第4章:『記憶を巡る魔導書と爆発的ティーパーティー』
【1】
セレスティア魔導学院――
午前十時の鐘が鳴り響く中、学園中庭では、ティーセットを広げたヴァイオレット・グランチェスターが今日も優雅に笑っていた。
「おーっほっほっほっ! この日のために極秘で開発しました“自動お茶注ぎ魔導式”をご覧なさい!」
カップの上に設置された銀の装置が、魔導で紅茶を注ぎ続けている。
だが――
「……ねぇ、なんか音が高くない?」
「バランス調整の関係で、注ぎ終えると爆発する仕様になってますの♡」
「お茶会で爆発する仕様って何!?」
アリアの鋭いツッコミが冴えわたる。
横では、レオンが例によって爆発を浴びた姿で、ぐったりとベンチに座っていた。
「もう……毎朝どこかしら焦げてる気がする……」
「安心なさいませ、レオン様。明日は紅茶じゃなくてスコーンが爆発しますの」
「どうしてよりによって次はスコーン!?」
【2】
そんな平和(?)な学院生活の裏で、暗躍する者たちがいた。
影の組織――クレパスの影。
その構成員の一人、赤いリボンの少女は、学院の地下研究棟で密かに儀式の準備を進めていた。
「“記憶の書架”を起動させるには、アルカナ・オリジンとラクリモーサ・コード――両方の魔導書の波動が必要」
「そして……どちらも、あの金髪令嬢の手の中にある。まるでおとぎ話のようね。ふふっ……」
少女の名は、リリィ=ロストレイン。
かつて王家に仕えていた一族の末裔であり、学院に生徒として潜伏しながら組織に協力しているスパイ。
「でも彼女、予測不能すぎて逆に怖いのよね……」
彼女はヴァイオレットの爆発歴を記録した巻物をそっと閉じた。
そこには「ティーポット破壊8回」「空飛ぶヤカン誕生1回」など、狂気の記録が並んでいた。
「……本当に、彼女を利用できるのかしら?」
【3】
その夜、学院の一室で──
「では本日は、『爆発と記憶に関する魔導式の連結構成』の実験ですわ」
「なにそのピンポイントなテーマ!? 嫌な予感しかしない!」
レオンが絶叫する横で、ヴァイオレットは堂々と魔導式を構築していた。
その様子をこっそり観察していたリリィは、思わず息を呑む。
(……まさか。この子、魔導構成式に“意図せず”ラクリモーサ・コードの一部を反映させてる!?)
通常なら何年もかかる魔導理論の構築を――ヴァイオレットは紅茶をこぼしながら完成させていた。
リリィの中で、戦慄と混乱が交差する。
(これが天才……!? いや、違う。これはもう、奇跡という名のバグ……!!)
「発動しますわ♪ らくりも〜さ・ばーんっ!!」
「いやその名前はやめて!?」
どごぉん!
空間が歪み、光が弾ける。
その瞬間、空中に浮かび上がったのは――
“記憶の断片”。
学院の過去、王家の記録、そして、封印されしもう一つの魔導書の座標。
「……これは、偶然の産物じゃない」
リリィの目が真剣になる。
「“この子”が鍵なのか。世界の、記憶を繋ぐ鍵――!」
【4】
翌朝。
「アリア、見ました? わたくし、とうとう過去を映しましたわ!」
「映ったのはいいけど、校舎がちょっと焦げてるのよね……」
「風情があって素敵ですわぁ」
「燃えてるよ!? それ“風情”じゃなくて“火事”!!」
レオンは言う。
「このままだと、君が学院の“歴史そのもの”を書き換えそうだよ……」
だが、誰も気づいていなかった。
あの記憶の断片が映したものの中に、
かつて“封印されたはずの王家の魔導書”の一節――
「時の果てにて、光と影は再び交わる」
という意味深な言葉があったことに。