表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/15

第2章:『なぜ僕は、令嬢の爆発魔法から逃げているのか』

【1】

セレスティア魔導学院の朝は早い。

特に、訓練用グラウンドでは、魔導騎士志望の生徒たちが日々の鍛錬に汗を流している。

「ふんっ……はっ!」

澄んだ声と共に、空気を震わせる剣の一閃。

その中心にいたのは、銀の髪と凛々しい表情を持つ少年、レオン・アルステッドだった。

「へぇ、さすがアルステッド。剣技は一級品ね」

「でも毎日吹っ飛ばされてるって噂、ほんと?」

背後から囁かれる声に、レオンの眉がピクリと動く。

「……それ、たぶん誤解だよ。僕は決して、爆発に巻き込まれたいわけじゃない」

本人は真剣に否定しているが──巻き込まれている事実は否定できない。

その“巻き込んでいる存在”は、言うまでもなく。

「おーっほっほっほ! 爆裂花火の魔導式、完成しましたわ〜!」

訓練場の裏手で、金髪がきらめく少女が高笑いを上げていた。

ヴァイオレット・グランチェスター。通称“爆発する令嬢”。

そして、爆裂花火の魔導式とは──威力と演出効果だけが異常に高く、実用性ゼロの魔導術式である。

「ねぇアリア、この魔導式、将来的には空飛ぶ馬車にも使える気がしますの!」

「いや、空飛ぶ馬車が爆発したら即死なんだけど」

冷静にツッコむアリアの後ろで、レオンが頭を抱えた。

「頼むから……誰か止めてくれよぉ……」



【2】

レオン・アルステッドは、自他ともに認める“普通の努力家”である。

貴族の三男でありながら、地道な鍛錬と優れた魔導適性により、騎士見習いとして将来を嘱望されていた。

だが──運命は、ひとりの令嬢との出会いで狂い始めた。

「レオン様。わたくしの魔導式を実験していただけませんか?」

──そう言われて「いいよ」などと答えたのが、そもそもの敗因だった。

彼は知らなかった。

その一言が、爆発人生の始まりだということを──!

以来、何度彼が空を飛ばされ、湖に落ち、屋根から落ち、パンケーキに埋まったことか。


【3】

「……というわけで、また爆発しましたの」

「説明が軽いよ!? そしてレオンがまだ煙を吐いてるよ!?」

アリアがツッコミながら、魔導回復を施す。

レオンは地面に座り込み、半泣きで問いかけた。

「……なんで、僕、こんな目に遭ってるんだろう……」

「わたくしの可愛さのせいですわね。おーっほっほ!」

「君のその自信はどこから湧いてるんだ!?」

その時だった。

学院の鐘が二度、低く鳴った。

通常とは異なる、警戒を知らせる音。

「……魔導結界が一時的に揺らいだわ。誰か、学園内に侵入したわね」

アリアの目が鋭くなる。

「ヴァイオレット様。もしかして、昨日の魔導書の波動を察知した者が……」

「……まあ。つまり、またわたくしが原因ということですの?」

「「そうだよ!!」」

ヴァイオレットが微笑む。

「では、わたくしたちが解決すれば問題ありませんわね!」

「……嫌な予感しかしない」

レオンがぼそりと呟く。



【4】

その夜。

学院内の禁書区画に、黒いフードの影が忍び込んでいた。

「……“ラクリモーサ・コード”は動いた。新たな契約者……まさか、令嬢か」

影の人物が微笑む。

「面白くなってきた……。ならば、こちらも“始まりの魔導書”を奪わせてもらうとしよう」

静かな夜の帳の中で、影は消えた。

しかしその裏で──

「わたくしがセキュリティを担当しますわ!」

「いや待って、君に任せたらむしろ壊されるって!」

「ミル、トラップ作成をお願いしますの!」

「お前が作らねぇのかよ!」

──予測不能な令嬢軍団が、既に出動を開始していた。

学院の未来やいかに。



※続く


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ