に共闘する形で遺跡を脱出することに。
爆発と崩壊の中、ヴァイオレットは叫んだ。
「次のティーパーティーは絶対に屋外で開催しましょうね♡」
「そんな問題じゃないと思う!!」